【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間 作:あずももも
今どきの女の子……JSとかJCとかJKとか言う存在たちの流行り言葉っていうやつの最新版は何だったか。
正直クラスの子とかが使ってるのなんてそこまで聞いた覚えはないけど、流行ったんだったら使うっていう程度のものなんだろうし知っておいた方が良いかもな。
男の僕は良く分からないけど使うものらしいし。
僕の中では相当古い「チョベリバ」とかも平気で浮かぶし数年分は遡って目には入れておいたほうがいいかもしれない。
……っていうかものすごく古いのとかなり新しいのだけはヘンな時間に見る番組でやってたりするんだよなぁ……どうでもいいから見て「ふーん」って思って忘れるけど。
どんなのがあるのかって適当に考えてみたけどよくわからないで終わる。
そんなわけで目の前の現役な女の子に対して披露しようってして断念。
ついでに僕の年齢詐欺について疑惑が核心になりそうな雰囲気だ。
しょうがないから今浮かんだいいわけを並べておこう。
「僕の場合は小さいころから最近までずっと病気で入院していて、ろくに体を動かさなかったことでの発育不良ということもあるので気にしないでもいいです。 慣れていますし、子ども扱い」
「お、おおぅ」
すらすらとそういうことばかりは口から出てくる。
どうでもいいことばっかり出てきて肝心なことは思いつかないのが僕。
だから初対面の人と適当に雑談をするのだけはこうして得意なんだ。
新しい設定が出てきたけど、こういうことにしたら聞かれたくない学校の話題とか避けられそうだな。
それでも聞かれたら「籍だけ置いているからほとんど通ってない」とか「学校……行きたかったです……」とでも低いトーンで言えばいいだろうし。
さすがに嘘泣きはできないけどな、したことないし。
演技の上手な女の人じゃあるまいし。
肉体は女でも脳が男だからそういうのは無理だ。
よっぽど悲しいことを考えなければ……そもそも涙すら出なさそうだからいいや。
「…………………………………………」
あ、昨日お風呂上がりに小指ぶつけたときのことを思い出せばいけそう。
しないけど。
それにこの言い訳、引きこもりとニート歴的にありがち完全な嘘というわけでもない。
僕の薄暗い学生生活のことを思い出せばむしろ本当だし。
2、3割の真実と残りの嘘。
やっぱり嘘になる?
でもそれくらいしか学校の話題を回避できそうなのはないしなぁ……ごめんね、嘘ついて。
この場限りの関係だから許して。
「お……おおう、これはまたさらっと重いこと言うねぇ。 響、茶化してごめんね?」
「初めて会うと必ずと言っていいほど言われますし本当に気にしていませんから」
真っ赤に嘘だしな。
……どうしてこういうときはほんと、すらすら出てくるんだろう。
この調子で話ができたなら僕も自分から人の輪に……めんどくさいからって入らなさそう。
「天は二物を与えず美人薄命かぁ……。 せっかくの美形なのにそれを使えないとはもったいないね? その気ならどんな子が相手でもちぎっては投げてとっかえひっかえ好き放題できるのにさ。 私ならそうする! 青春だし!!」
わりと疑っている感じはない様子だしひとまずは成功かな。
それにしても顔の話題はちょっとこう、もやってする。
この1ヶ月ですっかり馴染んだし隅から隅まで知り尽くしたとはいっても、そもそも僕のものじゃないし褒められても一切何も感じない。
年の離れた人から「イケメンだね」って言われるときくらいの感じか?
他に褒めるところがないからとりあえず褒めておこう的な定型句の。
…………あ、涙腺の感覚。
こんなどうでもいいことで。
「えーっと……ところでさ響さんや、それって響としては実質的に初めて会った私に対して話していい話題なの? 慣れてるっていってもそういうのって、こう……キツいものじゃ? …………なーんか、いきなりさぁ………………ううん、何でもない……」
「? はい、退院してからそこそこ経っているので別に平気ですし、それが僕ですから。 知り合った人に同じようなことを聞かれて同じように返すのも慣れていますし。 今は体とは別に日常生活に馴染むためのリハビリをしているので、むしろ経験値を増やしたい感じです」
最後の方が聞き取れなかったけど言葉が出て来たからたたみかける形になっちゃったけど、そういうことにしておこう。
うむ、合理的な嘘ならすらすらと出るな。
なんらかの病気で今までずっと入院していて最近に退院したという設定。
嘘は嘘だけどこのほかに余計な嘘が入ってくる余地はないし、僕が動きやすくなるだけで他人を傷つけるたぐいのものじゃないし、ただの思いつきにしてはいいものだったかも。
ところでこの子……えっと……そうだ、関澤なんとかさんだっけ、この子はときどきボソッとつぶやくクセがあるみたい。
返事を考える数秒のあいだに何回かぼそぼそ口にしてたけど……まぁただのひとり言だろうしたいしたことじゃないだろう、きっと。
女の人は……っていうかサンプルが昔の母さんとかお隣さんだけなんだけど、結構考えてることがそのまま口から出てくるからな。
別に聞かせるつもりじゃないらしいから聞かなかったことにしてあげるのが男としてのマナーだって思う。
これでも男なんだ、そういう気配りを忘れたくはない。
忘れたら僕は僕じゃなくなって、ただの女の子だもん。
なにしろ男たる証明はこの世界から消え去ったんだから。
◇
「病院でずーっとねぇ――……深窓のナントカとか憧れるけど実際には大変そうだなぁ。 退屈すぎてダメになりそう。 ……けど、あー。 それでこの前もやけにしんどそうだったのね? 何か買い物した帰りっぽかったけど。 今は平気なの?」
「……さっきのもあったので少しだけ疲れが。 飲み物で先ほどのお礼ができたのならそろそろ…………」
朝はハサミが襲ってくるし、ここでは悪魔の手先とその仲間に襲われたし、ほぼひと月ぶりの会話だし。
疲れたのにはまちがいないし。
なによりこういう早口な会話はもともと苦手だし。
あの強引な勧誘にも結構疲れたし。
本当はもっと適当にぶらつく予定だったんだけどもう肉体的にも精神的にも疲れたし……だし。
まだ下の階でうろついているかもしれないと思うと今日はもう、周りをよく見ながらさっさと帰ったほうがいいのかもしれないもんなぁ。
この子への義理だけ通したらさっさと帰ろう。
この前みたいにだるーんってなりながら帰るのは疲れるもん。
けど、さっきのお礼の対価がいまいち分からない。
たったの数百円で良いのかって思うけどこの子は小……中学生だからあんまり高いのだと困りそうだし引かれそうだし。
大人な僕的には数千円なら良いんじゃないかなーって思うけどどうなんだろう。
金銭感覚が独身貴族のそれってのもあるから分からない。
「そうだったの!? ダメじゃん、元……かもしれないけど病人がそんなことじゃ! そういうことは早く言わなきゃダメ! 病気って病み上がりがいちばん肝心だって言うしさ! お礼とか言って一緒にお茶しておごってもらっちゃったけど、それで悪くなっちゃったら私が困るよ……大丈夫? ひとりで帰れそ? 送ったりタクシー呼んだりする!?」
がたんとカップが揺れて倒れるんじゃないかって不安になる。
本当に動作がいちいち大きい子だな。
けどもセリフが長い。
どうやったらそこまで考え……なくても自然に出てくるんだろうなぁ女の子だし。
けどもうちょっとゆっくり細切れで言ってくれないと理解できないんだって、僕は男だから。
分かりやすくするには最大で40字が鉄則なんだぞ。
本の受け売りだけど。
……とりあえず純粋に心配してくれていることだけは分かるからちょっと罪悪感があるけどしょうがない。
このくらいじゃないとこの調子でいつまでもまくし立てられそうだし、こういう牽制用の話題があったほうがいいのかもな。
ともあれ一気に会話が終わりそうな雰囲気でなによりだ。
「いえ、帰るだけなら平気です。 いざとなったら……家の者を呼びますし。 今日は助けていただいてありがとうございました」
ちょうど良いからって頭を下げておいて帰るモード。
女子中学生っていう気分も考えもころころと変わりやすい生きものであるこの子……えーっと……あぁ、関澤さんだっけ。
やっぱり頭の中でもいいから名前を連呼すると覚えていやすいな。
といってもどうせすぐに忘れちゃうんだろうけどな、人の名前なんて。
けど病弱設定は良さそうだな、その場をしのぐだけなら使えるし。
とにかくこの子の気分が変わらないうちにさっさと離れたほうがいいだろう。
「やっぱり心配だから」って着いてこられても困るし、なるべく変なルートで帰ろう。
「……あ、うん。 またね、気をつけてね」
「いえ、それでは」
……お店の外まで着いてくるかって思ったけどそうでもないらしくぼーっと座ったまんまだ。
なぜか急におとなしくなった気がする。
席を立つ気配もないし。
まぁいいか、僕にとっては都合がいいんだし。
……さっきは学校のこと設定しないほうがって思ったけど、やっぱり作っておいたほうがいいのかも。
だって、よく考えたら学生同士の会話だったら絶対に出てくるものだし。
あの子は……ここから電車で20分だって行ってたから近場の学校だろう。
それならいっそのこと1時間以上かかるところとか、いっそのこと今は療養先だから元は通えないくらいに離れたところに通っていたってことにすればどうだろう。
遠くの県のさらに山奥とかそういう感じの。
そうすれば名前を出してもばれる心配は…………いやいや、嘘はいけないし。
うーん。
迷うな。
リアリティと嘘バレとの差かぁ。
……とりあえず調べるだけは調べておこう。
それならいっそのこと偽名も仕立てたほうがもっと都合がよかった気がしないでもないけどもう名乗ってしまったからには遅いし、これは諦めよう。
まずはお会計を済ませて……っと。
……む。
さりげなく持って来た伝票を差し出そうとするも固まる。
……お会計の台に背伸びして腕だけ上げるしかないだと……!?
僕は愕然としている。
「あのさ、響!」
「…………何?」
ようやっとの思いでかたんって伝票を置けた音がしたら後ろからあの子の声。
まだ何か用が?
……着いてきたいとかだったらどうしよう。
あとやっぱり声がうるさい。
そんな感想が巡る。
「あのさ……んと、響が。 もし響がよかったらなんだけどさ。 番号とか交換しない? 名前もお互いに知らなかったのにこうして2回も偶然会えたんだしさ、私的には響はもう友達だしさ、ときどきでいいからまた会えたらなー、なーんて思って。 ほら、もう私たち友達同志じゃん?」
早口ではあったけど僕も身構えていたし……なんかつっかえつっかえだったから今度はちゃんと聞き取れた。
連絡先が聞きたいってことだよな。
なんでそんなに回りくどく話すんだ。
文字数を節約した方が良いって思う。
ほら、早口すぎて酸欠になって顔真っ赤になってるじゃん。
けど……同い年で同性になる子の連絡先。
ただの設定だし全部合っていないんだけど状況的には全部同じことになっている子の。
中身に比べて見た目が幼いという特徴まで同じだしな、スケールは全く違うけど。
とにかくあって損はない、か。
要らなければフェードアウトするだろうし適当な時期に消しちゃえばいいんだし。
どうせ最初の何回かやりとりしたらだんだん減っていくパターン。
僕はそういうのに慣れてるからもはやダメージは通用しないんだ。
「いいですよ、少し待ってください」
「やたっ」
もそもそとポケット……に入れていたら重かったスマホを出す。
アプリのインストールから始めて、と。
名前は「響」でいいか、もう知られているんだし。
「…………………………………………」
「……………………………………?」
そこでぱちくりした感じのその子と一瞬の間。
「…………………………………………」
……さて、準備はできたんだけど。
「……すみません、スマホを持ったのもアドレスを交換するのも初めてなので、どうやって交換をしたらいいのかわかりません」
スマホは持ってたけど連絡先を交換するのは数年ぶりだから嘘じゃない。
「マジですか!? んじゃちょっと貸して貰ってもいいかい?」
「どうぞ」
最後に誰かとこんなやりとりしたのなんてもうはるか昔だからさっぱりだ。
いや、こういうソフト……今はアプリだっけ、その存在も知っていたし前のスマホには入れていたんだけど実践するのは初めてなのは本当。
ほぼメールだけだったしな。
赤外線通信とか思い出すだけでもはや懐かしい過去だ。
「よし、おっけー。 登録したよ」
「ん、……ありがとう、ございます」
「んじゃヒマなときテキトーに送るね? ムリに返事する必要ないよ、いっつもムダに送るなって友だちから言われるし! なんなら既読無視続いてもいいから! だから見てね!! それで満足するから!」
「……家ではこういうのをあまり触らないので返事は遅くなるかもしれませんけど」
なんかこの子、話しているうちにヒートアップしていくクセがあるな。
そして近い。
じりじりと詰め寄ってくる。
もうちょっと距離を……。
「りょうかーいっ。 あ、お家まで送ったりしなくて本当に平気なの? 辛いならムリして」
「いえ、平気です。 それではまた。 お茶、まだ残っていますし、ゆっくりしていってください」
スマホを返すどさくさにがっちりと握られていた手をほどいて顔を上げるとなんだか優しい顔をした店員さん。
よく分かんないけど良いことあったんだろうか。
けど待たせたのに怒られなさそうだからお金を出してさっさとお会計を済ませて逃げる僕。
「…………………………………………」
ちらっと振り返ったけど、釘を刺したおかげかその子が席に戻って行っているのが確認できた。
よかった、ようやく静かになって。
「まったねー響――――、じゃーね――」
………………と思ったらまたでかい声。
あの子は……周りの人に迷惑でしょ。
たまらず早足で距離を取る。
「……………………………………ふぅ」
着いてこないだけでほっとするしさっさと帰ろう。
段差がキツすぎて家の中でもたまーに転ぶ今の僕の体だと万が一が怖いから、足元と頭上に気をつけながら。
エスカレーターを歩いて下りるのが厳しいことに気がついてまたまたダメージを受けつつ乗っていき、しっかりとフードを深めに被り直しつつ視界を確保しながら慎重にビルの外へ。
………………………………ふー、ようやく本当に落ち着ける。
代わりにじりじりむしっと来たけど。
これで夏じゃないって言うんだからなぁ。
……にしても、とにかく元気な子だったな。
あれが若さか。
精神的な若さが僕には欠けている気がする。
とぼとぼと歩きながらさっきの会話の反省。
ガワ的には僕のほうがもっと幼な……若いんだから若さじゃなくて性格の問題だな、もともとの。
うん。
ていうかあんな調子だから余計に子供っぽくなって、それでさらに小学生っぽさが出るんじゃ?
どう見ても中学生には見えなかったし……まぁ僕には関係ないか。
もうすぐ忘れられる存在なんだから。
だけど今日は口を使いすぎたし帰ったらごろごろして……。
「あ」
ハサミ。
あと壁。
……今夜のお風呂、どうしよう。
「…………………………………………」
……もう飛んでこないことを祈るしかなさそうだ。
☆☆☆☆☆
店の入り口をずっと見ていた少女は、小さい声でもう一度だけ名前を呼んでから席に戻ると残った紅茶と水をぐいっと飲み切り、ふと「彼」のいた席に……少しだけ残っているコーヒーらしき液体を目にする。
「…………………………………………」
それを見つめて伸びそうになった手を途中で止めて、そうしたのに気づいて頬を染めながら慌ててスマホの画面に目を落とす。
――そこには新しく登録したばかりの名前。
まだトークの履歴はゼロで真っ白なものの、さっとさりげなく字まで合っているかと確認した「響」という名前。
念のためにアプリを落としてから立ち上げてもしっかりと残っているその名前は、先ほどの小さな銀髪が確かにそこにいて話をしたという証拠だった。
それを実感した少女はだんだんと口角が上がっていき、人前だからと両手で抑えようとして……やがて抑えられないと諦めるとにまにまとしたままに別のアドレスに電話をかける。
そんな少女へは温かい視線が集まっていたが当の彼女は知る由もなく。
店の中のためか、先ほどまでとは違ってとても静かで落ちついた声音に切り替わり。
「……送ったの見た? …………うん本当。 この前の――――――」
ぼそぼそと、ささやくように話しかける。
「リアルじゃありえないような、まるで――――――みたいな――――――でしょ? …………うんうん、もちろんだよ。 連絡先も名前も。 自然な感じにゲットしたからさ、今度さ――――――……」
店員に見とがめられない程度の時間、彼女は小さな声で会話をしていた。