【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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49話 「あの日」と、彼が、「響」になった日/春 7/10

冷凍してあるコーヒー豆と、お気に入りのコーヒーミルとカップ。

 

……コーヒーカップだけは今のちっちゃい手で持っていても指が痛くならない、新しいのに買い換えたんだけども。

 

まぁあっても問題ないだろうってことで取っておいたこれで1杯だ。

 

挽き立ての粉にお湯を少しかけて蒸らしはじめるといつもの香りが漂ってくる。

 

今日は……今は落ちついているからか、僕的に1番おいしくなる量のお湯で蒸らすことができている。

 

うん、最後としてはいい感じ。

 

……今までの情報から、魔法さんは特殊なものだって分かってる。

 

だってねこみみ病と変異……島子さんたちのそれとマリアさんたちのそれは、おんなじような力によって起きている。

 

科学的に説明できない不思議な力で不思議なことが起きてるってことは。

 

けどマリアさんたちが少しだけ話してくれた……変質とも呼んでいたっけ、それとねこみみ病の生えたり身体能力が高まったり若返ったりするっていうそれらとは、どうも違う気がするんだ。

 

魔法さんのことは置いておくにしても手上手く表現できなくてあいまいだけど、僕の直感的なものを言葉にしてみると。

 

「………………………………」

 

僕が、明らかに致死量って感じの血を吐いたあとすぐにけろっとしてたのを見たマリアさんたちは、これを「反射」って言ってた。

 

何の反射なのかは知らないけども、マリアさんたちにとっては当たり前だって感じだったそれは、ねこみみ病の方では聞かなかった。

 

そもそもそんなものがあれば今ほどにはふわふわと受け入れられるっていうのはないだろうし。

 

「ずずず」

 

注ぎ終わったコーヒーをゆっくりと飲む。

 

……魔法さん、ねこみみ病、変異または変質というもの。

 

僕の直感で、少なくとも魔法さんだけはその根本が違う。

 

なんでかは分からない。

 

そもそも生えちゃったり若返ったりするねこみみ病と、長期間寝ちゃったり血を吐いちゃったりする変異とは明らかに違うもの――のはずなのに、僕の中の直感はおんなじものって言ってる。

 

そう感じる。

 

根拠なんてない。

けども僕はそう思うからそうだって思っておく。

 

「ずぞぞ」

 

底に残ったコーヒーを飲み込む。

 

最後の香りだ。

 

 

僕はねこみみ病について聞いたときから……詳しく聞いていたときから、そしてマリアさんたちの話を聞いてまぜまぜして考えたときから、ずーっと気になっていたことがあるんだ。

 

岩本さんや島子さん、そして僕みたいに見た目が変わる現象っていうのもマリアさんたちのも、昔からあったものらしいって雰囲気。

 

マリアさんたちのはおいておくとして、ねこみみ病って言うのは隠すようなことじゃなくなって、それどころかより広めようとしている。

 

「だったらなんでこのタイミングなんだろ」って。

 

島子さんたちがねこみみ病になったのは、島子さんの場合はたしか2年くらい前で、岩本さんも多分そのあたり。

 

で、その前から居たはずの生えちゃった人たちとか……多分国とか地域ぐるみで隠してきたんだろうけど、それが隠すことができなくなるほどに爆発的に増えてきたんじゃないかって予想する。

 

だって僕だってその1年後になったんだもんね。

 

仮にそうだとするなら、僕がこうなったのだって……魔法さんが襲って来ているのだって、その流れのほんの一部。

 

ならなんでそのくらいのときに今みたいにしてなかったんだろうって。

 

まだ隠せるって感じだったのかな。

 

去年の夏の終わりから急に、それも全世界で一斉に報道され始めて、どこでも岩本さんたちとおんなじように特別にかわいかったりかっこよかったりする人が広告塔として祭り上げられているんだ。

 

それは、ごくたまに見た目が変わる人がいるっていう昔とは明らかに異質。

本当、何が起きてるんだろうね。

 

そういうのも「そっち側」に行ったら教えてくれるんだろうか。

 

そう思うとちょっとだけ気が楽になる。

 

 

うん。

 

今日もいい天気だ。

春らしい、いい天気。

 

去年の今ごろからしばらく遠のいていて、けど最近また感じられるようになった、春っぽい風が家に入ってくる。

 

僕の銀色の髪の毛を、ふわりとなびかせる。

風が吹くたびに髪の毛がふわっと浮いて、止むたびにぱさっと落ちてくる。

 

それの繰り返し。

 

……さてさて。

 

「魔法さん」

 

そのへんにいるのかな?

 

「………………………………」

 

当然ながらに返事はない。

 

それとも遠隔で魔法をかけ続けていて、なにかがあるたびに急いで戻ってくるタイプなのかな。

 

かけたらかけっきりな「いわゆる魔法」っていうやつで、やっぱり意志とかはないのかな。

 

つまりはただの現象なのかな。

 

僕としては何かにずっと傍にいられるなんてストーカーを通り越したなにかだから、できればただの現象であってほしいし、意思があったとしても基本はどっかに行ってくれている方がありがたいんだけど。

 

「……いたい……」

 

ひときわ爽やかな風が吹いてきたって思ったら目がちくってした。

なんでこんなときに……まさか魔法さんの仕業?

 

「ないない……でもいたい……」

 

涙が出るからくしくしって目じりを拭っていたら楽になる。

 

ゴミか何かが涙と一緒に流れたらしい。

 

すぐに出てくれてよかったけど、これじゃまるで僕が感傷で泣いちゃったみたいじゃない……なんか恥ずかしい。

 

けど、魔法さんのこれ。

 

僕が幼女になっちゃった、これ。

これは冷静に考えると大したことじゃない。

 

いや、大したことではあるんだけどもこういうのって確率だからだ。

 

そもそもがねこみみ病とかになるのだって何千分の一、何万分の一……それ以下の確率なはず。

 

多めに見積もってもそうなんだから僕の場合にはもっとなんだ。

 

ただサイコロを振ってたまたま1とかが連続で出ちゃうっていうすっごく珍しい確率が起きたってだけ。

 

確率っていうのは大きい目で見れば収束するけど、一部分を切り取ると思いっきりぶれるときがあるっていうのをどこかで読んだし、僕はただ魔法さんに目を付けられた。

 

ただ、それだけ。

 

なのに僕は必要以上に怖がって1年もここに居た。

 

他の人っていうものを信用してこなかったからこそ、家族がいないとはいってもそれ以外の誰にも相談すらしなくって。

 

「助けて」って、ただそれだけを誰かに言えていれば。

 

ほとんどの人は「お嬢ちゃん、悪戯はほどほどにね?」だろうけども……ひとりくらいは僕のことを助けてくれていたはずなんだ。

 

そういう人たち、繋がりのある人たちに頼ったりしないで、ただひとりで家に内に引きこもって頭の中でぐるぐるぐるぐると考え続けて。

 

ただの僕の中で……情報も少ない、そもそもが独りよがりで悪い方向へと考えるクセがあるって知っているのに僕ひとりの頭の中だけで全てを完結しちゃって……そんな僕が頭の中だけで生み出した、より悲惨な未来っていうのに怯えきって。

 

今までの15年と同じようにただただひとりで引きこもって、隠れていたんだ。

 

……まぁ、こうして情報も経験もそろっている今だからこそ言えることではあるんだけども、それでもそう思わずにはいられない。

 

きっと僕がこのことを話すときにはものすごくもどかしく思われるんだろうな。

 

「なんでもっと早く誰かに言わなかったんだ」って。

「なんで叔父さんとかお隣さんみたいに昔から知ってる人を頼らなかったんだ」って。

 

でも、これが僕なんだ。

 

僕だったんだからしょうがない。

 

「……よし」

 

僕は、廊下へ向かう。

 

見えてくるのは、とうとうに一切の手を加えないままになっちゃった……もちろん手とか掃除機とかで細かい木くずとかは片づけたけど……ひしゃげている壁と、もこもこしているときの僕くらいの大きさのクレーター状に、まん丸に凹んでばらばらになっている床。

 

ちゃんと気をつけていさえすればそこに足を滑らせて痛い思いをすることもないからって、とうとうに放置しっぱなしのそこを見ながら手すりに掴まって、1段1段、1歩1歩と階段を上る。

 

こうして毎段ごとに脚を高く上げないといけなくって、危ないからって両腕でしっかりと手すりにも掴まらなきゃいけない、僕の家の……少し急めの階段を上るのも、これで最後。

 

2階へと上がって廊下を歩いて、僕が僕を、前の僕が今の僕を初めて見た鏡の前を通り過ぎて。

 

銀色の、体に対しては明らかに長すぎるだろうってしか思えない髪の毛が後ろに少し浮いていて、体は頭に対して小さくって、がりがりで凹凸がなくって。

 

そんな僕を、去年かがりに選んでもらった女の子らしい格好。

 

「こんな風にして着れば町にいる普通の女の子として見てもらえるわ?」って言われるままにセットで買って、後で「やっぱりこれはかわいい系の服装だったんだな……」っていう、わりとふりふりのシャツに羽織りもの、その下にはひざ上のスカートにタイツっていう、もう慣れきった格好になった僕を見る。

 

……うん。

 

今日も幼女な僕は立派に女の子している。

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