【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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50話 幼女にTSしたけど、ニートだし……どうしよう 1/2

 

緊張するとトイレが近くなる。

 

知識としては知っていたけど、実際に女の子の体になって実感した女の子の、女性の生理現象。

 

さらに言えば僕は幼女。

膀胱だってさらに小さいし、我慢するための筋肉だってさらに貧弱だ。

 

この1年で……厳密には半年と少しですっかり慣れてはいるけど自然の摂理には逆らえない。

 

油断は禁物。

まだ失敗してないからこそだ。

 

そういうわけで電話が終わってほっとする間もなく、いつものように急な尿意に襲われてトイレに急いで派手な音を立てて……楽になってほっとして。

 

それで荷物をまとめようとして、ゆりかの本がかなり多かったからリュックひとつに収まらなくって、どうにかそれをリュックと紙袋ひとつにうまく詰め込んでほっとしたところで――。

 

「ぴんぽーん」

 

……スマホを見てみる。

 

通話が終わってから、10分と少し。

思っていたよりも早いっていうか……早すぎない?

 

すぐに来るとは言っていたけど、でも……本当にお役所の人?

 

なんか盗聴とかされてて変な勢力から襲われたりしてない?

ほら、若返りで性別が変わったって言ったし……。

 

……ちょっとどころじゃなく不安だけども……出よう。

ここでもたもたしててもしょうがないもん。

 

廊下に出てドアを見る。

 

今の僕の背じゃドアの上の……なんであんなに高いところ1カ所しか作らないんだろうね……のぞき穴からはドアの向こうが見えない。

 

インターホンも相手がちょっとでも横にずれると顔が見えなかったりするし、何人か居ても分からない。

 

なんとなくさらに不安になった僕は小走りで廊下を走り抜けて2回3回と鳴る音に焦らされつつ、もう戻らないと思っていたはずの2階の僕の部屋へと戻って、踏み台とイスを経由して机の上によじ登って……息が荒くなったけど、それにも構わずに家の前を見下ろす。

 

……髪の毛を手で踏んだ、痛い。

 

「………………………………」

 

外に止まっているのは、普通の車1台だけ。

立っているのは……スーツを着た男女だけ。

 

角度的に上半身は見えない。

 

髪の毛をばさばさと振り回しながら左右も奥も確認したけど、見える範囲にはパトカーとかお巡りさんとか……護送車とか銃を持った人とか、そういう物騒なものは見当たらない。

 

逆光かつ真上からだからよく見えないけども玄関のドアの前で立っているらしい、どこででも見かけるようなスーツの人たちがきっと、呼ばれてきた人たちなんだろう。

 

……うん、大丈夫だって思おう。

 

早いって言うのも悪いことじゃないもんね。

きっと近くに居たとかなんとかあるんだろう。

 

そう思って心臓のばくばくを抑える。

 

転ばないようにゆっくりと降りて玄関まで進んで電気をつけると、チャイムの音……5秒に1回くらいにまで早まっていたそれが止まった。

 

……正直に言って怖かったんだけど?

 

ほら、その音だんだん早くなってたし。

なんでそんなにぴんぽんぴんぽんと鳴らすんだろうか。

 

いやまぁ返事をしなかった僕も悪いけど……きっと「大変なことだから!」ってあっちも焦ってるんだろうって思っておく。

 

でも、このドア1枚隔てた先にいる人たちがどんな人たちなのか――僕は開けないと分からない。

 

開けたらすぐに銃を構えられたり拘束されたり、何人もでどかどか入ってきたりは……しないしない、いい加減に過剰反応は止めにしないと。

 

それで1年も無駄……じゃなかったけど、でも遅れたんだから。

 

……じゃあ。

 

「ふぅ」

 

息を吐いて決心して、腕とつま先を上げて……これもまた無意識で心配だったんだろうな、チェーンも外して。

 

鍵を回して、ドアを外に開いた。

 

「……えっ」

 

僕はびっくりした。

 

目の前の人たち……目線は大分上だけども……すっごくびっくりしてる。

 

……見間違いとか思い込み……じゃない、よね?

 

玄関先に――ドアから少し離れたところに立っていた人は男女のペア。

 

背の高い男の人と、ハイヒールを履いても男の人と比べるとずいぶん小さく見えちゃう女の人。

 

――男の人は前の僕と同じくらいの年ごろで、顔も体もいかつくって、でも実は背の低い子供――僕みたいな子相手でもきちんと膝をついて目線を合わせて話す人だって、優しい人だって。

 

優しすぎるせいか暴走した女の人の勢いを止められない人だっていうのを、僕はよく知っていて。

 

――女の人は前の僕よりも幼く……若くって、男の人と同じように普通のスーツを着ていて、それで後ろの髪の毛を――今日は、僕から見て右側にちょっとだけ垂らしていて。

 

「勘」ってやつさえなければ普通におはなしできる人なのかもしれないっていうのを知っていて。

 

……そっか。

 

そういえばそうだったよね、この人たち。

だって関係者だもんね……「ねこみみ病」の。

 

しばらく口を開けてぼけーっとしてた僕の前の2人はというと……ちょうど日陰になっていて僕が見えづらいらしくって、しかもカバンから書類とか首から提げた顔写真入りの身分証とかを出しているタイミングだったらしくって、僕のほうをちらちらとしか見ていない様子。

 

慌てた様子なのはきっと、僕が予想以上にちっちゃかったんだろう。

電話で教えた僕の情報からは普通の成人男性としか思えないもんね。

 

先に用意し終わった大きな男の人――萩村さんが腰を低くして、僕の目線に合わせるようにしてから初めて僕と目を合わせて話し始めようとして。

 

「初めまして。 私は『通称ねこみみ病』対策本部所属、萩村と申します。 この度は大変な思いをされて、…………?」

 

そのままお口が開いたまま、僕と同じように止まった彼。

 

まじまじと……きっと、傾きはじめた陽の光で明るいのに慣れていたんだろう彼の目が僕の目を、姿を、ようやくに認めて。

 

あ、そういえば今の僕は……みんなと会ったときはズボンの上にはパーカーっていう格好をしていたけど、今はふわふわのシャツにスカートっていう格好。

 

それに、いつも隠していた髪の毛を……彼にはたぶん初めてのお披露目だったはず……そのまま出しているんだもんな。

 

そりゃあ気がつくのにも遅れるっていうものだろう。

でもこの至近距離で顔を見たら僕って分かったらしい。

 

ちょっと隣を見てみたら女の人――今井さんの方もまた、ぼけーっと固まっているし。

 

もちろんお口も開いていて……なぜか顔は真っ赤になっているけど。

女の人だし、やっぱり小さいのが好きなんだろうか。

 

「……あなたは、響、さん。 私の知っている……お世話になっています響さん……なのです、か?」

 

なんとか復帰したらしい彼に向き直って、僕は言う。

 

「はい。 今朝方振りですね、萩村さん」

「……本当に、響さんが……」

 

「あ、そういえば電話では名字で対応してもらっていましたし……電話口の方が『今はそれだけでいい』っておっしゃっていたので。 ……表札も名字だけですし、しかもこっちの、女の子としての格好をお見せするのは初めてですね」

 

袖をふりふりとして、髪の毛を手で掬って見せてみる。

ついでにすーすーする、スカートも。

 

知らないお役人の人か、あるいは警察の人とかが来るのかって思っていたら知っている人だった喜び。

 

僕の口も普段より少しだけ軽くなったみたい。

 

「……え、響さん……響さんが、その」

「あ、ち、ちょっと萩村さんっ」

 

名札とクリアファイルを両手に固まっている萩村さんを押しのけるようにして……あ、復活したんだ……今井さんが僕をかばうようにしてお尻を向けてくる。

 

「!」

 

僕は慌てて1歩、2歩下がる。

 

……身長差だもんね、しょうがないよね。

 

けどこんな状況で彼女のお尻に押されて転んだりでもしちゃったら、すっごく申し訳ないし?

 

「お相手はこんなに小さな女の子……になられてしまっているんですから、離れてください、驚かせてしまうじゃないですかっ! ほらほら、もっと離れて離れて!」

 

ん?

 

あれ?

 

……あぁ、僕のことまだ気がついていないのか。

今井さんが僕を萩村さんからかばうっていういつもの真逆の展開に脳がエラーを起こしそうになる。

 

「え、ええっとですね今井さん、その方は」

 

「聞き取りよると症状は深刻なんです! ねこみみ病の『たくさん重なる』っていう新しい症状の可能性があるから、冷静でなくって錯乱している可能性もあるからって! 成人の男性の方がこんなに小さく可愛くなってしまったんです!」

 

あれ、僕冷静に対応したはずなんだけどな……伝わってない?

 

「だから顔も怖くて体も大きくて怖くてとにかく威圧感のある萩村さんじゃなくって、先に私が話をした方が良いって!」

 

あぁ、それは萩村さんの知り合いみんなの意見だったんだ……かわいそうに、いい人なのに……多分今井さんよりも。

 

「だから私が話しますから離れて離れて! ……ごめんなさいね、怖い思いをさせてしまいまして」

「いえ」

 

いつ気が付くのかなぁ。

 

あれ、でもさっき僕を見てフリーズしてたような……あ、顔、見えてなかった?

 

それとも髪型も服装も変わっちゃってるから僕だって気づいてない?

……そうっぽい。

 

「もう大丈夫ですからね、安心してください。 私たちが、こういうことに慣れている私たちが来ましたから。 それでですね、えっと……あれ?」

 

「今井さん、どうも。 今朝方振りです」

 

しゃがんできて肩に手を置いて一気に話し始める彼女をぼんやり見ながら話を聞いているうちに……ようやく気が付いたらしい。

 

なんかちょっと笑っちゃいそうになりながらもご挨拶。

 

顔がちょっと赤くなっていてびっくりしてるっていう今井さんのこんな顔初めて見たけど、なんだかお得な気持ち。

 

「え……あの……響さん、ですか?」

「はい。 去年の今ごろ……いえ、あれはもう少し後でしたね。 勧誘されたりした響です」

 

ついでに言えば、今日になってもいつも通りの勧誘メールが来ていたけども。

 

病気で入院するって言ってるのに退院した後のスケジュールとか勝手に提案されていたし……この人は本当に、もう。

 

「……本当、です……この瞳、この髪の毛、このお肌……響さん!?」

「はい、本人ですね」

 

ついでにこの突っ走る感じは間違いなく今井さんですね。

 

「じゃあやっぱりさっき電話を受けて車に乗り込んだときに感じた『勘』ってば、また合ってた……?」

 

なにそれこわい……何で僕と会う前にそれ反応するの?

やっぱり魔法さん的なものもの?

 

……けど。

 

だけど、そういうのをよく知っているからこそ僕は。

 

「萩村さん、今井さん」

 

いつの間にか髪の毛をさわさわしてきていた今井さんから数歩退いて、2人と目を合わせる。

 

「……あなたたちで、よかったです」

 

本当に。

 

「さっきまでは……ドアを開けるまではどんな人たちが来るのかって、どんな扱いを受けるのかって、実は心配だったんです。 けど、よく知っているあなたたちの顔を見て……安心したんです」

 

「響さん……」

 

2人の後ろにある車は……これだけ早くに来たんだから、きっといつもの事務所関係のお仕事の出先からのもの。

 

この近くを通りかかったところで電話を受けて来たんだろう。

 

もともとねこみみ病関係のお仕事だしな、こうしていちばん近い位置にいた2人が呼ばれたっておかしくはない。

 

車だって目立たないごく普通のものだし前に見かけたときみたいな護衛の人たちもいない。

 

けど、これだって偶然で。

 

――偶然とは、得てして重なるもの。

それを僕は、この1年でたくさん経験した。

 

「……今までこのことを隠していて、申し訳ありませんでした」

 

「……いえ、事の重大さを考えたら当然です」

「そうですよ、今だって上は大騒ぎでしっちゃかめっちゃかで」

 

あぁ、やっぱりそうなるんだね……って言うことはやっぱりこれは、よっぽどレア。

 

――だけども、「いつか来るって想定はされていた」ものなんだ。

 

「でも、おふたりが一緒にいてくれるのなら安心できます。 ああ、そうです。 今井さんの勘の通りに……これからもきっと、長いお付き合いになるんでしょう。 だから」

 

滅多に僕自身の顔を、表情を意識しない僕だってこれだけの期間――1年ものあいだ女の子たちに囲まれていれば、自然と簡単な笑顔くらいは作れるようになっているんだ。

 

だから、精いっぱいの笑顔を作ってみせる。

 

「――これからもどうぞ、よろしくお願いします。 何回も伝えたように、注目されるのは苦手なのでアイドルとかにはなりませんけどね。 今井さん、萩村さん」

 

そう口にしてぺこりとあいさつをすると……前に落ちる髪の毛の感覚と一緒に、ふわっと吹いた風が春の――あったかくて気持ちよくて、それでいていい匂いの風が、僕を……ひと撫でしていった。

 

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