【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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46.x話

最初はものすごく強引な「念のためだから!」で運ばれた病院から退院するまで、してから家を出るまでのいろいろのことを思い出す。

 

例えば外というのは魔境だっていうもの。

 

僕は現在幼女って生物になってる。

 

だからいくら出かける前にしっかりとトイレを済ませたとしても、ただでさえ小さい体の小さい膀胱と筋肉、タイミングが悪ければどうしてもトイレに行きたくなってしまうことはあるわけで。

 

まぁよく考えてみたら誰かと外に2、3時間くらい出かけても「ちょっとトイレ」っていうのはいくらでもあるわけで……ただ単純に僕が誰かと出かける機会が10年くらい無かったからすっかり忘れていただけなんだ。

 

「ん。 ……ごめん、ふたりとも」

「どしたの響? もー帰らなきゃとか? 具合だいじょぶ? 休む?」

 

ゆかりとかがりと出かけた先。

 

前を歩いていたゆりかが振り返ってくる。

肩まで乗っかるようになった髪の毛をふわっとさせながら。

 

「いや、そうじゃないんだ。 ただ、少しトイレに寄らせてもらいたいんだ」

「あら、響ちゃんも?」

 

「?」

 

も?

 

……嫌な予感がする。

 

「ちょうどよかったわ、私も行きたいのよ。 一緒に行きましょう!」

 

いつものとおりに僕の手を握っていたくるんさんがのぞき込んでくる。

かがりと並んでいるといつもこうだ。

 

「いや、かがり」

 

「ゆりかちゃんはどうかしら?」

「待って、僕はひとりで」

 

行きたいのに。

 

そう、今までだってなんとかみんなとタイミングをずらして来たんだから、今度だって。

 

「んー、そだねぇ。 肉体こそ、幼じ……女の子な響でも」

「……ゆりか。 今どんな呼び方を」

 

「だけど中身は男の子なひびきと、純粋に乙女なかがりんを……そんなにもいかがわしい場所にふたりだけ行かせるだなんて許せない! ので私もご一緒させていただきますのよ」

 

それはさらにまずい。

なんとしても阻止しなければ。

 

今までは抑えられていたんだ、説得すればきっと。

 

けどもふたりとも標識を探してきょろきょろし始めた辺り、僕といっしょにトイレへなどというとても困ることをしでかそうとしている様子。

 

なんとか……そうだ。

 

「えっと、ふたりとも……僕が、中身は……精神的な性別は男だと知っているんだから一緒に行くのは嫌だよね? だって男とだよ?」

 

そうだ。

 

思春期の、それも勢いと心遣いとはいえ、僕に告白までしてきたふたりなんだ。

こうして性別を意識させればきっと、恥ずかしくなるはず。

 

よし、これでクリアだ。

 

「べっつにー? だってひびきんだし」

 

え?

 

「気にならないわ? だって響ちゃんだもの」

 

なんで?

 

「……僕は気にするんだけれど……」

 

なんでふたりはこうなんだ。

 

年ごろの女の子なんだ、少しは羞恥心というものを持ってほしいところ。

 

「まーまーひびき、どーせならいっしょに行っとこーって。 あっち行って無事に帰ってきて、んで学校通えるようになったら絶対に休み時間のたんびに連れションに」

「ゆりか。 下品だよ?」

 

女の子がそんなこと言っちゃダメでしょ……しかも男相手に。

幼女だけど。

 

「もー、ひびきは潔癖なんだからぁ。 女の子同士ならあたりまえのことなんだよ? いっしょにトイレに行くっての。 毎日のように、休み時間のたんびにすることになるんだからさぁ……生理現象なんだからしょうがないじゃん」

 

学校に通う予定は毛頭ないけど、でもそっか、この体で社会復帰するならそういうことに……なんかやだなぁ……。

 

「……私はまだちょっと恥ずかしいけれども」

 

おや、かがりがゆりかよりまともな感性を抱いている奇跡が。

 

「でも休み時間とかなら男子女子関係なくそうするのが当たり前になるのだし……今のうちから慣れておいたほうがいいと思うわよ? ほら、響ちゃんって今までずっとそういう機会無かったって言うし」

 

む、まずい……僕の偽りの経歴がここへ来て。

 

「それに響ちゃんの場合には学校側も配慮してくれるだろうから、共用トイレとかそういうところを使うのでしょう? だからそこまで恥ずかしくないわよ!」

 

「……女子トイレじゃないなら、まぁ……」

 

気がつけばもう片方の手をゆりかに握られていて有無を言わさない感じになっていた。

 

1対2だと不利だ……やっぱり人と出かけるんだったら、気分がころころ変わるし年下の女の子みたいにかわいがってくるっていう女性となら1対1じゃないといけないみたい。

 

たぶんそれでも負けるけど。

 

とは言え左右から腕を軽く前に引っ張る力が加わっている。

僕は連れて行かれている。

 

もはや逃れられない。

 

「それでは行きましょう? お手洗いはここから――……」

 

両手を引かれる僕。

 

どこからどう見ても「年上の女の子たちから心配されている女の子」って様子になっている僕。

 

……今まで隠していた性別のことを告白した途端にこれだ……いや、しょうがないんだけどさぁ……。

 

 

◇◇

 

 

『現在使用できません』

 

そう書かれた紙が……僕が普段から使っている、男女どちらのでもないトイレの扉に貼ってある。

 

無慈悲に。

 

それを見たせいか尿意がさらに増してくる。

 

やばいかも。

 

「あらあら故障中かしら? お掃除中ではなさそうだものね? ……響ちゃん、他の階、間に合いそうかしら?」

 

「………………………………」

「ちょいマズい感じよねぇひびき……うん、女の体ならしょうがないよ」

 

だってもうすぐ出せるって思ってんだもん。

 

だからこそのんびり歩いて来ちゃったんだし、出す準備をしていた体もショックを受けていて余計に危ないことになってきている。

 

こういうトイレって、フロアに多くて1か所2か所ってところ。

たまたま今まで運が良すぎただけでこういうことだってあり得るんだ。

 

今までが良かっただけ。

 

……漏らさなかったのも、ただ運が良かっただけかもね。

 

「あちゃあ――……じゃー、残念だけどひびき、こーなったら私たちとホントにいっしょに入るしかないねぇ」

 

「いや、でもまだなにか選択肢が」

 

「いやいや無いでしょ。 でもって真横の女子トイレは……ん、いつものとーりにちょーっと並んでるけど、このくらいなら2、3分で入れるだろうし? スマホ勢がぎょーさんいらっしゃらなければ」

 

スマホ勢?

 

「女の人はね、個室だからつい見てしまうらしいのよ。 だから時間が掛かるの」

 

……あ、そういうこと。

 

けどそんなことはどうでもいいくらいに膀胱が張り詰めてきた気がする。

 

「ま、まぁ! 元気になったらいずれは乗り越えなきゃかもな試練だからさ! ほら! 男子トイレと女子トイレしかないっていうとこで、今みたいにどーしてもって可能性あるし!」

 

もう我慢の限界が近い。

 

「ほら冷や汗かいてるじゃん……だからひびき、早く行こ? どーしてもならさ、『この子、もーガマンできないみたいなんです!』って言って順番譲ってもらえばいいし! 響のフェイスならだいじょぶだいじょぶ! だから響、私たちと、新しい扉を!」

 

「しょうがない」

 

「うん、んじゃ並ぼ」

「男子トイレに行ってくるよ」

 

「うん! 男子トイレに……え?」

「えっ……響ちゃん?」

 

「こうして髪の毛を収納して」

 

僕が性別をげろってしてからは外でもできるだけ髪の毛を出してほしいって頼まれるから仕方なく出していたそれを、くるくると丸めてセーターの中へ。

 

中でふぁさっと広げてなじませて違和感が少ないように見せるのがコツだ。

 

「で、上着を腰に巻けば」

 

コート……春ものの、かがりが持ってくれていたそれを手に取って腰に巻く。

 

よし。

 

「顔が出ていても男に見えないこともないからね。 これで問題ない」

 

窓ガラスに近寄ってみても……うん、ぱっと見なら男の子だと見てもらえる。

 

というか夏はずっとこれで通してたから大丈夫って知ってるし。

どうせ男のトイレなら誰も気にはしないはずだし。

 

今日がスカートじゃなくって本当に良かった……ほら、くるんさんって妙なこだわりあるから……。

 

「それじゃ行ってくるよ。 終わったら……そこのベンチのところで待っているよ。 じゃ」

「あ、ちょ!」

 

……腰に巻くときに締めすぎたのか膀胱が厳しいことになっている。

ゆりかが何か言いたげだったけど、僕は急いで誰も並んでいない男子トイレへ。

 

「響ちゃんにしてはいつになく俊敏ね……よっぽど我慢していたのかしら……」

 

 

◇◇

 

 

男子トイレに音姫さんなる救世主はいない。

 

だから偶然に発見したんだ。

 

なるべく前に、だけどこぼさない範囲で座るようにすると、しゃあああって出る音自体は防げないものの下の水に叩きつけられるすごい音は防げる。

 

だから外でする恥ずかしさもずっと前に比べたら平気だ。

 

まぁ漏れそうだったおまたの解放感からそんなのはどうでもよくなってるけども。

 

全身の筋肉が弛緩して思わず身震い。

 

それにしてもやっぱり……肉体的には何ら問題はないんだけども、女の子たちと女子トイレに入る、いや、女子トイレっていうあの空間を訪れるっていうのには抵抗感が抜けきれない。

 

精神的に。

 

ま、そんなときにはこうして男の方へ入ればいいだけなんだし、少なくともふたりには僕の精神は男だって伝えてあるし。

 

だから、これからもこうすればいい。

うん、実に簡単なことだったな。

 

なんであんなに困ったんだろうね。

きっと漏れそうだったからだ。

 

 

◇◇

 

 

すっきりしてしばらく。

解放感に浸っていた僕は、座っていたベンチの前に立つ2人の影に包まれる。

 

「ん、2人とも……結構時間がかかったね。 やっぱり女子トイレ、それも列をなしているのは危険だね。 今後僕はこういうときには今みたいに男子トイレに」

 

「ずるい」

 

いつになく低い声になっていたゆりかの声にちょっとびくってなった。

 

「……私たちのじゅんすいなおとめごころを弄んだだけじゃ飽き足らず!」

「待って、何の話?」

 

「トイレの! あの耐えがたい女特有の列をスキップしやがってからにぃ! ずる! ずるっこ! ずるっこ響だよそれは!! そうだよいたんだよ、結果的には正解だったんだよひびきにとっては! だけど! スマホ勢が何人も雰囲気的にいたんだよ! 開かずの扉だったの!! だから響にとってはいいことだったんだけどでもそれはそれとしてやっぱりずるっこだよ!」

 

こどもっぽく怒ってほっぺを膨らましていて、さらに幼く見えるゆりか。

 

……だったらなおさら僕の選択が正解だったんじゃないか……なんて理不尽な怒りなんだ。

 

「響ちゃん」

 

かがりの声もちょっと低くなっている。

 

これは……抜け駆けに対する怒り……?

 

「私も……珍しく響ちゃんがずるいって、そう感じてしまったわ。 だってそんなに簡単に……私たちがこれまでも、この先もずーっと苦労するこれを男の子や男の人みたいに楽をして!」

 

「だから僕は男」

 

「ずるい」

「ずるいわ」

 

「えっと」

 

「こーゆーとき心は男って便利で良いよねー」

「良いわねぇ……だって10分以上お得だったんだもの」

 

「……えっと……」

 

「ずる」

「ずるいわ?」

 

じとっとした2対の視線。

 

「……ごめん、ふたりとも」

 

とりあえず謝る。

かがりに対して普段からしている降伏宣言。

 

「……ま、いっか! それよりかがりん、ひびきの髪の毛出しちゃらんと」

「あら、そうね! 響ちゃんったら恥ずかしがり屋さんだからすぐに……」

 

腰に巻いていたコートを解かれ、髪の毛も出させられているのをされるがままにしながら思い起こして思い至る。

 

ぼーっと天井を見つめながら。

 

……なるほど。

 

今僕がしちゃったのは、肉体的には「女子」っていうカテゴリーな僕が「女子」としてはずるいことをして楽をしたこと。

 

それも女子な2人のまん前で。

 

事情と理由は分かっていても、どうしても気分的にはそうなるんだ。

 

しかも結果としてふたりはずっと立ってじりじり待っていたのに対して、僕はさっさと楽になって座って足をぶらぶらしながら待っていられたんだし……まぁ気持ちは分かる。

 

分かるけどもめんどくさい。

 

……僕が男だって分かってくれていているこの子たちでさえこれだ。

 

男に戻れなければ、肉体的性別に従って女性に囲まれた中で生きることになる。

そんな女社会で僕は無事に過ごしていけるんだろうか?

 

ほら、今みたいに女子って世界は同調圧力すごいって言うし。

……やっぱり男の方が楽だったなぁ……いろいろと。

 

けど戻る見込みは今のところない。

もう諦めよう。

 

トイレは終わったのに来るときと同じように両手を引かれながら歩く僕。

そんな僕を見たお店の人とかにくすくすと笑われたりしながら、僕は考える。

 

やめて。

 

僕は可愛いって褒められても嬉しくないんだ。

 

だからそんな温かい目を注がないで。

 

……とりあえず、念のためにって見つけておいた限定のお菓子っていうものを置いているお店。

 

それを紹介してあげてそれで満足してもらって機嫌を直してもらおう……じゃないと事あるごとに今のを引っ張り出されてみんなの前でけなされるんだから。

 

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