【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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10話 危機感と必要性 2/2

僕はお風呂が好き。

 

どのくらいかって言うと年に2、3回まとめてどこかの温泉に籠もる程度には好き。

家のお風呂も夏は2回入るときもあるくらい。

 

理由は分からない。

ちっちゃいころはそうでもなかったはずだけど気がついたらそうなってた。

 

そんなわけでせっかくのお風呂だしもうちょっとだけ考えておく。

 

どうせ上がったらご飯を食べたり映画を観たりしているうちにすっかり忘れちゃうだろうし、なんだか真面目な気持ちになっている今のうちだ。

 

さて。

 

姿を変えたりハサミを飛ばしたりする魔法がはたして現実の物理現象の範囲に入っているのかはひとまずおいておき。

 

僕の見た目がここまで変わっちゃっているのもとりあえずはおいておいて。

 

仮にこの魔法が、時間が経てば自然に来るはずの「自然な成長」にまで干渉する……成長できないとかいうものになると何年経ったとしても大人の姿になれない可能性が出てくる。

 

可能性なんだけどそんなわけないって考えないでおくなんてできないもんな。

 

今の僕は子供って言う不都合極まりない存在。

どこへ出かけて何をしても人の印象に残りやすいし1人でいると心配される存在。

 

加えて肉体的な制限でろくに遠出もできないし何かあったときに振り切って走るなんてできない。

つまりは親切な大人だけじゃなくて年上の全ての人に興味を持たれたらおしまいなんだ。

 

だから大人になるまで何年か引きこもるっていう選択肢を思いついて実際に1ヶ月くらいやってみたけど辛かった。

 

けど、辛いだけならがんばれる。

生きていくために大人……最低でも高校生くらいになるまでがんばってじっとしていようって思ってた。

 

――でも、もしそうならなかったら。

 

そもそも身分を証明するものがないんだから普通の仕事には就けない。

だけど世の中には軽い仕事……バイト程度っていう身元がはっきりしていなくてもはっきりしてるって言い張ればできるお仕事もあるんだ。

 

ここで大人になれないとなると……そういう身分がなくても働けるような仕事でさえムリになる。

 

もちろん働きたくはない。

プロのニートやってるくらいだからその意志は固い。

 

でもお金があるっていっても、どれだけ節約し続けたとしても普通の人が定年になるくらいには貯金が尽きる程度しかない。

現代の社会で生きるにはお金がとにかくかかるんだ。

 

あと10年くらいしてもどうしても働きたくない決意が変わらなければ物価の安い国にとも考えていたくらいには絶妙な足りなさなんだ。

 

そういうわけだから20代のうちにいやいやしぶしぶに働くつもりだった。

 

それがこうなっちゃって、ついでに肉体年齢的に寿命がプラスで10年くらいで生活費も10年くらいプラスな今の状況なわけで。

 

「………………………………」

 

どうしようもないからこそ浮かんでくる世界最古の職業っていう選択肢。

 

もちろんしたくはない。

 

だって僕、男だし。

少なくとも心は。

 

けど将来路頭に迷うくらいならしょうがない。

飢え死になんてこの社会じゃ限られているけど、それはきっととても辛いこと。

 

肝心の社会保障にもお世話になれない身だ、そうなる可能性もあるんだからせずにはいられない。

 

水商売っていう……程度の差はあっても「この体を使う」っていうのは本当に本当で最後で最後のどうしようもなくなったときの手段だけど、選択肢としてはないわけじゃないし、どうしようもなければしなきゃいけないんだ。

 

だって身分がないんだから。

この見た目だから僕の名前と戸籍は通用しないしな。

 

身分がないっていうのはそれだけ現代においては特大の厄ネタなんだ。

バレたら終わりっていう厄いやつ。

 

元・男としてのプライドと尊厳っていうものと、全部正直に訴えて相手任せにするっていうのと。

いろんなリスクを考えると……悩む。

 

ついでに持ってるお金も大半が定期になってる。

 

つまりは銀行に行って手続きしないと数年後ですら危うい。

定期預金以外の普通に引き出せる貯金が尽きると実質的にゲームオーバー。

 

これはとてもまずい状況だ。

それが今朝ではっきりした。

 

これまではいつか大きくなれることを前提に待っていればいいって考えていた。

 

だからこそなるべく節約しながら隠れ続けて少しでも長くこの家に留まることだけを考えてきたわけだけど、もしそうじゃないのならなんとかしてお金を手にできる手段を……貯金が尽きるまでに確保しないと詰みだ。

 

……定期預金、去年に更新したばっかりだったんだよなぁ。

更新したっていうよりは手紙を放置したからそうされたっていうことなんだけど。

 

少しばかりの利息と手続きの面倒さのために解約しなかったのが実に惜しい限り。

 

惜しすぎる。

タイミングが悪すぎるんだ。

 

いやまぁこんなことは想定できるはずもなかったんだから。

それでも何年かは耐えられるから無いよりはマシだろうけど。

 

……でも、なぁ。

 

この「くちおしい」っていう表現がぴったりな感じ、年を取ると古い表現のほうがしっくりとくるのは何故だろう。

 

そんな歳ってほどでもないけど。

 

とまぁ相当にとことんこれでもかって悪い方へばっかり思考を傾けてみはしたけど、この考えが証明されてしまうとしたら……3年後くらい?

 

このくらいの年の子は成長にばらつきがかなりあるから、それくらいかもうちょっとくらいの猶予はあるはず。

だけどそれまでにまったく背が伸びなかったとしたなら、もう成長は見込めないって考えて良いだろう。

 

女性的な魅力以前の問題だ。

さっきは本当にどうでもいいこと考えてたんだな。

 

いや、ある意味繋がっているか。

考えたくないから裸とか真面目に観察してたんだろう。

 

「…………………………………………ふぅ」

 

何年か後に状況が分かってから改めてでも遅くはない…………かな。

 

人の脳みそって1回考えたことは結構勝手に考え続けてくれるって聞くし、今こうして分かる範囲で考えておくってだけで何かの役には立つはず。

 

それに、どうにかして定期を解約する手段を見つけたら余裕で持つんだしな。

 

詳しくは親戚の叔父さんに丸投げだから分からないんだけど、もしかしたら2、3年後にもう1回自然に解約できるチャンスが来るかもしれないんだし。

 

今のは考えすぎで普通に成長するかもしれないし。

あるいはある日起きたら戻ってるかもしれないって希望もあるんだし。

 

「………………………………あ――」

 

頭の中がごちゃごちゃしたからって何となく出した声がお風呂に広がる。

 

小さい子だって分かる声。

正直男か女か分からないくらいに幼さが勝っている感じ。

 

声変わりする前の男だってこれくらいの子もいるしな。

 

くらくらする。

のぼせてきたらしい。

あがるか。

 

幼くなったことで浮力をつかみにくいせいで何回かすっ転んだ苦い経験から、湯船の底に敷いているマットをしっかりと踏みしめて湯船の内と外に置いている踏み台を使って、慎重に慎重にってそろそろとお湯から這い上がる。

 

……僕が中学生に入って背が伸び始めたからって言ってリフォームのときについでってムダに大きくなっちゃった湯船。

 

前の体のときは脚を伸ばせていいなってしか感じなかったけど今となっては憎いことこの上ない。

 

ムダに大きいこれがそれはもう毎日憎々しい気持ち。

あのときの父さんを止めたかった。

 

……こうなるだなんて誰も分からないんだからしょうがないか。

 

もわっとした湯気と一緒に洗面所へ出て髪の毛を、そして体を拭いているときにお股のところにさしかかる。

 

何となく悪い気がするから汚れがたまらない程度に拭うようにして洗って拭くその場所をじっと見てみて、ふと思う。

 

……成長。

 

したほうが僕の好み的にも今後の生活的にもそりゃあいいんだけど……女の子、いや、女性になるんだったら生理っていうものとか。

 

……来るんだろうか?

……来るよなぁ……。

 

普通の女の子の体なら早ければこれくらいの年から……小学校高学年から遅くても高校生までには来るはずだし。

 

…………………………人によってはとっても辛いっていうよな。

それこそその期間だけものすごく機嫌が悪くなるくらいに。

 

「………………………………」

 

まーたイヤなことを思いついたな。

僕はホラーもスプラッタも苦手なのに。

 

憂鬱だ。

うつうつする。

 

単純で便利で都合がよくって使い慣れていた男の体のほうがずっとよかったのにな。

 

本当、つくづく男って単純だから楽だったんだって思う。

 

そう思って僕はまた凹んだ。

弾力性には定評があるからそのうち元気になるだろう。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

落ち込んだまま数日を籠もって過ごしてみたけどとうとうに連続ドラマとかで気を紛らわせられなくなってきたから、今度はちゃんと人の少ない平日に家を出た。

 

またしても晴天。

しかも今日は雲ひとつない青空。

 

おかげで以前にも増してじりじりする。

 

暑い。

暑すぎる。

 

太陽光で死ぬっていういにしえの吸血鬼のような気分を味わいながらとぼとぼと炎天下を歩き続ける。

 

ちっこくても暑いんだな。

そりゃそうだ、人間だもんな。

 

……そういえば結局この体になったばかりのときに買った女物の服。

外で1回も着る機会と勇気がないまま夏が近づいてきたんだな。

 

一応はこのあとの梅雨っていうクッションまで耐えたならあと2ヶ月くらいは余裕があるんだけど……そのあとはさすがに夏服じゃないと着ぶくれてたら吸血鬼じゃなくても死んじゃう。

 

あの服は買ったっていうよりも半ば買わされた感がすごかったんだけど。

レシートを見てみたらセールじゃないのまで割引になっていたから嬉しかった。 

 

だけどなんでだろう。

間違いじゃないといいんだけどな。

 

理由が無いのにおつりが多かったりすると言わずにはいられない僕の性格だ。

得をするのにも理由が無いと本気で困るあたりめんどくさいなって僕でも思う。

 

あのときの服。

 

家の中でならスカートとかワンピースとか短パンとか下がパンツのことも多いけど……それでも慣れるためなのと目が楽しいのから結構な割合で着ているけど……しょせんは春物。

 

生地は厚いし汗は吸わないしで空調の効かない真夏日にはキツそうだ。

まぁ先は長いんだし女物を外で着るのはその気になってからでいいか。

 

女物を着なきゃいけない理由がないもんな。

少年って見てもらえるって分かったんだしな、いいことだ。

 

なんなら女の子らしい体つきになるまでは……なれるとして……どうせだしなれるといいな……なってからスカートデビューしてもいいんだし。

 

スカートっていうのはハードルが高いんだ。

だって破廉恥な格好だもん。

 

下からまる見えなんだぞ?

強い風に煽られたら見えるんだぞ?

 

なんでこんなのが普通の格好として成立してるんだ。

 

スカートとかを着ることを想像するだけで恥ずかしくて顔が火照ってきたり着ているとむずむずして脱ぎたくなってくる。

 

そんな状態は……家の中じゃとっくになくなっているけど、きっと外だったらそうはいかない。

 

慣れてきた家の中でさえ女装してる感がすさまじいから嫌なものは嫌だ。

そこまで嫌じゃないけどなんていうか僕の常識がおかしいっていちいち言うんだ。

 

肉体的には正常なんだけど精神的には完全な女装。

 

女装。

 

創作で楽しむのと実際に体験するのとでは全然違う。

空想と現実は別物なんだ。

 

「……………………………………………………」

 

暑い。

 

さっそく汗がじわっとにじんでくる。

 

それにしても暑いし熱い。

まだ真夏でもないのにどうしていつもこの時期はこうなんだろう。

 

今と同じような男装をするにしたって、そろそろ夏物をそろえないと出かけるたびに汗だくになりそう。

通い慣れて楽だったいつもの店が魔界になっちゃったから別のところを探さないといけないのがまためんどくさい。

 

あのビルのフロアに同じような店もあるけどあのときの店員の人のうちの誰かがいたら見つかりそうだって気づいて止めた。

 

近くにも2、3軒ああいう安い店があるからそこを狙って……いやダメだ。

 

つい最近タイミングに見放されたばかりじゃないか。

油断しちゃいけない。

 

僕は運が悪いのは分かってるんだ。

こんな体になってる時点で幸運じゃない。

 

だからあのフロアに行ってあのときの誰かがたまたま通りがかってアウトになるんだ、きっと。

 

少し離れた駅の同じようなところを調べよう。

いくらなんでも数駅離れれば大丈夫だろう。

 

そこまで運が悪い覚えはない。

運の悪さにも限界はあるはずだ。

 

 

 

 

「ん」

 

もうちょっとで駅に着きそうになってきたからスマホでよさそうな店を探しながら日陰をぬいぬいしつつ歩いていたところ、前のほうの大きなビルの前に見るからに高級車な黒塗りが2台すらりと止まった。

 

なんか熱い日差しの中で真っ黒って言う非現実的な光景。

 

その片方からはこんな暑いのにスーツをがっちりと着た人たちが一斉に降りてきて止まったままの方の車のドアを開ける。

 

興味深いけどこのまま歩いているとニアミスしそうだし、ちょっと歩幅と速度を落としつつ様子見。

 

だってなんかああいうのってこう、危ない人たちっていう気がするし。

現実にそういうのを見たことはないからアクション映画の見過ぎか?

 

なんてどうでもいいことを考えながらのたのたと歩く。

目立っちゃいけないことには変わらないから用心するに越したことはないんだし。

 

ドアの中からは女性……学生くらいの女の子がふたり。

パッと見てきれいだって印象で動き方もなんだかふつうじゃない感じ。

 

ひとりは学生服でもうひとりは私服。

 

学生服のメガネな子と私服な……ポニーテールみたいな子は車の中の運転手かなにかと会話をしたあと、ドアの前で待っていた男の人たちに囲まれつつビルの中へ入っていく。

 

ふたりとも高校生か大学生くらいだと思うけどなにかの送迎?

顔は全然違うし家族というわけでもない……仕事かなにかだろうか。

 

学生なのに仕事…………家業とか?

あ、ファッション関係というのもありうるか。

 

見当がつかないけどなんとなく守られている感がある気がする。

ボディーガードとかSPとかそんな感じ。

 

これまで生きてきてこういうのを見たことがないもんだからなんかじろじろ見ちゃっていろいろ考えちゃう。

僕にも野次馬根性があったらしい。

 

なんらかの重要人物なんだろうけどああいうのを見るのは現実では初めて。

ちょっと嬉しい。

 

口がちょっとにまにましてるのが分かってなんとか真顔に戻す。

 

まるでドラマみたいなできごとが目の前で起きているような感覚。

因果関係は逆なんだろうけど、そうだって分かっていてもちょっとだけワクワクしてしまうのはしょうがないよな。

 

いくら僕でも人並みの好奇心くらいはある。

 

にしてもでかいな、このビル。

 

見上げるとあごの下と首筋がぐっと伸びる感覚。

この体の目は近視とは縁がないらしくって眼鏡のフレームを気にせずにはっきりと細かく見えるのが嬉しい。

 

上目づかいができるっていうこれもまた今までにない感覚。

 

………………なんとかプロダクション?

そのビルがまるまるその会社らしい。

 

カタカナ英語をつぎはぎしたような会社名ばっかり出ているからいまいちピンとこないけどどういったところなんだか。

 

日陰を追い求めていたせいで普段は選ばない大通りを歩いていたから、家から徒歩圏内なのに初めて目にした気がする。

 

こんなことがなければいつものように素通りしていただろうしな。

 

ま、ちょっとおもしろいものを見ることができて満足したしもう黒塗りも動くみたいだし、ふつうに歩いてもいいだろう。

たった1、2分のろのろしただけでもう脚が重くなっているのを感じつつ駅へ向かうのを再開。

 

お祭りが終わったみたいな寂しい感覚だ。

 

暗くなっていたスマホを付け直して見ていると良い感じの情報が手に入る。

 

……ふむ、ここなら同じようなランクのチェーン店だしここから電車で15……20分くらいだし、ほどほどに離れていていいかもしれない。

 

「ん」

 

電車で20分?

最近聞いたような?

 

「……………………………………………………」

 

気のせいか。

ならここにしよう。

 

そう思いながらスマホをポケットにしまおうとして、落としたら困るからちょっとだけ立ち止まって丁寧にしまっていると近くで車の止まる音。

 

顔を上げてみるとさっきのつやっとした車が前のほうで止まっていて、すぐにそのままバックでそろそろと戻ってくる。

 

なんだろう?

なんか怖い。

 

少し不安になったから車道側から離れようとするあいだにその車は僕の近くまで下がって来ちゃう。

 

今の僕は鈍足だもんな。

車には大の男も負けるけど。

 

ななめに避けようとしたところで運転席のドアが開く気配。

 

……じっと見ていたからなにかを言われたりするんだろうか?

危ない人たち?

 

カツアゲ?

子供に?

 

いやいや見た目幼……子供な僕に向かってそんなことがあるはずが。

 

ぐるぐるする頭を抱えていると、出てきたのは背が高くてガタイが良いスーツ姿の男の人。

 

だけど……あれ?

この顔、どっかで見た覚えが。

 

「………………………………?」

 

ちょっと見ているとちょっと前のことが思い浮かんでくる。

 

あぁ、誰かと思ったら。

 

警戒する必要がないって分かってほっとしているとその人は会釈しながら近づいて来る。

 

「あなたは先日の……響さん、でしたか? 名前間違いはないでしょうか。 ……よかった、失礼にならなくて。 こんにちは、ご無沙汰しております」

 

相変わらずに全体的にでかいこの人には見覚えがある。

悪い人じゃない人だ。

 

今日はこの前に比べてちょっと離れたところで立っていてくれているから前ほどの圧迫感というか重圧も感じない。

 

それにしても名前を思い出せない。

あれだけ連呼していたんだけどやっぱり忘れるか。

 

僕は人の顔と名前と特徴を忘れるのが得意だからな。

もらった名刺もあのときのパーカーの中だろうしな。

 

けど困った、挨拶するにしても返事ができない。

僕は名前を呼ばれて僕からは呼ばないとか……いやいや、普通だから良いか。

 

けど、みんなどうしてすぐに人の名前とか覚えられるんだろう。

 

「えっと、どうも…………、お久しぶり、です。 ……あの女の人は」

 

とっさに話すときってなんか変な返事をしちゃって寝る前に悶える。

ご無沙汰ですってこの人も言ってたのにな。

 

そんなことよりも警戒すべきはあの人。

あの人のせいで僕は1週間くらいぐてってしてたんだから。

 

女の人……今井さんだっけ。

悪い方の名前を先に思い出してあわてて周囲を見回してみる。

 

後ろから来られたらアウトだもんな。

 

髪の毛がばさばさってする感覚。

 

「……………………………………………………」

 

いない。

 

車の中じゃないよな?

いきなり出てきて引きずり込まれたりしないよな?

 

僕は警戒を解かないで……どうせ逃げられないって分かっていても腰を落としていつでも動けるようにする。

 

あの人だったら僕を見たらあのときみたいに飛び出してくるだろう。

そう思って。

 

……けど、居ないみたいだ。

そう認識したら気が抜ける。

 

……この人だけならあのときのようなことにはならないだろうし二言三言話したらおしまいだろうし、心配は要らないよな。

 

あのときのことはどうやらトラウマになったらしくって、僕はすっかり怯えきってほっとして気が抜けた。

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