【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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46.X9話  怒りと女性/ 女子 その3

「怒る……怒る。 怒るわよねぇ、みんな」

 

僕が最初に会って最初に大変な思いをさせられたのは、かがり。

 

だからこの子のことはよく知っているんだ。

僕とは違う世界の、どこかずれた子だって。

 

「私が遊びすぎたときにはお母さんからうんと怒られるけれど、私がそうなることって……ええと、小さいころも『かがりさんはいつもお友だちとにこにこと楽しそうにしていていいですね』という評価ばかりだったから、たぶんそこまでケンカとかはしたことがなくって……私自身もそこまでは覚えていない……のかしら」

 

思考がだだ漏れだ。

 

学校でこうじゃないってのはかなりの衝撃だよね。

 

「そうなのかしらね? 響ちゃん」

「いや、僕に聞かれても……」

 

場が静まっている。

 

いや、鎮まっている。

みんながあっけにとられているんだ。

 

そりゃそうだ。

 

「……あ、あー。 分かる、分かるよそれかがりん」

 

そこでひとり再起動。

 

「ゆりかちゃん本当!?」

「お、おう……まー、そんなとこかなー」

「よかったわ、私ひとりではなくって!」

 

とても嬉しくなった反動で手を繋ごうとしたらしく、立ち上がろうとして腰のあたりがテーブルの角にぶつかり、コップをそのおなかで倒しそうになり。

 

「危ないですよ」ってさよに指摘されて一気にしょぼんとしながら腰を下ろすかがり。

 

くるんもしょげている。

いつもの光景だ。

 

そんなかがりの反対側に顔を向けてみると……ゆりかとぱっちり、目が合って。

 

……なんとなくで、本当は違うけれどかがりのために話を合わせているんだなって印象を受けた。

 

だってなんだかゆりかの表情、微妙だし。

 

となりに座っているりさりんが「やれやれ」って感じの優しい顔しているのを見るに、こういうことは割とあるらしい。

 

あのりさりんが。

ついさっきまでけっこうに怒っていた彼女が、いい顔しているからね。

 

うん。

 

この子、はしゃぎすぎはするけれど空気っていうものには敏感なんだよね。

かがりとは正反対で。

 

「私もあんまムカってくることないかなーって。 あ、ひとつだけあった、最近のムカっての。 フレッシュなの」

「へー、ゆりかにねぇ。 どんなのよ?」

 

「あのね? ……私たち同志のこと煽るようにデカメロンとか抜かすヤツがいるとき!!」

「……心配して損した」

 

デカメロン……うん、学生らしいメロンさんの呼び方だ。

 

「あ! りさりん優しい!! 愛してる!!! ついでにそのムネちょっと」

 

「うっさい」

「ひどい!」

 

抱きつこうとしてぺちっとはたかれたゆりかがさっきまでの元気に戻っている。

 

「まー、そんなときってさ? 私はさっきのりさりんみたくはなんないけど、軽ーくイラってしたらするのって……枕ポカポカするくらいかな、私なら。 や、アレすっごくいいんだよ、聞いて試して分かったけど。 30秒もしないうちに叩き疲れるし、疲れてすっきりするし。 んですっきりしたらデカメロンでムカついてた私バカみたいーとかなっておしまいだし。 枕だから壊れるもんなんもないし? あ、部屋中にホコリ飛ぶのだけが困るかなー、換気しなきゃね、くしゃみ止まんなくなるし」

 

ふむ……確かにそういう発散の仕方は良いかも。

 

僕もそういうことがあったら……あ、あれ?

僕もイラってする程度以上にはならない……?

 

「……ゆりかさん。 その、デカメロン……ですか……?」

「あ、いんや。 分からんのならそれでいーのさ、純粋でいてくれいさよちんよ」

 

「?? あの……ゆりかさんはなぜ古典で怒っているのでしょう……? ゆりかさん、読まれて中の内容に……とかでしょうか……? ……すみません、私、概要も知らなくて。 今度読んでみて」

 

「あー、コイツバカだからいいのよ、さよさん」

 

マジメに反応しちゃったさよは、良くも悪くも純粋かつ素直らしい。

僕とは違って本当に病院な生活だったからまだあんまり分かんないのかもね。

 

「いえ……でも、知的体験をした上で強い感情を抱くのには興味が……」

 

「さ、さよちんステイ。 あ、マジで。 私も読んだことないから。 てゆーかなんかごめんよ? 軽いジョークなのよ」

 

せっかくボケたのにボケが通じなくて逆に突っ込まれるっていう、なかなかに珍しい光景。

 

ちなみにさっきからかがりはひとりでぶつぶつ考えてる。

優しいみんなは聞こえないことにしてあげてる。

 

「……私、学校でも良く……せっかく話しかけてくれた人にこうしてズレた反応しか出来なくて迷惑を……」

 

「さよちん。 ね、さよちん? ……あ、そんな落ち込まないで、マジごめんホントごめん、今度お詫びにさよちんオススメの本とか読んで語り合お? ね??」

 

さよがいつになく悲しいっていう感情を全身で表していて、ゆりかが慌ててなだめてて。

 

りさはそれを見てなんか嬉しそうにしてて……そんなことはまったくに意識に入らず、なんだか上を見上げながらぶつぶつ言っているかがりがその辺に居る。

 

「あ、そだ、りさりんさんやりさりんさんや? さっき私のことバカって言ってたけどさ? けどさぁ?? そーんな、バ・カ♥に成績でいっつも負けてるの、どこの誰かにゃーん?? ねぇー???」

 

「う、ぐっ……このっ! 無駄に頭いいんだからっ!」

 

「ふふん、なんとでも言うがよい。 うむうむ、次の試験がんばりましょーねー? 教えたげるよー??」

「あんた、それ以上調子乗るともういっかい」

 

「あだっ!? ……ひびきー、りさりんがぶったー!」

「ちょ、軽くじゃない!?」

 

「んむ」

 

ゆりかがいつもみたいに抱きついてきて僕の体は彼女の体重で傾く。

 

「怒る……イラッとする……ムカつく……あの、調べても似たような表現ばかり。 それって、どうしたら生まれるのかしら? ねえさよちゃん、私、不安になってきてしまったわ? どうしましょう……」

 

「……え、ええと……それは、いいんです。 その方がいいって、きっと……お母さんたちも……なので、私だって別に、滅多には……」

 

「でも、響ちゃんのことで怒っていたじゃない、さよちゃん。 ねえ、どのような感じで怒りというのが湧いてくるのかしら?」

 

「……む、難しい、です……こう、おなかや胸から抑えようのない嫌な感情がと言う……?」

 

ゆりかのぱっつんが顔に当たるのを感じながら珍しく哲学的な話をしているかがりを見る僕。

 

この子たち……さっきまで静かになっていたのにもう騒がしくなっているし。

 

けれども、この状態。

 

騒がしくてまとまりがなくって、姦しく周りで話しているのをすぐそばで聞いているっていうこの状態に慣れている僕を、改めて感じる。

 

つい去年まで、こういうのはいちばんに嫌っていたはずなのに……気がついたら静かすぎてもつまらないって感じるようになった、この空間。

 

この子たちと、いつかまた付き合うとしたら。

 

「………………………………」

 

僕はどうしても距離を置いて人を観察して決めつける習性があるけど、もうちょっとだけがんばろう。

 

そうしたらいつか、男に戻ってもこういう関係の友達とかが……できたらいいなって。

 

戻れなかったら相手は女の子になるんだから余計にがんばらないと。

 

うん。

 

あ、それに女の子だからっていちいち考えるクセも。

 

女の子に慣れてきた……む、なんだかいかがわしい……男の僕が男相手じゃなくって女の子相手で話すのに慣れてきたから、そろそろ性別でどうこうじゃなくて、その子のことを見ないとな。

 

この子たちだってこんな僕のことを「僕」だって見てくれたんだし。

 

「あーん、ひびきぃ、いつも通り黙りこくってるぅー」

「ちょ、ゆりか!? 響さんクッションから落ちちゃうからぁ!」

 

「あら見てさよちゃん、響ちゃんとゆりかちゃんが仲良しよ?」

「え、ええ……あ、響さんが」

 

傾いた視界。

 

どうやら僕はゆりかに押し潰されたらしい。

 

……やっぱり女の子って、あいかわらずに僕とは随分と違うものを持っている。

だからきっとこれからも戸惑うことはあるし、これからも女性に囲まれるだろう未来には苦労するんだろうけれども。

 

完全に溶け込むっていうのは結局に無理なんだろうとは薄々感じてはいるけども。

 

でも、どんな感じになるんだろうね。

 

ね。

 

未来の僕。

 


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