【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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46.X13話(終)  苦手と好きと

 

僕は、気がついたら周りを囲まれていた。

 

……人波に。

人の大波に。

 

つまり僕は逃げ遅れたということだ。

 

せっかく早くに買い物に出てきたっていうのに、ついつい本とか小物を見ちゃっていたからだな、きっと。

 

いや、そもそも少しだけ出るのが遅れたせいか。

 

どっちか分からないけども……だからお昼の食材を買いに来たスーパーが、こんなにも人の波になっているんだ。

 

……子供が多い空間は嫌だ。

 

彼らには、身長的に顔を見られやすいからかじーっと見られることが多いし、話しかけて来る子も多め。

 

「ねー、何でこの子髪の毛白いのー?」とかわざわざ大声でいろいろと……いろいろと親に尋ねたりする始末だし。

 

白じゃない、銀なんだ。

あ、いや、別に白髪ってのも綺麗らしいけども。

 

さらにはお年寄りにも話しかけられやすくって、つまりはとっても嫌な時間帯。

 

それに加えていつものようにみんなの背丈で視界が限定されちゃうもんだから、先が見通せない。

 

だから。

 

僕はレジのある方向を……ダメだ、もう列ができちゃっているから見えない。

これだから小さい体は……って今、そんなこと言ってもしょうがない。

 

なら賭けになるんだけれども……しょうがない。

嫌だけど、運に任せるしかないんだ。

 

今日の、この時間帯のシフトならある程度覚えているからこそだったのになぁ。

 

……家を出る時間、もっと早めに……アラームででもセットしておいた方がいいかもなぁ。

 

 

 

 

「……まあまあ、今日もおひとりでおつかいなのね? えらいわねー、いつもいつも! 今日の学校はどうだったの? 楽しかったのかしら?」

「……ええ、まあ、そこそこに……」

 

このくらいの歳の子供と見たら、まず学校の話題。

 

知ってる。

 

「けどお駄賃におかしくらい買ったらいいのにねぇ。 えらいわねー、ムダ遣いしなくって! うちの子なんか、買い物頼むだけでもイヤな顔して……」

 

僕が買ったものを、買いたいものを手に持ったまま話しかけて来るおばちゃん店員さん。

 

僕はそれを早く「ぴっ」てしてほしいだけなのに。

 

僕は、ハズレの中のハズレの人を引いちゃったんだ。

 

列の前のほうに来た時点で知っていたけれど、もういちど長い列を並び直す気力がなかったから諦めちゃった僕も悪い。

 

けども……話が。

話が全然に終わらないんだよなぁ、こういう人は。

 

「それにしてもねぇ、週の半分以上は買い物に来ているんですって? 食材の! まぁ! ほんとうにお母さん想いで……」

 

終わらない。

 

どうでもいい……っていうか前にもしていたようなことを繰り返しに語りかけてくる。

 

こういう、子供相手に店員の人がちょっと話しているっていう光景はたいして珍しくもないから、後ろで待っている人もただぼーっとして待っているだけ。

 

こういうときにこそ「早くしてくれよ」ってオーラで撃退してほしいのに、後ろからは僕の髪の毛を見下ろしている第六感だけ。

 

……魔法さんに頼れば普通の男として扱ってくれるはずではあるけども……あれは、正しい意味で洗脳っていうものだもんな。

 

必要がないんだったら使わない方がいいと思う。

少なくとも僕はそういうのはあんまり好きじゃないし。

 

それにどうせ、世の中の大半の女性は今の僕を見るや否やこうなるんだから。

 

うん、諦めているから平気。

 

平気なんだ。

 

 

◇◇◇

 

 

さて。

 

時刻はこの前よりも大分早い。

家も早く出たし、寄り道も道草もしなかったからお店の中はガラガラだ。

 

この前の反省を活かせたな。

よし。

 

これなら普通に買い物をしても混みはしない。

 

だからレジの人の顔が分かる。

人の背中で遮られないから、きっと大丈夫。

 

 

 

 

「………………………………」

「………………………………」

 

カゴの中からひとつひとつをがさがさと取り出して「ぴっ」てやって、別のカゴへと入れていく作業を眺める。

 

もちろん見上げて。

首が痛い。

 

髪の毛の重力が後頭部に集中する。

 

「………………………………」

「………………………………」

 

特に値段とかを言うわけでもなく淡々とバーコードで読み取っていくだけ。

見上げる僕もレジの女の人も、お互いに無言。

 

最初の「お願いします」「はい」だけ。

 

うん。

 

快適。

 

やっぱりいいものだよね、こういう声のしない静寂って。

 

女性だからとひとくくりにするっていうのは間違いなんだって、ここでも改めてこういう性格の人たちが証明してくれているんだ。

 

子供に見えるからって言ってもくだけた口調で話しかけてきたりなんかしなくって。

 

歳や学校や今日のことを聞いてきたりもしてこなくって、顔をのぞき込んできて感想をいちいち大げさに言ってきたりもしない。

 

大人と同じように普通の対応、普通の言葉遣いでごく普通の「人」として扱ってくれるんだ。

 

ああ、なんてうれしいんだ。

たったのそれだけのことが、こんなにも。

 

……体感でだけども男、男性の多く……お年寄りは別だけども……と女性の2、3割くらいは、こういう人たち。

 

僕にとって安心できるような人たち。

 

子供だからと言って明らかに周りとは違う見た目だからと言って、過度に反応してきたりしない人たちだ。

 

……残りはというと、良くて普通の子供扱い……もちろん小学生の。

 

顔をのぞき込んできて性別とか出身とかまでを聞いてきたりするからなぁ……初対面、それもお店の人なのに。

 

まぁ、さすがにこういうスーパーとかせいぜいカジュアルなお店止まりだろうけども。

 

うん、そうだ。

 

やっぱり僕は、どうしたって中身がごく普通で特に注目もされない男のままなんだ。

男っていう意識が抜けないままなんだ。

 

あの人たちだって、何も悪気があるわけじゃない。

ただただ普通に子供を相手にして盛り上がっちゃうだけなんだ。

 

だから僕がそれに対応しちゃえば、楽に過ごせるはず。

 

……もし。

 

僕にとってありがたいような、今みたいな人が、もし。

 

……かがりにコーディネートされた格好の僕、しかもこれまたかがりから押し付けられたリボンなんかをつけた状態で来たとしたら、どうなるんだろう。

 

そう、悪魔のささやきが降ってきた。

 

「お会計は……」

「………………………………」

 

……なるべく男っぽい格好をしておきたいっていう本能と、知的好奇心っていう本能とがせめぎ合う。

 

 

◇◇◇

 

 

僕は負けた。

負けたんだ。

 

だからいかにもな、かわいい服に興味がある感じの母娘……の内の「娘」が来ていそうな格好で出て来ちゃった。

 

やっぱりいちばんの人気はワンピースらしく、それは特に女性の方が好きらしくって。

 

その上に軽く羽織って首に巻いたり帽子をつけたりして、なるべくリボンが多くって白と赤かピンクが多めの服装を作り上げるのが理想らしい。

 

あとは小物をたくさん。

 

以上、かがり情報より。

 

そして、そんな格好の僕。

 

当然に、いつもみたいに髪の毛も顔も隠していないから、歩いていてふとガラスに映った僕自身を見てびくってなるくらいの見た目になっている。

 

慣れてもやっぱりびっくりするものはびっくりする。

 

……やっぱり恥ずかしい。

 

想像はついていた。

こうなるって分かっていた。

 

だけどもやめられなかったんだ。

だって気になったから。

 

それに恥ずかしいって言ったって、人に注目されるからっていう理由だし。

 

だからこうしてそんなに頻繁には来ないスーパーに出向いてきて……僕に過剰に反応しない店員の人の顔を知っているところに来ているんだ。

 

……ここまで来ちゃった以上には、さっさと確かめて帰ろう。

大丈夫、ここはそこまで来ないんだ。

 

だから失敗して貴重な「いい人」を失ったとしても、大丈夫なんだ。

 

「はい、お次の方どう……ぞ……」

 

いつも手元しか見ないはずのレジの……大学生くらいの女の子。

 

表情筋の動かなさがお気に入りな彼女は、びっくりした顔で僕を見ている。

 

……普段の僕のことは覚えていないだろうし、そもそもとしてこんなに派手な格好をした子供なんてスーパーなんかには来ないだろうからびっくりするのは想定済み。

 

服装も見た目も派手派手だもんね。

 

……その人はしばらく僕を見たあと、はっとしたように……気がついたら汗もかいていて、慌ててレジの作業を始めた。

 

「………………………………」

「………………………………」

 

お互いに無言。

 

これはいつもどおりだ。

よし、まずはいい、と。

 

じゃあ。

 

「……よ、410円、です」

「ん、と。 お金。 この中の、どれです……?」

 

ここで、存分に練習してきた演技をお披露目。

 

わざと幼い声を出しながら、心持ち舌っ足らずにして他人にお披露目。

微妙にイントネーション変えて外国の子っぽい感じにしてみる。

 

「………………………………」

「………………………………」

 

「……え、あ、はいっ! ……し、失礼します……こちらを4枚とこちらを1枚、です……」

 

何かのキャラクターがプリントされているがま口……今日のために用意した、お値段100円のやつだ……それから小銭を出して両方の手のひらの上に載せて持ち上げるようにして見せる僕。

 

それを、おそるおそるって感じにすくい上げてくれている。

 

……手が震えている。

顔が赤くなっている。

 

その子が。

 

僕と目が合うと、女性は顔が赤くなるらしい。

 

よく分からないけども、あのかがりでさえ最初はそうだったんだ、そういうものだって思っておこう。

 

と、終わりそうだ。

 

なら、さらに追い打ちを。

 

「……分かり、ました。 ありがとう、ございます、ました」

 

そんな感じの外国人風。

これはマリアさんに聞いておいた感じに。

 

「……!! ……い、いいえっ、ありがとうございました……」

 

 

 

 

なるほど。

 

あの人の反応を見て、さらにあの後に二言三言交わしたときにさらに幼い感じに、ほんの軽い会話をしてみたけれど。

 

このリボンは「お姉ちゃん」につけてもらったんだとか。

 

でも結局は僕が苦手な感じの対応っていうのはしてこなくって、ごく普通の、店員の人とお客さんの世間話っていう程度。

 

そこから深入りとか子供扱いもしてこなかった。

 

快適だった。

 

なんか勝った気がする。

何にだろうね。

 

でも、女性の過半数が……いくら僕のことを徹底的に外国から来た小さな女の子扱いしてくるからといっても、みんながみんな、あのかがりみたいなものだとは考えちゃいけないんだよな。

 

うん。

 

そんなことを思いながらいつも通りにベンチで座って足を休めていたら、通る人のほとんどみんなと視線が合っていたのに気がついて、足元に視線を落とす。

 

……だけどもこうして女の子な格好で出歩いて、さっきみたいな演技をしたりしても、もはや……最初の頃に比べたら、ほとんどって言ってもいいくらいに恥ずかしくもなんともなくなっているっていう僕自身。

 

……僕はもう、この。

 

――「銀髪幼女」っていう見た目に、順応しちゃったんだろうか。

 

いや。

 

きっと、とっくにだったんだろうな。

 

だって僕はこれから数日後のお別れの日に電話をして、僕のことをきちんと人に伝えて、「未来」へ向かうんだから――。

 


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