【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間 作:あずももも
高校生くらいまではそうでもなかったんだけど、大人になってからなんだか興味のない文章を読むと理解できなくなる。
これは退化なんだろうか。
僕は試験の問題文とかもわりと飽きずに読めたタイプなんだけどな。
それともやっぱりお酒のせいなんだろうか。
こうなってきたのってちょうどそのくらいからだしな。
お酒は脳みそをちっちゃくするって言うし呑まない方が良いんだろう。
知っていても呑むけど。
なんならこの体でも……おっと、内緒だ内緒。
とりあえずで略語だらけで記号にしか見えないホワイトボードから目を背ける。
今でもおんなじように読むのがやだってなるんだから多分気持ちの問題なんだろうって結論づける。
お酒のせいじゃないって援護しながら両手で微妙に重く感じるそれを前に出す。
なんだかこういうスケジュールを見ていると僕まで働いているような気がしてきてイヤだしさっさと返しちゃおう。
そう思ったけど優しい感じのブレーキで車が止まる。
「ところで響さん、私から誘っておいて今さらですが少しよろしいでしょうか」
「あ、はい」
赤信号だったらしく振り向いてきた彼にホワイトボードを差し出す形になっていて「気がつかずに済みません」って言いながら受け取ってくれて腕が楽になった。
微妙に重くってぷるぷるしてきてたもんな。
この体は貧弱なんだから重いものを持たせちゃいけない。
そういうのにも慣れてるのかは分からないけどすぐに返せたのはありがたいな。
えっと…………萩村さんに。
振り向いてきた彼を見た印象は……やっぱり肩幅があるなぁって感じ。
どれだけ鍛えようってしても僕は筋肉がつかなければ太りもしない感じの体質だったらしくって、ジムとかでがんばってみてもなんにも変わらなかったから萩村さんみたいな体質は羨ましい限り。
この体だとどうなんだろうか。
見た感じはどう見ても筋肉質とはほど遠い幼女なんだけど。
……もっと成長してこないとさすがに分からないか。
幼児だもんな。
マッチョな幼児なんて見たことないもんな。
「以前お会いしてはいますし、こちらの身分を明かしている顔見知り……と言うことにはなります。 ですが深くは知らない人間……しかも私のような男性の車に少しのためらいもなく乗るというのは避けたほうがよろしいかと。 後ろに他の人間が乗っていないとも限りませんし。 もっとも送ると言ったのは私の方ですし、本当にご説明した通りに私のついでで駅前にお連れするだけなのですが」
「あ、はい。 言いたいことはなんとなく」
なんだかばつの悪そうな声の調子になったから分かってますよアピール。
ドのつく正論だしな。
実際この体じゃ成人男性に連れ込まれたらどうしようもない。
ああ、だから女性は普段から歩くだけでも気をつけなきゃって話になるんだな。
実際誘拐とかの事件は女の人の方が巻き込まれやすいんだし。
僕とは全く縁がなかったからこれっぽっちも意識しなかったけど……たしかにやばいよな。
なにがやばいって、いざとなって全力で振り切って走って声出せば何とかなるっていう自信が完全にないってことが。
……そう思うと本当にやばいな。
女で子供ってすっごくやばいんだ。
「あと、おかげで響さんに気づくことができましたが……不審者に突然に連れ込まれたりしないよう車道からは少し離れて歩くのをおすすめします。 あの道は大通りではありますが、普段は車しか走っていません。 この辺りで犯罪があったとは聞きませんが万が一です。 ……親御さんや学校などでこういうことについて注意はされていてご存じでしょうし、差し出がましい……ええと、聞き飽きているだろう話だとは思うのですが、ふと心配に感じてしまいまして」
長い信号待ちで、ちらちら前を見ながらゆっくりと語りかけてくるように言ってくれている。
……いい人なんだな。
2回しか会ってない僕みたいな子供に対してわざわざ送ったりしようって思ったり、この状況でこんな話したらまるで萩村さん自身が危ない人って思われてもしょうがないのに言ってくれている。
子供を心配する良い大人だな。
……問題は僕が大人だって言うことだ。
同世代に本気で心配される、元男って。
お説教……ちょっと前まではする側だったのに今ではされる側か。
僕はなんだか少し悲しくなった。
車の中での同世代からのお説教は続いているらしい。
微妙に凹んでいる僕を置いてきぼりにして。
「信用されているとしたら私としてはうれしいのですが、それでももう少し警戒心をお持ちになったほうがと思いまして。 事務所に所属しています中高生の方にも言うたびにうるさいと言われてしまうのですが、どうしても心配になってしまいまして……性分なんです。 すみません。 あの場所ではありませんでしたが、以前私の知り合いも危ない目に遭いそうになったと思い出してしまいまして」
あ、やっぱり言われるんだ、うざいって。
しょうがないだろうけどそうだろうなって思う。
だって、学校の先生たちが長期休みの前とかに話していたようなはるか昔のことを思い出させる程度には熱の入ったお説教だもんな。
子供は注意されると反抗したくなる存在。
けど僕は大人だから素直に聞いておこう。
実際この体で生きるんじゃ犯罪に巻き込まれたら助けてもらえないもんな。
誘拐されても親がいないんだから心配されようがないんだし。
そんな彼のお説教は車が動き出してからでも続く続く。
話しぶりからしてもこういう注意をするのには慣れている様子。
頭ごなしではなく諭すような感じの口調。
この人教師とかにも向いていそうだな。
こういうガタイがいいのに優しい雰囲気の先生って子供から好かれそうだし。
なんて言うか……守ってくれそうな感じがする。
僕が小さくなってるから余計にそう感じるのかもな。
「考えなしに乗ったわけじゃないので平気です。 心配していただいてありがとうございます」
まだまだ続いているお小言の文言とまだまだ続きそうな気配を、良い感じにお礼を言うことで断ち切ってみる。
こういうのは息継ぎのタイミングを見計らうと上手くいく。
対セールスで身につけた特技だ。
……いや、普通なら社会ですぐに身につけるものか。
口うるさい上司の愚痴とかはネットであふれているもんな。
まぁ経験値が極端に少ない中でなんとか獲得した最低限の知恵には変わらない。
存分に使わないと。
でも……そもそも子供ってそんなに警戒心がないんだろうか。
親や教師の言うことをなんとなくでも聞いていれば赤の他人の車に乗ったりなんてするはずもないし、今どきお菓子をあげるからおいでとかそんな手に引っかかるものか?
…………いや、ありうるのか。
子供の中には人を疑うって発想をまだ持っていない子っているだろうし。
大きくなってくれば疑わないなりにも「おかしい」って思いつくだけの情報があるから「避けよう」って思えるかもしれないけど、人と話をするのが大好きだったり気が弱かったりしてなんとなくでついていくっていうのもありそう。
僕がそう見えてもしょうがないんだろう。
悲しいかな幼い見た目だしな。
この人には素顔を見られているんだから女の子だって知られてもいるんだし。
ちょっとしたことで簡単に事案になっちゃうこのご時世だ、いかに萩村さんが良い人かって。
「しかし、これから少しばかり物騒になりそうですから」
「萩村さん」
なんだかまだ言いたいらしいけど僕的にはもう充分だからって、ちょっと強引に止めてすっと息を吸ってひと息に言う。
「先日いただいた名刺を検索して……ホームページやSNSで写真付きで萩村さんたちや会社が本物だったかどうかの確認もしてましたし、電話とストリートビューでも確かめました。 載っていた担当の芸能……ええとアイドルの方たちも実在していて、とりあえずは黒い噂とか見かけませんでしたから信用したんです」
噛まずに言えたけどたたみかける。
「それにあの悪……えっと、女の人……」
「………………………………今井ですか?」
うっかり悪魔さんって言いそうになったのもまたしょうがない。
「彼女が一緒でないにしても、萩村さんは力尽くでという感じではありませんでしたし……さっき実際に女性たちを他の護衛の方たちと送迎していたのを見ていたので、僕みたいなただの子供をさらってどうこうするような人ではないと考えました。 いくらなんでも僕ひとりを連れ去るために、来るかどうかも分かっていなかったのに今日あの時間のあの場所であれだけのエキストラを用意するとも考えにくいですし。 無意味です」
実際そうだしな。
この1ヶ月外に出ていなかったんだから僕があそこを歩くなんてのは想像もできないはずだし。
引きこもっていたからこそ断言できる。
悲しいけど。
もし仮にそうだったとしてもそこまでする悪い人ならもはや何をしたっていつかは捕まってドナドナされるんだろうし、考えても無駄だしな。
……………………ちょっと酸欠気味だ。
ついでに脳みそがオーバーヒートしそう。
すでに普段の1ヶ月分以上の会話をしている気がする。
だけど、もうちょっと言っておこう。
なんだか言わないと気が済まなくなったから。
「それに万が一のことを考えてスマホを押すだけで通報できるようにしておきましたし、目くらましも持っています」
と、ここでポケットの中で握ったまま忘れていたスマホと催涙スプレーをちらり。
…………反応を見ようとしたら運転中だったから無意味な演出だったらしい。
そりゃそうだ、今は車だもんな。
話すのに夢中でって言うよりかは話す内容を頭の中で文章にするので必死だったから、あとはちゃんと発音するのに夢中だったから全然気がつかなかった。
無念だ。
縁がなかったもんだからなんだかわくわくしちゃう防犯グッズって言うアイテムをいそいそとしまう。
にしてもネットって本当にすごい。
なんでもそろうな………………って。
あ。
ブザーの方を買うの忘れてた。
あとスタンガンもあったらいいなって思ってたのに忘れてた。
届いたあとで考えてみたら催涙スプレーなんかこういう狭い場所で使ったら僕自身も動けなくなるって分かったからとりあえずでポケットに突っ込んでおいたんだった。
一気に話しすぎて酸欠になったのか目の前が砂嵐になってちかちかする現象をこらえて少し。
後ろからクラクションが聞こえてびくってなる。
「……あの」
「あ、いえ」
どうやら信号が青なのにぼんやりしてたらしい。
いや、僕の方を向いてたからなにか話しかけてたんだろうか。
酸欠だったからさっぱりだ。
「失礼しました……先ほども今も。 その、そこまで考えていらっしゃるとは思っていませんでしたので……その。 よく知り合いをこうして送ったりしてつい先ほどのようなことを言ってしまうのですが、今のように真正面から返されたのは初めてでして」
「そうなんですか」
「はい。 自分は平気だとかそんなことはしないだとか、またお説教かだとか……それとも話題をそらされるか……響さんにとっては余計なお節介でしたね。 響さんご自身もご両親もご立派です」
「いえ、むしろ想像通り誠実な人というのが分かったので安心しました」
安心しきりはしないけど悪いことをする人じゃないって分かっただけで充分だ。
親切は受け取っておこう。
ありがた迷惑なことも多いけど。
◇
せっかくだからってさっき調べた店のある駅ビルに行きたいって伝えたら、この後その方向に用事があったとかで、さっきまで向かっていた地元の駅から十数分乗せてもらうことに。
まぁさすがにあの後はお説教もされなかったしどうせ乗せてもらったんだからってわがままだ。
確かにネットに載せている事務所のひとつがそっちにあるしGPSはちゃんとほぼ最短距離を進んでいるようだし、疑う必要もないもんな。
疑うのって1回疑いだしたらなんでもかんでも疑わしくなるものだしキリがない。
疑念が疑念を呼ぶ。
人間関係メインのドラマで修羅場が起きる元凶だ。
みんな、ちょっとは人を信用したほうがいい気がする。
まぁ、誰も信用していない僕が言うのもアレだけども。
それにしてもシートの絶妙な柔らかさとクーラーの冷気と匂いが気持ちいい。
もう帰ってこのままごろごろしてたい気持ちになった。
「そういえば先日もそう感じたのですが、響さんは……その、悪い意味ではなく見た目よりも大人びて見えますね。 響さんくらいの歳の方……失礼、あくまで見た目の話ですが……と接するときはもう少し語彙……話し方を変えているんです。 響さんにも最初はそうしようとしていたのですけど、そうしたら失礼だと感じる程度に大人びていらっしゃるので。 女性に尋ねるのは失礼ですが、歳はおいくつでしょうか?」
子供扱い。
女の子扱い。
……どっちも間違ってるのにどっちも正解なのが悲しい。
「まだ幼いのに受け答えがはっきりしていて、とても低学年……違ったら済みません、の方には見えず将来有望だ……と、今井もあれ以後何度も言っていたのですが。 それもあって余計に断られたのが残念だったと」
低学年とか連呼しないでほしい。
こう、心にぐっときてしまうじゃないか。
僕を幼女扱いして失礼極まりないのはさておいて……あのときのJCさん、中学生ならなんとかだませてもさすがに大人に対しては無理かな?
余りに幼すぎて初対面の印象で10歳を超えているとは思わせられないらしい。
うーん。
僕とはぜんぜん関係ないと思っていた小さいとか幼いっていうのに対するコンプレックスを僕自身が発症してしまうなんてな。
人生とは複雑怪奇だ。
幼く見える原因はもちろん1に低身長で2に顔つきだろうけども。
でも前の年齢からしたら数歳なんて誤差の範囲だしやっぱりどうでもいいか。
でもなぁ。
…………………………………………。
……そうだ。
せっかくだしここでも反応を見てみよう。
意見が多いほうがいいし、この前の子はちょっと……例外だろうしなぁ。
同じような境遇っていうフィルターがかかっていたみたいだし。
言ってみてあまりにも疑われたりするんだったら……とても、とっても不本意だけど次からはギリギリ小学生ということにするしかない。
けど、とりあえずこの前とおんなじ感じで言ってみる。
「……あの、ひとつだけ。 いいでしょうか」
「はい」
一応据えかねたって感じで拗ねた感じで言ってみる。
「僕は低学年でも小学生でもありません。 今年で中学2年、歳は……………………13です。 子供じゃありません」
大人扱いは望まないまでもせめて子供扱いは勘弁って意味を込めて。
中2だったら13歳くらいだったはず。
身長体重の表で目にしたから覚えてる。
…………………………………………。
あ。
14歳の方が良かったかも。
けど、今は春だから多分大丈夫なはず。
……大丈夫だよね?