【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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12話 苦手は、やはり、苦手 1/3

 

◆◆◆

 

やばい。

 

「………………………………」

 

やばい。

 

やっちゃった感がやばい。

 

心臓がどっどっどっどってなってる。

 

やばい。

 

けどやっちゃったものはしょうがない。

手を出しちゃ行けないものにノリで手を出しちゃったんだ。

 

後悔はなんとやら。

 

「…………………………………………」

 

体が熱い。

気持ちひとつでこうもなるなんて知らなかった。

 

だってお風呂場の鏡に映っているのは……あろうことか女児もとい女子用のスクール水着を着て突っ立っている僕なんだから。

 

銀の長髪と眠そうな目、凹凸がなくて幼い体が紺色のナイロンな手触りと新品のゴムの臭いにうっすらと囲まれて似合いすぎている僕だもん。

 

胸とお股のところの気持ちいい肌触りの柔らかいパッドなのか裏地なのかが入っているせいでほんのり強調されているのも、こう……やばい。

 

やばいがやばいんだ。

 

語彙力がなくなるくらいにはやばいんだ。

 

なにせぴっちりすぎる。

 

これはさすがにまずい。

いくらなんでもまずい。

 

罪を犯した気分って言うのはこういうのなんだろうな。

 

凹凸がないからこそやばいって感じる。

 

「…………………………………………」

 

せめて女装してスク水を着ているって思い込もうとしたけど、それはそれでやばいことに気がつく。

 

そんな通称スク水を買ったのはほんの少しの好奇心と冗談と……いつものうっかりのせいだった。

ネットで着られる服を探して物色してら「おすすめ商品があります」とかなんとかで表示されたこの水着。

 

たぶんこれは下着とかを探していていろいろなワードで検索していたせいで……小学校低学年くらいの子の服を買いたいんだなって思われたんだ。

 

それとも僕の購入履歴とごっちゃになってだったのかな。

それはもう分からない。

 

…………まさか買っただけで目、つけられたりしていないよね?

 

「…………………………………………ふ――……」

 

ぱたぱたって顔を仰ぎながら熱くなった顔を冷まそうってする。

 

ネットって言うのは基本的にぜーんぶ見られているらしい。

って言っても人がいちいち見るんじゃなくて……今だとAIみたいなのが特定のワードとか画像とかを通信から見つけて、怪しい人のがそういう機関とかに行く……らしい。

 

映画とかの受け売りだけど嘘でも大げさってわけでもないらしいのはネットの書き込みとか買い物とかで逮捕される人がいるので分かるし。

 

ということは、この家からアクセスしているのは男だってのが分かってて、最近やたらと女の子……それも小さな子のを頻繁に調べて買っているって言うのが分かっちゃうわけで。

 

女児用水着とか言う犯罪臭しかしないワードなんてやばいだろう。

 

やばい。

 

そうは思うけど、これを買っていたのは結構前だ。

それから時間が経っても何もないし大丈夫だろう……たぶん。

 

気にしないことにしよう。

お家にお巡りさんが来ちゃったらそのときはそのときだ。

 

いくらなんでもスク水で監禁の疑いからの……って言うのは悲しすぎる結末だから勘弁だけど。

 

カートに入れたのは興味本位だった。

犯罪者の供述みたいだけど本当だからしょうがない。

 

けど想像していたよりはずっと安かったのとサイズが分かりやすかったのとで選びやすかったし、こんなの買ったらやばいよな……って思ったからやっぱりやばい。

 

「やばいって思ってて手を出したんだな?」って聞かれたら全面降伏だ。

 

やばいからやっぱり後で止めようって思って忘れちゃって……忘れたまま他のものとまとめて買っちゃって、開けてみたらあまりにも強烈な印象で僕自身がやらかしたことなのにドン引きして「あ、これムリだ」って思って忘れようとしてしまい込んで忘れていたスク水。

 

……しまい込んでいたんだけど暑さのあまり頭がおかしくなっていたのか、それともこんな見た目なのに呑めるんだって気がついたお酒がまだ頭に残っていたのかは分からないけど、その場の勢いという僕にしては珍しい動機で着ちゃったんだ。

 

スク水を。

アルコールで汗ばんでたからすっごく着にくかったけど着ちゃったんだ。

やっぱりアルコールは危険なんだな。

 

「…………………………………………」

 

女物には慣れたと思っていたけどこれはさすがにとってもすっごく恥ずかしい。

ここには僕しかいないのに何秒置きかに周りをきょろきょろしちゃうくらいだ。

 

鏡の向こうの僕も普段とは違ってゆだった顔をしているし全身の肌も汗でうっすらとにじんでいて、それがさらにまずいことになっている。

 

非常になんというかいかがわしいというか……恥じらいが色気とは言ったものだよなぁって思う程度には。

 

……汗、滅多にかかない体だと思っていたんだけど、ここまで恥ずかしかったりすると出てくるんだな。

暑いとき以外でこんなにも止まらないんだもんな。

 

「…………………………………………」

 

鼻の中がすんってなる。

体がぶるってする。

 

着てから数分くらいは悶えていたけど峠を越したらそこまででもなくなってきた。

慣れたとも言う。

 

慣れってすごいな。

ぴたって止まるんだもん。

 

というか予想以上に寒い。

体が震えている。

 

気化熱とかいうののせいかそれとも……いや、単純に冷えただけか。

そりゃそうだ、家の中とは言え水着で汗かいたんだもんな。

 

そうして僕は恥ずかしくてたまらない湯だった状態から一瞬で冷静で冴えきっている。

 

感情をすぐに抑えられるのは僕の特技だ。

イラッとしてもすぐに収められるしな。

 

その代わりにささいなことですぐにびっくりするけど。

 

さて。

 

恥ずかしさを失ってから観察してみると、まずは感覚がまるで違う。

 

お股だけじゃなくて体じゅうを強く締めつけられていて着ているのもわりと苦しい感じだ。

着た感じサイズはそこまで小さくはないようだけど特にお腹の締めつけが辛い。

あと太もものつけ根。

 

いや、わきの下とかお腹とかお尻とかお股とか脚のつけ根とか言うすべすべに包まれている範囲全部だな。

 

やっぱり小さかったんだなうか。

いや、けど身長と体重はぴったりだしなぁ。

 

うーん。

 

でもどうして水着はこうも体のラインを際立たせるように作られているんだろう。

上半身丸出しの男のに比べれば何倍もましなんだろうけど下着と変わらないじゃないか。

 

何が違うんだろう。

水に濡れていいって言うの以外で。

 

鏡の前でくるくる回りながら銀髪スク水幼女っていう劇物と化した僕を観察する。

この姿で通りがかりのサラリーマンさんに抱きついた瞬間にその人が逮捕されるレベルのやばいやつ。

 

くるって回って浮いた髪の毛がぱさって落ちるときに水着にすれて「しゅる」って音がするのがなんだか新鮮。

これで髪をツインテールとかにしたら……いやいや犯罪臭が加速する。

 

着ていると窮屈だけどさすがに運動用な子供用として作られているだけあって体にフィットする感じで動きやすいらしい。

 

しかもアニメとかで子ども体型のキャラクターがよく着ているのを見れば分かるとおりというか実感しているとおりに、視覚的なインパクトは下手をすれば裸以上。

 

なんでアニメとかマンガが浮かぶんだろうって思ったら、僕の学校じゃ中学になる前には男女別々だったって気がついてなるほどって思う。

 

学園もとい学校生活とか灰色だった僕にとってはああいう創作上の世界の方が馴染み深いまであるもんな。

たかがアニメだマンガだって言うけど侮れない。

 

仮想とはいえわずかながらに人生経験がたまっていてくれると嬉しいけどどうなんだろうな。

 

しかしやばいなぁ……どうしよ。

 

いや、ほんとに。

 

裸は視覚的にきつすぎるからこその裸一歩前の水着でもある。

裸に限りなく近いけど見ちゃっても大丈夫っていう布に包まれてるからこそ安心感もある。

 

不思議な感覚。

 

鶏ガラなはずの今の僕のこの体なのに、あちこちが締め付けられていることで裸のときよりも体の形というか肉感がくっきりと凹凸で映っていて……その手の人たちにとってはたまらなそうな状態になっている。

 

あばらとかごつごつしたところがすべすべしているからやばいのかもしれない。

 

僕的にはあと10年は成長してほしいところだけどたまらない人はいるんだろうな。

僕的には成長して欲しいところだけど。

 

……でもなるほど。

締めつけることであえて強弱をつけて幼い体に欠けている女性らしいフォルムを演出しているのか。

 

そんなことを思ったりして、ふと手元のタブレットで水着の写真を眺めながらポーズを取ってみる。

 

「………………………………ふぅむ」

 

これはこれで裸とはまた違った良さがある。

 

どうせ幼女の身なんだ、遠慮無しに観察しておこう。

 

これもまた人生だ。

いや、違うだろうけど。

 

 

◆◆◆

 

 

「やっぱり、ここのケーキは絶品ですねー。 お家からも学校からも離れているし定期券でも来られないからなかなか機会がないんだけど……久しぶりに食べたらやっぱりおいしいわーっ」

「そうですか」

 

「いつもは並ぶのに今日はすぐに座ることもできたし品切れもなかったし。 タイミングがよかったから嬉しいです!」

「そうですか」

 

「ん――! おいしい……このためにおこづかいを貯めてきてほんっとうによかったわっ!」

「そうですか」

 

僕のいい加減な相槌に満足しているらしい目の前の大きい子は、それはもうおいしそうな顔をしてケーキとお菓子のセットをむさぼる。

 

子供が一生懸命食べている姿は見ていてほほえましいけど僕が巻き込まれてるからほほえましくない。

 

なんでかスク水を着たときのことを思い出しちゃってトリップしてた程度にはほほえましくないんだ。

 

僕は目の前の、その子のものよりずっとちっちゃくていちばん安いやつを眺める。

お店に入っちゃった以上には頼まないと悪いし……で頼んだやつだ。

 

僕が普段お店の前を通るときに目にするこうしたお菓子……スイーツって言うんだっけ、と比べると元のサイズがだいぶ小さいみたい。

だから思っていたよりはまし……だけど飲み物とセットで、これで千円かぁってげんなりした。

 

悲しい。

 

こんなものを食べるくらいならコンビニのお菓子を選んだほうが何倍もマシな気がする。

あれで充分だろうって思うけど連れ込まれちゃったんだからしょうがない。

 

スイーツの園っていう魔境に。

 

そもそも僕は甘いもの好きじゃないからいちばんに縁遠い場所だ。

 

なんて思いつつ「早く目の前のおっきな子が食べ終わらないかな」って願いながらちみちみとフォークと口を動かしている僕。

 

……ここは駅ビルの最上階にあったカフェ。

 

萩村さんに送ってもらって片道とはいえ人混みと暑さをしのげて楽ができたって喜んでいたのはつかの間の奇跡だったらしくって、その奇跡が終わった瞬間にこの子に連れ去られ「再会した記念に!」とか「あのときの服の感想を聞きたい!」とか……僕が良いよだなんてひと言も言ってないのに勝手に解釈して連れて来られたのがここだ。

 

あれよあれよという表現がぴったりで、手を引くこの子の性別が違っていたなら事案となってもおかしくはないものだったに違いない。

 

「えっと」とか「あの」とかしか反抗できなかった僕も悪いかも知れないけど。

 

端から見るとどうしても姉と弟な感じになるんだろうからむしろ生ぬるい視線と笑顔が注がれていた気がするけど……あれは気のせいだったということにしよう。

 

逆ならまだしも僕がこの子の弟とか……ないない。

 

「…………………………………………」

 

けど……見渡す限りに女の人しかいない。

 

いや、一応はいるのか。

一応に男もいるけどそのうちのひとりはただの幼女でもうひとりはただのウェイターさんで、あとはみんな女子で女性だ。

 

こんな異質な世界、これまで生きてきたのに存在すら知らなかった。

いや知ってはいたけど本当に実在するとは思っていなかったという意味で。

 

テレビとかのスイーツ特集って本物だったんだって今日初めて知った次第だ。

長生きもするもんだな。

 

たかが二十数年だし今は数歳だけども。

 

しかもひとつひとつの値段がやたらと高いのも驚きだ。

ケーキと飲み物の基本のセットだけでそのへんのランチセットを軽く上回るお値段。

 

つまりここにいる女性たちは少なくとも男の倍の値段を使って腹と舌を満たしているというわけになる。

 

お金持ちだな。

女性に対して甘味の影響力は計り知れないらしい。

 

そんなわけで……ほぼ満席近いお店の真ん中あたりの席に案内されてしまった僕たちは、全方位から飛んでくる甲高くてうるさいキンキン声に包まれることとなる。

 

それだけでも頭が痛くてこれっぽっちのケーキでさえ味わうこともできない。

 

まことにストレスフルな環境だ。

まさに地獄。

 

早くお家に帰りたい。

 

帰らせて。

帰して……。

 

 

 

 

「……ふぅ、あぁ……おいしいわかぐわしいわ……。 それにしてもあのとき私たちが選んだ服を着てくれていて嬉しいわぁ。 ……あ、私たち今はもうお客さまと店員という関係ではないのだし普通に話してもいいのかしら?」

「どうぞ」

 

さっきから微妙に丁寧だったり砕けたりしてたし今さらだもんな。

変だなーって思ってたけど子供ががんばってる好感はあったから気づかなかったことにしてあげてたけど流石に気づいたらしい。

 

砕けた感じになっているけど考えてみたら相手は高校生でこちらは……詐称でも中学生。

上下関係は明らかだ。

 

もちろん僕が下になる。

悲しいけどそれが現実。

 

子供にとっての1年は大きいって言うからな、精神的にも肉体的にも。

 

それに年下に向かってさっきみたいな話し方こそおかしいんだし、僕は別にため口とかされるぶんには一切気にしないからどうでもいいしなぁ。

 

僕から年上には絶対ていねいに話さないと気が済まないけど僕がそうされる分にはどうでもいい。

 

萩村さんとか今井さんは、きっと僕みたいな子ども相手でも対等なビジネスパートナーとして考えていたからこその話し方だったんだろうし。

いわゆる大人の関係……む、ちょっとちがう気がするけど大体そんな感じだ。

 

敬語って距離感とか細かいニュアンスとかを丸投げできるから実はとっても便利なんだけどな……距離感とか無視できるし。

 

僕的には楽だけど高校生的にはめんどくさそうだもんな。

 

「それにしてもそれにしてもっ、あのときに最初男の子だってみんなが思っていたくらい本当にボーイッシュな服装も似合うのねっ。 男の子の服も女の子の服も楽しめるなんてうらやましいわー」

「そうですか」

 

まぁその胸とおしりじゃあな。

 

絶対に口にしないけど頭の中じゃ好き放題。

 

でもその発言、同級生の同性にしてしまったらタダじゃ済まない気がするけど大丈夫なんだろうか?

同級生相手でもおっきいだろうし……肩こりそう。

 

あとこの服は別に好きだから着ているわけじゃないんだけどなぁ。

単にこれ以外の選択肢がないからというだけでしょうがなくだし。

 

結局サイズは分かっても自力で選ばなかったからやっぱりどこか服の表記がわかりにくかったし、なにより一応は服が揃ってしまったせいであれから1着も買っていないせいでヘビーローテーションだもんな。

 

日常の95%以上は家の中にいるし、汁物を食べるときは古い服かシャツ1枚にしているし……この体だとたいして汗かかないから2日くらい着たきりでもぜんぜん臭わないし。

 

なんとなく気持ち悪いから毎日洗いはするけどそれでも不便なことはないしなぁ。

 

着るものにはもともとこだわらないし、そもそも洗濯したものを着回すっていうのは前からずっとやっていることだし。

服のローテーションの中には古い服がまだ混じったままだっていうのも僕のこだわらなさを的確に表している気がする。

 

ぶかぶかになるけどシャツとかなら男のときのも着て平気だしな。

外はともかく中はただの男だしぜんぜん平気だ。

 

汗をほとんどかかないし臭くならないし年中家の中でごろごろしていて滅多に服なんて汚さない。

だから着回しで事足りたせいで今日になるまでちょっと厚手の春物で済ませられたんだ。

 

あとはパンツとシャツだけの格好も割と良くする。

 

だって楽だし。

男のひとり暮らしなんてそんなものだ。

 

とにかく、どうにかしてやっとの思いで外に出て新しいものを調達しようとした矢先にこれだ。

 

幸先が悪すぎる。

 

なんで、よりにもよっていちばんイヤな相手を避けようとして会うことになっているんだろう。

 

運が悪いにもほどがある。

やはりこれは呪いなのか。

 

僕、なんか悪いことしたんだろうか……。

 

そんなことをぼんやりと考えながら見ていたらいつの間にか会話が途切れていたらしく、不思議そうな顔つきをしてのぞき込んでくるJKさん。

 

圧がすごい。

身長……座高も低いもんだから上空から迫ってくる感じ。

 

どうやら体は大きくても顔と中身は年相応と見えて、僕みたいな相づちしか打たないタイプに対する経験値はまだない様子。

 

まぁこの子が友達に選びそうな女子はおんなじような子ばっかりだろうしなぁ。

これで会話を諦めてくれたらいいんだけどなぁ……諦めてくれなさそうだなぁ。

 

憂鬱だ。

 

「……あ! そういえば、これだけおはなししたのに自己紹介がまだだったわね! もうずっと知っている気がしていたから忘れていたのだけどよく考えたらまだ名前も! あ、すみません、私このケーキを」

 

さらっとおかわりを頼んでいるしまだまだ続いてしまいそうだ。

今の僕の目はどんな感じになってるんだろう。

 

「私は下条かがりっていうの。 改めてよろしくね? ……えっと、あなたは?」

「……………………………………………………………………………………………………響です」

 

言いたくなかったから一瞬偽名にしようかって思ったけど反応できないから止めておいた。

 

嘘って言うのは頭が良くなきゃつき続けられないもの。

僕には無理だもんな。

 

「響ちゃんね! やっとお名前を聞けて嬉しいわっ」

 

僕の名前を知ったことがそんなに嬉しかったのか、ぱんっと合わせた手のひらに合わせて肩と一緒に髪の毛の先もぴょんと跳ねる。

 

そうとうに嬉しいらしい。

名前を聞いただけでここまで喜べるなんて……JKってお得な生き物だな。

 

男ならふーんでおしまいなのに。

せいぜいが呼ぶのに便利程度の価値しかないものだしなぁ。

 

「でも、またこうして会うことができるなんて! 先輩たちに自慢できそうだわぁっ」

「…………お知り合いのことですか?」

 

唐突に知らない人を挙げるのは止めてほしい。

こうやって話が膨らんじゃうじゃないか。

 

聞かないのも変だし聞かざるを得ないし。

 

「あ! 先輩っていうのはね、あのときに響ちゃんのコーディネートをした人のうちのひとりのことでね? 私の部活の先輩たちなのよー。 先輩たちはもう高校生だしうちの学校はバイトOKだから去年から働いているんだけどね、人手がどうしても足りないっていうから私までこっそり働いていたのよ。 本当は私はダメだったんだけど言わなければバレないって先輩たちが言うものだから」

 

速い速い。

頭の回転をあげる前だったからぜんぜん追いつけない。

 

最近はやけに話し好きな人に絡まれるからちょっとだけなら慣れてきたけど僕にとってぺらぺらしゃべる人の相手はまだまだ難しい。

 

意識しないと早々に聞くのを諦めるクセ……ほんと、どうにかしないとなぁ……。

 

「…………………………………………そうだったんですか」

 

とりあえずの返事をしつつ時間を稼いでようやく追いついてきた。

処理オチしながらゲームをしているときのような感覚だ。

 

ラグを逆手に取るあの感じ。

 

だけどこの言い方、どうやらあのとき感じたように接客自体に慣れていなかったみたいだな。

そりゃあ友達と好きなようにしゃべるのと接客とじゃ全然違うもんな。

 

あぁいう仕事って外から見ると楽そうなんだけどいざ働いてみたら絶対に大変だろうしなぁ。

話すのが好きで仕方ない人ならともかく。

 

そういう意味ではこの子にとっては天職なんじゃないかな?

もう慣れてるだろうから転職になってるんだろう。

 

僕とは真逆の存在だもんな、JKさん……じゃなくて下条さん。

 

……だけど気になる。

 

あのときはあんなに親近感わく噛み噛みさんだったのにどうしてこう残念になっちゃってるのかって。

 

「……えっと、それにしても。 あのときと比べると、その……雰囲気、だいぶ違うように感じるんですけど。 何かあったんですか」

 

どうせ食べ終わるまで話してくれないだろうしってそう聞いてみた。

 


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