【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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13話 取り戻した(非/否)日常 3/3

お風呂場の壁。

 

「…………………………………………」

 

ふと気が向いてマスキングテープを何種類か貼ったらなんかいい感じになって……もはや新しい装飾となった壁を見ながらシャワーを浴びる。

 

僕は昔から髪の毛洗ってるときも目を開けている派だ。

なんでかは分からない。

 

でも目にシャンプー入るわけじゃないし目を閉じるのはなんか怖いしでこの体になっても続けている。

 

眼鏡いらずの視界にあるのは雑な模様になった壁。

現代アートって言い張ればそれっぽくなりそう。

 

初めのうちはカビとかいろいろと心配したけどめんどくさくなってきて放置しているうちにどうでもよくなってきて今に至る感じの壁だ。

 

なんかやる気出ないんだよなぁって放置するのって良くあるよね。

 

それよりも中学生っぽいことをしているだけで忙しいんだ、しょうがないしょうがない。

 

僕は壁のオブジェをちらちら見ながら髪の毛を洗って流してリンスをつけてっていう作業を無心でこなして、髪の毛に染みこむまでの時間を体を素手で洗うことで稼ぐ。

 

本当にリンスとかコンディショナーっていうの効果あるのかなって思ってたけど確かにつけないと髪の毛がきしきしするし、ざっとつけただけでもなんとなくきしっとするから本当だったらしい。

 

男だった頃には知る必要も無かった知識だな。

短かったんだから当然か。

 

ただ、髪の毛をしている……しているっていうのも変だけどこの表現がしっくりくる気がする……だけでこんな夏場なのに体が冷えてくるんだから冬になったらどうしようなんて今から考えちゃう。

 

冬なんてお湯に浸かってあったまってるうちにささって洗ってさっと出てたのにこれだからなぁ。

 

それもこれもこの長すぎる髪の毛が悪いんだ。

だけど切らせてもらえないし体に張り付くしで迷惑すぎることこの上ない。

 

まだ夏になってないからお風呂場はすっぱだかだと寒い。

 

1回暑くなった後に秋とか冬になってきたらお湯で汗をかくくらいにあったまってから体と髪の毛を洗うっていう風にしないといけなさそう。

 

しかもこの体は体温が低いらしくって朝は低血圧で眠いし汗も滅多にかかない、手足の先は冷えるし寝ようと思えばすぐに寝付ける、そして皮下脂肪が悲しいくらいに少ないって感じでとにかく筋肉以前の状態。

 

どれだけ肥えようと思ってもがんばって半人前しか胃が受け付けない食欲。

 

もっとがんばって食べようとしたら食べているうちにうつらうつらしてきちゃうっていう本物の幼女らしき状態になる始末だ。

 

腹八分目どころか五分目じゃないといけないらしい。

 

手っ取り早く太るためには甘いものだけど僕が苦手だからなぁ、甘いの……。

 

「……んしょ」

 

そんな、ちっちゃいけど僕のものだっていう認識が定着している女の子の体をぼーっと眺めながら、ちょっとだけぬるくなったお湯にちゃぷんと浸かり直す。

 

もちろん両手で湯船をつかんで踏み心地のいい踏み台とマットを踏みしめながらゆっくりと。

 

髪の毛をたらいに乗せて浮かせて温まってきたところで最近はじめたバストアップ体操……要は乳揉みをしてみる。

 

当然だけどやらしいのじゃない。

幼女のだしな。

 

まぁ年齢不詳だから実際のところ何歳かは分からない。

調べたら大人になってもすっごく背の低い人って結構居るみたいだしなー、特に女の人。

 

そもそも乳って系統の言葉で呼べるものが存在しているのかしていないのか分からない以上この名称が正しいものなのかは疑問だけど、まぁしないよりはましだろうということで始めたもみもみ。

 

まだ完全に子供だったら意味なさそうだけど発育がものすごく遅い中学生くらいだったとしたら効果は見込める気がする。

 

もともとはメッセージのやりとりのなかでふと出てきた名前の雑誌を買ってみたところからだったんだけど、ちょくちょく過激なことが書いてあって中高生がターゲットなのにってびっくりした記憶がある。

 

もっとも「そういうの」に目覚めるのが遅かった僕だからこそ分かるんだけど、いくらそういうことがたくさん書いてあろうが目立っていようがまったく興味がなければスルーするからあれを読んだ子がみんな真に受けるというのはないんだろうけども。

 

……でも。

その、なぁ。

 

つい最近知り合った子どもたちがそういう大人に片足突っ込んだような内容を読んでいるかと思うと……なんかこう、もやもやするものがある。

 

……これはまさか、娘がそういう雑誌を持っていた父親のそれに近い感覚……?

 

「うーん」

 

だってなぁ。

 

同窓会の手紙とかに紛れて結婚したとかいうのってごくたまーに来るしな。

行ったこと1度もないけど……学生を終えてしばらくするとそういうのが気になってくるんだ。

 

 

 

 

ノスタルジックになっていたら胸まわりの肌がじんじんしてきたからおしまい。

 

ひりひりする。

 

たかが数分揉んでいただけ、それもほとんど力を入れていないしそもそも揉めているかも怪しいくらいでむしろぐにぐにって押すだけなんだけど、とにかくそれだけの刺激で両方の胸が円形に真っ赤になっている。

 

なんでこんなにも肌が柔いんだろうか。

これだと病弱設定もまんざらウソではなくなってくるかもしれない。

 

女の子はみんな肌が弱いんだったら普通なのかな?

女の子とそこまで親しい仲になったことがない僕にはさっぱりだ。

 

先っぽまでじんじんしひりひりてきたから収まるまで天井の水滴を眺める。

 

……こんなことをしても効果があるのかは極めて疑問っていうかたぶんほとんどないんだろうけど、せっかく胸が育つ女性の体になりはした以上育てる義務がある気がする。

 

だって、成長しても胸がないだなんて……そんなのは悲しすぎるじゃないか。

 

いやその前に元の男に戻るのが先決だけど僕にはどうしようもないから育てておくに越したことはないんだ。

 

せめて。

 

せめてもの慰めに自前のおっぱいというものがないと泣くに泣けない。

 

「…………………………………………………………………………………………」

 

僕はふにふにと胸を触ってみる。

ひりひりするだけ。

 

それにしても元の、男だったときのように。

 

「…………………………………………………………………………………………」

 

……やっぱり、そうならないよなぁ。

幼すぎるというのも十二分にあるとは思うんだけどなぁ。

 

みんなが知っていて僕だけが知らないって言うのは、ちょっと寂しい。

 

 

◇◇

 

 

かちんってボールペンの先を戻して日記帳に挟んだまま閉じ込める。

 

「ふ――……」

 

ずーっとカリカリと書いていて凝ってきた肩をほぐしつつ背もたれに体重を乗せてほっとひと息。

 

今日はなんだかやる気がこれっぽっちも出なかったから今日もがんばったかのように書いた夕方の散歩も実はサボってなんとなく部屋でだらーっとしていたら、つけようと決心してからずっと忘れていた日記を書いてみた。

 

日記を書く習慣って昔はあったんだけどなぁ。

 

確か大学くらいまでは毎日書いていたけど、いざニートになってみたらたいして代わり映えのしない毎日になってきて、書く内容もせいぜいが料理のこととか読んだ本のこととかくらいしかなくなって「書く必要ないな」ってことになってからずいぶんが経つ。

 

この体になってからは「次に目が覚めたらどうなるか分かったもんじゃない」ってことで初めの数日こそまじめに書いていたけどだんだん慣れと諦めとが出てきたせいか、目の前に置いているのに視界に入らないという始末だ。

 

人間、メモしておこうが何しようがする気のないものはしないもの。

 

……それにしても最近の生活を書き出してみると、どうもこの体や新しい知り合いに汚染されているような気がする。

 

汚染っていうか……話題を理解したり追いつこうとしたり服を楽しいものだと感じるようになったり、胸のことばかり気にするようになっていたり。

 

ちなみに僕はおしりにはこだわりがないからどうでもいいけど、とにかくそういうことだ。

 

ぱらぱらとめくっても少なくとも前回……もう先月の日付だったけど、そのときにはまだここまでの変化はなかったようだし。

 

特に胸のことには触れていない。

もしやこの体に意識が順応しているんだろうか?

 

「…………………………………………」

 

……なんか怖くなったから忘れよう、うん。

 

ともあれ以前と変わってきていること自体は事実だ。

これがいいことなのか悪いことなのかは分からないけど変化は変化。

 

ついこの冬までにはよくあったようになんとなく気乗りがしないからだらだら適当な連続ドラマとかを見ているうちに夜になってきていてお酒を飲んでいるうちに翌朝……なんて不健康な日っていうのがなくなっているのはいいことだろうしな。

 

体力が無ければ無いなりに無茶はできないんだから。

 

まずは中学生に勉強で追いつき直そうっていう張り合いがあるぶん充実感があるような気がする。

これもJCさんと知り合ったからかもな。

 

「なにを中学生相手にムキになっているんだ」って冷静になるとそういう考えが浮かんでは来るけど今の僕はその中学生以下なんだから耐え忍ぶしかない。

 

そう思っていうちに口が寂しくなってきて冷蔵庫までとてとて下りて来た僕は瓶たちを眺める。

 

今日はウィスキーの、……思いつかないからただの水割りでいいや。

 

じゃばじゃばとコップの中には完全に無色なアルコールと水とが混ざってちょっとだけもやっとする。

 

つんとするアルコール臭。

 

…………濃すぎたかな?

 

まぁいいや。

 

別にストレートでもいけるんだし。

 

口に中にそれを含みながらコップ片手に階段をがんばって上って日記のところにたどり着き、もう一口を飲んで体が少し温まってくるのを感じながら開き直して次のページへ。

 

もうちょっとだけ書いておこう。

どうせ今日は寝るだけだしな。

 

そういえば試して気がついたっていうか気がついたら試していたから自覚したのはそんなに前のことじゃないんだけど、今の幼女な僕はお酒が飲める。

 

飲めちゃう。

 

それも前の体と変わらないくらいには平気で余裕で。

 

発育には悪そうだけど、まぁ子どものころから飲む習慣のある文化圏もあるし飲み過ぎなければ、うん。

 

人種的にはオッケーなはず。

倫理的には完全にアウトだけど気にしない。

 

このへんはひとり暮らしの特権だ。

 

ほとんど唯一ともいえる楽しみのお酒が完全にムリになるっていう悪夢が数年続くよりかはだいぶマシだし、うん。

 

ほら、お酒も適度なら精神的ストレスがなんとかって言うし、少なくとも僕にとってはいいことだ。

 

きっとそのはず。

 

とりあえずとしてワイン瓶を半分なら飲めるし困ることはない。

 

体重は半分なのにな。

肝臓が強いんだろうか?

 

なまじ飲めてしまうせいでせっかく止めようと思っていたお酒の習慣、断酒がふた月も続かなかったのはしょうがない。

 

中身は大人だしこの姿は魔法っていう未知のなにか凄い力の影響だし。

 

うん、しょうがない。

 

「………………………………けふっ」

 

僕は今日1日で思ったことを、一応は後日に他人に見られるかもしれないことを想定して堅苦しく書いておいて、もう一度日記帳をぱたんと閉じる。

 

もちろんお酒のこととか胸のことは書いていない。

だって自分で読み返すのだって恥ずかしいもん。

 

 

 

 

お酒が入ると眠くなってくる。

 

ずっとがんばって起きていればそのうちに逆に目がさえてきて眠れなくなってくるんだけど、そのへんのさじ加減が肝心だ。

 

いちど体調をいろいろな意味で崩しきった経験からこういう大人な判断は染みつくようになっている。

 

痛くないと覚えないってのは本当だな。

 

「……ぺっ」

 

まだお酒臭い口の中を磨いてきれいにしてトイレを済ませてぼーっとしている頭と重い体とをがんばって動かしてどうにかベッドにのそのそとたどり着く。

 

熟睡するためにわざと小難しい本を、酔って理解力の欠けている脳みそでかみ砕こうと格闘しているうちに本格的に寝落ちする寸前まで来た。

 

この感覚がたまらない。

クセになっちゃマズいって分かっていてもクセになってるんだからしょうがないよね。

 

「えへへー」

 

意識が飛びかけのよく分かんないテンション。

 

あ、さっき書くのを忘れた。

睡眠時間、2時間くらい増えたんだった。

 

おかげでいつも宵っ張りなんてできなくなって遅くても9時、ゴミ捨ての前の日は8時には布団に潜り込まないと翌朝に目覚まし時計に負けることになる。

 

だからお酒はそれより2時間くらい前な夕飯どきからなんだって。

たいていの場合それプラスで昼寝がセットでようやくすっきりするんだって。

 

子供か。

 

子供だったな。

 

「くぁぁぁ――……」

 

おっきなあくびを1回してからごろんって横向きになってうずくまるようにして眠気に落ちる。

 

……これだけ寝ているんだ。

成長ホルモンが出て早く成長してくれるか、あるいはさっさと元の体にでも戻ってほしいな。

 

そんなことをごちゃごちゃとしている頭の中で考えているうちに僕の意識はぷつんと切れて翌朝まで吹っ飛んでいた。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

水平線の彼方から朝日が昇る。

 

その太陽は恐ろしいくらいに巨大なもので、海面からゆっくりと出てくるに従い世界を暗いオレンジ色に染め上げていく。

 

波打ち際にはその光で目が覚めたらしい鳥たちの元気な声と、夜中もずっと響き続けていた波の不規則で規則的なざあざあという音と空を飛び回る鋼鉄の重低音がびりびりと、繰り返し訪れている。

 

そこで、波がぎりぎりかからない程度の砂の上で、暗かったころ……空と海の境界がまだ分かれていなかったころからただただその方向を見続けていた彼女は、まぶしくなってきた空と海を片手で少し隠しながら、隣に立つ彼女に向かってつぶやくように語る。

 

「『響』、そんな顔しないで。 大丈夫、きっと……きっと上手くいくわよっ」

「…………………………………………」

 

その声に向かってぽつりと返される声はひどく小さいもの。

 

それに向かって元気づけるために、彼女は「彼女」に対して、いつも以上に活気に満ちている声を渡す。

 

「――――――もちろんっ! 『響』をいちばんよく知っているこの私が保証するわ!」

「…………………………………………ふふ」

「…………な、なによ! なんでそこで、どうして笑うのよ!? もーうっ! 『お姉ちゃん』に向かって!」

「…………………………………………」

 

少女と「少女」はしばらく笑い合った後。

 

「………………ふふ、元気出た? 『響』」

 

彼女は「彼女」の手を引きつつ砂浜をゆっくりと歩き始め――振り返ると今度は「彼女」と「もうひとり」に向かって語りかけた。

 

「――――――それじゃ、がんばってね。 『『響』』」

 

 

☆☆☆☆☆


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