【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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2話 姿が変わっても、頼れるものは、何もなし 1/2

「………………なるほどね、だいたい分かったよ」

僕は言う。

 

「それで、僕はどうしたらいいんだ? どうしたら――――できる?」

僕は問う。

 

「……たったそれだけなんだ。 ならいいよ、すぐにやってくれても」

僕は答える。

 

「……? ――――なんだろう? 遠慮はいらないよ、さあ」

僕は任せる。

 

「それに、僕のことはどうだっていいんだ。 だけど、むしろ――――」

僕は応える。

 

「だからもう、何度も言わなくてもいいんだって………………そう、じゃあ始めてよ」

僕は催促する。

 

「――――あ、終わったらでいいんだけど、できたら、僕の体が――――……」

僕は、付け加えた。

 

 

◇◇◇

 

目が覚める瞬間っていうのは、いきなり意識が戻って……外の情報と今までの思考とこれからの意識とがいっぺんに頭の中に流れ込んでくるから、いつも混乱する。

 

さらに目が覚める前に夢を見ていたとしたなら、なおさらだ。

 

というわけで、なにやら壮大な夢を見ていたらしい僕の無意識のせいで、僕は目が覚めたらしいのを知ってからしばらくは身じろぎもしないで、ぼーっとしていた。

 

ぼーっとしながら意識だけで体の感覚を確かめてみる。

んー……まだ眠いけど二度寝するほどではないかも……?

 

何度か寝返りをうってだらだらとしていると髪の毛がやたらと顔にかかってきてものすごくうっとうしい。

 

そろそろまた切りに行かないとか。

面倒くさい……けど、こればかりはなぁ。

ぼさぼさの髪の毛はめんどくさいからなぁ。

 

……………………………………………………っていうか。

 

耳を澄ませなくても分かる騒がしさ。

 

外がうるさい。

あと部屋が暑くてまぶしい。

 

……………………………………………………。

 

……あれ、ほんとうに今朝はずいぶんと外の音、聞こえるような?

 

寝過ごした?

これじゃまるで昼間みたいな……。

 

よく見てみると部屋に入って来ている光の方向が朝じゃない。

お昼から夕方のそれだ。

 

なにより……よく寝た爽快感がすごい。

やっぱり寝過ぎたんだな。

 

なんだかだるかったから僕は上半身だけを起こして、すぐ上の窓のカーテンを半分だけ開けて鍵を開けてガラスを開いて空気を入れ換える。

 

……強い日差しが南から来ているらしいのと生暖かい風が流れ込んできたので、だいぶ時間が遅いらしいのが確定した。

 

外を行き交う人や車も、どう見ても通勤時間のそれとはだいぶ違うし。

えっと、それで……今の時間は。

 

大切な朝の時間をすっぽかした悲しさに打ちひしがれながら、のろのろと視線を室内に。

 

……………………………………………………。

 

けど。

 

………………………………………………んん?

 

……見たものが信じられなくて目をこすったところで、今まで眼鏡をしていなかったのに気がついた。

 

眼鏡をかけていないのに、手元だけじゃなくて50センチより先も見えている。

手のひらのシワがひとつひとつ不気味なくらいはっきりと見える。

 

よく考えたら窓を開けるのはともかく、窓の外の光景なんて普段なら眼鏡無しじゃぼんやりとしか見えないはずなのに普通に見えていて……おかしいって思えなかった。

 

とりあえずもういちど、寝過ごすのを避けるためにベッドから数歩の机に置いてある目覚まし時計に目を向けてみると……やっぱり秒針まではっきりと見えるし、机の周りのものもくっきり見えている。

 

そして時刻は3時を指している。

 

3時。

15時。

 

……午後の、だよな、もちろん。

外の雰囲気的に。

 

くらくらする頭で考える。

 

……見間違えじゃなかったみたいだ。

いったい何時間寝ていたんだろうか。

 

確か寝たのはいつもの時間からそう外れていないはずだから、だいたい……17時間とか寝ちゃってたのか。

 

病気をしているときとか徹夜した翌日とか以外じゃ、犬とか猫とか幼い子どもとかじゃないと到底寝ていられないくらいの長時間、僕は寝ていたらしい。

 

……おかしいな。

特に体調も悪くなかったし最近寝不足とかもしてないし。

昨日だって大してアルコールも入っていなかったと思うんだけど……うーん。

 

二度寝どころか三度寝四度寝した疑惑。

覚えていないという時点で結構おかしい。

 

それに、体の感じというか感覚もなんだか変だ。

頭が重くて重いのに軽いっていうか、妙な感じ。

 

お酒が残っているときのあのイヤな感覚もないから……もしかして実は風邪を引いていて長めに寝ちゃったとか?

あるいは最近夜更かし……って訳じゃなさそうだな、そんな不規則なのは最近してないし体もむしろ元気だし。

 

けど……それじゃ17時間の説明がつかない。

考えが行ったり来たりしてくるくる回るだけ。

 

んん……?

 

肌の感覚も、体の感覚さえも何となく違うっていうか違和感があるっていうか。

 

違和感って言えばなんとなく物が大きく感じる気がする。

……部屋ごと大きく見えるってことは自覚がないだけで熱があるのかも……?

 

なんだか致命的な何かがずれちゃってる感覚を頭で反芻してもどうにもならない。

 

……ひとまずお水でも飲んできてさっぱりしてからにしよう。

頭痛もないし吐き気とか目眩とかの症状もないからそこまでひどくはないと思うんだけど……ずっと寝ていたし、喉が渇いているし。

 

まずはお水だな、お水。

そのあとご飯食べてコーヒー飲みながらゆっくり考えよう。

 

よっと……、あれ。

 

そう決めた僕は……また別の違和感。

 

ベッドから脚を下ろして立ち上がるとまた変な感じ。

何かが下に数十センチずれたような、割と大きい違和感。

 

……この感覚……もしや昔はよくなった、手が異常に大きく感じる的なあれ?

あれすっごく怖くて大っ嫌いだったんだけど……何となく似てる気がする。

でもあれは感じなくなってからもうずいぶんになるし、大人になった今さらになんて。

 

何秒かフリーズした僕は再起動して、どうせ寝起きだしって割り切る。

とにかく、このぶんだと寝汗もかいていそうだしシャワーと着替えもして。

 

……おっとと。

 

ぶわっと汗が体じゅうの毛穴を広げる感覚。

バランスを崩しそうになったってそれから気がつく。

 

同時にばさって音がして足先が温かくなって……脚がすーすーする感覚が。

脚に何かが絡まっている……パジャマのズボン?

 

ズボンがお風呂のときみたいに真下にすとんって落ちていてふとももが映る。

 

なんでずり落ちて……あ、ゴムでも切れたのな。

……って、あれ?

 

ズボンを腰にあげようってしたけど手を離すともう1回落ちるズボン。

まるで、サイズが全然合っていないような雑さ。

 

それに違和感を覚えて……今度はやたらと長く感じるシャツの裾を持ち上げてみる。

 

なんで僕の太ももがこんなに細くて白くて……毛がなくてすべすべなんだ?

確かに邪魔だから気になったときに剃ってるけど……つるつるですべすべ?

 

しかも膝やスネに残ってるはずの昔からある自転車とかで転んだ傷とかもないような……。

 

……………………………………………………。

 

ぱさり。

ズボンの上にちっちゃな布きれがもう1枚。

 

あれ?

……え?

 

今度はパンツまで。

これはさすがにおかしい。

 

一体何が起きて――――――――――――。

 

とっさの反応で顔を上げて……開いたままの部屋のドアの先の、廊下の先に起きっぱなしにしちゃってた、遠くの鏡が視界に入る。

 

捨てるまでは行かないけど置く場所に困ってた、前からある全身鏡。

 

ぴったり僕の部屋から僕の全身を捉えるようになっているのは、昨日足を引っかけて場所がずれたからだっけ……なんて思考が自動的に流れてるけど、それどころじゃなくって。

 

眼鏡もなしで、はっきりと。

見間違えることもないくらいに、鮮やかに。

暗がりでも昼間だからか廊下にもそこそこの光が入っていて、見えてしまう。

 

…パジャマのシャツを太ももの半分くらいまでだぶっと着ていて、隠れてはいるけど下になんにも履いていなくって、薄い色の髪の毛がシャツの裾くらいまでたくさん垂れていて……そして。

 

見たこともない顔をした女の子……いや、下手をすると女児、巷でいう幼女って言ってもおかしくない顔をした子どもが僕を、その薄い色の瞳で見つめていた。

 

この子は誰かとか、どうして僕の家にいるのかとかいう疑問は、一瞬で消えた。

 

これは、………………僕なのか?

 

そう考える僕と、その子が立っている位置的に僕しかいないじゃんって考える僕がいて……僕はしばらくぼけーっと立ち尽くしていた。

 

 

◇◇◇

 

 

「……で、本日新たに発表されたのは……」

「……発見後すぐに……したおかげで……」

「警視庁は先ほどの記者会見で、次の……」

 

つけっぱなしのテレビからはなんにも情報が入ってこない。

僕の耳を素通りしていく。

 

あのあと、履くもの……いや、履けるものがないから冷たい風に当たる下半身を意識しながらいろいろ見て回って、他にはなんにも変わってないって分かって少しだけ落ちついてきた僕。

 

もうちょっと現実感を得ようといつもみたいに適当にテレビをつけて……足の裏がつかないほど高くなっているイスに腰掛けて……乗っかっている。

 

そのイスに座るにも両腕を使わないといけなかったから文字通りの意味で乗っかって。

 

あれだ、バスの運転者さんのすぐ隣の高いところ。

あんな感じによいしょって、わりと全身を使う運動になっていた。

もっとも、今の僕だったら間違いなく登り切れずに諦めるだろうけど。

 

――家にあるものはみんな昨日の夜から変わっていないように見える。

それでもまだ現実感はないけど、僕はさっき鏡で見たまんまな子どもになっているらしい。

 

着ていた服もベッドも昨日寝たときと変わっていないと思うし……パソコンやスマホで開いていたページとかアプリも昨日のままっぽい。

 

ざっと見てみたけど、ニュースなんかを見ても特別な情報……たとえば何か変なものが現れたとか人の姿が変わったとか……そういったものは特にないらしい。

 

けど、昨日の夜とか今朝に起きたばかりの事件なんかは初耳だから、今僕が座ってるこの状態は夢じゃなさそう。

 

っていうかここまでリアルだと明晰夢でも無理だろうし。

そもそも僕は明晰夢なんて見たこともないしな。

 

僕の体が変わっていること以外は昨日までと何も変わっていない。

世界は何にも変わっていない。

 

変わったのは……僕の体だけ。

 

ただ……半日以上ワープしちゃって、体が変わっちゃっただけだ。

 

「……………………………………………………」

 

……にしても、指紋まで変わっているとは。

いや、幼いころの僕になったならまだしも見知らぬ北国出身なDNAの入っていそうな子なんだ、当たり前か。

 

骨格から色素から何から何までみんな変わっているんだからな。

変わってないのは僕の意識だけ。

 

僕の記憶だけ。

 

「………………………………………………ふぅ」

 

めんどくさい。

けど、いちいちってのもまためんどくさいから指紋認証……やり直しておこう。

 

……ああ、めんどくさい。

 

 

◇◇◇

 

 

………………………………………………………………。

 

ふむ。

なるほど。

 

洗面所の大きい鏡の前には、シャツ1枚になった童女……幼女?

が、しげしげと自分の全身を観察している。

 

真ん前から腰に手を当てて、横向きになってだぶだぶのシャツを眺めて、体をひねって転びそうになって。

 

心持ちバランスの悪い感じがする幼い体を……まぁ僕自身なんだけど。

 

シャツ1枚とはいってもぶかぶかすぎるし、そもそも出るところも出てすらもいないからやましいところは何もない。

下になんにも履いてないっていうので罪悪感がありそうだったけど、そういうの以前の幼さだからか特に思うところもないからかな。

 

しかしほんとうになんにもないな。

お股からも何も出てないし。

 

見た目はものすごくすっきりしているけどお股のあいだがとても寂しい気がする。

ふだんは感じなかったけど、それだけ温かくて存在感のあるものだったのか?

 

…………よく考えたらそれなりの大きさだもんな。

邪魔なだけだったけど無くしてから分かる寂しさ。

 

まぁお股のことは今は置いておいて問題は体の方だ。

 

正直それがなくなったところでどうでもいい。

いや、どうでもよくはないけど今はそれどころじゃない。

 

ちょっと心配になるくらい痩せすぎているから、そっちの方が気になる。

子どもってもっと丸っこいイメージだったんだけど違うのか……分からない。

 

手首は骨がくっきり分かって脇とかも形がぱきぱき?している気がする。

脚だってよくよく見たら骨張ってるし……女の子っていうののイメージからは、かなり遠い。

 

やっぱり所詮は幼女か。

 

けど、脂が乗って来そうなのを毎日の食事と運動でどうにか抑えていた程度の青年を過ぎた成年だったから違和感があるだけで、あばらが浮くっていうのは僕が小さいころも……確か中学生くらいまでは続いていた気がするし、こんなものだったのかもしれない。

 

もう相当前のことだからよく思い出せないけど……あとは人種的な体格差もあるかもしれないしな、考えてもしょうがないのかも。

 

……けど。

 

ぱっと見て「かわいい」って感じるんだ。

 

それも暗い廊下の先でぬぼーって座敷童的に立っているように見えても、怖いよりもそれが先に来た。

 

顔が整っていて、けどほっぺが丸っこくて……髪の毛が長くて体はちっちゃくて。

僕のストライクゾーンの下限があと10歳下だったらあるいは、だけど僕はそうじゃないからただただ子猫の写真とかを見たときの反応しかない。

 

でも……成長していないからこそこうやって冷静にしていられるけど、もうちょっと……あと数年も成長した状態だったらきっと動揺していただろうな。

 

免疫もない僕だ、きっとそうなっていただろう。

たぶん。

 

そんな今の僕はまさしく……少女未満の童女とか女児とか幼女とかいう表現がぴったり。

それ以外の存在じゃない気がする。

 

……………………………………………………。

 

どうせ女の子になるんだったら同い年くらいの人になったら……いや。

 

女性に耐性のない僕だから下手に高校生くらいだったり大人だったりしたら……それこそ寝起きのトイレすら困ることになっていただろうから、これはまだマシな方なのかもな。

 

自宅でのトイレすらいちいち恥ずかしがってたらおちおちニートもできやしないもんな。

 

 

◇◇◇

 

 

変化した体を観察するのもそこそこに、履けるものはないからまだ温かいパジャマのシャツだけを上に着直す。

 

こういうの……僕自身のだとしても人の体って感覚だし、あまり見ない方がいいんだろう。

なんとなく見ること自体に抵抗があるし。

 

確かめてみた結果として、今の僕の体はどう見ても昨日までに使い慣れて見慣れていた僕の体じゃないことが確実になった。

 

分かってはいたけど確定したわけだ。

まぁ……飛び出ていたはずのものがなくなるどころか根こそぎ欠片もなければ……ねぇ?

 

人生って言うのは摩訶不思議。

 

で、今の僕は紛れもなく子どもだ。

 

子どもだと言っても……これって、いくつくらいになるんだろうか?

とりあえず高校生はないとして発育次第で中学生……小学生くらい?

 

学生時代の全校集会とかでは幼く見える子とかいたし、がんばれば高校生でも行けるかもしれない……いや無理か。

風格って言うか顔つきからして無理だな。

 

逆に言うと、がんばらないと服装次第では大人びた年長さんって見られても文句は言えない感じだ。

 

その辺はがんばろう。

何をがんばるのかはさっぱりだけど。

 

……身長とか、何センチなんだろう?

 

けど、幼く見えるのはシャツ1枚というヤバい格好のせいもあるんだけど……っていうかこれのせいもかなりあるかも。

 

で、今の僕は子どもって言っても僕の幼いころのそれじゃなくって、髪の毛からまつげまでびっくりするくらいに色が薄くて線も細いし瞳の色だって違う。

 

顔つきもどこかの映画で見たような「北国のいいとこのお嬢様」って感じの趣だし。

 

どこかで見たことがあるような、知らないはずなのに知っているような気がしなくもないっていう感覚があるのはなんだか変な感じだけど。

 

体はっていうと明らかに幼い子どもだけど、辛うじて胸と腰が……記憶にある子どもころの記憶よりは大きい……?

 

いや、錯覚か。

出るとこなんてなさそうだしな、明らかに。

 

けど子供ってのは個人差が大きいもんだし、2、3年分程度なら発育が遅いだけって言い張ることはできるかもしれない。

 

男女の骨格の差ってやつも、まだそこまで感じなかったし。

 

……でも、毛すら生えていなかったのはまだ第二次性徴を迎えていないからなんだろうけど違和感がすごい。

 

なんていうか、つるつるだ。

うぶ毛がほとんど見えないのも不思議。

生えない体質なのか、毛の色が薄いからかは分からないけど。

 

肌の見た目がすっきりしすぎているから、毛があるのがふつうだった僕にとっては「ない」っていうだけでなんだか目を背けたくなるっていうか目が吸い寄せられるというか……なんとも言いがたい感覚に襲われるもの。

 

これが背徳感っていうものか。

 

あれだ、出かけた先で薄着の女の子とか女の人が目に入ったときの気まずさって感じ。

 

……けど。

 

「…………………………………………はぁ……」

 

たった、これだけ。

 

ただ僕自身の体のはずのものを見ただけなのにとても悪いことをしたような感じがするのは……僕の理性とか良識とかそういうもののせいなのかもしれない。

 

僕は打たれ弱いんだ。

この程度で3日はふさぎ込む自信がある。

 

でも、ため息ばかりついてるわけにもいかないよなぁ。

…………………………さて、これからどうしたもんか。

 

 

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