【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間 作:あずももも
自慢じゃないけど僕は人の顔と名前を覚えるのが苦手。
だから小説でも漫画でもドラマでも映画でも主人公くらいしか分からない。
好きなので2回3回って楽しんでようやくって感じ。
だからってわけじゃないけどせっかくだしってことでスマホのメモに知り合った人のことをすいすいと、思いついたことを箇条書きのようにして覚え書きを作っていく僕。
こうして突発的に何かするのってすぐに飽きるけど……まぁヒマだし。
だけど……。
「うーん……」
疲れた両手を休めながら僕は何年もののスマホを眺める。
何度か思ったけど、スマホ、ちっちゃいやつが欲しいなぁ。
画面は大きすぎて操作がしづらいし重いし片手に収まらないしで良いところがひとつもない。
大人と子供、男と女のかけ算で大局的な生物になっちゃったからしょうがないんだけど。
ずっと持ってるだけで手首が痛くなるしなぁ…………しかたない、下に置こう。
こんなんで手首痛めるとか軟弱にもほどがあるし、さすがに困る。
「今ってスマホはネットで買えるんだっけ?」とか思いながら、ことんと置いてするすると思いついた順に文字を並べていく。
「………………………………」
おっぱいもとい下条さん自身が年齢と体のことを気にしているせいか「私中学生なのよ?」って言うのに合わせて「僕も同い年だけど子供扱い止めてくれる?」って伝えてもちょっとだけ驚いてすぐに納得していたのには僕が驚いたっけ。
なんとなく話し方で見た目よりは上だと分かってくれていたらしい。
僕の言葉づかいもときどき気になっていたらしいし。
最初の頃は僕自身のキャラを作るのもおぼつかなかったからだろうけど「いつもだから」ってことにしておいた。
便利だよな、「いつもだから」って。
どんどん使っていこう。
けど話している最中によく「それってどう言う意味?」って聞き返されるし……僕じゃ分からないけどやっぱり世代間、干支1周分くらいな時の流れっていうのはちょっとした表現にも表れているみたい。
そりゃあそうだ、あの子たちが生まれた頃僕は中学生だもん。
なるべく違和感が出ないように意識しているんだけど難しい。
「ふむ……」
めんどくさくなって疎遠になるなら良いんだけど嘘がばれてじくじくしたお別れになるのは嫌だ。
……「じいやとおはなしするの大好きだから……」とかいう設定も作っておくべき?
じいや、じいや。
大きな家にいる執事さん的な存在。
じいやって言うからにはおじいさん。
ならそれに合わせたエピソードも必要だ。
だけど将棋とか囲碁とかルールもふんわりとしか分からないし興味あまりないからなぁ。
興味は無いわけじゃないけどそこまでストラテジックに何手先まで読むとかできないし、それよりも楽しめる娯楽がありすぎるっていうのも大いにあるし。
このありあまる時間をちょっとは使って、せめて初心者レベルまでは試してみるべき……?
今はアプリでもできる時代だ、ひとりぼっちでもなんとかなる素敵な時代なんだ。
勉強に飽きたらやってみるか。
覚えていたらな。
意欲が残っていたらな。
……ん、何の話だっけ。
ああそうだ、着せ替え人形にしてきたあの子の特徴を書くんだった。
下条さんとの会話は正直苦手。
だってほとんどが学校とか部活とかテレビとか雑誌とか漫画……もちろん少女漫画的なものとかのはなしをほとんど一方的にされるという感じだし。
だいたいいつもファッション雑誌とかネットの記事とかを見せてくるし。
いちばん楽しそうに話すのが芸能界とか学校の友だちとかの恋愛話とかいう、僕にとってはいちばんつまらない話題なあたりいまいち話が噛み合いづらいんだ。
生きている世界が完全に違う。
例え同世代でも話なんて合わなかったって思う。
脳みそゆるゆるだもんな。
けどそういうのがいわゆる今どきのJK……じゃなかったJCっていう存在らしいからちょっとがんばって付き合ってみてるんだ。
あんな中学生の女の子に我慢して付き合っているんだ、僕は偉い。
つまりニートは偉いんだ。
がんばった甲斐あって会話のテンポとかもある程度コントロールできるようになったし、最初のころみたいに下条さんが息継ぎ以外はずーっと口が回り続けるのに付き合うっていうのはなくなっているから僕としてはありがたいところ。
服のボタンがズレているっていうか、そもそもこちらにボタンを通すための穴を探すところからはじめないといけない感じで大変だったけど。
……いや、ちょっとだけ良くなってるだけで根本的には何一つ良くなってないんだけども。
ボタンの穴を探したとしても今度はそのサイズが合っているかの確認が必要な感じ。
違うかな?
それに、会うたびに「誰それがくっついた」とか「離れた」とかいう報告と、そのついでに僕にまで「好きな人ができたか」とか聞いてくるからどうにかして話題をそらすまでがあいさつだ。
「ニートだからいないよ?」って言えたら手っ取り早くて楽なのにな。
フリーターさんと違って人と接する機会がゼロだから出会いがゼロなんだってさ。
……いや、そうしたらいきなり同級生を引っ張ってきたりしそうだからやっぱりごまかしておこう。
とにかく彼女いない歴=年齢っていう最近はマジョリティになりつつもさりげなくやばい状況の僕としてはいい加減にしてほしいところ。
でもそれが生きがいなら僕は否定しない。
代わりに僕も適当に相手するだけだ。
そもそも20超えるっていう良い年して好きになるっていうことが僕はよく分からないし。
親愛の情ならまだ分からなくもないけど恋とか愛とかなぁ。
人間って言う猿よりちょっと話が得意になっただけの生物に備わっているただの繁殖行動のための機構なのに、それがどうして世の中の人を……特に女性を惹きつけるのかさっぱりだ。
あ、文学的表現としては好きだしエンタメでも嫌いじゃないけど。
そんなどうでもいい話題がほとんどだからメッセージもよく流し見するしどんなことを話したのかもよく覚えていない。
会ってへとへとになったという結果だけが残る。
あと話を合わせたことによる経験値も少しだけ。
……けど。
「れんあい、ねぇ――……?」
丸っこい声が僕の口から出る。
微妙に舌っ足らずなのが要改善な幼女な僕の声。
意識しないと自然と本来の見た目らしい声と話し方になるちっちゃい口。
そもそも将来女性とくっつけるかどうかすらも怪しくなっているもんな。
もともとの体だったとしてそういう関係になれたかどうかはまた別の問題だし。
やっぱり予定通りに死ぬまでひとり身のままかもな。
独り身のおじいさんと独り身のおばあさん。
……しわくちゃになっちゃえば性別なんて関係なくなるだろうな。
◇
続いては関澤ゆりか……さん。
ちっちゃいほうのJCさん。
けど1回覚えたJKさんとJSさんのうちのJSさんでも良い。
JSとかJCとかJKとかも普段使わないから使いたいだけの言葉だしな。
で、彼女は僕と同じ側の人間だ。
僕よりは数段マシではあるけどやっぱり外見が中身よりも数段幼い気がする。
まぁ僕には負けるけど。
威張ることじゃないけど。
そう言えばあのときの「同志」呼びはなにかのゲームで出てきたもので、あのときにハマっていたからつい出てきたとのこと。
今はとっくに別のものに興味が移っているらしくってあれ以降変な呼び方はあまりされない。
たまにはされる。
別にどうでもいいけど。
同志ちっちゃいのとは意見が合う。
主にちっちゃいのがコンプレックスって面で。
事あるごとに「小さい体あるあるを」メッセージでつぶやいてきて結構同意できるくらいには。
気持ちは分かる。
高いところじゃないものでも取れないとかな。
僕はさらに踏み台必須だしなぁ……。
こうしてふつうのサイズのスマホが大きすぎるって感じるくらいだし。
彼女は髪型はぱっつんに近い感じのきれいに整えてある感じで肩に軽く触れるくらいの長さ。
彼女の学校の校則的には長めらしくって、顔も体もどうにか中学生という口を閉ざしていれば地味に溶け込む感じだ。
マジメな顔して黙っていれば本当にどこにいるのか分かんないくらい。
言ったら怒るだろうけども、それをはねのける喜怒哀楽とテンポの良さっていうのが個性だから良いじゃない。
制服が新入生のようにぶかぶかだっていうのにはなんだか哀愁を誘われる。
そんな感じなもんだから、待ち合わせのときだと同じ制服の子たちに紛れられると身長以外では見つけづらい。
そもそも周りの人遮られるもんなぁ……。
低身長の宿命だ。
この件で何回うなずき合ったことか。
しかし関澤さんは外見に合わず何でもできるタイプらしい。
勉強もスポーツも人並みよりひとつ抜けてできるらしいけどモチベーションが遊ぶことに向いているからそこまで目立った成績ではないっていう、才能と意欲とがズレているパターンの印象を受ける。
まぁその逆で全部人並み以下だけど真面目にこなしてるから先生の評価で平均より少し高めだった僕と比べたら、きっと何十倍も快適な学生生活だろう。
僕は早生まれとかじゃないけど飲み込みがものすっごく遅い方だから、きっと2年くらい遅いくらいでちょうど良かったんだろうな。
そんな思い出も卒業しちゃえばなんだか良いものに思えてくるから時間って不思議。
「ねぇねぇねぇ、昨日の5話もう見た?」
「すっごい展開だったよねー」
「夜中なのに私感動しちゃって!」
「あ、私徹夜とかできるタイプなんだけどさぁ! 今度一緒に」
「そっか、響はできないんだー残念ー」
「話はところで変わるけどちょっと前に出た」
「ってゲーム知ってる? あやっぱり! よかった!」
「あれ友だちから借りたから今度一緒にしたいんだけど!」
「え、ダメ? 隣で見てるだけでいいからさー」
「……えー、ダメ。 ケチ。 ケチな響。 ケびき」
なんだケびきって。
どうやら独特の言語センスがあるらしいちっちゃいの。
ゲームからアニメから映画からあらゆるものに対する興味は強い。
おもしろそうなものはひととおり経験し終える前の、見たことがないからこそまだ飽きていなくてなんでも楽しめるっていう……ある意味大人になる境界をまだ過ぎていない状態の彼女にとってはこの世界は新鮮で、寝る時間も惜しいくらいに何でも楽しめるらしい。
そんな話をこの前聞かされた。
一方的なメッセージで。
渋い古典から最新のゲームから昨日のアニメまでと話題がとにかく広いから話があっちから合って、僕的にはとっても楽。
その代わりにメッセージの量はときとしてスパムと見間違うくらい。
その熱意がうらやましい。
「それだけ引き出しがあるんだったらたくさんいるらしい学校の友だちとでも話せばいいんじゃない?」って思ったしそう言ってみたけど、ぱっつんさんに言わせるに「奴らは知識が浅いから深い話ができないのだ……」とか言ってた。
特に彼女の大好きだというシミュレーションゲームなんかはもはやレトロゲーの分類らしいしな。
どうやら彼女はかなり早熟らしい。
おっきいのと比べるとそれがよーく分かる。
けど中毒で有名なあのゲームとか……あんな時間を食べる遊び、よく睡眠時間とそこそこの成績を確保しながら学生生活の傍らにできるなぁって感心する。
よっぽど要領がいいんだろうな。
もともとのスペックも高そうだし。
睡眠不足は肌が荒れるからってきちんと寝てもいるようだし。
中学2年にしてまさに万能。
うらやましい限りだ。
できたらその要領を少しは大きいのにあげてあげて代わりにあふれんばかりの胸と交換してもらったら良いのにね。
あ、女の子だったらお尻も大きい方がモテるからもらったら良いのにね。
けどそんなことはできない。
人って産まれながらにして平等じゃないんだ。
けどメロンさんとの会話でうんざりしたあとで会ったときに懐かしい作品の話を振られたせいで、ちょっとだけ嬉しくなって話し込んじゃったせいで……僕がそういうのにもそれなりについて行けると知られてからはとにかくメッセージが来るわ来るわ。
1対10以上なのに気にせずに昼夜問わずスマホが光るのはちょっと怖い。
その作品とかも僕からしてみると「ちょっと古い」程度だけどちっちゃいのにとっては「物心つくどころか生まれる前」な作品について話してきたりもするから「確かにこれじゃ話し相手が見つからないんだろうなぁ……」とも思う。
マニアックというか何と言うかマニアって言うか。
そういうのを語れるのがネット上の、顔も知らない不特定多数な相手。
つまりは本来の僕よりも上の世代がほとんどだとか黄昏れていたあたり相当に飢えていたみたいで、僕がその聞き役になった訳だ。
まぁメッセージを送ってくるだけなら許そう。
僕も話していてノスタルジーに浸れるしな。
「メッセージは良いけど電話は嫌いだからかけないで」って言っておいたの、守っているうちは友だちごっこに付き合おう。
◇
主観的には事案だけど客観的には正常な僕たちの関係。
彼女たちと会話をするときには気をつけなければならないことがある。
彼女たち今の中学生は、僕が中学生くらいのとき……つまりは今の彼女たちと同じくらいのときに生まれたっていうとても悲しい事実だ。
干支がひとまわりしているってのはそういうこと。
なんだか急に老けたような感覚にとらわれるけど頭の隅に置き続けないと困ったことになる。
「昔」と「つい最近」がごちゃごちゃになって話がかみ合わなくなることがあるくらいだし。
まだ「ちょっとズレてる」程度にしか思われていないだろうけど、これがずっと続けば「やっぱり変」って思われるだろう。
つまり距離は近いんだけど接する感覚としては……親戚の子どもを相手にするようにずっと気を遣い続けておいて、話しているあいだはずっと時間の違いを意識していなければならない。
そういう親戚がいたならまだちょっとは慣れていたのかもな?
いや、いたとしてもそもそも話さないか?
僕の親戚……居はするけど飛行機の距離だしなぁ、みんな。
おかげで滅多に口を出されないでニートできているんだし。
なんとなく働いているってぼかせるおかげだ。
離れてるって便利だよね。
親から仕送りもらって遠いところで生活してる感覚で、年に何回かそれっぽく報告すれば後は好き勝手にできる感じで。
僕に親はもういないけど。
にしてもジェネレーションギャップというものを社会に入らないうちから僕のほうが経験するだなんて……人生ってば分からないもの。
洋物の幼女にもなったしな。
本当に何があるか分からないもんだ。
僕にとってはほんの少し前に見たつもりのものが彼女たちにとっては幼いころのものだったりして何度も冷や汗をかいたものだ。
ミステリー小説とかの犯人サイドのキャラクターたちの気持ちがよく分かる。
ひと言ひと言には気をつけていても、ついぽろっと出てきちゃうんだよなぁ……。
そしてそれを補うためにどんどんとがんじがらめになっていくっていう。
口走るっていうのは怖い。
今度からああいうのを見るときは犯人サイドに同情しかできない気がする。
あ、あとちっちゃい関澤さんと話しているときにはでっかい下条さんとはまた違って、ときどきよく分からない言い回しでなにかを聞いてくるんだけどいまいちよく分からない。
「分からなければいいよ」なんて予防線も張ってくるし。
まぁそこまで頻繁じゃないしメロンさんとは違ってレモンさんは年下の少年とでも話しているような感覚でいられるから気分は楽だ。
外国語と同じで理解できないことを話されても僕が認識できないんだからなぁ……。
その辺がたぶん男と女の感性の違いなんだろうし、こればっかりはうまくごまかすしかない。
「…………………………………………」
こんな感想が出る内は、僕はまだまだ男で居られるようだ。
◇
連絡先をいただいてしまった以上には芸能関係な萩村さんと、萩村さん経由の悪魔もとい今井さんとの連絡も一応は取っている。
「あんまり返せませんよ?」って念を押したおかげか萩村さんのほうとしかやりとりしないおかげで激しい勧誘はされないで済んでいるから今のところ無害。
とはいっても1、2週間に1回くらいってわりと多いんだけど「ライブとか撮影とか見に来ませんか?」っていうお誘いも来る。
当然ながらお断りしている。
誰が人混みにいくもんか。
僕は元引きこもりのニートだぞ?
行ったら最後、子役の契約書にサインでもしなければ帰してもらえなさそうだし。
だけどいざとなったら親戚以外でこの状況をどうにかできる……可能性のあるところ。
まさに駆け込み寺だな。
対価は僕のアイドル化だけど……今の僕が拉致監禁虐待の末の孤児経由の養子になって前の僕が悪逆非道な行いをした男ってことになるよりかはずっとマシだ。
こういうコネクションは大事だから忘れられないようにって返事はしておいているけど最近はちょっと面倒になってきた。
だけど毎回おんなじように返していたら完全に興味ないってバレるしなぁ……なんともしがたいところ。
たぶん、うっかりでいちどでも返事を忘れてそのままっていう感じになるんだろうけど。
「む……」
届いたメールにはいつも通りに添付でチケットが添えられている。
関係者席らしい。
バーコードと一緒にそう書いてあるし。
っていうか今ってすごいよね。
スマホを見せるだけで良いんだから。
あ、飛行機とかもおんなじか。
昔とは違って便利だよなぁ。
でも添付のチケットはきっと今井さんの仕業。
毎回わざわざそういう席を取っておくってことはそうに違いないんだ。
……これって毎回お金かかっているんだよな……?
いや、それも織り込み済みっていうのは知っているけどさ。
ちょっとは悪い気がするし……やっぱり1回くらいは行っておくべき……?
そういうものなの……?
社会経験が無いからなんにも分からない……。
「…………………………………………」
ぶんぶんって頭を振ると髪の毛がぶわっとひろがって良い匂いが充満する。
シャンプーとコンディショナーと甘い体臭の混ざった匂い。
いやいや……行ったら最後で絶対にそのまま引きずられるって。
人前に出るなんて何があってもごめんなんだ。
僕が頼りにするとか、ほんっとうにどうしようもなくなったときしかありえないもん。
そうでもないと職歴皆無なニートなんて続けていられやしないんだから。