【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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15話 困惑:「勘」 1/2

 

◆◆◆

 

視界がぐるぐる回る。

 

ごろごろ。

 

「はぁ――――……」

 

ごろごろ。

 

「あ――――――……」

 

ごろごろごろ。

 

「あぁ――――ぅ――……」

 

ごろごろごろごろ。

 

おっと、ベッドから落ちるところだった……危ない危ない。

 

「ふぅ……」

 

なんにも考えないでただ体に任せていると、今はもう味わえない冷えた炭酸をぐっと飲んだ感覚とか……熱いお湯にざぶっと浸かった感覚とか疲れたあとにぐーっと伸びをする感覚みたいな、体の底からの声が高くて柔らかい声に変換されて出てくる。

 

なんにも考えないで本能に任せた声。

今の僕は正真正銘の幼女なんだ。

 

だからもういっかいごろごろ。

 

「ぁ――――――……」

 

飛びそう。

 

予想以上の気持ちよさだ。

枕を全身で抱きしめていつも通りに下着姿で毛布を被ってごろごろするのって最高。

 

クセになりそう。

 

もうさっきからずーっと目は閉じたままで手足の力だけで動き続けて口からは際限なく声というよりはもはやただの音とかしたなにかが漏れ続ける。

 

お腹の奥から口先までただの楽器になった気分。

 

酔ってもいないのにここまで気持ちよくて頭も体もぼーっとするっていうのはこの上ない快感だ。

 

することがなくなったときにふと思いついて小さい子どもがよくやっているみたいに大きくて柔らかいものを抱きしめてみたらどうかなって、実際に試してみたけど想像以上だった。

 

クセになりそう。

とっくになっている。

 

重くなったまぶたをがんばって広げてみれば……もう30分以上はこうして何も考えないで何もしないでただただ感覚に浸っていたみたい。

 

これ以上時間を無駄にするのも貴重に使うのもなかなか難しいだろう。

頭と体の中がからっぽだ。

 

ぎゅーっと枕を全身を使って抱きしめてみると肌という肌から純粋な気持ちよさっていうものが伝わってくる。

 

「ぅあ――……」

 

なんていうか湯あたりしない温泉に浸かっているみたいな感じ?

そう、ちょうど長湯のための寝湯みたいな温めのお湯でぼーっとしているときみたいな。

 

あるいは寝落ちの寸前ですっごくとろとろしてる感じ。

 

このまま続けているとダメになりそう。

とっくにダメだった気がするけどさらにダメになる。

 

いやぁニートな上に幼女になったからもともとダメだったかぁ。

 

「ぅ――ぁ――……」

 

でまかせで口を動かしてみたりする。

 

はじめのころは「こんな大人にもなって……」っていう羞恥心と常識とで吐息程度だったけどすぐに諦めた。

 

だって気持ちいいんだもん。

なんていうか安心するっていうか?

 

なるほど、小さなころはこういう感覚で落ちついていたのか。

 

とっくに無くなっているけどきっとあっただろう幼い頃の記憶。

とにかく気持ちいいんだからしょうがない。

 

けど、ただの枕でこれなんだから大きな人形とかクッションとか抱きしめる用のをぎゅーって手と足を使って抱きしめちゃったら僕はどうなっちゃうんだろう?

 

「ぅぁ――――――ぁ――……」

 

ごろごろをひたすらに繰り返す。

 

髪の毛が顔に着くのも気にしない。

ここまで来るともはや「精神年齢が……」とかいう気持ちはかけらも消え失せている。

 

酒の席なら多少ハメを外してもみんな大目に見るんだ。

 

だったらこうしているときくらいはいいだろう。

僕は酔っても少し気持ちが高まる程度だしどうせ誰が見ているわけでもない。

 

と、ふと思いつく。

 

これ、ちょっと前に流行っていた人をダメにするなんとかってやつならどうなるんだろう……?

 

確実に、これ以上のなにかが来たら確実にダメになりそう。

 

ごろん。

 

「ぃぇ――――――……」

 

なんだかテンションがおかしい。

振り切れている気がする。

 

お酒を呑んだときでもこうはならない。

 

けどもうなんでもいいや。

 

今の僕は幼女なんだから幼女らしいことをしたって良いじゃないか。

 

 

◆◆◆

 

 

「…………………………………………」

 

さて。

 

幸せな記憶に浸っていたけどそろそろ現実に戻ろう。

見たくもない現実に。

 

いつかはその時が来るんだ。

 

「……………………………………………………………………………………」

 

手元には、頷くだけで返事をしているように見せかけるためにってちびちび飲んでいるうちに半分を切ってぬるくなったジュース。

 

木漏れ日しか差さないひんやりした日陰でひんやりしたものを飲んで少しばかり座っていてだんだんと暑さが引いてきた体と、さいわいなことに足の裏までしっかり着くくらい低い木のベンチのおしりに響く硬い感覚。

 

そして隣からは鬼もとい今井さんの気配と声。

 

あいわらず僕は逃げられない。

逃げられないからトリップしていた。

 

でも戻って来た。

戻って来たから困ってる。

 

困っている。

困っているんだ。

 

どうしよう。

どうしようもない。

 

世界は残酷だ。

 

「そのときのその子の顔がまたとても嬉しそうで達成感にあふれていてですねー。 あのようなすばらしい笑顔を見るとこの仕事をしていて、一緒にがんばってきてよかったなって感じるんですよ! ふだんは地味な練習を遅くまで繰り返すのを続けてきただけあって上手くいったときの感動はまたひとしおなんです!」

 

「そうですか」

 

さっきから似たようなことを言い続けるのに一向に飽きる気配がない。

 

「それでですね、先日の審査で起きたことなんですけど……」

「………………………………」

 

目もほとんど合わさないのに平気そうにしながらずーっとこんな感じだ。

いや、僕がマジメに聞いてなくて返事も「そうですか」オンリーなのに気がついてないだけだこれ。

 

まぁ今日はこの前みたいに「そのまま連れて行ってでも!」っていう殺気みたいなのは感じないし無理やりっていう様子でもない。

 

ちょっと拍子抜けだ。

 

せっかくポケットに入れっぱなしで邪魔なアクセサリーと化していたブザーが役に立つかもしれなかったのに。

 

無いと思ってたらこんなとこにあったのかって言うの、良くあるよね。

 

使ったら確実に騒ぎになるし……っていうかそのためのものなんだけど、とにかくそうならなくていいことではあるんだけどさ。

 

でも、この変わりよう……もしかしたら萩村さんに言い含められたのかもしれない。

 

僕が嫌がっているって自覚したのかも知れない。

 

そんな奇跡。

 

……この人がそれを素直に聞くとは思えないんだけどな。

 

座っているのもベンチの端と端だし、一応はふつうの知り合いレベルの常識的な距離は取ってくれているし飲み物のおかげかときどき静かになってくれるしで害は少なめ。

 

これくらいのマイルドな勧誘なら話だけは聞いておいてもいいかもしれない。

 

萩村さんも丁寧ではあるんだけど……なんていうかこう事務的すぎるっていうか、慣れているはずなのにいまいち僕へどこまで話すか迷いながらって感じでもどかしいときもあるしな。

 

ふつうに接してくれたなら男同士ってことで気楽なんだけど今はガワがなぁ……。

あの人もこのご時世でずいぶんと歯がゆい思いをしているに違いない。

 

だってあの体格の男だもんなぁ。

僕に近づいただけで通報されそうだもんなぁ。

 

身長差倍だもんなぁ。

 

かわいそうに。

今度会うことがあったらもうちょっと話聞いてあげよう。

 

そんなことを勝手に思ったりして時間が経つ。

 

「それでですね、…………」

「………………………………」

 

ふむ。

 

よく聞かないようにしてるけどどうやらアイドル活動とやらの現場の話とかに切り替わってきたらしい。

 

僕の反応がオートになってるっていい加減に気づかれた?

 

なら次は。

 

…………………………………………。

 

あ、あれ……?

 

普通に……本当に普通におもしろいな。

ドキュメンタリーみたいな感じに話してくる。

 

あのときのきんきん声とはまた違った落ちついた声を聞いているとまるで憑き物が落ちたような印象を受けるくらい。

 

さすがの話術。

 

だけどこれは本当にあのときの悪魔のような女性なんだろうか?

 

別人じゃないのか?

 

そう思うくらいだ。

人の印象ってこれだけで変わるんだな。

 

いやいや、「なーんて思っていたら……」ってこともありえるから慎重に警戒しよう。

手法を切り替えてきただけかもしれないし。

 

人はギャップに弱い。

僕も弱い。

体験済みだし。

 

初対面でのあれから完全に方向性を変えて今度は興味を引き出そうとしているだけかもしれないし。

 

危ない危ない。

危うくニートからアイドルへと堕ちる……かもしれないところだった。

 

ニートはニートだからこその存在意義を持っているんだ。

 

アイドルなんかになってみろ。

思考まで塗りつぶされちゃって僕は僕じゃなくなるんだ。

 

「……そういえば響さん。 先日は大変失礼しました」

 

ん?

 

さっきまでの落ちついた感じがさらに落ちついている。

 

なんか落ち込むことあった?

僕が目を合わさないこととか生返事なの以外で。

 

そう不思議に感じて顔を見てみれば……なんだか落ち込んでいるような?

静かにさえしていてくれるのなら僕としては理由なんかどうでもいいんだけど。

 

「あのときはいつになく……私の『勘』が働いてしまって抑えたくても抑えられなかったんです。 迷惑でしたよね……自覚はしてるんです。 私、ああして『勘』が働くと歯止めがきかなくなって……あのときも響さんとお別れしたあとでひととおり騒いで疲れ切ってから初めて我に返って思い出して気がついた次第で。 萩村からは響さんが不快そうな顔つきをされていたって教えてもらいまして。 面目ないです」

 

両手で持っていたペットボトルをことんとベンチに置いて姿勢を正した今井さんは………………………………なんと、軽くとはいえ頭を下げていた。

 

すぐに上げたけど彼女は成人している。

こんな幼児に対して真正面から頭を下げるなんてそうそうできないこと。

 

……いきなり何言い出すのこの人。

 

困るじゃん、僕が。

困るじゃん、そういうのってさ。

 

対人関係経験が引きこもってリセットされて限りなくゼロに近いんだからそういう気まずいのやめて。

 

一応表情も声も本気で謝っているように見えるしおちゃらけた雰囲気は皆無。

 

僕にはウソを見分けることなんて到底できないから演技されていたらどうしようもないけど……ここまでの変わりようが気にはなる。

 

それに、その『勘』ってやつ。

 

なんか意味深なワードに反応した僕。

なんかこう「魔法さん」に近い印象だし。

 

彼女が頭を下げてて顔が少しだけ近づいた拍子に気がついた。

どうでもいいんだけどやっぱり社会人だとお化粧するんだなぁって。

 

最後に多くの女性を日常的に見ていたのが大学生のときだったけど、あのときはまだほとんどしていない人も少なからずいた記憶がある。

 

ド派手なのも結構いた気がする。

まぁ他人は他人として認識していたからよく覚えてないけど。

 

でもお化粧がぱっと見て薄い感じなのはいいことだ。

 

あ、毛先きれいにしてる。

毛先ってすぐにほつれるよね。

 

僕も最近枝毛チェック忘れていた気がするし帰ったらお風呂のときに見ておこう。

 

じゃなくって。

 

「いえ、過ぎたことなのでもういいです。 萩村さんに止めてもらいましたし。 けど『勘』……ですか? そのせいで僕を執拗に? あの群衆の中で?」

「あぅ」

 

さりげない牽制を放ちつつ聞いてみる。

 

勘。

 

女の勘ってことはないだろうしこの前みたくオーラとかそっち系かな?

女の人だし占いとかで出てくるワードが好きなんだろうけど。

 

でも、日常でそういうのが出てくるとしたら……同世代だとしても女の人の会話に溶け込む自身なくなっていくなぁ……。

 

あれでしょ?

 

「分かるー」って心の底から納得しないと裏でえげつないくらいに叩かれるんでしょ?

 

女社会って怖い。

男で良かった。

 

男って単純だから楽なんだよね。

僕が単純の代表だからよく分かるんだ。

 

「そうなんです。 えっと、こういうの、経験したことのない人には分かってもらいづらくってうまく表現できないんですけど……理解しやすい、してもらいやすいかもしれない表現で『勘』って知り合いには言っています。 誤魔化してるとかじゃないんです」

 

なんだか遠い目をしながらぐいっとしたペットボトルから、ぐっと喉を鳴らす今井さん。

 

汗が喉をつつーと流れている。

 

あぁ、そういえば女性は喉仏ってこんな感じでほとんどないんだっけ。

下から見上げて初めて見えた気がする。

 

萩村さんのはおっきかったからなぁ。

あ、喉仏が。

 

前の僕のは……まぁ標準的だったと思う。

もうあんまり覚えていないし写真を見ても証明写真しかなかったから確認できなかったけど。

 

でも特に高くも低くもなくってその辺に居る男って言う感じだったからどうでもいっか。

 

今井さんの口からの「ぷはぁっ」っていう気持ちよさそうな声を聞いて僕もジュースの残りをちびり。

 

こくんとほんの少しずつしか飲めない、なんとかしたいこの体。

この生ぬるいって言うよりはあったかくなっているジュースが憎い。

 

「うまく。 うまく言えないんです。 けど別の言い方をするなら第六感とかインスピレーションとか……知ってます? あっ、中学生なんですよね、ごめんなさい……そういう感じのものなんです。 ほんとうに直感というか。 ちょうど視線を感じて顔を上げたら誰かと目が合ったあんな感じのものです。 妄想とかじゃないって思いたいんですけど……私だけが感じる感覚なので。 あの、済みません、分かりにくくって」

 

たどたどしくなるのがやけにリアルでとりあえず信じてみるけど、あぁ、それなら分かるかも。

 

僕は霊感とか超能力とか魔法とか信じていな……かったけど、今でも魔法さん以外は信じてないけど、人の視線なら嫌というほど感じてついさっきにひどい目にあったんだしな。

 

今は魔法の存在までしっかりと毎日この身で確認しているからな。

直感というものがあったとしても魔法よりかはずっとよっぽど現実的だし。

 

交換してくれないかな。

 

君なら……えっと、今の僕くらいの歳の少年になれそうだよ?

 

魔法さんの性質的に、多分。

 

「なんとなくでも結構です、分かってくれますか?」

「なんとなくでしたら」

 

「よかった、知り合いには何人か『自分も経験がある』って言ってくれる人もいるんですけど、たいていは変な顔をされるか笑われるかするだけで……」

 

だろうね。

 

女の人同士の話じゃないと「女の人ってそういうの好きだねー」って適当に流すだろうし。

 

僕ならそうする。

 

「……私。 少し前までは霊感みたいなものとか一切なくって、そういうのを信じていなかったんですけど……働き始めてしばらくしてからもう何回か。 人目を引きつけるなにかを持っている人を目の前にすると、こう、どこかのアンテナにびびっと来るんです。 あの感覚はちょうど……どこか知らない別のところから来るような『なにかの力』。 電波……そういった感覚です」

 

電波。

電波さん。

 

そういうことか。

 

………………………………………………冗談だ。

 

今井さんが頭がぱーな電波さんだって思いたいんだけど、この変わりようだしな。

 

今のぐてっとした今井さんを見ているとあそこまでエキセントリックな言動こそが特殊な、その『勘』とやらによってヤバい人にさせられていたって考えるほうが自然だと思えてくる。

 

ハサミが飛び回るのに比べたら現実的だしな。

 

こうしていれば普通に話しやすい人なんだってのも知った。

 

「……この感覚、ほんとうに急に知ったのでまだまだよく分からないんです。 分かっていることといえば、すでに人気が出ている子やスカウトされたばかりでも人気が出そうって感じる子の何人かという感じで。 だから、まったく関係のなかった響さんを見たときにこれを感じて舞い上がってしまっていたんです」

「そうなんですか」

 

くびりとジュースを最後まで飲みきる。

 

うん、その勘ってやつは錆びついてるよ。

 

僕に反応する時点で何かエラー起こしてる。

 

こんなことを話していても静かだし迫ってこないしで、とりあえずは強引に引っ張っていかないだけで今井さんって言う人は嘘をついてたり頭がおかしいっていうわけでもなさそうっていうのは分かる。

 

演技じゃなければな。

 

疑い続けてもしょうがないんだけどあのときのあれが僕のトラウマになっているんだ。

それくらいは勘弁して欲しい。

 

「…………………………………………」

「…………………………………………」

 

多分圧倒的大多数なごく普通の感性を持った、さらに女性って言う性別の今井さんにとっては気まずい沈黙。

 

圧倒的少数派な僕にとってはとっても安心できる静寂。

 

蝉の声とスポーツしてる人たちのかけ声と自転車の音が途端にうるさくなった。

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