【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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15話 困惑:「勘」 2/2

やっぱり外でのんびりするのって良いよね。

 

隣に座ってなんか意味深なこと言ってた今井さんのことを気にしないで少し楽しんでた僕だけど、事務員さん的な格好をしている彼女は軽くうつむいてため息をひとつ。

 

やっぱり女の子って演技過剰だよね。

けどそうしないと伝わらないのも知ってる。

 

「……私自身、占いとか。 そりゃあ他の知り合いの人たちと同じくらいには好きです。 好きですけど、それは盛り上がれるからなので別にそこまで信じていたわけじゃないんです」

 

おや意外。

 

てっきりJKさんみたいに頭の隅っこまでお花が咲いてるかって思ってた。

 

「なのでこのあいだまでは、この感覚はたまたま錯覚しているだけだと思っていたんです。 ……けど、その。 そこへ響さんが現れてしまったんです。 とっても強くって歯止めが利かない響さんが」

 

え?

 

僕のせい……?

僕のせいなの?

 

なに人のせいにしようとしてるのこの人……?

 

じとっと見ようとしたら今井さんはハンカチを取り出して首を伸ばして「ふぅっ」ってまたため息つきながら首すじを拭う。

 

なんだかよく分からないけどしばらくぼけーって見ちゃって、そう言えば僕も体じゅうから汗が出てるなぁって思う。

 

僕もタオル持ってくればよかった。

リュックごとぜんぶ預けたのはちょっと失敗だったかもな。

 

きっとベンチにも汗がぐっしょりと染みこんでいるだろう。

 

夏だもんな。

 

前に通ってたジムでも夏はタオル使ってたりしたし、今度から外に出るときは持って出よう。

女子的にはハンカチが必要らしいからな。

 

by、JKさんが教えてくれた雑誌。

 

「響さんを見たときのそれはそれほどに強烈だったんです……響さんが迷惑そうにしているのにも気がつかないほどに。 気がつけなかったんです。 普段は事務所に来るみなさんの体調管理とかをお手伝いしている私なのに。 まるで……なにかから体を動かされているような、取り憑かれていたかのような……私を私の外から見ていた感覚です」

 

なにそれこわい。

 

「あれはかなり。 思い返してから気づきましたが……かなり怖いものだったんです」

「そうですか」

 

けど多分魔法さんより怖くないって思ったら平気になった僕。

 

帰ったらざっとシャワー浴びてすっきりしたいな。

持ってきた着替えも家につく頃には汗だくだろうし。

 

「この感覚をスカウトに役立てられるって素直に喜ぶことができればいいんですけど……」

 

大切そうな話じゃなくなって女の人特有の肝心な話の前後に挟む時系列的なテンションになったから適当に聞き流す。

 

……それにしても女の子も女性もどうして一方的に話をしていても平気なんだろうか。

 

これまでの経験で「そういう生き物」だって知っているから諦めてはいるけど、不思議なのは不思議だ。

 

だって普通会話なんて交代でしょ?

なにか話したいことがあってお互いに話すでしょ?

 

なのに女の人相手になると途端にそのリズムが崩れてどうしようもなくなる。

大抵は押し込められる。

 

僕だったら返事が少なかったらまず不安になってくるのにそういうのは平気らしいし。

会話なんて同じくらいの量を交互に繰り返していたほうが楽しいって感じるのにな。

 

意味のない会話を延々とするのも不思議。

僕はそういう非効率的なことはできないからなぁ。

 

まぁ人の話を聞いているのは楽だからいいけどさ。

 

こうして適当に聞き流せるし。

 

「…………………………………………」

 

脚をぷらぷらさせる。

 

自分語りをしたいって気持ちはあんまりよく分からない。

 

体は完全に女の子になっているけどやっぱり脳みそはそのままなんだろう。

 

あるいは魂とかの問題なんだろうか。

そもそもそんなものがあるのかは分からないけど。

 

まぁ現実世界で男が幼女に変貌するんだしハサミも物理法則に乗っ取って宙を舞うんだ、魂くらいはあるのかもね。

 

そう思うとちょっと安心するしな。

 

だって、この体に入ってる僕は男の魂ってことになるんだから。

 

 

「私はそこまで外に出てスカウトする機会もありませんし……最近はほとんどネットですし、ね。 私、もともとそんなに積極的な性分でも積極的にする理由もありませんし。 ……あ。 そういえばこの『勘』、今日もうっすらと働いていた気がするんです。 だから響さんに会えたのかも」

 

ほ?

 

「…………………………………………」

 

なんだか急に運命論的なことをほざきだした今井さんからちょっと距離を取る。

 

今さんと僕のお尻のあいだが拳1個分くらい遠ざかる。

 

いや、僕そういうオカルティックな話はもうお腹いっぱいなんで……。

 

「ここに来る前に……事務所に断りを入れてまでなんとなく置きっぱなしだった運動靴を履いて。 いつもは同僚と食べるお昼をひとりで食べてそのあとに歩いて……そうですね、3、40分くらいでしょうか? それくらいあるここへどうしてか歩いて来たくらいなんです。 その最中も『そうしなきゃいけない』って気がしていて……」

 

やだなぁ、背筋がぞくっと……あ、汗のせいだろうきっと。

 

うん。

 

でもずっと聞き流していたけどちょっと待って。

 

それ、とっても怖いものじゃない?

 

良く平気だね?

 

そんな勘とかいうものが働いちゃったら、僕だったら怖くてびびって引きこもるけど?

 

間違いなく。

 

「……今はどうなんですか? 僕と会ったあのときはかなり大変だったみたいですけど」

 

僕もすっごく大変だったけどって暗に伝えてみる。

 

「今ですか? ……んー、そこまで強くないですね。 いろいろな人たちに会ってときどき感じるくらいのものです。 なんていうか『今はそのタイミングじゃない』って感じるんです。 不思議ですね」

 

今度は首をかしげる今井さん。

 

彼女に釣られて不思議だねーって僕の視界もちょっとだけ斜めになる。

 

……僕の大変さは伝わらなかったみたい。

 

でもそういえば、あのときもやけに「このタイミングじゃないとダメなんだー」とかなんとか言っていたっけ?

 

まるで洗脳されたみたいな感じなんだな。

いや、熱に浮かされた感じ?

 

「それに、響さんはああした強引な感じはお嫌いですものね」

「はい」

 

うん、だいっきらい。

 

「……こうして冷静におはなししていれば、それくらいは私にだって分かります。 これでもたくさんの子たちを担当してきているんですから。 ふだんはこうなんですよ?」

「そうですか」

 

「ふだんは」で急にずいっと彼女の顔が近づいて来たから反射的に同じくらい体を反らす僕。

 

びっくりするしヤな気持ちになるから止めてほしいな。

 

人には入られたくないゾーンってのがあるんだって知っていて欲しい。

 

「響さんはきっと、人から指図されてモチベーションが湧くタイプではないですよね? ご自身の内から興味があれば自然と湧いてくるタイプ……合ってます?」

 

「…………………………………………」

 

「あ、これはもちろん私が今思いついたわけじゃありません。 萩村と話していてそうだろうってなったんです」

 

勝手に近づいて来て勝手に人の内面を探って勝手に近かった顔が離れていく。

 

……うん、やっぱり元の僕よりも年下だと思う。

お化粧も汗で結構落ちてたからはっきり分かった。

 

慣れている様子だし、新卒で働き始めて2、3年ってところかな?

 

そんな推測をしつつも萩村さんっていう安心できる名前が聞こえてきてそういうことかって納得。

 

会って大して話してもいないのに、こんな短時間でそこまで探られたってことになったらもう二度と、どんな手を使ってでも会わないようにしていたところだ。

 

だって怖いもん。

 

サイコメトラーとか怖いじゃん。

 

ホラーとは別の方向性で……ほら、こうやって考えてることが丸裸なのはヤだし。

 

「もちろん。 もちろん私たちはいつでも響さんを歓迎していますよ? 先ほどから真剣に聞いてくださっているみたいですし……どうです? ちょーっとエアコンの効いたお部屋にでも……」

「結構です」

 

「ふふ、冗談ですよ。 私ももうすぐ戻らなければなりませんし」

「………………………………そうですか」

 

何がおかしかったのかくすくす笑いながらペットボトルを一気飲みする今井さん。

 

のどがごきゅごきゅ鳴っている。

 

……目つきとかが冗談には見えなかったんだけど……思い直してくれてほっとする。

 

一瞬だけ声も視線もガラッと変わっていたし、肝心に捕食者の目だった。

 

たぶん安全にはなっているんだろうけど油断はできない。

危ない危ない。

 

この人はやっぱり危険な人だから警戒を解いちゃダメなんだ。

 

僕はスカートのポケットの中で汗ばんだブザーを握りしめ直した。

 

 

 

 

「……そうですよねー? ……くす、それにしても今日の響さんはおしゃれ、していますよね。 シックな色合いですしきれいな髪の毛ととてもよく似合っていますっ。 あのときみたいなストリート系でボーイッシュに……あ、それで髪の毛もしまっていたんですね? そのこだわり、やりますね……なのもかっこよくて好きですけど今のように可憐な感じもまたお似合いです!」

「どうも」

 

話が長いから聞き流す。

 

「……どうです? 読者モデルなんかから」

「お断りします」

 

「……響さん? なんだか雑になってきていませんか?」

「気のせいです」

 

「ほんとうでしょうか……」

「ほんとうです」

 

ばれてきた。

 

まぁいいけど。

 

でもボーイッシュなストリート系……そういうファッション用語になるのか。

 

いつもみたいにぼーっと別のことを考えたり返事に悩んだりしないで即答を続けていたらそういう印象に映ったらしい。

 

会話というものはいまいち難しいもの。

 

けど、話していて分かってきたことがある。

 

女性の言う「かわいい」「かっこいい」とかいう褒め言葉、こういうものは「とりあえず対象の人がマイナス評価じゃないよ「って伝えるためだけのもの。

 

文脈次第では多分ぜんぜんかわいくなくても「かわいい」って言うんだろうって。

 

中には「自分と比べて」って人もいるらしいけど、ひとまずは最近会った人との会話ではそういう雰囲気は感じない。

 

で、何が言いたいかっていうと……褒め言葉は真に受けすぎないほうがいいだろうっていう悲しい事実。

 

とりあえず相手を褒めるとか、ちょっといいところがあるとか……そんなときにでも使うんだろうし恐らくは僕に対してもそういう意味でたびたび言ってくるんだろうし。

 

この人相手に油断しちゃいけないんだ。

 

スカウトといったって雑誌とか見ていたら僕的には「ふつうじゃない……?」って人もよく出ているし見た目がどうとかいうわけじゃなくって性格とかを含めた総合的なっていうのはもちろん……それこそ「たまたまタイミングがよかったから」「なんとなく」っていうのもあるんだろうし。

 

今の僕は珍しいっていうのもかなりあるんだろうし。

 

……考えすぎだって思うけどそう思っちゃうのが僕なんだからしょうがない。

 

特に今は見た目らしい……いや、ちょっとだけ盛ってるけど今風のJCっていう存在に擬態しなきゃなんだから女の人と女の子の考えが理解できないとまずいんだ。

 

「…………………………………………」

 

暑いから2本目になってしまった冷たいものを手に取る。

断るヒマもなく手元に置かれた薄味のスポーツドリンクのペットボトルだ。

 

ちっちゃいやつ。

 

この体になってから普通のサイズのペットボトルが大きいって感じるのが悲しい。

 

賄賂な感じがしたから「要りません」って言ったけど置かれたし……喉、乾いて来ちゃったしな。

 

……はじめっから缶を避けておいたらよかったな。

 

そうしたら今井さんに見つかる心配も……いや、その勘とやらが働いてこっちを見られてしまっていたらたいして変わらなかったのかもしれない。

 

未来は変わらないんだ。

 

なーんてこの前見たSF作品の分岐地点を思い出す。

 

ペットボトルのフタにも種類があるから硬いやつは開けられなかったこともあったし、そういう意味でも未来は変わらなかったんだろう。

 

「…………………………………………」

 

……力を入れてもフタは動かない。

ただ僕の手のひらが痛くなるだけ。

 

…………知ってた。

 

でもムキになって開けようとすると手のひらが真っ赤になってひりひりして手首を痛める。

 

男のプライドですでに何回か家で試して手首を痛めたから確実だ。

握力まで貧弱なんだ。

 

「ふだんはどちらの格好をされることが多いんですか?」

「?」

「今みたいなガーリーと、この前のボーイッシュっ。 私はどちらでも似合っていると」

「あのときのです。 これは知り合いに勧められて仕方なく」

 

あ、ようやく開いた。

 

ひりひりする手を涼しい顔して隠しながら思う。

 

……なんか、やりづらいなぁ……。

 

この前みたいにしつこくぐいぐい来ると思って身構えていたのに来なくって、距離も取ってくれてそこまで強く詰め寄ってこない。

 

常識的な、ふつうの大人に近くなっているからちょっと拍子抜けになっている。

 

まぁさっきのが常識的かといえばそうでもないんだけど、知り合いに対する程度の強引さと言えばそうなるのかもしれない。

 

んー。

 

判断に迷うなー。

 

近づいて良いのか、いざってときに頼ってもいい相手なのか……なにしろこの数年って言うもの他人に頼った経験がないからよく分からない。

 

大半の人間は善意で助けてくれるって知ってるけど……世の中には悪い人もいるからなぁ。

 

「っ!」

「あら」

 

ぴぴぴっとアラームが鳴ってびくってなったけど、僕のじゃなくて今井さんのだった。

 

こうやって驚くと冷や汗がぶわっと出るから嫌いだ。

止めてほしい。

 

「……すみません。 すっかり長話しちゃいましたね。 そろそろ戻らないといけません……っていうかちょっと遅刻ですね」

 

てへぺろってのをするあざといさん。

 

「今日は響さんとお話しできてすっごく楽しかったので時間、忘れちゃいましたっ」

 

僕が普通の男だった状態で普通に出会って普通の会話をした後だったら多分どきっとしただろうセリフも、幼女な僕には効かない。

 

時間……僕にとってはとっても長かったけど?

 

僕は戦々恐々としていたから。

ぜんぜん楽しくなかったから。

 

でもほっとする。

 

「ランチのあとの散歩のつもりでなんとなく勘に誘われてきてみたら響さんにお会いできて。 あのときの誤解も……ええっと、あれはふだんの私じゃないんだって伝えることができて。 響さんを今すぐに何が何でもーっという訳ではないとお伝えできてよかったです」

 

本当……?

 

嘘じゃない?

 

そんな僕の疑念なんて知らない今井さんは立ち上がるとペットボトルを捨てに行く。

 

肩の左右に揺れる後ろで結っている髪の毛がやっぱり犬の尻尾にしか見えない。

結んだ位置の問題かな?

 

これからは犬さんと呼んであげようかな。

 

でもこの雰囲気。

どうやらほんとうに連れて行かれずに済みそう。

 

「響さんはどうでしたか? ……お嫌ではありませんでしたか……?」

「……はい。 僕も話を聞けたので、まぁ……よかったです」

「そうですか! それはよかったです!」

 

なんか不安げだったからリップサービスしただけなのになんだか嬉しそう。

 

ひやひやしていたからストレスは感じていたけど、それでも参考になることはあったからまぁ許そう。

 

話し方も話の持っていき方もうまいからな。

話術というやつだろう。

 

僕に2番目に欠けている致命的なものだ。

 

いちばんはもちろん質量だけど。

 

働いたら自然とこうなるんだろうか?

いや、口が達者なのはもともとだろうな。

 

女の人が話し好きってのは本能だし。

 

僕が働いたとしたって地味になる将来しか見えない。

 

「では失礼しますね。 また何かありましたら……何もなくてもお話しするだけでもいいのでご連絡を!」

「はい」

 

何歩か歩いて振り返る。

 

「お待ち!」

「はい」

 

また何回か尻尾をふりふりしてから振り返ってちょっと大声。

 

「しています!!」

「はい」

 

最後にうるさく言い切って満足したのか、ようやく離れて行ってくれた。

 

…………………………………………。

 

「ふひ――……」

 

会話って言うものに疲れた僕はぐてーってベンチに寝そべる。

 

汗で濡れたスカートが木にくっついてふとももがけっこうぎりぎりまで見えちゃってるけど誰も居ないから気にしない。

 

女ならまだしも僕は男だからな。

 

あ、でも、視界に入った視覚的な刺激がなかなか……。

 

今井さんが遠くでもう1回だけ振り返って手を振ってきた以外は小走りで戻っていくあたり、さっきのはほんとうに演技とかじゃなかったらしいなって思う。

 

……けど、あのスカートじゃたいして急げないだろうに。

 

働いてる女の人が良く穿いてる脚が広がらないスカート……何て言うんだろうな?

それで動きづらそうに小走りを続ける彼女を見るともなく見る。

 

……やっぱり尻尾かぶんぶんしているようにしか見えないな。

 

「…………………………………………」

 

……急に静かになった気がする。

 

さっきまで座っていたベンチにはふたりぶんのおしりのあと。

 

大きさはまるで違うけど。

僕のが小さすぎるだけだ。

 

「……帰ろ」

 

ふとももの付け根くらいまで上がっていたスカートの裾がベチャってふとももについて、なんかヤな気持ちになったからそそくさとスカートを下ろしながらベンチから腰を上げる。

 

なんだか休みすぎてやる気がなくなったし話して精神的に疲れたもん。

幼女の身での運動なんてここまでで充分だろう、うん。

 

今日がんばりすぎて2度と来たくなくなるよりは、ほどほどにしてまたなんとなく来たくなるのを待ったほうが結果としてはいいはずだし。

 

あと、暑さに負けて2本分も飲み物をお腹に入れたせいでたぷたぷして苦しいし。

 

そんな言い訳を僕自身にしながらとぼとぼと歩き出す。

 

そーっと歩いていないと飲んだジュースがそのまま口から出てきちゃいそう。

動かしすぎたせいで口も疲れているしガマンできないだろうし。

 

…………一応トイレは意識して歩こう。

町中で悲惨なことになりたくないし。

 

この歳でお漏らしなんかしたら多分1年くらい引きこもるし。

 

どうしてか我慢が利かないんだ、この体。

やっぱり物理的に短いからな?

 

歩き出すと足の裏がじんじんする。

 

ぱんつとスカートがおしりに張り付くのが気持ち悪い。

腕が重いし肩が痛い。

 

ずいぶんと悲惨なことになっている様子。

ゆっくり、ゆーっくりと帰ろう。

 

トラックの流れに逆らって歩いていると、彼女との会話がなんとなく浮かんでは消える。

 

悪魔から人へ、そしてそこそこの常識人へ、そして犬っころへ。

 

……でも、人の印象なんてたったの1回の会話で変わるんだな。

 

最近よくそういうの実感しているし今のも1回の会話にしては多いほうではあったんだけど、それにしたって……なぁ。

 

節操なく強引に引きずっていきそうな雰囲気から一転、ちょっとスピリチュアルな感じだけど話せなくもないワンころに。

 

またどこかでばったり会ってたとしても、とりあえずは全力で叫んで周りに助けを求めるっていう用意をせずに済みそうでひと安心だな。

 

「………………………………」

 

ぴたっと足が止まる。

 

……え……もしかして僕って相当ちょろかったの……?

 

たったあれだけの会話でちょっとでも絆されている気がする。

対人経験の少なさがネックなんだ。

 

え、あれ?

 

そういえばニートになってからまともに話をしたのって、この体になってからじゃ?

 

最近はやけに……最近って言ってもこの3ヶ月の内の何日かに集中してだけど。

 

いやいや、もっとあるはずだ。

いくら僕だってそこまで話さないだなんてありえないし。

 

そう、たとえば。

 

「…………………………………………」

 

たとえば。

 

「…………………………………………………………………………………………………………」

 

…………………………………………。

 

……ご近所の何人かと1回限りの店員さんと旅行先の何人かくらいしかなかった。

それも自己紹介と近況報告程度。

 

「……がんばろ」

 

これまでがさすがにちょっとまずかったのかもしれない。

 

そんな収穫片手に……僕は家までの長い道のりを思い出してよろけそうになった。

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