【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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16話 学生たちの、夏休み(1) 2/3

「じゃあさ響、とりあえずビルん中に入ってまた適当なところでいい? 私、お店とかスイーツとかあんま詳しくないからいっつもおんなじようなとこでごめんね? 女子力低いのよ」

「別に。 僕も同じだしそうしようか」

「うんっ」

 

そのときの気分次第で僕の呼び方を変えるゆりかが言う。

 

でもなるほど、女子力。

 

よく耳にするけどまさか僕自身のことになるとは思ってもみなかったし幼女には関係ないって思ってたから気にしなかったけど……僕に足りないのはそれ?

 

「…………………………………………」

 

いや、料理とか家事とか全部同世代の並以上にできる自信あるぞ……?

男料理だけど料理は料理だしひとりしかいないとは言え一軒家をそのままに保つ程度にはできるし?

 

そういう意味じゃ元々僕は男なのに女子力高かった……?

 

ああでもこの体じゃ肝心の色気は壊滅だもんな。

体型のせいで。

 

色気って言うには言葉通りに10年早い体つきだもんな。

 

首の後ろ側に重力が掛かるのを感じながら目の前の少女のあとを着いていく僕。

 

……あ、めんどくさいこと思い出した。

 

そういえば関澤さんのことはゆりかって下の名前で呼ぶように言われていたんだ。

 

せっかく名字が顔とセットになってきたところだったから変えたくはなかったんだけど……いつもの通りに根負けして呼ぶことになったもんだからまた1から覚え直しなんだった。

 

こんなことなら最初からフルネームで呼ぶ習慣にしておけばよかったな。

 

……あ、だからたまーにそういう呼び方する人がいるのか。

 

なるほど、次からはそうしておこう。

最低でも頭の中で毎回呼んどけば今よりは覚えやすくなるはずだし。

 

「……ね、大丈夫? またはぐれたりしない? …………手、繋がなくていい?」

「だからあれは人の波に流されたから。 それに僕はそんなに子どもじゃないよ」

 

「そー?」

「そうだ」

 

たったの1回、それも団体さんな大勢の人が横から来たせいでちょっとだけ離れたことがあったくらいで大げさだよなぁ。

 

なんだかやけに子供扱いされるのがヤだから少し大人っぽく話すけど効果はないらしい。

 

そしてさりげなく僕の袖をつかもうとする関澤さ……ゆりかさん。

いや、さすがに下の名前にさん付けは変か……同い年設定だし呼び捨てにしておこう。

 

惨めな思いはしたくないしで僕もまたさりげなく手を引っ込める。

 

手を繋がれて歩くのはやだもん。

 

「ケチー」

 

ケチって。

 

この年ごろの女の子だからお姉さんぶりたいんだろうか。

多分この子より背が低い同世代なんてほとんどいないだろうしな。

 

そうして僕よりも背の高い女子中学生のあとを着いていくっていう妙なことをしながらエアコンの効いた屋内へ向かう。

 

そんな僕の服装はいつもの通りな夏バージョン。

夏バージョンでも長袖長ズボンにパーカーと帽子っていう厚っ苦しいことこの上ない格好だ。

 

おまけに髪の毛もしまい込んでいるし真夏だというのにもこもことしている。

 

いや……意外と耐えられるって気がついたし、案外平気だし。

それにこの体の元になったDNA的なのは多分この緯度と気候の日差しが苦手だし。

 

でも最初のときみたいにダサくはなくって一応はちょっと前にかがり……いつの間にか呼ばないと拗ねるようになってきたから下条さんも下の名前呼びだな……に選んでもらったものだし、一応は夏用で一応は薄い素材のものだから風が吹けばいくらかは涼しい。

 

風が通らないと蒸し焼きになるけど。

 

何回かは女装して外に出る感覚に慣れてきてはいるけど、それはあくまで人の少ないところでしかも知り合いに会わないような場所限定の話だしな。

 

まぁわんこな今井さんには見られたんだけどあれは事故だしな、防ぎようがなかったんだ。

 

あれは不運な事故だったんだ、野良犬に噛まれたって思って諦めよう。

そう言えば野良犬って僕海外に行ったときくらいしか見たことない。

 

「………………………………」

「まーた考えごとしてるー」

 

……今井さん。

 

あの甘えた演技だけは見られたくなかったなぁ……。

 

忘れてはくれ……ないだろうなぁ…………。

 

やだなぁ……。

 

弱味握られちゃったもんなぁ……。

 

僕が全力でぶりっこってのをしてるのを同い年くらいの女の人に見られるのと女の子とはいえ子供に見られるの、どちらがマシかといえば……どっちもよくないな、うん。

 

「ひびきー? ……あー、いつものだ」

 

年相応の幼女風に甘える姿なんて見られて喜ぶ趣味なんてないし今後は控えよう。

なんだか荷物が重くなった気がする僕。

 

「ふぃ――……夏は屋内と電車の中とかに限るねぇ――……」

 

なんか相変わらずに歩きながらぶつぶつ言ってるのを優しい目で知らんぷりしてあげること少し。

 

冷気に包まれて冷却が始まった僕たちはとぼとぼと、背の高い一般人たちに押されないようにすみっこの方を歩いて行く。

 

「お肌が弱いんだったよねぇ、その格好。 1年の半分くらいは厳しそー……それって目とかは大丈夫なん? 帽子だけでいいの? サングラスとか要らないの?」

 

「まぁね」

「ふーん」

 

エスカレーターで一気に身長差ができた彼女の背中の肩甲骨の上のヒモを見るともなく見ながら返事を返す。

 

僕もブラジャーっていつかは必要になるのかな。

めんどくさそうだしごわごわしそうだからやだなぁ。

 

そんな感想しか出てこない時点でこの子にもまた色気はない。

悲しいかな、どう見ても小学生なゆりかだからな。

 

あ、そう言えばお肌うんぬんはこの前の病弱設定の流用だ。

 

なるべく髪の毛を隠すためにはフードのある上着と帽子が必須で、それを正当化するためにはそういう感じの言い訳が必要で、だから必然的に長袖長ズボンになっちゃう。

 

暑いけど耐えられないわけじゃないからこのままでいいや。

 

それにこの真夏にあえての長袖長ズボンとフードと帽子。

目立ちはするけど「肌を出せないんです」で納得してもらえるのが楽。

 

昔と違って今ってそういうのに対する理解があるもんね。

多分「こういうのが好きなんです」「そっか」で済むくらい。

 

違うかな?

 

でも、白い肌に日の光が苦手とか本格的に吸血鬼っぽい感じになってきた。

 

でも苦手なだけで死にはしないのってデイウォーカーって言うんだっけ?

もちろん創作上の存在だけどそんな属性がついた気がする。

 

そういうわけで家の前の出入りでは雨が降っているときと真夜中以外はたいていこんな格好だからもはや普段着のこれ……「暑苦しいけどこういうもんだ」って思えばほんとうに何とかなるらしい。

 

でもやっぱり暑い。

魔法の存在が小憎たらしい。

 

この体の体温が低いのと汗もかきにくいっていうのがあるおかげでなんとかなるのが唯一の救いだな。

 

汗だくになってきても日陰でじっとしていればすぐに冷えてくるし。

低血圧なのかも。

 

「あぁー……涼しい。 生き返る――――……」

「涼しいね」

「……喜び方がいつも地味ー」

 

この子ののんきなラフさ加減がうらやましい。

だけど幼女な都合上こんな格好をしないといけないからなぁ……。

 

姿が変わるにしてもせめて目立たない普通の見た目の男だったらこんなことにはならなかったのになぁ。

 

そうしたら今ごろはお隣さんとか親戚の叔父さんに助けてもらいながら快適な外に出ない暮らしを堪能できただろうにな。

 

 

 

 

学生が外で集まるといったらたいていはカフェかファミレスと決まっている。

お金ないもんね。

 

高校生……バイトとか今って相変わらずNGなところが多いんだろうか……にとっての千円は大きいもんね。

 

「あ、2名で。 空いてたら静かな席が良いです」

 

リッチな僕は手際よく店員さんをさばくゆりかの後を着いて行く。

 

着いて行くだけってのは実に楽だ。

 

おこづかいの少ない学生にとってはこうしてエアコンと飲み放題の冷たい水と話してもいい空間は貴重だよね。

 

お金を使わないんなら誰かの家とか図書館とかファストフードとか。

少なくとも僕たちのときにはそうだったけど今でもそう変わらないんだろう。

 

これが大学生以上になった瞬間に毎回が酒の席になるのは大人っていう財力のたまもの。

大手を振って好きなだけ稼いで好きなように使えるのはいいものだ。

 

自分の余った時間をお金に変換して好きにできる楽しみってのは良いもの。

 

僕は稼いでないけど。

 

「響は宿題ないんだっけ?」

「うん」

 

「いいないいなー。 私たちはけっこう、けっこうーな量出ててさ。 これがまた頭と目と手が痛くなる代物なのよ。 んで勉強はまだいいんだけど日記とか感想文とか自由研究とか。 なーんで中学生にもなってんなことしなきゃって感じ。 学校なんてなくなればいいのに。 てかこういうのない学校ずるくない? 不公平じゃん!」

 

そう言いながらクーポンを使ってさらに安くドリンクバーを満喫しているゆりか。

炭酸の泡に合わせてぶくぶくしている。

 

そういうところが幼いんだと思うよ?

 

ごく自然に出てきてしまう子供っぽさが。

僕が言えたガワじゃないんだけどさ。

 

「響のとこは家庭教師が来てくれてるんだっけ? 学校行けないのは大変そうだけど、でも自分のペースでやれていいなぁー。 自由研究とかはた迷惑なモンないし」

 

「大変そうだね。 まぁ楽だけど、その代わり夏休みみたいなものはないよ? 1年中同じペースだ」

「うげー、それもやだー」

 

そういうことになっている。

 

今の僕の状況を意訳してみるとそういうことになるから嘘じゃない。

 

休みしかないしペースは完全にフリーで期限も試験もない。

だけど自由過ぎて自分でぜーんぶ管理してスケジュール立ててやらないとまったく進まないって意味では大変なんだ。

 

大人になって会社に通いながら勉強とか本当にすごいって思う。

 

だけど僕だって、難易度が低かろうが昔1回やった内容だろうがちゃんとそこそこのペースで勉強できてるんだから良いよね。

 

最大の敵はちょっと休憩って罠だ。

ちょっとのつもりでいつの間にか夕方になってたりするし。

 

それもこれも娯楽の多すぎる現代社会が悪い。

定額制配信という沼地。

 

その気になれば何十年でもいけそうな深ーいところだ。

 

「私、勉強のほうの宿題はなんとか超がんばって終わらせたんだ。 けどさ、他のは時間かかるし考えなきゃだしめんどくさいなー。 自由研究ぅ……何にするかなぁ? もうてきとーにしてもいいかって思ってはいるんだけどー、できるだけ楽で時間かからなくて無難なやつないかなー」

 

気持ちは分かる。

僕もずっと前に何回も通った道だ。

 

けど。

 

「……勉強、もう終わらせたのか?」

 

まだ夏休みに入って確かまだ何日……から10日くらいでしょ?

その前の期間で引きずり回されすぎて体感的にもっと長く感じはするけど……すごくない?

 

「けっこうな量があるって言っていたような」

「私、先にイヤなことぜんぶ片づけて後を憂いなく楽しむ派だからね!」

「すごいね」

 

ものすごい笑顔の小学生。

間違えた、中学生。

 

どや顔っていうのをしてる。

ついでにサムズアップ。

 

元気だな。

僕にはないエネルギーを秘めている。

 

でも胸を張ってるけど張るための胸がないのには同情する。

 

「えへへー。 だってそうじゃないとFPSとか反射が命のゲームのときちらついちゃって集中できないことあるしー? あ、戦略とか考えてるときもそっか」

 

夏休みを全力で楽しもうという気概を感じる。

 

「それにドリルとか問題集とかはもっと前から範囲とか言われてたしさ、量がやったらに多いだけでたいして難しいもんでもないし。 音楽聴いたり配信流し見したりして手動かすだけだし、こう、サクッと終わらせたのよ」

 

「えらいな」

「えへへー響に褒められたー」

 

それが分かっていてもできる子とできない子がいる現実の中、ゆりかは確かに偉い。

 

要領のいい子はこの辺が違う気がする。

学生時代の僕とは大違いだ。

 

「それにもともとこういう性格だしねー。 あとでわかんないとこ出てきたら間に合わなくなるかもだし? あーあ、勉強ってやだねー、なんでみんなしなきゃなんだろうね?」

 

勉めて強いる。

学生って大変。

 

「……君は確か、成績はいいほうだろう?」

「上には上がいっぱいいるのよー。 所詮は偏差値そこまでじゃないとこだから進むスピードも速くはないしなんとかなるけど。 それに私、勉強自体はそれほど好きってワケじゃないし、そんなことよりゲームの攻略とか見たりアニメとか観たり本とか読んでるほうがよっぽど楽しいかなー」

 

「みんなそうじゃないか」

「おっと、そりゃそうね」

 

おどける仕草とかすると髪の毛がぴょんとするくらい。

でも不自然じゃない程度に大げさな関澤ゆりか。

 

演技、やっぱりあれくらいしないとダメだよなぁ……。

 

このムダに多い髪の毛をなんとか生かさないとな。

こうしてフードにしまい込んでいたらできないけど。

 

でも恥ずかしい以前になんとか会話をひねり出すので精いっぱいだから……まずは会話に着いて行けるところからだな。

 

「でもさ、響だって」

「ん?」

 

「響だってそういうタイプでしょ? たぶん。 いやなんとなくだけどさ。 しなきゃいけないこととか先に片づけちゃってからいちばんしたいことするって感じの? そうじゃなきゃ戦略ゲーみたく時間かかるのとか分厚いシリーズ読破したりとか私よりも多くはできないっしょ。 本とかマンガとか私より詳しいときあるしさ」

 

「まぁ……そんな感じか?」

「合ってた!!」

 

ただ長く生きてきただけなんだけどな。

具体的には、君の年齢ぶんくらいは。

 

こんなこといっても信じてもらえやしないだろうし、そもそも説明すること自体がめんどくさいし……あとぜんぶウソだってばれるし、そういうことにしておこう。

 

いざとなったらじいやの出番だ。

 

「最短の攻略法はこちらでございます」とか言うハイスペックじいや。

 

そんな人いるんだろうか。

 

「こういうのって人から言われるまでさ、自分じゃよく分からないもんだよね。 私の場合は親友からいっつもずばずば言われてるからよーく身にしみてるけど。 響もしっかりしてるしあんま言われたことなかったり? 勉強してるのー、とか、もっとがんばりなさいーとか」

 

「そんな感じだね」

「そっかー、仲間仲間っ」

 

嬉しそうに握手を求めてきたからしぶしぶで出した片手を掴まれてぶんぶん振られる。

 

「…………………………………………」

 

通り過ぎた店員さんの視線が……。

 

やめて……ほほえましい子供のやり取り見る顔しないで……。

高校生くらいの子にそうされるのが堪えるんだ……おねがい……。

 

そんな願いは届かない。

 

けど少し懐かしいな、こういうの。

 

こうしてなんでもないことをしゃべるっていうの。

多分最後にしたのは高校を卒業する前だし。

 

……相手が僕より背が高い子供、中学生っていうのが気になるけど。

 

小学生寄りの中学生を座高の分さらに上のほうへ見上げるこの変な感じ。

見下されている感覚にまだ慣れない……。

 

あと首が疲れる。

 

相手は小学生寄りの中学2年生なのにな。

 


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