【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

40 / 213
17話 学生たちの、夏休み(2) 3/3

こんな僕だけど、別にかがりみたいな幸せな子について思うところは特にない。

 

いや将来どころか来月の金策をどうするのかとか勉強する気あるのかとかは心配だけど、ふわふわと好きなことをしているのを止めはしない。

 

止めたら流れ弾が僕に直撃だしな。

ニートって言う高等遊民には厳しい。

 

それに僕は僕と相容れないタイプの女性の人生について深く考える興味はないし、ただ幸せになってほしいって思うだけ。

 

さて、そんな感じでおはなしすることしか頭にない下条かがりさんに対して僕は考える。

 

どんな感じで言えば……僕がこうやって連れ出されるのが本気で嫌がっているって理解してくれるんだろうかって。

 

いやいやちゃんと言ってるよ?

 

僕は家で静かにしているのが好きなタイプなんだって。

外に出て歩いてお店を見て人と会って楽しくなるタイプじゃないんだって。

 

頼むから分かって頂戴って何回も言った。

 

でもこういう大切な話ほどお耳からお耳へと素通りするらしいんだ。

 

こればかりはどうしようもない。

 

分かってる反応をして分かってない証拠として、そう強く主張してみても毎回軽い感じで流されるし……どう考えても僕が恥ずかしがっているからだってしか思われていない気がする。

 

なぜだ。

 

やっぱりこの見た目か。

やっぱりこの声か。

 

子供だもんな。

当然か。

 

精いっぱい大人の男を演出しているのに「クールねー」とか「知的な話し方ね!」とか「守ってあげたくなるわー」とかぬかしおる。

 

どうしてくれようか……。

 

「……あーあ」

 

ふとくるんさんの何音か下がった声。

 

おっと、これは聞かなきゃいけなさそうな声の調子。

僕はよく理解できているんだ。

 

そうしてくるんさんの目元を見上げる。

 

歩いているときには身長差のせいですごく見上げる感じになるから体相応の顔に見えなくもないけど、真っ正面から見ているとやっぱり精神年齢相応の顔。

 

童顔の女性って見えるけど……やっぱりつい最近まで小学生だった子供だよなぁ。

ちょっとだけ厚ぼったい感じの目元と肉付きのいいほっぺた。

 

うん。

 

あと数年順調に成長すれば引く手あまただろうな。

 

いや今でも多分そうなんだろうけど彼女自身が、その……ねぇ……。

こういうのが好きな男も多そうって言うか多分大半なんだと思うけど、それにしても知性がねぇ……。

 

ごくたまーに興味が向いたときとかには結構普通に頭良いなって思う刹那もあるんだけどなぁ……残念さがとっても悲しいなぁ……。

 

致命的に現実社会に向いてないんだよなぁ……。

 

「今年の夏休みも半分が見えてきたわねぇ……。 長いって感じていたのに気がついたらあっという間に終わってしまいそうだわ――……」

 

それで落ち込んでたらしい。

 

なんだ、心配して損した。

 

甘いものを食べられないストレスからかやたらと砂糖とミルクでじゃりじゃりしていそうな紅茶をすするくるんさん。

 

……あ、砂糖を噛んで楽しんでいる。

 

なるほど、お金が無ければないでそんな楽しみ方があるのか。

みみっちくとも学生だから許される贅沢。

 

角砂糖をころころ楽しむとか……どれだけ甘味が好きなんだろうか。

 

そんなことしてるとまた太るぞ。

胸と尻が。

 

「毎日遊べると思っていたのだけど夏休みって部活も補習も忙しいし、お友だちともあんまり予定が合わなくって……なかなか思っていたみたいにはならないのよねぇ。 こういうときは響ちゃんがもっともーっとも――っと、お誘いに乗ってくれたら楽しかったって思うのに。 お家の事情じゃ仕方ないわよねぇ……まだまだ遊び足りないわぁ――……」

 

「………………………………………………」

 

恨めしげな目で見られるけど強気で返す。

 

「…………………………………………………………」

 

「……響ちゃんってじーっと見るの好きよね! かわいいわ!!」

「…………………………………………………………………………………………」

 

しょせんはくるんか。

 

でもさぁ、僕、がんばって週2で付き合ってあげてるよ……?

 

僕の全力を使ってあげてるんだよ……?

 

こうやって外で会って帰ったら2時間くらい寝ちゃうんだよ……?

 

幼女ボディの貧弱さなめてるの……?

 

それでもまだ足りないの……?

 

どれだけ話をしたい生き物なんだか、このゆるくるんは。

しかもほぼ毎日部活と補習とで学校に通ってこれらしい。

 

学生だから元気だな。

だって人生の最高潮だもんな。

 

その体力を1割でいいから分けて欲しい。

かなり切実に。

 

もいでもいい?

 

……にしても「家の事情」とかいうふんわりしてるにもほどがあるのに妙に説得力ある設定を考えておいてほんと良かったって思う。

 

ほんとうに。

 

いろいろとごまかせる上に誘いを簡単に断れる……3割くらいの確率で……っていうのはとっても助かるんだ。

 

あんまり断りすぎてもまたむくれるから加減が重要だ。

 

遊び相手しないとむくれるとかお子様だな。

下手をするとペットの犬とか猫並みだ。

 

「ん。 そう言えばかがり」

「なぁに?」

 

「勉強、というか宿題は……大丈夫なのか? 毎日どこかしらへ出かけているしずいぶんと忙しいみたいだと今日も聞かされたけれど、きちんと手をつけているのか? 毎日やれとは言わないけど週の半分くらいの午前は手をつけておかないと手遅れになるぞ?」

 

「やだ響ちゃん先生みたいなこと言ってー」って言われる覚悟で言ってみる。

 

……最近の夏休みの宿題とやらがどれだけ大変かなんていうのはわからない。

 

けどゆりかから聞いた限りじゃ、彼女みたいに勉強の基礎体力と集中力があって、しなきゃいけないときには集中できる感じで「普通に気合入れてやって5日くらいかな?」らしい。

 

これは日記とか自由研究とかいうやり方次第では時間のかかるものを除いた量。

 

さらに言えば、これは分からないところはさっさと飛ばすっていう要領がいいっていうか勉強のコツを知っている子の場合なんだ。

 

試験なんてだいたい6割から8割できれば通るようにできているって理解できてるゆりかみたいな子の場合の話。

 

学生時代の僕とか目の前のこの子みたいに与えられた分をこなすしかない生徒にとってはもっと大変なはず。

学校やクラスが違ったとしてもこういうのはだいたいみんな横並びだしたいして変わらないはずだけど……。

 

「………………………………………………」

「………………………………………………」

 

間。

 

「…………………………………………あの、ね?」

「…………………………………………………………」

 

沈黙。

 

「あのね、響ちゃん、実はね、あのね?」

「……………………………………………………」

 

不安で心臓がばくばくしてきた。

 

他人の分かりきってる答えを聞くのでここまで心配になるなんて初めて。

ある意味すごいなこの子。

 

「……その。 もし、もしよかったらーなんだけど……宿題、手伝ってもらえないかしら……?」

「………………………………………………」

 

明確な回答を逸らして譲歩を引き出す術は身に付けているらしい。

そうやって親御さんとか先生のお説教から逃げているんだろうな。

 

「ひ、ひびきちゃん……?」

「………………………………」

 

「そ、そうやって無表情でじーっと見つめられると照れちゃうわ――……?」

「………………………………………………」

 

「………………………………………………」

「………………………………………………」

 

「…………ほら、また今度、次は秋のお洋服も一緒に選んであげるから……」

 

ごまかせないと悟ったか汗をかきながら全然嬉しくない提案をしてくる。

 

「学校じゃ怒られるのー」って香水つけてるもんだから、それが汗の水分で漂ってくる。

 

空間に充満するくるん成分。

 

「………………………………………………」

「……………………えっと……そのぉ……」

 

……なんだかかわいそうになって来た。

 

元からかわいそうな子なんだけどな。

 

「……服は別にどうでも良いし他にお礼とかも要らないよ」

「ほんとう!?」

 

両手を勢いよく胸の前で合わせたもんだからぶよんっとなってるのに気がつかないらしい。

 

……この子、ほっといたら危ない気がする。

 

とりあえずで先手は打ったから「着せ替え人形がお礼」とかいう意味不明な未来は回避。

 

大体服なんてもうどんな風に選べばいいのかとかどんなサイズ感なのかとか分かってるし。

実店舗だろうが通販だろうがおおよその見当はつくようになっているんだ。

 

成長を期待しているから実店舗で買うことになるだろうけど、どうせ……どうせまた別の理由で僕を着せ替えさせるつもりなんでしょ?

 

僕は知ってるよ?

 

「それで?」

「?」

 

僕のうながした問いにくるんっと首をかしげるだけの反応。

 

……くるんさん……。

 

「……あとどのくらい残っているんだと訊ねているんだよ。 君の宿題が」

 

最初の質問事項に戻ってあげる優しい僕。

 

「………………………………………………………………………………」

 

「科目とか何ページ分とか。 それくらい言えるんだろう?」

「………………………………………………………………………………」

 

沈黙。

 

返事がなくて不思議に思うと……目がさまよいはじめている。

 

「今日は暑いわねぇ」とかどう考えても遅すぎる発言をしながらハンカチでしきりに顔を拭っている。

 

……まさか。

 

まさか。

 

え、嘘でしょ?

 

いやいやさすがに……え?

 

中学も2年目になって去年の反省も忘れて遊んでしかないとか……普通にあるけど、でもさ……?

 

「……ほとんど」

「ほとんど?」

 

「……………………………………………………」

「……………………………………………………」

 

「……………………………………………………手をつけていないの」

「あぁ……」

 

脱力。

 

ものすごい勢いで僕の体から力が抜ける。

 

だってこの子……夏休みの宿題って言う結構なボリュームあるのを完璧にほっぽり出して毎日ふらふらしてるんだよ……?

 

なにやってるの……?

 

いやまぁ中2なんてそんなもんだって言えばそんなもんなんだけどさぁ……ちょっと前にゆりかが勉強系は終わらせたって聞いちゃったから余計になぁ……。

 

あと、うっかりとはいえ補習受けてるって聞いてるからなおさら心配なんだけど……?

 

「そもそも……そもそもね……?」

「うん」

 

「私だってこのままではいけないかもしれないって思ったのよ」

「うん、このままではいけないね」

 

よろしくないね。

 

「でしょう? だからなんとか立ち上がってお部屋の中をがんばって探しても……プリントもなにもどこかへ行ってしまっていて」

「えぇ……」

 

「あ、でも、昨日お友だちに! お友だちにお願いって言って撮ったものを送ってもらってようやく分かったのよ?」

 

それはいばるところじゃないって思うよ?

 

「補習のときに先生に頼んで教室も探したけど無かったし……どこへ忘れてきたのかしら……?」

「あぁ……」

 

この子、そういうのが致命的にダメな子だったか……。

 

知ってたし理解はしてたけど、それをこの耳で聞くのは段階が違う。

違うんだ。

 

数ヶ月前どころか数年前の会話まで……声音まで身振りまでみーんな再現できるほどに記憶力はいいはずなのに。

誰が誰とひっついてどうなってどう離れたかまでぜーんぶ覚えているくせに。

 

それをこの前僕の前で再現して見せたくせに……つい半月前に「大事だよ」って渡された、提出しなきゃならないものが載ってる大切な紙すらをどこかへやってしまう子。

 

いたなぁ、こういう子……。

 

「でもねっ」

 

なんか言い訳してるけど僕の耳にはもうなんにも入って来ない。

 

自力でプリントとかを手に入れるだけまだマシな部類とは言えるよ?

一応ヤバいって自覚できて自発的に誰かを頼って情報を入手できたんでしょ?

 

えらいよ?

 

これが「明日提出なのに友だちから返事が来ないから分からないの」とか抜かしたりするよりはよーっぽどえらいよ?

 

でも、これはさすがにまずい。

 

僕が大変な思いする以上に……僕が言われるままに時間を潰すお供をさせられてる以上に、このままにしておいたらこの子はかわいそうな子になっちゃう。

 

しょせんは中2だしまだ充分になんとかなるけど……ちょっと距離置いた方が良いな。

僕のためにも、栄養が体に吸われたこの子のためにも。

 

「かがり」

「響ちゃん?」

 

「君はここで僕と話をしている場合じゃない。 すぐに帰ってさっさとできるところから手をつけるんだ」

 

イスっていうかシートをずりずりしながらテーブルから抜け出て自然な感じで着地して席を立ちながら言う。

 

断固とした姿勢だ。

僕の決意は固い。

 

おっと、スカートがめくれてる……。

 

「……………………………………………………」

 

さっさっとホコリを払うフリをしてさりげなくふとももをガード。

 

ちょうどテーブルで視線が遮られて気づかれなかっただろうからよかったけど……スカートの下が他人に見られても僕はなんとも思わないけど……タイツだし平気なんだけど……そもそも幼女だから誰も気にしないだろうけど……それでもはしたないから気をつけないとな。

 

ここは足がすぐにつかない高さだから嫌いだ。

 

このチェーンの名前、しっかり覚えておこう。

テーブルも高くて肩が凝ったし。

 

ここは僕の敵だ。

幼女に厳しい世界。

 

「響ちゃんっ」

「僕が一緒にいてもこうして話をしてしまうだけだろう?」

 

「え――――! 響ちゃん、一緒にしてちょうだい! お勉強会よ!」

「嫌だ」

 

NOと言える僕に驚いたのか下条さんの体の動きが激しくなる。

頭を振れば髪の毛がくるんくるんして腕を使って話せば揺れる揺れるでとにかくすごい。

 

声が少し大きいせいで近くの席の人からは見られているし……っていうかその辺に居る感じの男の視線がたぷんに行っているのが丸わかりだけど……成人男性が中2に欲情したら犯罪だからね?

 

「……………………………………………………」

 

ついでで女装している僕にまで視線が来てるし……えっと、僕幼女だからペドフィリアってのになっちゃうよ?

 

でも男だからしょうがないか。

そう割り切るしかないから無視しよう。

 

とにかくわざわざそうやって注目を無自覚で集めるのは止めて欲しい。

けど、いちどヒートアップするとなかなか収まらないんだよなぁこの子……。

 

本当なんなんだろうこの子……無敵なの……?

 

「勉強会とか言って1問ずつ僕に聞くつもりだろう?」

「だって、そうなんだけど!」

 

え、そうなの?

 

「けど……ひとりだとどうしても他のことが気になり出してしまって手がつかなくなるし、宿題の範囲のよく分からないところあるし……」

「同級生の友人とすればいいじゃないか。 プリントを送ってくれた子の他にもたくさんいるだろう? なんなら部活の子でもいいんだろうし」

 

「……みんなも」

「?」

 

「……みんなもやっていないのよ……私たちで勉強会は何回かしてみたけど、結局すぐにお話しになっちゃってほとんど進まないで終わってしまったの。 だから勉強会はダメねって結論に」

「あぁ……………………」

 

かつての僕の数倍の交友関係があるとしても、そのお友だちたちもみんな同類らしい。

まとめて不憫な子たちだ。

 

「……その点、響ちゃんなら厳しいときは厳しくしてくれるでしょうし。 ……いつもいつも帰りの時間が来るとどれだけ『もうちょっとおはなししましょう』って言っても『決まり事は守るべきだ』なんて言ってさっさと帰っちゃうくらいだし! あとお勉強も私よりもできるみたいだし!」

 

急に真っ赤な顔になってくるくるんさん。

真剣さが伝わってくるな。

 

「……響ちゃんなら遊んでしまいそうになったら止めてくれそうだから……それでもダメ、かしら? ちゃんと言うことは聞くから……お願いよ……」

 

髪の毛も顔も胸もしょげた感じになったおかげで静かになる。

 

躁鬱激しいな。

 

でも割と真剣に困っているらしい。

とってもレアなのを見てちょっと嬉しい僕。

 

……この子はきっと、子供たちの勉強を見ていたときによくいたような感じに典型的な切羽詰まらないとできないタイプの子なんだな。

 

その切羽詰まり出すタイミングとか手元にあるテキスト次第で切羽詰まってやっと本気を出しても終えられないことも多いっていう悲しい宿命を背負っている系の。

 

まぁ大多数の子は多かれ少なかれそうなんだから別に良い。

ほとんどの科目をクリアできてるんならなんとかなるんだし。

 

学生って大変だな。

 

ニートで良かった。

 

「……………………………………………………っ」

 

顔を上げてみると、おそるおそるという感じで僕を見つめていたらしい。

 

………………ぼーっとしているのを熟考しているって見られた印象。

 

「……………………………………………………」

「……………………………………………………」

 

……まぁ、勉強会なら外を連れ回されないだろうし……こうして外に出るたびに補習や勉強のグチを聞かされるのも不快だし、やだって言っても諦めないだろうし……。

 

それに、ここまで聞いてほっとくのもなんだか寝覚めが悪い気がする。

 

……赤点はひとつだけだってことだし今までは補習とか受けたこともなかったようだし、教えることもあまりないだろう。

 

単元の最初からいちいち教えたりしなくて良さそうで、適当に本でも読みながら監視するだけでいいならむしろ楽……?

 

「……いいよ」

「ほんとう響ちゃん!?」

 

だから声でかいって。

いい加減に人目を引くって分かったほうがいい。

 

「ただし僕は解いたりはしないよ。 書き写したりさせるのもしない。 宿題を自力でちゃんとやって終えるのをさぼらないように見ていてあげるだけだよ?」

「え――――、お手伝いは……」

 

「イヤならこの話は無しだ。 がんばってくれ」

「いいえ! き、厳しいけどそうやって見ていてもらえるだけでもありがたいの……ありがとう、助かるわっ」

 

いつのまにやら紙袋たちをかかえてすぐそばまで来ていたかがり。

 

……この感じ、もしや今から……?

 

いやいや元気すぎでしょ。

 

僕はもう眠いの。

 

お昼前なのに体力の限界なの。

 

帰ったら寝なきゃなの。

 

幼女の体力なめたらダメなの。

 

……………………………………………………。

 

……なんかときどき思考が子供っぽくなるときがある気がする。

 

「それならいいけど。 でも今日は僕、そろそろ帰らないと行けないから。 君も早く帰ってできそうなところから手をつけてみてほしい。 それで別の日に……」

 

というところでいつもの尿意。

 

尿意は突然に。

そんな映画無いかな。

 

「……と、済まない、少しトイレに行ってくるよ。 先に外にでも出ていてくれないか?」

「あ、じゃあ私も行くわ!」

 

「……………………………………………………は?」

 

「テーブルのコップとかを片づけてしまえばいいんだし。 ちょっと待っていてねっ」

 

なんか変なことを言い出したかがりがるんるんな感じでお片付けを始める。

 

いやいや、さすがに一緒にはないでしょ……。

 

個室だったとしても隣同士っていうのはちょっと……なぁ?

 

まだ女性トイレでも抵抗感があるのに知り合いがそばにいると困る。

大変に困る。

 

……この辺が学生と社会に出ていない社会人との差か。

男女の差とか言うものじゃないだろう。

 

僕だって大学までは人の中に居たんだから。

 

「……ならかがり。 僕が荷物を見ておくから先にトイレへ」

「あら? 響ちゃんが行きたいんでしょう? それなら一緒に行ってしまえばいいじゃない」

「いや、だから」

 

「考えてみたら私たち、まだ一緒に行ったことなかったものね!」

「………………………………」

 

女性とは徒党を組む存在。

一匹狼でも平気な男とは違う。

 

それは用を足す瞬間でもおんなじ。

 

……あー、どうやっていいわけしよう。

 

「……あら、一緒はダメなの? 今は人……いないみたいだし……ぱっと見てだけれど。 いなかったらさっさと済ませて早く出られるわよ? 嫌なの?」

 

嫌なの。

 

そんな僕をのぞき込むように屈みながらメロンが迫る。

不思議そうな顔も上に乗っかっているんだけど、この場合はなんて言ったら……。

 

「……えっと、僕は。 ……そう、事情があって。 言い辛い事情があってそういうのが苦手なんだ」

「? そう? 残念ね」

 

どんな返し方したら納得してくれるんだろうって思って考えてたらあっさりと納得したらしい。

 

……やっぱり僕はこの子のことがよく分かんない。

 

「じゃあここで待っているわ。 ちょっとお友だちとかお母さんからのメッセージがたまっているからお返事したいところだったし」

「……すぐに戻るよ」

 

さっさっと僕の分のトレーまでチェーン店の喫茶店特有の返却口に返すとすとんと座り直してスマホをいじり始めるかがりさん。

 

「………………………………」

 

……あっさり過ぎない?

 

いや助かったけどさ。

 

それでもこの子のことだから気は抜けない。

何歩か歩く度にそっと振り返って見るけど手元以外は微動だにしない現代系JK風JCさん。

 

苦しい言い訳かって思ったけど……そこはくるん下条さんの実力発揮だ、興味が他に移りさえすればあっさり風味。

 

僕は年下の女の子が隣の個室に居るって言うシチュエーションを意識しながら用を足すって言うやばいのを回避できたからありがたがっておこう。

 

そうしてお店のすみっこのトイレの前に着いたけどもこの前と違って誰もいないみたい。

こういうのって本当タイミングだよね。

 

「……………………………………………………」

 

ぱたんって扉を閉めてオシャレなトイレ空間でタイツを膝の上までするっと下ろしてぱんつを脱ぎながら考える。

 

……そうか。

 

人と外に出るときにはいずれそのうちなんだ。

 

しゃあああという音が音姫さんキャンセル。

 

たった今危なかったみたいに連れションってのもすることになるのか。

 

聞くところによると女の子のほうがこういうのにこだわるみたいだし……女社会に巻き込まれるなら嫌でも付き合わなければならないんだろう。

 

女性はリーダー格から嫌われたりするとおしまいっていう怖い世界に住むらしいしな。

 

まぁ冷静に考えたら男同士だって学校に限らず駅とかでちょっと一緒にとかよくあるんだし、なんなら男は真横に立ったまま出して出すんだから考えようによっちゃ男の方がやばいし。

 

うん、冷静に考えてみればごくごく普通のこと。

こっちには音姫さんもついているんだしそこまで必死になることじゃない。

 

男みたいにお互いのがすぐそばに見えるっていうのも物理的にないんだもんな。

 

「……………………………………………………」

 

でもなぁ……。

 

「はぁ――……」

 

こういうのに過剰反応してるって理解はしてる。

理解はしてるんだけど……僕の気持ちは動揺するんだ。

 

どきどきするんだ。

 

相手は子供なのに。

 

人と接しなさすぎた弊害でもある気がする。

 

年端もいかない女の子たちと……ここは良いけど、そう。

駅とかのトイレで半個室みたいな空間で隣同士でするっていうのには、僕の元成人の常識的な男としての倫理観が悲鳴を上げるんだ。

 

僕の思考っていう理性を感情が上回る珍しい場面。

 

いやだって……どう考えても物音とか聞こえるでしょ……?

 

僕のが聞こえるのはともかく、聞こえて来るのは困るでしょ……?

 

うじうじしながら出し切ってほっとしてちょっと落ち着いたけど……こうして女の子の格好をして外出をするのならいずれは越えなきゃならない試練なんだろうなって考えてまた鬱々した。

 

ただでさえ社会復帰が遠のいてるのにこの仕打ち。

 

僕が何したって言うんだ魔法さん。

 

……なんにもしてなかったのは事実なんだけどさ……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。