【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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22話 夏休みの、最後の日(まだ8月) 3/4

「もう、響ちゃんってばひどいわ……」

 

秘密を暴露されてわたわたしているかがり。

 

腕と一緒にお胸までわたわたしているのはさすがだな。

ほら、レモンさんの目がすごいことになってる。

 

「いや?」

 

確かに君の前で言ったのは今だけど。

 

「ここでみんなの分の宿題を……この1週間で見ていただろう? 休憩のときとかに聞かれたから話したし、みんなとっくに知っているよ?」

「……え? 嘘…………みんな知っているの? ……嫌――!?」

 

本当のことは言っておかないとね。

そもそも言わないでっていわれてもいないし……多分みんな知ってたし。

 

ついでに着せ替え人形にした報いを受けるがいい。

こんなのはそれに比べたら些細な問題だよ?

 

「意外だよねー。 知らない人が私たちをぱっと見たとしてさ、いちばん頭よさそうでまじめそうなさよちんはそのまんまでー、りさりんもサボりがちだけどまーフツーにできてー。 なのにしっかりしてそうなかがりんが実は…………って。 黙ってればモデルさんみたいだから余計にね」

 

メガネ友近さん、りさりん杉若さんから相当離れてかがりだもんな。

 

学年すら下に見られるゆりかとか僕の方が勉強できるって言うのもびっくりされそう。

 

「ゆりかちゃん?」

「あは、ごめんごめん」

「もうっ」

 

この子たちには随分振り回されたけど、でもこういうのを見ているのはなんていうか和むよね。

 

仲の良い人たちって言うのは見ているのだけで癒やされる。

そこに僕が入る必要はないんだ。

 

お互いが「友だち」だって思える距離がはじめから近くってすぐに仲良くなれる学生って言う歳ごろの子たち。

 

女の子だっていうことを差し引かなくても、よく考えたら「席が近い」っていう理由だけでなにも考えずに仲良くなっていたもんなぁ、学生の頃って。

 

そういうのって良いよね。

 

まぁ僕の歳でも普通の人なら近くに居れば自然に世間話から仲良くなるんだろうけど……ほら、僕はプロのニートやってるし。

 

「…………でも、響さんって。 ほんとうにすごい………………ですね」

 

ドリンクバーとかトイレとかで何度めかの席替えが起きて……角を挟んで隣に来ていたらしい友近さんが僕の手を取る。

 

「?」

 

視線が眼鏡さんの眼鏡と長い髪の毛とお手とを2回くらい往復する。

 

いつもびっくりする……だってみんな距離近いんだもん。

 

僕の同類だって思ってたこの子でもこうして隣に座ったら手を握ったりするんだ。

 

でもなんでまた急に?

あと手、冷たいなぁ。

 

冷えてる?

そんなに寒いかな、冷房。

 

自然な感じで体温に合わせてひんやりしがちな僕の手よりもさらに温度が低い彼女の手。

 

まぁこの子の性格からすると自分から人に接触するのって、緊張するだろうしなぁ。

特になにも思っていないよっていう態度をしておいたほうがいいだろうか。

 

あいかわらずレンズの向こうの視線は、…………ああなんだ、僕の顔じゃなくって髪の毛見ていたのか。

 

……枝毛、まだ残ってるのかな……それがずっと気になってたのかな……?

 

「あ、ずるいわ! さよさん! 私も……むぎゅ」

「はいはい静かにしましょうねーあなたの親友が勇気出してるのよー?」

 

「りさりんって気配り屋さん☆」

「むー」

 

かがりの「ずるい」は防がれたらしい。

なんでも「ずるい」って言うもんね、君。

 

「響さん、みなさんの宿題を……解答がなかったりするときでも、ほとんど…………ノーヒント、で。 分からないところを……ていねいに教えてくれて。 ………………………………そうでなかったとしても、その、答えの……当たり……でしたっけ。 それを、つけてくれて……」

 

「そうなのよ! 響ちゃんってば……うひゃっ!? あなたたち手冷たいわっ!? ……あ、でもひんやりして気持ちいいわねっ」

 

くるんさん……だからくるんさんなんだよ……。

でもそういう気楽さって羨ましい。

 

「………………………………」

「………………………………」

 

呆れているらしい2人にお口チャックされたらしいかがりさん。

 

そんなくるんさんを見てたら……冷たい手に握られたままだった僕の左手が、今度は上のほうからいきなり温かい感触でサンドイッチされてまたちょっとびくってした。

 

「なにやつ?」って思ったらその手の持ち主はりさりんさん。

 

どうしたんだろう、この子は意外と距離置いていてくれてありがたい系なのに。

 

ゆりかがフリーハンドになってるよ?

良いの?

 

それにしても体がでかい。

なんて言うか肉付きがいいって言うの?

 

かがりが柔らかい系だとしたらりさりんさんは弾力がある系だ。

 

でもきっとこの子くらいが普通のJCさんな体してるんだろう。

テーブルの向かいまで身を乗り出せば届くリーチがあるって良いなぁ。

 

あとやっぱり、りさりんさんからは他の子とは違う匂いがする。

 

あ、体育会系だしスプレーとかかな。

他の子はしてないみたいだし、きっとそう。

 

僕はインドアだったし汗も前から少なかったから縁がなかったけど、女の子用のそういうスプレーならこういう匂いがするのかもしれない。

 

なんか良い匂いだね。

 

今度買って試してみよう。

 

「本当、響さんってすごいわよね。 ヒマなときとか高校の教科書……じゃなくって参考書とか問題集よね、あれ。 眺めるように勉強しているのすごいって思っていたの。 ちょっと見ただけで公式とか理解して単語とか覚えるのって信じられないんだけど、実際にそのあとすぐすらすら解けているものね」

 

「………………………………ああ、いや」

 

まずい、この子も僕を褒めようとしている。

 

「いや、それは」

「ほんと小さな……響、なにか言った?」

 

「いや、良いよ」

 

声が被ったら相手に任せるのが僕だ。

話題変えてくれないかな。

 

「あ、良い? そ? ……響ってちっちゃな先生みたいだよねーって。 マンガとかでたまにいるレアキャラの『先生だよー!』ってムキになってかわいい感じの。 私から見てもちっちゃいんだしって思ってさ」

 

「…………………………………………」

 

悪化していた。

 

「ゆりか、全校集会で毎回1年生だってまちがわれるもんねー?」

 

「言うでない。 ……………………りさりん、もぐよ? そのたわわを」

「え? なんだか怖いんだけど……ちょっと、いつもの冗談じゃない」

 

「………………小さくても、その、かわいい、ですよ? ふたりとも……」

「フォローになってないよ? さよちん。 あとそれは私と響に効く」

 

「…………効く、んですか? え? ……??」

「……あー、ごめん、忘れて。 なんでもないの」

 

ネットスラング……でもないのかな、この世代だと。

でも知らない子は知らないから止めた方が良いよ?

 

この中でそういうのが分かってるの、たぶん僕くらいだから。

僕も詳しくはないけどさすがに年季が入ってるからちょっとは分かるんだ。

 

「でもさー、響ってここのテーブルの高さだと微妙に背丈が足りないのよねー」

 

ゆりかが背中を丸めて僕の真似をしているらしい。

 

「このへんでいちばん私たちサイズのテーブルとイスあるお店のなのにそれでも足んないの、座高。 んで、勉強教えてくれるときにはひざ立ちになったりとかテーブルに恐る恐るって感じで乗り出したりして教えてくれるのよ! それがちょっと背徳的っていうかなんていうかなのよねー」

 

「…………わかりますっ」

「さよちんも分かるかね」

「ええっ」

 

眼鏡がきらりと輝いている。

 

今のどこにきらりポイントがあったのかいまいち分からない。

 

「んでこういう話するとちょっといじけるのよねぇ響ったら」

「いじけてなんかいないよ」

 

「なるほど、これがギャップ萌えというやつで! マンガでは定番だけど、こーリアルだと破壊力がちがうねぇ……!」

「だからそんなのじゃない」

 

明日から学校だからか妙なテンションのゆりか。

 

「またまたー」

「こら、人が気にしていること言わないの!」

 

そこへ割り込んでくれる常識人なりさりんさんは良い人。

 

「あんただって自由研究まとめるの途中からつきっきりで手伝ってもらってたじゃない、恩を仇で返さない! すぐに調子乗るんだから」

「あ、それについてはほんとにほんとに感謝してます響せんせぇ。 でもちっちゃい同志は譲れないねぇ」

「何の話よそれ……?」

 

本当元気だなぁこの子。

かがりとは別の方向性でのめんどくささもあるけど。

 

現役のJCって言うこの世界でいちばん元気な存在は僕にはまぶしすぎる。

 

「まぁ僕はこの通り、体も弱くて発育不良でそのうえ家の事情で満足に自由ができない身だ。 これくらいできないといけなかったからな。 環境の違いだよ」

 

この子たちと僕との違いを並べてみると結構な差があるな。

 

不自由って言う一点でしか合ってない……はずなんだけど妙にしっくり来る僕の詐称。

 

「ひゅう、かっこえーのう。 自然に真顔で言ってのけるのよ」

「…………今のセリフ! 忘れない内にっ……………………!」

 

「ハンデをものともしないで……すごいです。 見習わない、と……」

「フツーの中2の発想じゃないわよねー。 大人びてるって言うか」

 

うそっぱちの僕を褒める流れを変えようとしたら不発だったみたい。

 

かがりはなんか急いで手帳……学生手帳って懐かしいなぁ……を広げて今の言葉を書き留めているらしい。

 

なんかこの子、独特の感性してるよね。

 

「………………………………」

 

ふと世界が遠くなる感覚。

 

本当にふとした瞬間って言うのでこうなるの、ときどきある気がする。

しらけたともまた違うような、なんて言うのか良く分からないけどそんな感じ。

 

僕自身はちゃんとここにいるのにちょっと上からそんな僕を見下ろしているような不思議な感覚。

 

そんな僕を囲むようにしている女の子たち。

中学2年生の、10歳下の子たち。

 

近い順に目を向けると、会話が始まってから少し経って場が温まってきたころからぽつぽつと混ざれるようになる、引っ込み思案で度の強いメガネ仲間……元、だけど……そんな友近さよさん。

 

身長がこの中でいちばん高くて、でも二の腕とかが健康的に引き締まっているからふくよかさでは負けている、ツッコミ体質なりさりんもとい杉若りささん。

 

ひたすらに書き貯めたらしいセリフを音読し始めてみんなにドン引きされつつあるメロンさんこと下条かがり。

 

というかそういうところだけマメなんだね……それを普段から発揮したら良いんじゃない……?

 

そしていちいち小さい体を動かしてアピールしている「小さいもの同志」がポイントらしい関澤ゆりか。

 

ちょっと元気すぎる感じだけどバランスが取れているようなこの子たちのお世話はけっこう大変だったんだ。

 

それはもう夏休みに過ごした記憶が結構抜けているくらいには疲れたんだもんな。

きっと僕の脳みそがストレスだからってシャットアウトしてクラウドにでもアーカイブ化したんだろう。

 

「………………………………」

 

「響って考えてるとききょろきょろするからすぐ分かるよね」

「あ、そうよね!」

「私、分かる気がします……」

「没頭するタイプなんでしょ。 あんまりじろじろ見ちゃダメよ?」

 

それでも結局毎回集まるたんびに褒められていろいろな罪悪感で胃がしくしくするの……変わらなかったなぁ。

 

僕は人から褒められ慣れていないんだ。

 

でもなぁ……やっぱりなぁ。

 

もうどうしようもないことではあるんだけど、でもやっぱりどうせだったらちゃんとした出会いをしてちゃんと自己紹介して……嘘じゃない僕自身の、本当の僕自身のことで褒められたいって思うんだ。

 

女の子にならなければこの子たち相手にこういう気持ちにはならなかったんだろうけど、でもやっぱりそう思う。

 

仲が良くなっちゃったから余計に。

 

そんな考えがぐるぐるって回るのがこの夏休みって言う期間のことだ。

でももうすぐ終わるからちょっと楽になるのかな?

 

「小さいと言えば」

「ああん? りさりん私にケンカ売ってんの……?」

「なんでいきなり怒ってるのよ」

「いや、なんとなく? とりあえずりさりん相手には怒っちゃう乙女心」

 

「そんな乙女心なんて捨ててしまいなさいゆりか。 あんたのことじゃなくって響さん」

 

ん?

 

また僕の話題に戻った?

 

「響さん、ごめんね? なんかこんな雰囲気だから言っちゃうけど、響さんってこの中でいちばん……精神年齢みたいなの? 学力もだけどそういうの高いって感じるの。 でも見た目のせいでどうしても、話したことのない他の人たちからは私たちのなかでいちばん小さくって……その、幼く見られちゃうって大変だなぁって。 店員の人とかの対応見てるとなんだか不思議な感覚になっちゃうのよ」

 

りさりんさんの口が良く回っている。

 

精神年齢が高いと言われてちょっと嬉しくはなった。

りさりんさんはいい人だ。

 

過剰に吸い付いたりしてこないしそこまでうるさくないしいい匂いだし。

 

「ここの店員の人…………場所がいいからって、いつもここで、集まりましたけど………………その、おかげで覚えてもらえましたけど。 最初の何回かは……えっと、お子様ランチ、セットみたいなものとか………………サービスでジュース、とか勧められていました、よね」

 

「仕方ないさ。 人は見た目だから」

 

小さいって言うのはそういうこと。

この体になってよくよく思い知ったんだ。

 

何度も来たおかげでここでならこの子たちの同級生、中学生なんだって認識してもらえるようになったけど……他のところに行けば毎回リセットだ。

 

……そもそも会って話す約束をさせられて何度も来させられなければこんな思いをすることはなかったんだし、夏休みなもんだからどこの飲食店も高校生とかのバイトの人が多くって必要以上に子ども扱いをする人が多かったんだし。

 

仕方ないとは言ってもやっぱりうざったい。

どうにかならないかなぁ。

 

「僕だって同じような光景を見たら同じような感想を持つだろう。 仕方ないんだ」

 

僕が店員さんだったとしたらそういう対応するだろうしな。

 

しょうがなくたっていらっとする感じ。

これがコンプレックスというもの。

 

僕が20年以上縁のなかったものだからしょうがないんだ、うん。

 

でもこの4人の後に続いて歩いてると……ほぼ確実に誰かの兄弟って思われるんだよなぁ。

 

判定すれすれのゆりかはともかく、あとかがりはたぶん高校生だって思われるだろうから中高生のグループに小学生が連れてこられているんだって、そう思うんだろう。

 

かがりとゆりかが居るおかげで集団の見かけ上の年齢幅が広がるせいで僕が下に見られるんだ。

 

移動中は手を引かれることが多いのも原因だろう。

大半はかがりで、ときどきゆりかにまで引っ張られるもんな。

 

お店でもみんなに任せて注文とか言ってもらうからなおさらなのかもしれない。

 

けど注文する前に「何にするか決めた?」って聞かれて答えたの、僕が口にする前に言われちゃうからなぁ……楽だけど。

 

もう少し発話を早くできるような練習、気が向いてでいいからしておいたほうが良いかも。

今まではどうでもいいやって思ってたけど、こう毎日のように子供扱いされるとさすがに危機感を覚える。

 

人は本気で危険って思わないと真剣になれないもの。

危機だって感じている今がチャンスだ。

 

「響って割り切ってるねぇ。 それはもしやおとぎ話な社交界とかで会得した心の強さなん?」

「そんなものに出た覚えはないよ?」

 

「ちぃ……そう簡単に口割ってくれないなぁ」

「だから違うって」

 

ゆりかもゆりかで僕に属性を加えようとしてくるし……やっぱり話す練習、しよっと。

 

1日1分くらいがんばれば良いよね。


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