【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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22話 夏休みの、最後の日(まだ8月) 4/4

会話しているときにふと訪れる「間」ってあるよね。

 

ひとりきりなら当たり前な時間なのに、なんでか他人と居るとそれが気まずくなるものらしい。

 

「らしい」って言うのはかがりとかが言ってたことってことで、僕にとってはむしろ嬉しいもの。

 

だって静かって良いものだもん。

なんなら1ヶ月でもじめっとしていたい。

 

目的がない会話ほど詰まらないものはないんだ。

 

「せっかく夏休みになってからみんなが知り合って友だちになれたんだからよ?」

 

そんな時間が苦手らしいりさりんが無理やりに思いついた感じで言い出す。

 

「来年はみんなでどこか……あ、もちろん夏休みのことね……遊びに行きたいわね。 いえ、冬休みとかでも楽しいって思うけど」

 

そう言えば1人旅って女性はあんまりしないらしいね。

もちろん治安の関係もあるんだろうけど、それ以上にひとりでずっといるのが耐えられないらしい。

 

僕には全く理解できない感覚ではあるけどこの子たちを見てきて「そういう生き物だよね」って納得はできる。

 

ひとりでお昼食べに行くとかゆりかくらいじゃない?

そんなことできるの。

 

だってトイレだってみんなで行く種族だし。

 

「おぅ、りさりんいいこと言うねぇ。 たまには」

「ゆりかー?」

 

「急に猫なで声怖いからやめて!! ……あ、でも考えてみたらさ、ついこないだまでみんなばらばらだったわけだもんね。 同じクラスのりさりんと私でしょ、かがりんとさよちんでしょ、あとは学外の響ってことで」

 

その僕もこの春までは存在しなかったわけだもんな。

 

物理的に。

 

だって成人男性と幼女って完全なる別の存在だし。

 

「ともかくさ、響がいなかったらこうしてみんなが友だちになれて、こーやってぐだぐだしてたり勉強会したりして集まって話すなんてできなかったんだよね? 多分」

「そうねー、私も友近さんは移動教室で知ってたけどそれくらいだったし」

 

「わ……私も、杉若さんのことは顔くらいしか……あ、ごめんなさい……」

「良いのよ、私だってたまたま覚えてただけだし、友近さんの名字」

 

別のクラスで特に仲が良いわけでもない相手の名字を覚えてるだけですごいんだけどなぁ。

僕なんか同じクラスでもほとんど覚えられなかったし。

 

卒業して大分経つ今となっては誰が誰だったかすら思い出せないし。

 

「そそ、そんなわけでさ、私たちは顔くらいしか知らなくってしかも響は別の学校で。 違うかー、違う出自ってのだし! なんだかうまい表現が思いつかないけど、とにかくなんか感慨深いなーって」

 

魔法さんに生み出されたのを出自だって言えばそうなるね。

 

「……いいわねゆりかちゃん!! 青春よ!!」

「おぅ元気だねぇかがりん」

 

くるんさんのくるんがより一層にくるんくるんしている。

 

……この子、まだ遊び足りなかったのか。

 

「明日から新学期も始まってしまうからすぐには難しいけど……みんなで遠出したりお泊まり……そう、パジャマパーティーを!! 私、パジャマパーティーしてみたいわ!!」

「お…………おぉぅ。 かがりんは大胆だねぇ…………」

 

唐突に話を飛躍させるかがり。

 

……うん、まぁ、君はそういう子だよね……。

良くも悪くも人との距離感がゼロっての。

 

良くも悪くもな。

 

「お泊まり、ですか…………………………………………」

「え、えぇっと……し、下条さん、それはちょっと……」

 

お泊まり発言に引いている友近眼鏡さんとりさりんさん。

 

友近さんならともかくりさりんさんの反応を見るに、女の子って言っても意外とすぐにお泊まりし合う関係になるわけじゃないのか?

 

あー、かがりをスタンダードって思っちゃいけないのか。

 

どっちかって言うと小学生男子に近い感性のゆりかとかこの子とかより、ちゃんとした感じのりさりんさんを基準にした方が良さそうな気がしてきた。

 

「あら?? みんなでパジャマパーティーとか憧れるじゃない?」

 

その反応にはてなしか浮かばないらしいくるんさん。

 

「おしゃべりしたり映画とか観たり、怪談とか恋のおはなしで盛り上がったりしないのかしら?」

「まじですかぃ。 ……かがりん、いや、かがりさんマジパねぇ……」

 

ゆりかが真顔になるほどらしい。

 

なるほど、本物のJCでも知り合って1ヶ月程度じゃお泊まりはしないと。

 

僕はひとつ学習した。

 

「? ゆりかちゃんどうかしたの?」

「見よ、りさりん……あれがマジもんの天然ぞ?」

「すごいわねぇ…………」

 

ぼそっとささやきあうゆりかとりさりんに向けておにぎりみたいなお口をしているかがり。

 

なかなか珍しい光景だ。

 

でも、おにぎり口が久しぶりに見れたけど僕、かがりは天然じゃないと思う。

きっと、ちょっとだけ…………いつも夢見心地なだけなんじゃないかって思うんだ。

 

だって本物のそういう人とって多分僕話が完全に合わないって思うから。

いや、かがり相手もなかなかに厳しいんだけど……。

 

「わ……………………私もっ」

 

眼鏡さんが急に大きめの声。

 

うん、緊張してると声とかびっくりするくらい大きくなって裏返るよね。

でも落ちついて?

 

何か言いたいことあるんだよね。

 

ちょっとびっくりしたけどかがりに比べたらなんてことはないから平気。

 

「…………私も、運動はまだ、控えるように言われてますし、すぐに病院に……連絡が取れないと、いけないので。 あ、あまり離れたところへは、難しいです、けど…………近いところとか、誰かのお家だったりとか。 だったら、ぜひ、ご一緒したい、です」

 

ひと思いに吐き出してほっとしている様子がほほえましい。

 

……でもこの子は僕とは違ってほんとうに体が悪いらしいからいろいろと大変そうだな。

顔真っ赤にしてるけど心拍とか血圧とか大丈夫なんだろうか。

 

僕はニセモノだからいざってなってもどうすればいいのか分からないし、とりあえずはすぐに救急車呼べるようにはしておこうかな。

 

学生時代の僕を彷彿とさせるシンパシーを一方的に感じさせる子だし普段は静かだし、何よりむやみに頭とか手を触ってこない良い子だからとても心配なんだ。

 

かがりに対するそれとはまた別の方向性の父性を感じる。

 

「海はもうシーズン過ぎちゃうけどさ、山はこれから見頃だしね? 紅葉とか。 電車で近くまで行けて、そこからバスとかロープウェーで直接行けるとこならみんなで行けるんじゃない?」

「山ねぇ……良いわね」

 

「でしょでしょー。 私、小学校の行事以外で行ったことないしさ、頂上とかでほんとに『やっほー』って返ってくるのか知りたいんだー」

 

「そうね! せっかくですもの、遠出……疲れてしまうから遠すぎない範囲ね? 気楽に行ける範囲でみんなが楽しめるところがいいわねっ! 響ちゃんとさよちゃんが平気なところなら!」

「でしょ!」

 

メロンとレモンの相乗効果が生まれ始めている。

 

「…………でも、下条さん……私たち、これから運動会と学園祭が……あとは中間試験も」

 

「さよちゃん。 その先は駄目よ。 そんなことを考えてはいけないの」

「え? ………………あ、はい」

 

でもくるんさんはやっぱりくるんさんか。

 

「あーそっか、それもあったわね――……冬休みまでの2回の定期試験。 夏休み明けだから 容赦ないのよねー先生たち」

「りさちゃん! 今から嫌なことを考えてはいけないのよ!」

 

いや学生さんなんだから勉強はしなきゃでしょ……?

夏休みが終わる日から遊ぶこと考えちゃ駄目でしょ……?

 

「下条さん、諦めなさい? というか勉強、響さんに教わって今までの範囲大丈夫なんでしょ? 軽ーくやれば良いのよ勉強なんて、軽ーくやれば」

 

「りさりんりさりん。 それりさりんが言うのかい」

「へ、平均点目指せば良いんでしょ?」

 

「うぅ…………でも、勉強はやっぱりイヤぁ………………」

「下条さん、……が、がんばりましょう……」

 

なんだかんだでりさりんも大変そう。

ゆりかと友……さよさんは平気そうだけど。

 

「でも、そうねぇ……試験もあるし学校の行事もあるしでなかなか難しいのねぇ。 これからの時期は台風とか多いし、予定立てづらいわね」

「だねー、りさりんとかは部活の大会とかあるし」

 

話の流れは遊びから学生生活の忙しさへ。

 

よかった、泊まりがけで僕も加えられての外出は避けられそうだ。

決まりそうになったらどう言い訳しようか焦っていたけど大丈夫そう。

 

いやだって、こうして昼間に出かけるだけなのとお泊まりなんてのはさすがにぜんぜん違うし、いくらなんでも僕がいちゃいけないでしょ。

 

僕は成人している男、それも親御さんが知ってる人間でもなんでもないなんだから事案でしょ。

 

いや、今は幼女ではあるんだけどさ……社会的には存在しない人間なわけで。

 

あとそもそもとして僕の体力的に厳しいところがありそうだしな。

 

そうなりそうな雰囲気になったら病弱仲間な友近さんと協力して……なんとか近場で、それもお泊まり無しの日帰りで被害を抑えたいところだ。

 

熱い視線を眼鏡さんに向けてみる。

 

「…………? …………………………………………」

 

なんか逸らされた。

 

恥ずかしがり屋さんだもんね。

 

「試験もあるし2学期は忙しそうね。 ならやっぱり私はお泊まり会を推すわ!!」

 

なんで?

 

「うちならいつでも歓迎よ! なんならこのまま今晩でも良いくらい!?」

 

いやいやまずいでしょ……なんでこの子はくるんくるんしてるの……。

 

「かがり」

「響ちゃん!」

 

「明日は学校で早いんだろう。 僕はともかく君たち4人そろって寝坊したらどうするんだ」

「うぐっ……で、でもぉ」

「だいたい泊まりだと親御さんの負担がある。 それを気にした方が良いし、泊まる側の親御さんも事前の挨拶とか準備が必要だろう?」

 

お泊まり会とかするときって最低でも親同士が知り合いじゃないとめんどくさいらしいよ?

 

「……響ちゃん、ひどいわぁ。 せっかく思いついたのに」

「事実じゃないか。 始業式に遅刻したらどうしようもないよ?」

 

実際どうしようもないよね。

この歳でサボり癖がついたら高校生でプロニートデビューもあり得るんだ。

 

この僕が実際に大学生あたりからサボり癖ついたからこそ断言できる。

 

「……うーん、お泊まり会かぁ……」

「どうしよ、りさりん。 このままじゃ」

 

そんなくるんさんを置いておいてぼそぼそ話してるゆりかとりさりん。

 

何かこの体、聞こうってすれば結構聞き取れるんだよね、ひそひそしてるの。

 

目も良ければ耳も良いの?

身長以外に欠点ないの?

 

あ、胸がないのは致命的な欠点か。

 

「お泊まり……大丈夫かなぁ……? ねぇ、ゆりか」

「悩むねぇ」

「私はそこまで心配じゃ……まぁそういう感じ全然ないし、私はあっても」

「りさりん?」

「前にも言ったじゃない、凄まないでよ。 だから私はそこまで抵抗ないんだけどゆりか、あんたは」

「そだねぇ……かがりんってけっこーそういうとこ無頓着だからねー」

 

体育系の部活なら合宿とかで慣れてるって思ったけど……そうでもない感じ?

まぁ前からの友だちなゆりかの家に1泊とかなら平気だろうけどそうじゃないもんね。

 

「あんだけ参考資料ため込んでんのになーんで自分は平気なんだろねぇ、かがりんってば。 だって少女漫画って結構……」

「だから天然さんなんじゃない? 悪い意味じゃなくって」

 

「分かってるって、りさりん人の悪口言わないし。 ……ま、平気じゃない? 間違ってもかがりんが企むとかないでしょ」

 

それにしてもりさりんさんとかがりって仲良いよね。

よく分からないけど結構真剣に話し合っている。

 

「…………………………………………」

 

あ、それ見てる友近さんがうらやましそうな眼鏡の光らせ方してる。

 

かがりは……トリップしてるからどうでもいいや。

 

「あらあらー? ゆりか、まだちょーっとそういうの早いんじゃない? まだ中2なのよ?」

「うるせいやい」

 

何が早いんだろう。

 

お泊まりが?

いや、仲良ければ小学生どころか幼稚園児でも……って言うのはもしや世代の違い……?

 

「私はともかくさ、かがりんの行動を警戒したほうが良さそうよ? だってさ、あのけしからん胸見てよ。 あれが夜中にずーっとそばにあったら万が一が起こりえる可能性が!」

 

「こら、セクハラ禁止。 公共の場よ」

「あい」

 

とりあえず楽しそうで何より。

僕ものけものにされてぼーっとしてられて何より。

 

なぜか勝手に落ち込んでたくるんさんをなだめている黒縁メガネさんと、反対側でなにやら盛り上がっているらしいぱっつんさんとりさりんさんのあいだでずずーっとジュースをすする僕。

 

やっぱり女の子の感情のツボってやつ分からないなぁ。

 

「………………………………」

 

それにしても気が早い。

 

まだ夏休みが終わるばかりなのに、もう次に遊ぶの考えてるもんな。

まぁ明日からの学校生活をぎりぎりまで忘れていたいだけなんだろうけど。

 

でも……どうしよう。

 

少しずつ距離を置くつもりだったんだけどこの夏休みでむしろ近くなっちゃったまであるし……ここまでになると、そうすぐに別れようとは思えなくなって来ちゃったしなぁ。

 

……このままずるずる付き合っているうちに魔法さんが僕を元に戻してくれるか、このまんま幼女の姿のままでいさせられてぜんっぜん成長しなかったりして不審に思われはじめるまで2、3年と言ったところかな。

 

なにしろなった経緯が経緯だから分からないんだよなぁ……ほんと、毎晩お願いはしてるのになぁ……いつ戻っても良いように家の中じゃシャツ1枚って言う準備万端っぷりなのになぁ……。

 

僕からしてもそこそこの期間だし、たまになら……ごくたまになら気晴らしとかでこの子たちとどこかへ行くのも悪くないって思って来たあたり情が湧いちゃったんだなって思う。

 

もちろん泊まりがけは断固として拒否するけど。

 

肉体的には問題ないけど……でもやっぱりダメでしょ……大人の男としてここだけは譲れないもん。

 

もし万が一、億が一でもお風呂上がりでだるっとした格好のこの子たちを見て砂粒でもやましい気持ちになっちゃったりでもしたら罪悪感で死にかねないもん。

 

その辺は一応で成熟した大人の男なんだから。

 

さすがに肉体年齢が半分近い子供に欲情ってのをしたら、男としても大人としても……人としておしまいだろうから絶対にあってはいけないんだ。

 

まぁ、ないとは思うけど。

 

「…………………………………………」

 

でも充実していた夏だった。

 

とっても忙しかったしとっても疲れたけど、それでも何年かぶりに……僕がこの子たちくらいの歳以来に楽しかったのかもしれない。

 

手元を見る。

 

いつものようにブレンドされたジュース(微炭酸)と、みんなから一口ずつ分けられた安っぽい、雑な味だけど懐かしい学生のときによく食べた料理。

 

視線をテーブルのほうに向けるときゃいきゃい騒いでいるかしましい女の子たち。

 

そのせいなんだろうな。

 

会うたびに疲れるし大変ではあるんだけど、それでもこの子たちと一緒にいる時間。

 

それがとても楽しいものですぐには手放したくないって思っている僕自身が……いる、らしい。

 

……いけないな、最近はどうもメランコリックだ。

季節の変わり目が近いからかな。

 

「でもさ? 旅行とかはおいておいてさ」

 

視線を上げるとみんなに見られていたのに気がついた。

 

「とりあえずみんなでこうしてテキトーにだべったり食べたり。 あとはゲーセンとかで遊んだりしたいね。 それくらいなら大丈夫でしょ? 響もさよちんも」

「……そうだね」

 

「今度はみんなで映画館行ったり、お泊まりじゃなくっても誰かの家で遊んだりしてさ。 どんだけ忙しくなったりしても……ね! 響!」

 

学校が始まっちゃったら怒られるから切らなきゃって言ってる、ぱっつんに戻るらしいゆりか。

 

「そうねっ。 お話しするくらいなら、響ちゃんさえ都合が合うのなら学校の帰りとかお休みの日だっていくらでも集まれるわよね! 響ちゃんも前よりはずいぶん打ち解けてくれて……夏までは何回かに1回しか会ってくれなかったけど今は2回に1回はお誘いに乗ってくれるようになったもの。 私、それがとっても嬉しいのっ」

 

断ったらその分服を用意されたり髪型を変えられたりするからってのが大きいんだよ?

 

「ね、響ちゃん? また、秋もたくさんお話しして遊びましょうね?」

 

くるんはくせっ毛で天然もの、パーマでもなんでもなくって……あと夏休みで体重に合わせてカップもひとつ上になったと知らされてしまったメロンさんことかがり。

 

「……たまになら」

 

何日おきとかは僕の精神力だとやっぱりつらいから月に1回くらいなら。

 

「いいよ。 たまになら、こうしてみんなで集まるのも。 ……悪くはない…………って思うし」

 

今までを思い出しながら口にした途端に「かしゃっ」っていううるさい音。

びっくりして見上げたらゆりかのスマホのレンズがこっちを見ていた。

 

「あ――――! 響のレアな表情!! これ絶対実はものすんごく照れてるやつ!! はい、いただきました――!」

「あ、ゆりかちゃん私にも送って送って!!」

 

…………………………………………え?

 

「もっちろん! この人類の秘宝はプレシャス!! グループのに乗っけるよー」

「止めてくれ」

「どうしてよ、いいじゃない!! かわいいわよ!!!」

「やめて」

 

隠し撮りとか良くないって思う、僕。

 

「顔赤ーい! ふだんは真っ白なのに!!」

「くすっ、響ちゃん、かわいいっ」

「消して」

 

誰も僕の抗議を聞き入れてくれない。

こういうときに女の子って酷いよね。

 

「ゆりか、なんでどアップなのよ……? いや、すごくお肌も綺麗だけど」

「………………でも、その。 ……美しい……です」

 

「だから……」

 

……女の子女の子する格好をさせられたのを撮られて共有されるよりかはずっとマシかって思って諦めるか……。

 

かがりのスマホには僕の女装って言う名前の痴態がこれでもかって詰め込まれているから、いずれどうにかしないとだけど。

 

後ろを向いて両手をほっぺに当ててみる。

 

……確かに熱くなってる……かも。

 

「…………………………………………」

 

いや、誰だって至近距離で見られたくない表情隠し撮りされたら恥ずかしくてこうなるはず。

 

うん。

 

「ぴろんっ」

「…………………………………………」

 

手元で鳴ったスマホにはたった今僕がしていたらしい、……うん、見事な照れ顔というやつ。

 

どアップで。

 

前髪が軽く掛かっていてまつげと合わせて光ってるのが余計に恥ずかしい。

……もう、この体も顔も僕自身のものって感じるんだから止めてほしかったなぁ。

 

四角い画面には……いつも鏡で見るような眠そうな顔じゃなくって、目を見開きながらもちょっとだけそらしてうつむき加減。

 

でも口がすっごく緩んでいる、年相応に見える笑顔が映っていた。

 


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