【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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23話 山/山  1/4

ぷしゅーっと音がしながらちょっとだけ傾く感覚。

 

「ありがとうございましたー」

「………………………………」

 

ひとり、またひとりと若い人から順にバスから降りていくのを眺める僕。

 

乗り始めた駅前からしばらくは毎回のように止まっていたけどその間隔も次第に遅くなって行って、フロントガラスの上のお値段も加速をつけて上がっていくのにひやひやする。

 

乗り換え案内で先に調べてないといくらになるのかって不安になるよね……バスって。

電車はそこまで気にならないのにどうしてバスだけこんなに気になるんだろうね。

 

普通のバスなら電車と同じで、乗ってる時間イコール時給のお値段って思っておけば間違いないのにね。

 

そうして市街地を抜けてどう見ても田舎って感じの町並みに……背の高い建物が数えるほどになって車の数が減って信号の方が多くなってきて、歩道の両脇が緑で染まるのがあたりまえになって。

 

「なんか止まらなくなったなー」って思ったときには大きくて古いバスの中に運転手さんの他には僕しかいなくなっていたらしい。

 

気まずい。

 

誰か乗って来て?

 

車窓からぼーっと眺めるのが好きだからっていつものクセで無意識に選んだ、バスのいちばん前のよじ登らないと座れない特等席に座っている僕は気まずいんだ。

 

だってカーブのときとか信号待ちのときとかに運転手さんからの無言の視線がちらちら飛んでくるんだもん。

 

きっと「この子大丈夫かな」って思われてるんだろう。

 

だって田舎の誰も乗ってないような区間にひとりだけ乗ったまんまな子供だよ?

「下りる場所ちゃんと分かってるかな」って心配になるでしょ。

 

僕がこの人ならそう思う。

 

中身が分からないんだからしょうがないよね。

これでも大学を卒業したニートだって言うのにね。

 

「…………………………………………」

「次は市役所前ー市役所前ー」

 

テープの音だけが結構頻繁に聞こえる車内。

僕はそれに気がつかないフリをしながら車窓を楽しむ。

 

後ろの席だったら気兼ね無しに外を見たり本読んだりできてたのになぁ……でも景色は悪いし人に囲まれるからやなんだよなぁ……。

 

妙な緊張感をちりちりと感じていると、バスは刈られて土色になっている田んぼを抜けてぼこぼこした道を走るようになって、バス停の名前に川とか山とかが含まれるようになって来て。

 

坂道を登り始めたって感じるころにはしょっちゅうぐねぐねし出して酔いそうになってくる。

前の体だと全然酔わなかったけどいかんせんに幼女だ、気は抜けない。

 

というか体重が軽すぎてカーブの度にお尻が浮きそうになるから結構怖い。

必死に鉄のバーにしがみついてると安心するけど運転手さんが心配になるジレンマ。

 

いざというときのための酔い止めを意識しながら、両側に広がる背の高い木々の柱とその向こうの真っ暗で真っ黒な空間で囲まれている道を……ガードレールがないのに2車線なおっそろしい道をエンジンを吹かしながら器用に上がっていく運転手さんを心の中で応援する。

 

運転手さんはこの道何十年なんだから大丈夫なんだとは知っていても僕にとっては初めてなんだし、怖いものは怖い。

 

そうならないって知っていても怖いものは怖いんだ。

映画とかでも落っこちるシーンでひゅんってなる体質だし。

 

ペーパードライバーを舐めるな。

 

「……登山口入り口ー」

「む」

 

見るべきものが植物しかなくなってうとうととしかけてたらしいけど不思議な第六感によってちゃんと起きた僕は偉い。

 

よじ登った席からよじ降りて金額を見て子供用財布からお金を……田舎って現金しか使えないよね、バスでも……寝起きの頭でがんばって出してたらなんかすっごくにこにこされたのが悔しい。

 

「子供料金だからこっちだよ」って優しく言われるのが切ない。

 

中身は大人なのにこうして子供扱いされるのにはどうも慣れない。

いや、どう見てももたついてる子供なんだからしょうがないって頭では理解してるんだけどさ……。

 

すっごくにこにこしてる運転手さんから投げかけられる、予想していたとおりの会話をひととおりしてからバスを降りて、目の前の看板の消えかかっている案内図をスマホに収める。

 

こうして子供だとしてもしっかりしてる子供だって認識させておけば迷子って通報されないだろう。

 

多分。

 

通報されないといいな。

けどここまで来たらもう戻れない。

 

「………………………………ぐへぇ」

 

けど口が疲れた。

 

見た目相応の、でもしっかりした感じの女の子の演技をしたせいだ。

喉の筋肉をしっかり使って舌もしっかり意識して、でもやっぱり幼女な声を作ったせい。

 

やっぱり一見さんに対して……特に大人に対してこの見た目で中学生は「ん?」ってなるらしい。

だから小学校高学年って設定で乗り切ることにしてそれっぽい話し方にしているんだ。

 

高学年ならたまーに大人びてかしこい感じの子っているからそのイメージ。

 

幼すぎず、でも頼り無さ過ぎずな塩梅が難しい。

ちょくちょく買い物のときとかにしていた練習が役に立ったなら嬉しいね。

 

でもそのおかげで多分疑われずに来たんじゃないかな。

とりあえずで変な顔もされなかったし「お母さんは?」攻撃にも多分ちゃんと耐えられた気がする。

 

さりげなく会話の途中にスマホとか取り出して画面を見る振りをするのがポイントだ。

 

あと僕、ここへ来るまでのお金を普段の半分しか使わずに済んだ。

つまりは往復しても片道分しか払わずに済む。

 

だって子供料金だもん。

運転手さんから言われたんだから問題無いはずだもん。

 

ということは……日帰り限定ではあっても、旅行に行きたい放題だということになるんじゃ?

 

だって半額だよ?

 

「………………………………ほへぇ」

 

子ども料金って最高だなぁ……。

 

やっぱ出かけるときは小学生って設定にしておこう。

 

嘘じゃないしな。

子供扱いを我慢すれば良いだけなんだから。

 

遠くから高くから聞こえてくる鳥の声と葉っぱの音しかしない、うっそうと暗いけど登山道だけは明るいバス停。

 

僕はしばらく小学生って侮られる代償の大きさにほくほくしていた。

 

 

◇◇

 

 

今朝は起きた時間こそいつも通り。

 

でも通勤時間より前っていう、日が昇るのが遅くなり始めてきたからちょっとだけ暗いままで涼しい風が吹いてる時間に家を出たんだ。

 

それは僕にとっては相当に珍しいこと。

 

夏休みっていう地獄が終わってからしばらくして静かになった喜びを堪能したから泊まりがけの旅行で温泉とか……はムリだからとりあえずは日帰りってことで静かそうな場所を探した先の、とある山に登るためなんだ。

 

子供値段の切符も使って電車とかバスに乗って、僕の見た目がどうなのかっていう実験の追試だ。

 

別にお得な思いをしたかったからじゃない。

 

その気持ちも無いって言えば嘘だからやっぱりあるって言うけど、でもそれよりも今の僕がどう見えているかを改めて知りたかったんだ。

 

だって未だに鏡をじーっと見てるとふと思うんだ。

 

この子、誰?

 

だってだって僕がこの子になってるみたいなのは間違いないみたいだけどこの子ってば年齢不詳だもん。

 

顔つきは中学生で「うーん……」って感じに納得してもらえるんだけど身長も体つきも小学校の真ん中よりちょい下って言ってもいいもの。

 

でも裸になってみると胸がある気がするんだ。

 

いつまで子供の胸を気にしてるんだって僕でも思うんだけど1日に1回は見るんだからしょうがない。

 

今まであったものが無くなった代わりとして生えたものなんだ、気にならない方がおかしいもん。

 

そんなアンバランスな体な僕。

 

……この体の出自的に、かなり早熟で……第二次性徴ですごいことになるはず。

なのにそこまでにはなってなくって、でも身長はすっごく低いときた。

 

なんか変だよね、この状況って。

まぁ「魔法さんだから……」で済むって言えば済むんだけど。

 

そんなもやもやが溜まっていたからって言うのもあって試してみた結果は……言うまでもない。

 

中学生って見えるんなら「学生証は?」って聞かれるはずだけどそんなことはなくって、むしろ途中におばさんとかおばあさんとかおじいさんとか駅員さんとか運転手さんとかに「1人で本当に大丈夫?」って念を押されたくらいだからやっぱりがんばっても小学生なんだろう。

 

「年長さん? しっかりしてるわねー」って言われたときには怒りと悲しみとやるせなさとむなしさが一緒くたになって湧いてきた。

 

園児はないでしょ園児は……。

 

……さすがに無いよね?

発育遅いだけだよね?

 

ゆりかみたいな特殊体型なだけだよね……?

 

とりあえず何話しても園児扱いのままだったおじいさんは許さないんだ。

 

何がお遊戯会だ。

 

「………………………………」

 

悲しいけどやっぱり今の僕は紛れもない少女……幼女の様子。

少なくとも親のどちらかがそばにいるはずだって思い込まれるくらいの年齢の。

 

なんでこんなにちっちゃくなっちゃってるんだろうね、ほんと。

 

どうせならがっちりしたイケメンにしてくれたって良かったじゃない。

それなら肉体改造と整形しましたって言い張れるのにね。

 

これじゃ海外で大規模に工事してきましたって言っても信じてもらえやしない。

 

アスファルトかと思えば砂利道、丸太かと思えばこんどは石畳で舗装されていたりしなかったりする山道をただただざくざくと登っていく。

 

久しぶりの全身運動。

 

耳に入ってくるのは僕の幼い息づかい、リュックの中のがさがさ、靴が地面を踏みしめたり石を転がしたりする音だけ。

 

それが反響するでもなく、ただただ真上までそびえている木々のすき間に吸い込まれていく。

 

僕こういうの大好き。

 

誰も居ないところで……居ないって言っても人の手が及んでる程度の僻地でこうしているのが。

 

今回は様子見ってことで山っていってもそこまで険しいわけじゃないところにしてるし、いざとなればバス停に引き返せば1時間しないうちに次のが来る。

 

ゆるふわな絵柄で運気アップとかパワースポットとかかがりが好きそうな旅行雑誌にも「お手軽に」とかあったんだし、初心者向けの場所なら大丈夫なはずだし。

 

バス停が山の中腹まであって、そこからほんの30分くらい……僕の足なら1時間かな、がんばれば……頂上に着けるってだけの、たぶん近くの小学校とかの遠足でも人気のありそうな山。

 

辛うじて丘じゃないって感じの、けどしっかりと山々のひとつって感じ。

展望台からは山と町を一望できるらしいってそんなところ。

 

僕の家を出てから電車とバスで2時間くらいでそこまで標高がなくてところどころとてっぺんが観光地化されていてっていう割と近場だったらしい。

 

意外と近いところって行く気しないよね。

 

運転手さんに話し込まれたから知ったけど、ちょっと前まではさっきのバスとかは連日立ち乗りになっていたんだとか。

 

まぁ僕がわざわざ来ようって思うくらいには難易度が低い上に夏休みは頂上まで直接ルートがあったらしいし。

 

だからプロのニートは閑散期に旅行に行くんだ。

 

「…………ぅわっ」

 

僕はぼーっとするからよく石とかを踏んづけて足首を痛めそうになる。

 

前に比べると視点がだいぶ下で重心が下がっていて安定しやすくってしかも地面からの距離が近いこともあっていくらかはマシだけど、それでもぐきっとしそうになる。

 

子供のときってよく足くじくよね。

そういうのを思い出す。

 

足をなんどもくじきそうにはなるけど、今までに家の中でさんざん痛い思いをしたせいか無意識でその瞬間にぴたっと止まれるように訓練されている。

今日はすでに何回目かになるひやっとだけど、まだ無事みたい。

 

けど、ちょっと気をつけないとな。

 

こんな山の中で足首痛めてうんうん言っているところを親切すぎる誰かに見とがめられちゃったら、すっごくめんどくさそうだし。

 

この歳の子供って、何かあったら「お母さんの連絡先は?」だもんな。

 

「お母さんはいません……」って事実を言ったらどんな顔するんだろうって思う。

悪いからしないけど。

 

……夏休みも終わっていて、平日で、しかも午前。

 

がらがらだって言ってもやっぱり交通の便がいいからか、数分にひとりは僕と同じような格好をしたり町を歩くような軽装で歩く人を見かける。

 

それくらいには登山に至らない感じの場所の様子。

 

ちょっと前までのごみごみしていたらしいのがウソのよう。

たまに後ろから登ってきたと思ったら追い抜かされたり降りてきた人とすれ違うくらいだしな。

 

団体さんと遭遇する可能性が低いのは安心だね。

 

でも何十分も誰の姿も見えないでただ植物の世界を歩くのは怖いからなぁ……。

田舎って「ちょっと山道だけど」の「ちょっと」が草木を掻き分けてってことあるし。

 

僕、虫とか大きな葉っぱとか苦手だからなぁ。

男の体ならやなとこは全力で走り抜けられるんだけど幼女だから埋もれそうだし。

 

「……んぐ、んぐ…………」

 

さびてぼろいベンチに座りながら軽く水分補給と体力回復をした僕はふたたび登り坂に挑戦しはじめる。

 

なんだか精神力が回復する気がして楽しい。

 

孤独っていいよね。

僕は最近人と会いすぎて話しすぎたから疲弊していたんだ。

 

それも現役JCたちとか言ういちばんうるさい年代の、しかも女の子たち。

後半なんて毎日のように何時間もへとへとになって「もういや」ってなるくらいだったんだ。

 

いや、「だるいから今日はいいや」って言いさえすれば良かったんだけどさ。

 

「んぉっ」

 

変な声が出た。

 

考えていて気がつかなかったけどきれいな石畳だった道が急にじゃりじゃりしてきたらしい。

 

ひゅんってなって危なかった。

用心しておこう。

 

「…………………………………………」

 

あの子たちと頻繁に会うまではこうして日帰りでもいいから旅行へ行こうって思ってたはずなのにすっかり忘れてたのって、忙しかったことはもちろんあるんだけど、たぶんそれ以上に。

 

退屈を紛らわせるためのなにかをせずに良くって、ただめんどくさがりながらも子供……中学生の相手って言うかお世話を楽しんですらいたからなのかもな。

 

めんどくさいから続かなかったけど、立ちっぱもやだし不特定多数の人を相手にするのもやだったからってバイト先を学習塾とかにしてはいたけど……そもそも僕って子供の面倒見るのが好きだったのかもな。

 

もちろんにやらしい感情なんて芽生えないから純粋に。

人じゃなくても動物の世話でも良いのかもね。

 

今の体じゃむしろ僕がお世話される側って思ってたけど、一応1回やったっていうアドバンテージで宿題とか教えられたしな。

 

そうだよなぁ、今の僕はお世話される側なんだよなぁ……。

 

下を向くとふりふりしてる僕の横髪。

背中を丸めると体の前の方にふりって来る後ろ髪。

 

……子供だよなぁ。

 

この体じゃ、保護者同伴でもなければ泊まりがけの旅行なんてどういったってムリだろうな。

 

だから日帰りで人が少なそうで、でも幼女の体力でもどうにか行けそうなここを適当なガイドブック頼りに来ているわけだ。

 

子供が1人で来ていてもおかしくはない場所。

この時期だから「自由研究の写真が足りなくて……」で乗り切れそうな範囲。

 

電車とかバス、今日は使わないけど僕の大好きなロープウェーとか登山鉄道とか飛行機とか。

いちいち払うからいつの間にかすぐにけっこうなお値段になる観光施設とかの入場料とかまでほとんどぜーんぶ半額近くになる体。

 

50%オフ。

なんて魅力的な数字なんだろう。

 

窮屈な生活の代償がこれっぽっちじゃ悲しいけどしょうがないものはしょうがない。

安いって言うので我慢しておこう、うん。

 

安さも半端じゃ無いもんな。

 

このくらいの距離だったら乗り放題の切符とか買うのがばからしくなるくらいだし。

どうにかして宿泊できるようにさえなればいくらでも好きなところに行けそうな気までしてくる。

 

……そんな方法あるのかな。

 

この見た目で誰にも気にされずに……なんて。

 

ただでさえ声かけられやすい女の子っていう生き物になってるのにな。

 

「ふぅ」

 

お水の冷たい感覚がお腹の真ん中まですとんと落ちる。

 

思っていたよりもずっと疲れていない僕。

 

金銭的なことで嬉しかったからか、それとも散歩とか思い出したらしていた筋トレとか、特に最近あっちこっち連れ回されて体力がついたからかは分からない。

 

でも緩いとはいってもそこそこの山道なのに、息がちょっと上がるくらいの運動をしていてもそこまで疲れを感じない。

 

ちょっとは鍛えられてるんだったら嬉しいな。

 

そういえば「夏休みもおしまいだから!」ってかがりに1日かけて連れ回されかけた日があったんだけど、そのときも夕方に帰ってすぐ眠くなったりしなかったもんな。

 

これからはだんだんと涼しくなるだろうし、こうやって外に出て体を動かして背が伸びるように祈ろう。

 

半年もずっと狭い家の中でうじうじしてたんだ。

こんなときくらい頂上の展望台からのすばらしい景色というやつを……◇◇◇◆◆◆。

 

ん?

 

なんか変な感じ。

 

なんだろ。

 

おしっこ?

 

「…………………………………………」

 

……地図でしっかりトイレの場所覚えておこう……。

こんなところで漏らして大人の世話になったらどうなるかわからないもん。

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