【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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23話 山/山  3/4

◇       ◆◆

 

「ん――……」

 

ちょっと疲れ出てるのかもなぁ……なんかぼーとするし。

 

思えばこの体になってここまで遠出したことなかったんだから気づかれもしてるのかも。

でも中途半端なとこだし登り切っちゃってから休もう。

 

良いところに立っていた案内標識と駅でもらった地図を見比べる。

 

もうここまで登ったんだよなって再確認。

地図を見ながらだしGPSで迷わないようにしてるけど念のため。

 

ほら、道って何気なく二股とかになってることあるし?

 

話しかけられるせいもあって休み休み来たせいかかなり遅いペースだけど、気がつけばもう◇◆……8合目。

 

「?」

 

……8合目だよな?

うん。

 

お昼前には山頂に着いちゃうからお昼のタイミングが微妙かな。

 

ん?

 

予定より遅く移動してるのに予定より早く着いちゃう?

 

なんでだ?

 

「??」

 

……やばい、本格的に疲れてるっぽい。

 

あー、精神的な疲労ってちょっと経ってから出てくるもんなぁ。

忘れた頃に風邪引いたりしてそれが分かるって言う。

 

けどどのくらいお腹減ってるかな、今の僕。

 

おもむろにお腹を触ってみる。

 

凹んでいる。

あばらがごつごつしている。

 

「………………………………」

 

あんまり空いてないっぽい。

持ってきた水とか手渡された和菓子とかちょくちょく口に入れていたし……計算ミスだ。

 

僕のお腹は幼女仕様だけどそれを処理する能力は男仕様なわけで、つまり甘いものだってあんまり食べられないんだ。

 

なんか人のお腹って本当に別腹あるらしいね。

あるって言うより「デザートだ!」って思うと胃がめこっと拡張するらしい。

 

人体ってすごいね。

 

男が幼女になるくらいだもんな。

しかも脳みそも小さくなって記憶と人格はそのままって言うご都合主義。

 

いや、これで人格変わって記憶がなくなったりしてたらもはや別人だけども……。

 

おーこわ。

 

なんにもないところだからって考えすぎるのも困るもの。

 

しょうがない、もっかいガイドブック読み込もう。

 

お腹を空かせるためにうろうろしているとガイドブックに乗ってないようなちょっとした見所とか見つかることって割とあるしな。

 

なんだかいい感じの写真スポットとかおみやげ屋とか。

 

時間を潰すために細かいコラムに載ってるような微妙な場所へ遠回りして時間を稼ぐ作戦。

 

まぁ写真映えはするから楽しいしな。

見せる相手は居ないからデータに収めて満足するだけなんだけども。

 

そうでなくても適当にぼーっと座っているだけで景色を堪能しているだけで時間つぶすの得意だし。

 

 ◆◆◆

 ◇      ◆  ◆

 

「………………………………着いたぁー」

 

あっちこっちに寄り道をして結構疲れたけどおかげでちょうど良い時間と疲れ具合。

 

ぐーっと伸びをして気持ちがいい。

 

カメラの過重量で凝るのを通り越して痛い肩とか首とかをスジを痛めないように気をつけながら伸ばす。

 

この歳で首回りがつったりはしないだろうけど念のため。

 

そうして上を見上げると一面を遮るものがない水色に近い青空。

真上をずっと見ていると空に落ちそうなくらい。

 

ひゅんっとする。

 

ひゅんってしてじわっとなったから慌てて体を起こす。

……危ない危ない、うっかりで漏らしちゃうところだった。

 

女の体の膀胱の緩さを甘く見てはいけない。

 

いかにも整備されたばっかりの観光地って感じのきれいな地面とか、なのに古くさい感じのお店とか……そういうものが所狭しと、けど柵の先が空中で開放感のある高台。

 

さっきまでときどき見えていたような、確かにすごいけど微妙に木とかがじゃまだったり視野が狭かったりするような、そういう限定された感じの景色とは違う感じのいわゆる展望台。

 

もう半年以上ぶり……いや、冬休みは温泉しか行かなかったから実質1年ぶりになるのか、こういうところに来るのって。

 

「ぱしゃぱしゃ」

 

とりあえず写真を何枚か撮ってっと。

 

こうすることで周りで「あの子どうしたのかしら……声かけてあげた方が良いかしら?」とか「親がいないみたいだけど……もしかして家出……?」っていう不安を払拭できるんだ。

 

こういう「らしさ」って大切。

 

こんな見た目でもちゃんとした登山的なカッコしてでかいカメラ構えてたら「そういうもんか」って思ってもらえるんだ。

 

人ってちょろいよね。

 

でも……うん、やっぱり高いところからの眺めって良いな。

見ていてすっきりするし、もやもやがぜんぶ吹き飛ぶし。

 

どんな人だってこうしてぐるーっと広い景色を眺めていたら悩みなんて……少なくともそのあいだだけはなくなるはず。

 

そう思うくらいに広い景色って言うのはなんだか好き。

 

今日はすっきりと雲がちょっとだけ浮かんでいて逆にいい感じの青空だし、けど空気は澄んでいるみたいで遠くまでがはっきりと……平野のところは地平線じゃないけど、視力の限界まで見えているし。

 

カメラのレンズに頼ればそれこそちっこい家まで1軒1軒とがはっきりくっきり見えるし。

昔からある観光地ってコイン式の望遠鏡あるけどそれを使うまでもない。

 

この身長じゃのぞき込めないけど。

 

それにしても……遠いところまで見えすぎて気持ち悪い……なんだか見えすぎじゃない……?

 

近眼とかまで完璧に治っているデメリットなのかもしれない。

 

目そのものが新しくなったって言えるくらいだもんな。

何をどうやったらこうなるのかは魔法さんしか知らない。

 

その代わりというのはおかしいけど、暗いのが見やすくなった代わりに明るいのはちょっとだけ苦手になっている。

 

調べてみたら目の色素の関係だとかなんだとか。

だから洋画とか、暗い画面が多かったりみんなサングラスしてたりだとからしいね。

 

まー、色素ほんっと薄いからなぁ。

目と髪の毛とまつげとお肌。

 

……いつもかがりに言い含められるし、紫外線対策……がんばらないといけないのかも。

 

 

 

 

柵のあいだから写真を数歩ごとに撮ったりして満足した。

やっぱりひとりって良いよね。

 

結構広いからそのへんをうろうろしてみたりして満足した頃には日の光でじりじりと疲れがにじみはじめる。

僕はそこからさらに高台へと急な階段を2、3分かけて昇って、とうとう本物のてっぺんへ。

 

木とか以外には鉄塔くらいしか高いもののない正真正銘の山の頂上だ。

 

こういうのって来ようと思わないと来ることがないからいつでも新鮮。

 

天気が悪いと残念だけど。

旅行先で雨雲に入っちゃったときは目の前すら見えなかったっけ。

 

それにしてもよかった。

 

僕にとってはすごく幸運なことに、ガイドブックの一面に載っていた山のてっぺんの見晴らしがよくってほぼ360℃パノラマなこの展望台にはたまたま誰もいない様子だ。

 

真ん中にはちゃんとテーブルとイスがいくつかあって、風の音とその風に乗って飛んでくるはるか遠くの車の音とか電車の音とか以外にはなんにもない、がらんどうの空間。

 

柵にもたれて下まで見ていてもいいしベンチに座って遠くまで見ていてもよくって、テーブルにもたれて遠くの山とか空をぼーっと見ていてもいいっていう特等席。

 

その特等席にたったひとりだけでいられるっていう幸福だ。

家の中とはまた違った静けさが心地良い。

 

まぁ1年ぶりだし幸先がいいといえばそういうことになるのかな?

この秋はあの子たちの面倒以外でも出かけようかな。

 

こうして体を動かして遠くにいるときの僕はアクティブだ。

だからまとめて旅行とかするんだろうな。

 

ニートって別にじめじめしたのが好きなんじゃない。

ただめんどくさいからニートしてるだけで、動かざるを得ない場所に来れば来たでそれなりに楽しめるんだ。

 

あ、さすがに引きこもってるときは違うけども。

あれは心の休息が必要な時間だからじめじめしてるだけなんだもんな。

 

経験者な僕、現ニートは語る。

 

「よっと」

 

テーブルにがさっとビニール袋とリュックを置いてぼすっとイスに腰を下ろしため息をひとつ。

 

「……………………………………………………………………………………」

 

なにも考えないで目だけを開いたままにして体の感覚のぜんぶを研ぎ澄ませてみた。

 

とってもよかった。

 

やっぱり人間は自然の中じゃないとおかしくなるのかも。

こういうところに来るとそういう感傷に浸るよね。

 

家から離れて知らない人とたくさん話して、まったく知らないところをときどき考えることも忘れながら懸命に体を動かして終点までたどり着いて……たったのこれだけで僕の中のなにかが少しだけ楽になった気がするんだ。

 

もっと早く来れば……いや、中学生たちの世話があったか。

その前は家から出ることそのものが慣れていなかったぶん今よりずーっと大変だったししょうがない。

 

魔法さんとご近所の目が恐ろしかったな。

あのときのあれこれも、今になるともはや懐かしい感じだ。

 

だけど思ってみれば外で完全にひとりになってこれだけ……たったの4、5時間だけど……これだけの時間を過ごしているのは下手するとっていうかたぶん、この体……幼女になってから初めてかも?

 

前はよく時間とお金に任せてふらふらとしていたのになぁ。

放浪癖ってやつ?

 

まぁ前はともかく春からはご近所の目、とりわけお隣さんの目を避けるためにほぼほぼ家にいてきのこみたいになってるし、駅前への買い物とか運動を兼ねてしていた散歩とかだってせいぜいが1、2時間だし。

 

そもそもそれ以上外にいると体がだるくなって眠くなってくるっていうどうしようもない体力のなさってのもあったしなぁ。

 

本当に幼女でさえ無ければって思う。

ほら、こうやってベンチで脚がぷらぷらできない程度の身長だったらとかさぁ……。

 

でも忙しくなかったわけじゃないしむしろ忙しかったんだ。

 

梅雨が明けたくらいからはどうしても出なきゃってとき以外中学生の誰か……そういやはじめはゆりかとかがりしかいなかったんだっけ……に呼び出されて話をさせられて着替えさせられたりして。

 

外に出なかったとしても、家の中でほとんど一日中メッセージが飛んできていてほっといたら未読が何件もたまってるって具合だったしなぁ。

 

あれが女子っていう生き物のコミュニケーション依存症気味な、男の中でも特に連絡とかめんどくさがる僕にとっては強烈な情報量だったもんな。

 

あれだけ文字を流してくるくらいだったら電話で話していたほうがよっぽど楽だって思ったりもしたけど、それだと今度は何時間でも拘束されそうだったし。

 

僕のことながら律儀過ぎるかもだけどNOって言えないんだからしょうがない。

めんどくさいだけだしな。

 

だけどその夏休みも終わったんだ。

僕は自由なんだ。

 

結局ここまで来るまで年下に見られることはあっても子ども用の切符とか買っても見とがめられることがなかったんだし、今度からはもう少し多めに……それこそ体力作りと気分転換を兼ねてもっと頻繁にこうして遠出したほうがいいかもな。

 

中学生未満な今のうちにできること、しておきたいしな。

 

交通費が半分になるって地味に嬉しいし食費も半分だもんな。

まぁ泊まりじゃなければたいした金額じゃないからあんまり意味はないんだけど……。

 

でもこうして黙ってひとりで静かに感傷に浸るのがいいんだから絶対に中学生たちに悟られないようにしないとな。

 

最低でもくるんさんだけは。

彼女だけにはなにがあってもだ。

 

振り回されるのは想像なんかしなくってもかんたんに再現できちゃうくらいだし。

 

「………………………………」

 

それにしても、こうしてふらっと外に出て目的地と宿泊先……は今は必要ないけど……だけを決めて、あとはガイドブックで予習する以外は現地の駅とかで地図をもらって。

 

適当な人に聞いてよさそうなところを回ってへとへとになったころに温泉……入りたいなぁ……に浸かって、おいしいものを食べてお酒を飲んで寝て、起きたら朝風呂に入ってから次はどうしようか決める。

 

そういう僕の日常。

 

家でじめじめし続けてたまに乾燥するために外に出る感じのあの生活が理想なんだ。

 

それを思うととっても懐かしくなって◇◇◇

◇◇◇◆◆◆

 

◇◇◇◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇◇

 

 

「……んぁ?」

 

……ばかみたいに口を開けてぼーっとしたらしい。

 

時計を見たら30分くらい進んでたからちょっとうたた寝でもしてたんだろう。

でもただのベンチだからちょっと腰というかおしりが痛い。

 

肉付きが悪すぎるからなぁ……女の子のおしりはもっと弾力があって柔らかくないと行けないんだ。

 

とっても癒やされていて心地いいんだけど、せっかくなら帰りに旅館に荷物を置いて露天風呂とか入ったりしたら気持ちいいんだろうなぁ……無理だけど。

 

もちろん天然温泉、できればかけ流しが良いんだけど。

温泉ってお湯に含まれている成分のおかげでいろいろと体にいいらしいし。

 

特にどこも……加齢とニートっていう不健康な生活にのせいで常識的な体の不調以外にはこれといって悪いところもなかったんだけど、それでも温泉に入るとしばらく体の調子、よかった気がするし……子供にゃ分かんない娯楽ってやつだ。

 

ともかく露天風呂に入りたい気持ちになってきた。

あの解放感とか涼しさとか、たまに吹いてくる風とかがいいんだ。

 

屋内はいろいろと籠もるからダメ。

入って体じゅうから熱いのを感じてのぼせてきたら上がるっていうのをしたい。

 

「いいなぁ……」

 

でもなぁ……。

 

視線を落として今の肉体を見る。

 

両手をにぎにぎする。

 

ぜんぜん節がなくって肉のほうが多くって指自体が短くって血管とかが浮いていない両手。

 

幼女の手のひらとちっこい体。

宙ぶらりんの足の裏のせいでぶらぶらとできてしまう脚がはっきりと見えてしまう。

 

もちろん脚のあいだはすっきりとしていて肉体的には女で。

 

「………………………………」

 

常識と勇気。

 

常識がジャマをするからためらって勇気がないから赤系統ののれんをくぐれなくって、女湯には入れない。

 

かといって男湯だとそれはそれで……たぶん髪の毛だけでじろじろと見られるだろうし、いくら元同性だっていっても男湯にも抵抗がある。

 

そもそも男のときでも温泉とか他人の存在が嫌だったもんな。

 

だって人に裸見られるんだよ……?

 

ありえないでしょ……?

 

温泉によっては7才から10才くらいまで男女どっちでもOKだったりするから、あとは僕の性別を僕が選ぶだけなんだけどまだ選べない。

 

あいかわらず煮え切らない。

常識と羞恥心が抵抗するんだ。

 

やっぱり男湯でも女湯でも温泉、だめかなぁ。

 

僕は決められないっていうただのいくじなしなんだ。

 

もうちょっと頭の出来が残念だったり本能に忠実だったりすれば女湯に意気揚々と入れたんだろうけど、こういうのが僕だもんな。

 

とっくに諦めてるし、なんならこれが好きまであるもん。

 

常識的な範囲で自分のことが好きって強いよね。

僕はそう思う。

 

そうじゃなかったら何年も「お仕事? 特にありません」なんて言えないよね。

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