【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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23話 山/山  4/4

 

◆◇◆◆◆◆◆◆

 

「♪」

 

僕は感情の起伏に乏しい方だけど、僕だって嬉しいときくらいある。

 

たくさん寝たときとか美味しいもの食べたときとか美味しいお酒呑んだときとか。

だから今もなんとなくで嬉しいんだ。

 

いつものとおりにどんなイスに座っても足がつかないしテーブルだって高すぎる環境でも気分は上々。

 

だから僕はこうして膝の上にお弁当を広げて食べているわけだ。

飲み物だっていちいち腕を上げるのがめんどうだからふとももの横に置いているし。

 

これが僕にとってのベストポジション。

つまりは地べたに座ってもたいして変わらないということになるんだけど体がちっちゃいからしょうがない。

 

世の中の子供はどうやってるんだろうなー。

もっとちっこいのから大きくなってくるから気にしないんだろうなー。

 

僕みたいに大人から子供になるなんてレア中のレアだもんなー。

 

そんなことを考えながらもぐもぐもぐもぐと口を動かす。

 

この漬物おいしいなぁ。

 

総合的になかなかにおいしい味付けの小さいお弁当。

 

やっぱり旅行の醍醐味はお弁当だな。

お店で名物を食べるのとはまた違った良さがある。

 

どうして外で食べるとこんなにおいしく感じられるんだろうね?

不思議。

 

まぁ遠足のときのご飯とか美味しかった覚えがあるしそんなもんなんだろうね。

 

「ずず」

 

ペットボトルからお茶をすすって、ふたたびふとももの上のお弁当箱を持ち上げる。

 

このお弁当が包まれていた紙袋には、この山をバックによくわからないゆるキャラとやらが描かれている。

それを見るともなしに見ながら食べるだけの時間。

 

麓の駅で、荷物にはなるんだけど万が一で頂上でやってるはずのレストランが閉まっていたりしたら困るから……って念のために買ってきたお弁当。

 

山菜がメインで量が少なくて僕好みな感じだ。

お酒を呑む都合上胃に優しいモノを選ぶ習性が幼女になっても継続している感じ。

 

いちばん小さいやつなのにあいかわらずの胃袋のせいで食べ切れなさそうなのは残念。

 

まぁレストランはやっているだろうって思っていたから持って帰って家で食べるつもりだったし、食べきれずに余ったのは予定通りにお持ち帰りすればいい。

 

そう思って念のためで買ったんだけど……まさかほんとうにレストランが軒並みに休みだとは思わなかった。

張り紙を見る限り今朝に何かがあったらしく臨時休業だとのことで。

 

他のお店も足並みを揃えたのか平日だっていうのにほとんど閉まっていたし。

観光地ってそういうときあるよね。

 

まぁかき入れ時じゃなくなったしな、休みたくもなるか。

その気持ちは僕だからこそよくわかる。

 

ガイドブックでもネットでも「今日はやっている」っていうからバスで何十分かけて行ったら「今日はお休み」な看板なんて数え切れないほどだったから慣れてる。

 

適当に書いたってわかる張り紙がドアとかシャッターとかに貼ってあるときのがっかりといったらもうねぇ……あのころは若かった。

 

今はもっと幼いけど精神的には成熟した感じ。

 

「………………………………」

 

じっと下を向いていたらしい顔を上げると見渡す限りの田園と山の風景。

 

「もむもむ」

 

こうして遠くに広がる景色を眺めながら食べるのは「知らないところへ旅行へ来ているんだ」って実感できるから好き。

 

でもなぁ。

 

これで軽く1杯……1杯だけで良いからお酒とかあったら最高なんだろうな――……。

 

前だったらそのへんのお土産屋とかで適当な地酒ってのを買えたのに、今は休みじゃなかったとしても買えないっていうのが頭からすっぽり抜け落ちてた。

 

持ってくるのを忘れたから家に帰るまで手に入らないっていうのも思いついちゃってかなりのショック。

 

「………………………………ぁぁ……」

 

僕は絶望した。

 

なんてことだ。

悲しすぎる。

がっかりだ。

 

こんなことがあって良いのか。

 

なんで僕はそんなことを今……取り返しのつかない失態をわざわざ思いついちゃったんだろう。

 

「おさけ……おさけ」

 

両手が震える。

 

お弁当箱を落とさないようにって意識するので精いっぱいだ。

 

「ああ」

 

お酒。

アルコール。

 

「……すんっ」

 

まぁでもどうせダメだからいいや。

 

僕は諦めが良いっていう長所を備えているんだ。

 

大体のことなら諦められるんだ。

目の前でバスが行っちゃっても次が2時間後くらいなら許せちゃうんだ。

 

旅先で次の便が6時間後とか次の日とかを何回か経験したら、人って大体のことは許せるようになる。

 

それにお酒を1杯くらい飲んだって……どういう原理か幼女になっても肝臓さんのスペックはおんなじらしく顔色とか変わったりはしないんだけど、でも万が一にでも誰かに見られて見とがめられたらまずいしな。

 

水筒とか小さいペットボトルに入れて持って来ていたとしたって、近くに寄られて話しかけられたら口を開いた瞬間にまき散らされるアルコール臭でばれるだろうしな。

 

にじみ出るアルコール臭は酒飲みの宿命。

 

子どもが、幼児が外でアルコールをとか……どう好意的に考えてもアウトだな、うん。

この体の出身だろう地域だってさすがにアウトのはずだしな、うん。

 

元の僕だって、そんな光景を目にしたら「虐待とかじゃ……?」って通報する気にもなるだろうし。

 

「そっか……」

 

かたかた震えてた割り箸が収まる。

 

つまりこの見た目だと……外で、旅行先でぼーっとしながら飲むっていうの、できないのかぁ……。

悲しいなぁ……。

 

子どもがお酒を手にしているどころか呑んでいるなんて言いつくろえる気がしないしなぁ。

 

叶わない夢は忘れよう。

諦めるんだ。

 

魔法さんの機嫌がよければ明日の朝、そこそこなら数年後には、……悪ければずっと外はムリか、でもまぁ家の中でなら飲めるんだし。

 

通販様々だ。

 

あぁ、でもなぁ。

 

この漬物と辛めの日本酒、合うだろうなぁ。

 

「ああ……すんっ」

 

 

◆◇◇◇◇◇ ◇◇   ◆◆◇◇ ◇ ◇  ◇◆    ◆◆ ◇ ◇ ◇◆◆◇◆◆◆  ◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆ ◆    ◆◆◆ ◆ ◆ ◆              ◆◆◆◆◆◆◆     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇

 

 

「!」

 

ぴん、と頭が認識するより先に体が反応する。

 

お酒への悲哀を感じながらやけ食いしようとして胃袋が悲鳴を上げたあたりで、遠くからコツコツって音。

 

この高台へここまで上がってくるための石の階段を杖かなにかを使いながら上がってくる音がする。

 

こつこつって音と石の階段を登るかすかな足音と話し声がゆっくり登ってくるのが、たまたまこっちに向かって吹いてきていた風のおかげで先に知ることができた感じらしい。

 

せっかくひとりぼっちで……温泉とかお酒っていう楽しみがないけどひとりぼっちというだけで至福だったのに、他人が入り込んでくる。

 

とっても残念。

ああ残念。

 

ここはてっぺんで頂上で行き止まりだったのに。

 

どれだけ急いで荷物まとめても見つかるだろうし、そのまま全力で逃げたってこの場から去るためにはあの人たちの来る方向に行くしかない。

 

だけどしょうがないよね。

ここは公共の場だもんね。

 

今がたまたま貸し切りだっただけのこと。

ほら、バスだって1時間に2本くらい往復してるみたいだし。

 

せめて僕を気にかけないようなタイプの、前の僕みたいな男の人だったりしたらいいんだけどなぁ。

 

こっちが幼女だって見るとかなりの人が……7割くらいの人が「とりあえず話しかけなきゃ!」って感じで迫ってくるからなぁ。

 

せめて他人に興味のない若い男の人でありますように。

 

祈ろう。

魔法さんにも祈っておく。

 

「ぬーん………………………………」

 

祈りは通じなかったらしく、男の人と女の人のペアらしい。

声の感じから歳は前の僕基準でも相当上みたいだし、夫婦とかかな。

 

とすれば話しかけられて話し込まれる確率がぐんと上がっちゃうな。

構ってくるタイプの人じゃないって願いたいけど、お願いなんて今叶わなかったばかりだし。

 

魔法さんでもムリかな?

ムリか。

 

「もむむむ」

 

まだ食べきっていないからすぐには離れられないけど……めんどくさくなったり不審に思われたりしたらすぐにまとめられるようにはしておいたほうがいいかも。

 

いくらお節介な人でも「構わないでください、迷惑です」って言いながら脱兎する相手を追いかけたりはしないだろうし……多分。

 

ワンアクションで席を立てるようにってリュックも脇に置いて、お弁当とお茶以外はみんなぐいぐいと詰め込んで……あ、いざってときは必要だからパーカーは出しておいてっと。

 

ゴミは……今って昔みたいにゴミ箱、あちこちにないよなぁ。

まぁ袋とかだけだしたいしてかさばったりもしないか。

 

がさがさぱりぱりぎゅうぎゅうとリュックが膨らんでいって、あとはお弁当とを詰めればいいようにしておいて。

 

「よし」

 

あ、幼女がうろついているっていう通報からの警備員さんとか職員さんとか恐ろしい公権力さんとかが来る可能性、考えておくべきだったかも。

 

それこそこういう場面で通報されてたら逃げ場ないし。

 

もう遅いけど。

 

たとえここから逃げようとしたって柵さえ越えられないからどうしようもないじゃないか。

 

今さらだけど……まぁ大丈夫だろう、きっと。

 

何の根拠も無いんだけど、今までのところ変な顔してた人いなかったしな、たぶん。

 

そんなことを思っているうちに手とか足の汗がすごいことになりつつある。

気持ち悪いからゴミに手汗を吸わせていたら誰かの頭がひとつ、ふたつ覗いてきた。

 

………………おじさんとおばさん?

 

いや、おじいさんとおばあさん?

 

うーん、外国の人の年齢ってわかりづらいからなぁ。

 

僕みたいな幼さかって思ったらあっというまに青年を通り越して成人しているし、すぐにおじさんおばさんに見えるようになるし。

 

海外とか行くと……あ、アジア圏以外でね……ほんとみんなすごく老けて見えるんだよね。

 

それ以前に外国人とか、よっぽど特徴のある顔とか髪型とかしていない限り区別もあんまりつかないものだしな。

 

そのせいで映画とか登場人物がごっちゃになってわけわかんなくなることあるくらいだし。

 

とりあえず杖をついているおじいさんと元気そうなおばあさんはお年寄りの区分でいいんだろうか……まぁこの年ごろの子供から年上に見られても怒りはしないでしょ。

 

言葉が通じない以上話し込まれないのが確実になったから緊張が抜けて一気にだるってなる。

 

ほへーっとぼーっとしていたら先に登ってきたおばあさんと目が合うけど要警戒対象じゃなくなったから安心して見ていられる。

 

あ、顔はまだおばさん止まりだ。

 

ということは夫婦みたいな距離感だしおじさんの方もただ脚が悪いだけなのかな?

 

あ、いや、じっくり見たら……今の目がいいから近視じゃないからよーく見えるおかげで……なんというかいろいろとすんごいからやっぱりお年寄りなのかな?

 

うーん。

 

まぁいいか、僕に害がない種類の人たちなんだし。

 

「もきゅもきゅ」

 

安心してお昼を食べ始める。

 

「――、――――――……。 …………! ……――、――――――――……」

「…………――――――――。 ――――――、――――――――……――?」

 

おばあさんもといおばさんが僕をじっと見ていたと思ったら、ようやく登ってきたおじさんに話しかけている。

 

メガネだったら顔が見えないくらいの距離なんだし、そもそも外国語なんだろうから近くにいたってきっとなに言ってるのかわかんないだろうけど、風向きのせいか声とイントネーションだけは漂ってくる。

 

身振り大きいしな。

 

「…………………………………………」

 

……あぁいう年代の人たちって指とか指すよなぁ……別にいいけどさぁ……。

 

きっと僕が珍しいんだろうし。

 

あれ、もしかして外国繋がりで話しかけられる?

 

いや、僕が聞き取れないってすればそうそうに諦めてくれるだろう、きっと。

こっちで育った子なら母国語を話せないっていうのけっこういるらしいし。

 

「……………………………………――?」

「――――――――。 ――、――――――――。 ――――――――………………―――――――、――?」

 

階段を上ったところで話し込みはじめた様子。

 

ん、山椒が辛い。

 

でも杖使っていてもやっぱ外国の人は違うよなぁ。

しゃきっとしてるっていうか筋肉の量というか、そもそも骨格からして強そうだし。

 

凄まれたら僕なんかひとたまりもないだろう……あ、いや、僕だって見た目だけなら何十年か後にこの人たちと同じような感じになるのかな?

 

成長できたら。

成長して老いてきたら。

 

まぁでもこの人たちアスリートとかだったのかもしれないし。

だって肩周りとかふとももとか明らかに筋肉って感じの盛り上がりだしな。

 

あっちの人たちって体のラインが出るぴちっとした服、好きだよなぁ。

この人たちは映画にでも出てきそうな体つきだけど、ぷよぷよしていても平気そうな人たちたまに見かけるし。

 

これが価値観というか文化の違いってやつなのかな?

いっつもだぼっとした服で身を隠している僕が言えたことじゃないんだけどさ。

 

とまぁ、どうでもいいようなことを考えなながらちらちらと見ていたけど、特に話しかけてくるっていうかこっちに来る気配がないし。

 

体力があるから登ってきて景色見て満足してすぐに降りちゃうのかな?

僕でも登れたんだし、脚が悪かったりお年寄りだったとしたってそこまで大変な山じゃないんだしな。

 

いつものクセでまんべんなく均等に食べたお弁当の中身を見下ろす。

 

む、このおいしい漬物……あ、惣菜としても売っていたし帰りに買っていこうかな。

漬物とかってあるだけでしばらくご飯だけ炊けばご飯になるから楽だよね。

 

あの子たち相手で外食にも飽きたし、当分は家でご飯プラスなにかって感じにしたかったからちょうど良い感じ。

 

「♪」

 

口の中にいい感じのピリ辛が伝わってきてご機嫌。

 

僕はグルメなんだ。

なまじ自炊生活が長いのと、あっちこっちに旅行して地元の料理を食べたおかげで意外と舌が……。

 

「………………………………宜しいですかな、そちらのお嬢さん?」

「ほへ?」

 

想像もしていなかった感じに声をかけられてつい釣られて顔を上げると、ご年配たちが僕のまん前に……いや、上に、ふたり揃ってそびえていた。

 

あれぇ……今のすごく低い声もしかしてこのおじいさん?

下から見上げるとすごい迫力。

 

怖い。

 

さっきは気がつかなかったけどなんだかごつい眼帯もしているし……退役した軍人さんとかかな?

 

すごい。

格好いい。

 

映画とかじゃない現実で初めて見た…………じゃなくって。

 

あれ?

 

こっちの言葉、話してる?

 

なんで?

 

「はて。 親御さんや……引率の方はどうされましたかな? 儂たちは今登ってきたところなのだがそれらしき方たちは……目の届く範囲でお見かけしなかったのだが?」

 

吹き替え映画みたいな話し方と声……バリトンボイスっていうんだっけ?

 

「どなたかとはぐれたのなら下のレストランとか……あぁ、休みみたいだったがロビー……休息室というんだったか? そこには入れるみたいだしな。 一緒に行ってあげようかい? こんなところでたったひとりで食べていたら不安だろう? そんな小さいのに」

 

そしておばさんあ、この人もなんだか顔に傷とかあっていよいよ軍人さんっぽい……っていうかなんだかマフィアとかみたい……いやさすがに失礼か、考えるだけでも。

 

ともかくおじいさん?もおばあさん?もしゃきしゃきとしていて華麗に普通に言い逃れができないくらいに言葉が通じてしまっているらしい。

 

……まぁイントネーションはちょっと違うけど、たまーにあるくらいだし。

 

見た目はともかく……圧力あるし、まぁ見た目は置いておいてこの人たち。

ここに来るまでに話しかけられたような、ごく一般的に子どもがひとりでいるのを心配しているいい人たち……人のいい人たちなんだろう。

 

「………………………………」

 

……話が長引きそうだったらスキを見て退散しよう。

 

無駄に圧力感じるし。

 

ああ、楽しかった時間……。


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