【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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24話 疑念と助言と発覚 1/3

海外だと結構あっちこっちで軍人さんを見る。

 

一目で見て分かる全身の装備に一目で見て分かる体格と威圧感。

でも銃を構えてるって言ってもなんにも悪いことしてなければ案外怖くないんだよね。

 

そんな僕だから分かる軍人さん疑惑。

口には出さないけどなんとなくそうなんじゃないかなーって思いながら見上げる。

 

ごついなー。

 

僕なんかひとひねりだろうなー。

 

こんな幼女なんてどうにでもできるだろうなぁ。

まぁそれ言ったらこの世界でこの肉体的な同世代以上の誰からでも好き勝手されちゃうんだけども。

 

世界で最弱まである疑惑。

だって幼女だもん。

 

真正面から勝つ見込みがあるのは……小学校低学年で気が弱い子だけなんだ。

 

「ほぅ………………ずいぶんとまた使い込まれておるな」

「はぁ」

 

リュックにはしまえないし、なにより偽装のためのアイテムだし……ってテーブルに置いたままだった僕のカメラを目ざとく見つけたおじいさんまたはおじいさん。

 

来るときにもいろんな人に散々触られたし「どうぞ」って言ったら手に取ってまじまじと見ている。

 

うーん……おじさんとおじいさんのあいだくらいの年齢かなぁ。

つまりは近くで見ても判別がつかないともいう。

 

どっちかはわからないけど僕的にはおじいさんのほうが近いし、そういうことにしておこう。

 

もし違ったとしても……この見た目が効いて、人によってはそう呼んだとたんにでれでれした顔になってお子ちゃま言葉で話しかけてくるから大丈夫。

 

なんでかは知らないけどすっごくちょろくなるから便利だ。

侮られるにもここまで極端だとむしろ清々しいな。

 

年齢のことはさておき、僕のごついはずのカメラを取っている手のさらにごつい拳を見るともなく見る。

 

正確には見上げている。

首が疲れる。

 

どこもぶっとくて頑丈そう。

僕なんかあっというまにちぎられそうな印象のお手々。

 

僕のを見下ろしてにぎにぎしてみる。

ぷにぷにとしている。

 

力込めすぎたら壊れそう。

 

「写真か。 君みたいな小さな子が写真を……珍しいものだ。 スマホやデジカメではなく、あえての一眼レフ。 さすがにフィルムは」

「デジタルですね。 撮り直しができませんし、フィルムは高いですし」

 

そもそもフィルムなんてまだ売ってるんだろうか?

僕の世代でももう使ったことないしなぁ。

 

「……そうか、あれはもう時代遅れか……しかしこれを持ち歩いて、自分で被写体を求めてはるばると山へ。 ううむ、渋い。 その歳で実にいい趣味をしている」

 

ことりと元の場所に置かれるカメラ。

 

「それにしてもその歳で写真撮影のためにたったのひとりで遠出とは……行動力があるというのかな? ずいぶん慣れているみたいで堂々としている。 良い子だ」

「えぇ、まぁ」

 

どんな返事したらいいんだろう。

分かんないときはあいまいにしておくのが秘訣。

 

「良い子だ」とか映画とかドラマでしか聞いたことないセリフ言ってきたのはおばあさんの方。

 

やっぱりちょっと外国語っぽいしゃべり方だって感じる。

お仕事柄なのかちょっと硬い感じの言い回しだし、話し方も硬い感じ。

 

なんていうか……やっぱり外国語って感じ?

 

声も大きいわけじゃないのに大きく感じるし、体が大きいからか威圧感まで感じる。

 

端的に言って怖い。

見た目も雰囲気もこの人たちそのものが怖い。

 

僕、昔っからこういう人たち苦手。

なんていうか萎縮しちゃうんだよな。

 

この人たちほどじゃなくっても筋肉質でがしっとした体格で声が大きくて押しが強い人って苦手なんだ。

 

もちろん相手の人は僕をどうこうって思っていないんだろうけど、僕からすると肉食獣のすぐそばにいるような気持ちに本能としてなるんだからしょうがない。

 

これが根っからの草食系だ。

きっと前世はシマウマなんかだろう。

 

誰にも見つからずに仲間と静かに草を食べて生きるんだ。

 

あるいはダンゴムシみたいにじめっとしたところで一生を過ごす。

 

そういう人生って良いよね。

 

「反対側の席。 いいかね? 私たち年寄りは話し相手がいないと退屈でね」

「…………………………………………はい」

「済まないね。 嫌だったらいつでも言ってくれ」

 

イヤだけど、こういうのがイヤっていう人種は至近距離でイヤって言えないんだよなぁ。

 

そういうのって分からないんだろうなぁ。

 

どうせ理解はされまい。

草食系だけの「分かるー」だ。

 

同族だけがわかってくれたら満足だ。

 

でも話したいからって言っても杖をつきながら座ろうとして中腰で言うのは卑怯だと思う。

おじいさんは別になにも考えていないんだろうけど、これじゃ断れないに決まってるじゃん。

 

僕が本物の幼女だったら気負わずに「やです」って言えるんだけど中身は大人だしなぁ。

 

テーブルはいくつも他にあるし誰ひとりとしていなくってがらがらなんだから、そっちに行ってくれたらよかったのに。

 

そのためにわざわざ、わざわざ階段から見ていちばんすみっこのテーブルを選んだのに。

 

これだからこの見た目は困るんだ。

ムダに興味とか庇護欲とかを刺激するらしいこの幼女の体は。

 

あー、ちやほやされて喜べる性格だったら良かったのになー。

なんか損な性格で生まれちゃったんだからしょうがないか。

 

 

 

 

「けぷ」

 

会話を少しでも遅らせるためにって頬張っていたお弁当は、結局食べきれなかった。

小数点以下をちみちみと食べているけどどう考えてもこの先は今はムリ。

 

なんなら既に眠いまである。

子供の体はこういうものだ。

 

食べ残しは3割ほどといったところ。

残りは家でお酒と一緒に食べられそうだからそれだけを楽しみにしておこう。

 

その代わりに今の苦境を耐えないとな。

いや別に苦境ってほどじゃないけど……あの子たちに比べたら。

 

苦境、または地獄とは……着せ替え人形になっている状況を指すんだ。

好き勝手に「かわいくされる」状況を言うんだから。

 

テーブルを挟んだ向こう側でこっちを向きながら座っているおじいさんとおばあさんはムダに圧がある。

 

まるで面接だ。

 

僕はバイト以外で面接受けたことないけど。

面接が嫌だから働かなかったまであるかも。

 

けど自然な感じで話し始めたらそこまでのことはなくって、むしろ話し好きなお年寄りってだけだったから今は怖くない。

見た目にさえ慣れれば案外いけるもんだな。

 

世話好きなおばさんとかに話しかけられるいつもどおりに、僕のことを聞くのもそこそこに勝手に自分の身の上話をはじめられたからふんふん聞いてれば良くって楽。

 

これまもた例のごとくおばあさんが一方的に話していておじいさんのほうは相づちをうつ程度なのは、世界のどこでも共通らしい。

 

聞かされてしまったところによると、この人たちは長いこと……ニュアンス的に少なくとも僕が生まれる前からずっとこっちに住んでいたらしい。

 

だから外国の人なのにほとんど違和感のない言葉づかいとかなんだろう……まあ語彙は硬いけど、そういう人もいなくはないしな。

 

むしろ強い方言に比べたら聞き取りやすいまであるし。

もっともこのごっつい見た目のせいで台なしになっているけど。

 

さてさて見た目は置いておいて、なんでも最近引退……なにをだろう……したばっかりで時間が余って仕方がないんだとか。

いくら長く住んでいようと見た目が明らかに違うからどこへ行ってもヨソ者の腫れものの外国人扱いで困るんだとか愚痴られた。

 

そう……。

 

そんな感想しか浮かばない。

 

でも「見た目が明らかに違うんだから仕方がないけどねぇ」って言っていたのには心から同意する。

僕もこの体になってからうんざりするほどだもんな。

 

そんな感じで他愛もない、ちょっとだけ外国要素は混じるものの他の人からもよく聞くような話が続いていて拍子抜けしたからかいつの間にかにオートでの会話が成り立っている。

 

人って話してると気持ちよくなる生き物。

 

だから僕はさっきからペースを極端に落としていつものごとくに聞き手に回って、一口を少なめにして咀嚼回数を増やして時間を稼ぐ方向に進んだんだ。

 

おかげでお腹いっぱい過ぎるんだけど。

 

もう10分以上は話し続けているんだし、普通の人ならそろそろと話すのに満足しはじめる感じだしさっさと席を立ってほしいって願っている。

 

まだかなぁ。

 

なんとなくで脚をぷらぷら。

 

「そのカメラも随分と使い込まれているが、君のものかね?」

「…………んぐ。 いえ、これは兄のものを譲り受けたんです」

「ほう、お兄さんがいるのかね」

 

僕自身のことだけどね。

でもこう毎回架空の僕を語っていたらまるで僕がもうひとり居る感覚になってくるよね。

 

「だがそのお兄さんは君のお出かけには着いてきてくれないのかな? いくらここが平和な国だとはいえ、ご家族は君がたったひとりで丸1日……心配されないのかね?」

「はい、僕がひとりが好きなのを知っているので」

 

このへんはもう今日だけで10回くらいした会話だ。

さすがに考えなくってもすらすらと出てくる。

 

定型句って大事。

定型句さえあれば口下手でもなんとか乗り切れるんだ。

 

「それにけっこう頻繁に出かけるので、僕も家族もこういうのに慣れていますし。 いざとなったら周りを頼ります。 いちおうは人のあまり通らないようなところには行きませんし」

「そうかね。 その歳で遠出とは、儂らから見ると心配でしかたないのだが……」

 

お兄さん=僕なんだし、あまり突っ込まれないようあくまでもカメラをもらっただけって感じで興味を逸らしておくのも今日で何回目。

 

「ずず」

 

お箸を置いてお茶をすするとご老人たちもひと息。

 

……まだまだ話したりないらしい。

普通なら「じゃあそろそろ……」ってしてくれるのになぁ。

 

この人たちは手強い。

 

さっきまでみたいに立ち話じゃないから、相手もまた行き先があるっていうのを利用した方法が使えないし、そもそもここは終点だ。

 

それに来てからいちどもスマホとかも触らず、近くにある時計とかもぜんぜん見る気配がないのから時間には追われていないのがわかる。

 

しかも何かを食べる気配もない。

 

つまりはヒマを持て余したご老人。

手強いに決まっている。

 

……さらに言えば今の僕は彼らの孫くらいの見た目……文字通り年齢も容姿もだから興味を強く引くのはムリもないのか。

 

さあ困った。

 

さっきまでは口を動かすぶんお腹がいっぱいになっていたのに、時間が経ちすぎて逆にお腹に余裕が出てきちゃって、お腹がいっぱいなはずなのにもう少し食べられそうで、だから動けない。

 

どっちにしろすぐには席を立ついいきっかけが見当たらなさそうだ。

 

「……君は箸を器用に使うんだね。 私たちも慣れてはいるんだが、米粒なんて狙って拾うのはどうも苦手で」

「そうですか」

 

いちいち食べるたびにすみっこのほうにご飯をまとめるっていうクセが気になったのか、またどうでもいいことを言い出すおばあさん。

 

こういう悪意のない相手って無下にし辛いしなぁ。

 

単純に話がしたくって、お年寄りで……いや、外国人だから僕たちにとっては老けて見えるんだっけ……どっちにカテゴライズしたらいいのかは微妙なんだけど。

 

いずれにしても隠居したご年配って印象だからどうにも苦手だ。

子どもと年寄りだけは邪険にしようとしてもできないのが人ってもの。

 

これならまだ適当に相手をしていてもぜんぜん気にしない子どもとかのほうがマシなくらい……いやあのエネルギーに当てられるととっても疲れるから、それもなぁ……?

 

とにもかくにもこの小さい口と胃袋、そのせいでちびっとつつじゃないと食欲が負けるほどに弱い体が悪い。

 

なのに食べようと思えば食べられそうっていうもはやわけわかんない状態になってきた。

 

きっとストレスだろう。

そうじゃなければこの人たちが登ってきたタイミングでぱぱっとまとめてさよならできたのに。

 

その敏捷性も足りないのか。

鍛えてこれだもんなぁ……。

 

いろいろ課題のできた遠征だったな。

まだ終わってないけど。

 

「ふむ……」

 

どうでもいいことを話題にするために「撮った写真とかカメラの画面も見てもいいですよ」って言ったからカメラの中身を手持ち無沙汰にぱらぱらと見ていたおじいさんが顔を上げる。

 

「たしかにここからの景色はいいね。 儂らが来たときには見る余裕もなかったが、下の木々のあいだからの眺めよりはずっといい様だしな。 いや、いいものを見せてもらった。 これなら儂の携帯でも良い画が撮れそうだ。 帰りにでも試してみよう」

 

おじいさんは羽織っていたベスト……釣りをする人とかがよく着けていたりするあれみたいなのからスマホを取り出す。

 

スマホ。

 

お年寄りって二極化するよなぁ。

それを携帯って言うあたり本当に何十年も住んでいた感じがする。

 

「時にお嬢さん。 ひとつ聞いていいかね?」

「なんでしょうか」

 

スマホをおばあさんに……さっきから静かになってくれて助かっている彼女に手渡したおじいさんが、片目と眼帯とで僕をじっと見つめてきた。

 

「君は…………お嬢さん…………女の子で良いのだよね?」

「へ?」

 

なんかものすごく当たり前すぎることを聞かれてフリーズする僕。

 

…………………………………………。

 

……僕、ごく自然に僕自身のこと女でしょとか思っちゃってた。

 

それに気がついてさらに思考が止まる。

 

……アイデンティティの危機が迫っている。


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