【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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24話 疑念と助言と発覚 3/3

「………………………………」

「………………………………」

 

最近の若者は打たれ弱いとか言われてるけどしょうがないじゃん。

小さいころから理不尽には怒られないんだからさ。

 

そんなことを思う。

 

こ、こんなにか弱い幼女に向かって手上げたりしないよね……?

 

その、たぶん見えなくなってるお目々と顔の傷のこと言ったってさ。

 

「………………………………」

「………………………………」

 

何かしゃべって?

 

そう思うけど続く沈黙。

 

やっぱり言わないほうがよかったのかな……事故かなんかのなんだろうし。

いやでも「なんでも言え」って言ってたし、なんだか勢いでするっと言っちゃったし……。

 

他人と接した経験が少なすぎるからどこからがダメなラインなのかが分からないんだ。

 

でもさ、言えって言ったじゃん……?

 

「………………………………」

「………………………………」

 

緊張感が漂う。

漂っているオーラ。

 

でも言っちゃったものはしょうがない。

言わなかったことになんてできないんだから。

 

それにこの人たちが子供どころか大人からも避けられるのってどう考えても……映画で出てくる悪役そのものな顔つきと特徴のせいなんだしさ?

 

悪の親玉的なポジションの。

なんだかここだけ悪の組織が出てくる洋画チックなアトモスフィアだ。

 

あ、すごい。

 

おじいさんの筋肉がなんだかもりもりっと盛り上がっている。

 

…………いきなり叩いたりはしないよね?

 

え?

怖いんだけど。

 

「………………………………………………………………なるほど。 それには思い至らなんだ……」

「は?」

 

……聞き間違いかって思った途端に一気に力を抜いてしぼみ、背もたれに寄りかかって目の前のイスがぎぎいっと悲鳴を上げている声が聞こえた気がする。

 

筋肉と骨格とで体重、きっと前の僕よりもあるんだろうし。

 

「部下……召使……使用人、いや、友人」

 

友達って言うまでにものすごく遠回りしてない?

 

「皆、長い付き合いなのだが気にするそぶりがなかったし話題にもそうそう上らない。 そうか、このせいか。 …………盲点だったな……」

「そうか、言われてみればたしかに。 もう何年もカムフラージュの化粧もするのを忘れていたな。 なるほどなるほど。 知り合いということは私の『これ』にも慣れているということで、そりゃあ反応なぞ……あるわけがないか……」

 

露骨に落ち込むふたり。

 

無くしてたって思ってた鍵とかを30分くらい必死に探して、ふと目の前にあったときの脱力感的な感じ。

 

「………………………………」

 

でも……なーんだ、怖がって損した。

 

おばあさんもイスに体重を乗せて……そろそろイスが壊れそうだけど大丈夫かな……脱力してふたりしてぶつぶつ言い合っているのを見るに、僕に対しては怒ってなかったらしい。

 

……この人たち、いやこの人たちの知り合いもみんな本気で気がついていなかったの……?

 

それとも言えなかったのか。

たぶん言えなかったんだろうな。

 

ちらちらっと出てくる言葉から推測するにこの人たちは相当偉い立場の人みたいだしな。

面と向かってこういう怒られるかもしれないこと言えないのはわかるけど。

 

でも誰も居なかったんだ。

 

僕みたいに友達が居ないわけじゃないだろうから多分怒られそうで怖かったに違いない。

きっとそうだ。

 

「ずず」

 

どうしよう。

 

怖いから逃げようとしていた相手がものすごく落ち込んでいるような、そんなレアなシチュエーションになってるんだけど。

 

「……おふたりとも、その」

 

きっと威圧感とかも気のせいだったんだろう。

たかが子供のひとことでここまで落ち込んでるんだもん。

 

よく見たら怖くなってきた。

 

「体格とか腕は仕方が無いので、服装は……町で普通の人が着ているようなカジュアル……ラフなものにして。 その、お化粧はもちろんですけど眼帯のほうは」

 

つぶらな瞳で見上げてくるおじいさんおばあさん。

 

あ、やっぱり怖いかも。

 

「子供に懐かれたいのなら……」

 

でもなんかかわいそうになったから、普段のかがりとかに習って言ってみてあげる。

 

「人ってギャップで笑ったりしますから……いっそのことウケ狙いで赤とかピンクとか……そうで無くてもかわいいキャラクターものとか……あるのかは知りませんけど……そのときだけでもつけてみるとか。 普段使いでも、髪の毛の色に合わせてもう少し明るい色にした方が良いかって……」

 

僕の言葉を聞いてごばっと起き上がるふたり。

イスさんからはさらなる悲鳴が上がっている。

 

なんていうか素のリアクションがぜんぜん違うからやっぱり外人さんだって感じる。

 

「やはり化粧か……そうしてみるよ。 厚化粧は嫌いだが若いころのようにせめてだな……」

「受け狙いという発想はなかった……! なるほど、花柄などでデコるというやつでいけそうだな……!」

 

まぁ喜んでいるみたいだし、いっか。

 

多分僕に合わせて大げさに喜んでくれてるんだろうけど悪い気しないし。

 

 

 

 

「……では、私たちはこれで」

 

ひとしきりどんなのが良いかなって話したらようやく腰を上げてくれてほっとする。

 

「お先に失礼するよ。 貴重でありがたい君からのアドバイス。 …………ほんとうに貴重な、私たちを近くで見ても逃げ出したりしない子供の……あぁいや失礼レディーから忌憚のない視点。 早速と試してみんとな」

 

レディーって言われてもぴんと来ないのは男だからなんだろうか。

脳味噌まで女の子になってたら嬉しいはずだもんね。

 

懐いてくれない親戚の子供とかに「じいじ」とか「ばあば」とかそんな風に呼んでもらいたいって聞かれて、またそこそこに適当な思いつきをいくつか話したらなんだかずいぶんとありがたがられた。

 

でも僕としてもいろいろと得るところがあったから良かったんだ。

 

とりあえずこういうデッドエンド、逃げ場のなくって他の人がいない状況で絡まれちゃうと身動きできないっていう……強すぎる善意だったり悪意を持った人を相手にするときにはまずいって身にしみて理解できたし。

 

ほらもう、気がついたら30分も経ってるし。

 

「それでは」

「はい」

 

ふたりとも帽子とリュック……あとおじいさんは杖っていう来たときの出で立ちに戻っていた。

 

「お嬢さん」

「……はい?」

 

そのまま行ってくれるのかと思ったらおばあさんからなにかをかさっと差し出され、貢ぎものをもらっていたさっきまでのクセでつい受けとっちゃってから「これなんだろう」って考える。

 

………………折りたたんだ、紙?

 

なんかやけに古風なものが僕の手に。

ここまで映画っぽいと現実感ないよね。

 

「これは相談に乗ってくれたお礼だ。 ……もし。 もし何かあったらここへ連絡するといい。 ささいなことから重大なものまで何でもだ」

「いえ、僕はそこまでのことは」

 

重いからやめて……?

 

「いいから受け取ってくれないか。 君にとっての『そこまでのこと』は、儂たちにとっては天啓にも等しいものだったのだからな」

 

こつん、と杖で主張するおじいさん。

 

いや、天啓って。

だから言い回し……。

 

「そういうことだ。 ……私たちは君が『どんな状況』にあっても手を貸す。 約束しよう」

「……あ、はい。 そういうことなら……」

 

なんか有無を言わさない感じ。

 

まぁ受け取っちゃったし、僕が紙を広げて番号……外国の人って数字の書き方独特だよなぁ……を見ているあいだにふたりはもう階段までさしかかっていた。

 

「それではな、お嬢さん! またいつか、だ! ……………………………………とりあえずは、これが似合うといつも言っておったバカどもを粛正せんとな」

「大目に見てやれ。 だが、そうだな。 これを機に服飾などもいつもの者に任せるのではなく、もう少し若い世代の…………」

「うむ」

 

風が運んできたなにやら物騒な言葉がちらりと。

 

「………………………………」

 

ほへーってしながら手元の紙をがさがさ弄ぶこと少し。

 

……なんだったんだ、あの人たち。

 

話の内容と言いあの肉食獣にがっしりとつかまれたみたいな雰囲気と言い、普通の人じゃないことだけはたしかなんだけど。

 

それこそこの前観たマフィアが出て来る映画に居たみたいな人たちだったじゃないか。

 

 

 

 

「~♪」

 

夕暮れ。

 

最近は一気に日が傾いて色づいてくるのが早くなってきた。

季節ってこういう時に感じるよね。

 

セミの声とオレンジ色の光を浴びながら、暑いんだけどもうそこまでじゃない空気を引きずりつつ家へ向かっている。

 

もうすぐ……あの角を曲がれば家でぐったりできる。

あともう少しの辛抱だ。

 

そんなことを何十回繰り返してがんばって来たけどとうとう最後の角だ。

 

肩と背中、両手、そしてそれを支えている脚で感じる、帰りに買ってきた荷物のずっしり感がつらい。

 

こっちに着いたのがまだ2時とちょっととかだったから「時間も余ったし、なんだか体力にちょっと余裕があるなー」って思ったからついついと買い物をしてきちゃったんだ。

 

昔からごくまれにある、苦手なはずの買い物とかを丸1日でもできちゃうっていうそういうエネルギーがある日だった様子。

 

普段は省エネなのにたまーにそういう日があるんだ。

 

こういうときは体と気分の動くままに任せたほうがいいって知っているから、持てる限度までひたすらにお店を回っていた。

 

だから僕にしては珍しく、……3時間くらいずっと休まずにショッピング。

 

まるでかがりみたいだな。

いや、あの子はお昼から夕方まで休みなしで動けるんだった……格が違うんだ。

 

追いつける気がしないんだ。

 

ビニール袋が3方向からがさがさがさとうるさい。

重いし。

 

けどそのおかげで秋ものも揃えられたし、満足はしている。

 

今年の流行だろうストールとかも見つけられたし。

流行りのアイテムというやつをひととおり揃えて着回せばかがりも満足するだろう。

 

僕にとってはどうでもいいものでも、女の子と女性にとっては価値のあるものらしいし。

概念は理解しているからあとはそれを肌でわかるようになるまで続けるだけだ。

 

「………………………………うげ」

 

それにしても気分が悪い。

 

さっきの反動じゃなくて単純にお昼を食べ過ぎただけだ。

あと調子に乗ってはしゃぎすぎたから疲れて気持ち悪い。

 

心なしか枝毛が増えている気がする。

 

繊細で脆弱な僕の胃が悲鳴を上げっぱなしだ。

しょうがない……もう夜はとても食べられないだろうし、家に着いたらまず赤ワインで消化しよう。

 

そう考えていたからか、普段は何かを考えなきゃいけなかったのを思い出せない。

 

重たい胃と荷物を抱えながらふらふらになってぜえぜえ言いながらようやく家にたどり着く。

どさっと荷物を下ろしてカギを取り出す。

 

荷物の重さでとうとう指までが疲れ切っていてうまく動かなくってもたもたする。

 

でも頭がぼーっとしてるから特に急いだりしない。

 

急がなきゃいけない理由があったはずなのに、普段よりずっと遅い僕の脳味噌は動いてくれない。

 

かちゃかちゃと、鍵穴がカギを受け入れない音が響き渡る。

 

かちゃかちゃかちゃ。

 

……よく考えたら今日ってわりと忙しかったよなぁ。

 

そんなのんきな考えがぷわぷわ浮かぶ。

 

かちゃかちゃかちゃ。

 

遠出して子供料金に喜んで、お弁当を食べて……ごついお年寄りたちに絡まれて。

あ、あのインパクトで忘れていたけどあの人たちを含めて人との会話でも相当に疲れているに違いない。

 

買い物でも動きっぱなしだったし……明日からの怠さとか筋肉痛とかが今から怖い。

 

怖いものばっかりだな、僕って。

 

かちゃかちゃかちゃ。

 

まぁいいや。

 

良くないはずなのに僕は気がつけない。

 

とりあえずお酒飲んでお風呂入ってゆっくりしよう。

 

手がかじかんだみたいになっているから、さっきからなかなか入らなかったカギがようやくドアに差し込むことができて「かちゃり」ってカギが空いて。

 

ほっとしてカギを抜いてポケットに入れて、荷物を持とうと横を向く。

その全ての動作が普段よりもずっとのろのろしてて、頭ものろのろしてて。

 

――だから、僕が気がついたときには遅かったんだ。

 

……後ろのほうに、人の気配。

 

手のひらと靴の中の足から、どっとイヤな汗が出る。

 

「………………………………あら」

 

頭の上から降ってくる、声。

 

僕のよりもずっと大きい影法師が、僕からわずかのところに真っ黒にそびえている。

 

心臓がばくばくうるさい。

頭ががんがんする。

 

…………昔から聞き慣れた、女の人。

 

たしか中学生だったはずの娘さんのいる……お母さんの、声。

 

――僕はこの人を、知っている。

 

「――――――――――――――――響、くん?」

 

汗はとめどなく出て、あたまのなかは真っ白になって……心臓がばくばくして止まらなくって、僕は、動けない。

 

……脚から力が抜けるっていうの、ほんとうなんだな。

 

そんなどうでもいいことが、飲み過ぎたときみたいに頭がイヤな感じに冷たくなって、周りが暗くなったように感じる中、ぐるぐると、くらくらと。

 

………………………………とうとう、やらかした。

 

今の僕は、半年前からの幼女の外見で。

 

だぶっとしたズボンとシャツこそ着ているものの、暑いからって疲れているからって、お店で帽子を取ったまんまの……銀色の髪の毛と幼い女の子の顔を、出した状態で。

 

疲れて、でも嬉しくて、楽しくて、浮かれていて。

 

珍しくうじうじと「過去」じゃなくって「未来」のことばかりを考えていたせいだ。

 

慣れないことはするもんじゃない。

そういうのは嫌ってほど味わってきたのに。

 

「………………………………」

「……響、くん……よね?」

 

………………僕が置かれている状況。

 

性別が変わって幼くなってなにもかもが変わってしまったっていう、超常で非現実的な、魔法みたいなものがかかった僕。

 

その銀髪幼女になった僕が、どう見ても買い物をしてきたって格好でカギを開けてドアを開けようとしている姿を……この瞬間を、よりによっていちばん見られてはいけない人に……見られた。

 

「………………………………」

 

………………………………言い訳も言い逃れも……もはやできない。

 

最後はやっぱり、結局……僕自身がやらかしておしまいなんだな。

 

僕は「はい」とも「いいえ」とも言えなくって、振り向くこともドアを開けることもできなくって……ただただ血の気が引ききってイヤな汗かいて寒く感じるのに任せていた。


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