【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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25話  発覚と発覚 3/4

人の目。

 

視線っていうものは怖いもの。

 

人に限らず動物でも「目を合わせる」ってのはよっぽどの仲じゃなければガンつけてるってことになるって言う。

だから僕みたいに人との距離感が遠いタイプの人間は普通の人の普通の距離から見られると怖く感じるんだ。

 

それは昔っから……きっと幼いころからでも普通の小学生をやっていたときも、こじらせつつあったときから引きこもっていたときがピークだったとしても、今でも実はそう変わってはいない。

 

ただ、慣れてきただけ。

ほんのちょっと大人になって、嫌なことにちょっとだけ耐えられるようになっただけなんだ。

 

目があって頭の中をのぞき込まれている感覚に対する耐性と、実は目が合ってる瞬間って普通の人は特になにも考えていないんだっていうのを経験と知識で知ったからだ。

 

ほとんどの人は目を見ただけで人の頭の中までわかったりしやしないって、ようやくわかってきただけ。

サトリサトラレなんてのはよっぽどの仲とか魔法さんの影響下で無ければ起きようがないんだ。

 

つまりはただちょっと繊細すぎただけで臆病すぎただけで、考えすぎただけ。

 

僕みたいな人って案外に多いんだって知ってから気が楽になったのもある気がする。

じゃなきゃ今だって誰かと話すだけで疲れたりはしないだろうし。

 

最近のでいくらかは良くなってきてはいるけど、でも生まれつきの性格っていうのは多分治らない。

 

というよりは、これが僕みたいな性格の人にとっての「普通」なんだって思っている。

 

「………………………………っ」

 

そんないろいろが頭に浮かぶ程度に僕の脳みそはパニックになっていたらしい。

 

当然だ、だって。

 

――ぶつぶつと息のような声のような、そういうものをかすかに動かしている唇と恐らく舌とで唱えながら……ただただなにも見ていないみたいなのに、しっかりと見てしまうとさっきまではあんなに輝いていた目を濁らせて僕を見透かすようで僕が見透かしてしまいそうな、そんな目が光を反射しないで向いているんだから。

 

表情がない。

焦点も合っていない。

 

そもそもとして僕を見ていない。

僕と話しているということを……意識していない。

 

これはまるで、俗に言う「取り憑かれてる」ってやつみたいで――――。

 

「………………………………あらあらあらだって響くんは男の子でちっちゃいころはあんなにかわいくてでも立派に大きくなってお隣でよく家に来てもらって勉強をそういえばうちが越してくる前からだったからよくお世話になっていてでもやっぱり人気なのよねイケメンで美少女でお年寄りの方たちからは受けがよくってまるでお人形さんみたいで娘も小さいときにはよく大きくなったらあらでも女の子同士になっちゃうのねいえでも………………っ、けほっけほっ」

 

最後の方になるとあまりにも苦しそうに息を最後まで吐き出すようにしてぶつぶつとだんだんと大きな声になってきて、聞いているだけでつらいようなつぶやきから会話になってきて。

 

呼吸を整えてからもう一度……やっぱり変わらない瞳で僕を見下ろしてくる。

 

「でもたしかけっこう前に成人のお祝いで写真をあらあのときはどうしてお父さんとお母さんがあらごめんなさいあのときからいなくなってしまったのよねだからそうして親戚のかたとうち家族で一緒にお祝いしてあげてなんだか肩身が狭そうだったけれどでも記念だからきっちり撮っておかないとってほんと響くんって繊細なんだからでもそれがまた」

 

人って意外と息継ぎってのをしてる。

 

そういうのは普段は全然意識しないんだけど、ふとした瞬間にそれに意識が向いた途端に……10秒に1回以上の頻度でされるそれがやけに大きく耳に届くもの。

 

それが、今のこの人からは一切ない。

 

「あの」

 

心配になってきたから恐ろしい速さで回っている口を止めようと試みる。

 

目をのぞき込むとなんだか僕までおかしくなっちゃいそう。

そんな気がするから、視線はそらして。

 

けど、止まらない。

 

「そういえばあと少しで中学生あらもうとっくになったんだったわねなら高校生いえ大学生よねだって成人式だしあらあらでもそれはうちの子がまだ小学生だったころのことだからだってあの子ったら昔はお兄ちゃんお兄ちゃんって懐いていたのになんだか恥ずかしがっていたんだものこれが年ごろってやつなのねってお父さんが落ち込んでいたのをよく覚えてあらそういえばもう卒業したんでしたっけそれなら卒業式はどうしたんだったかしら」

 

いつものようにほっぺたに片手を当てて考えている……いつものクセ。

 

だけど今はずーっとひとりで話し続けていて、たぶん自制が効かなくなっていて、だからぜえぜえと言いながら呼吸を整える間もなく続けている。

 

ぽたぽた垂れている汗は、きっと暑さのせいだけじゃなくって。

 

「お母さんの代わりにきっとどなたかがあぁたしか親戚のお名前を忘れてしまったわねでもきっと響くんにあとで聞けばあら女の子なんだから響くんはおかしいわよねそういえばなら響ちゃんかしらいえでもやっぱり響くんよねみんなもそう呼んでいるんだしだって響くんだものね響くん響ちゃんんんどっちだったっけねぇひびきくんかなそれともひびきちゃんかな?」

 

と、半分上を向いている格好だった飛川さんはいきなりこっちの方を向いてきて僕と視線が合いそうになってきて、危ないところでそらすのに成功した。

 

「いえでも当然いまはおひとりでいえでもお父さんとお母さんは響くんにべったりであらでもやっぱり今はいないしあらららいるはずよねだってひとりでなんてとても暮らしていけないものだった響くんはまだ中学生なんだもの親御さんなしではでもそれならどうして響ちゃんは今までおうちでもう何年も」

 

 ◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆

 

延々と続く彼女の苦しそうなはずなのに平気そうな声に、思わず大きめの声が出た。

 

「飛川さん、すみません。 聞いてください」

 

声をかけるとぴたっと話すのを止めて僕に意識を向けているのがわかる。

当然視線は合わせないから予想でしかないけど。

 

でも止めないとなんだか危なさそうだし。

あと声がとってもつらそうで。

 

「……ふぅ――……」

 

ようやくにまともな息継ぎができてるけど……多分また話し始めちゃうとおんなじだ。

 

話している内容は支離滅裂……いや、今と昔の記憶がごっちゃになっている?

だって僕の呼び方とか母さんたちのこととかわけわからないことになってきているしな。

 

でも大きめの声で話しかけた僕の呼びかけには反応する、と。

注意を向けている様子ではある。

 

だったら。

 

「飛川さん。 ……僕、このとおり遠出をしてきたところで」

「………………………………」

 

くるっと回ってみる。

 

あいかわらず目を合わせてはいないけどどうやら僕のことを見てはいるらしい。

だってわざと傾けた髪の毛とかに注目しているし、手に取ってみれば手のひらを見ているみたいだし。

 

女の人ってアクセサリー、アクセだっけ……それ1個にも敏感に反応する生き物だからかな。

 

完全におかしくなったわけじゃないみたい……なら。

 

「今日はもう、とっても疲れているんです。 また……今度でも良いでしょうか。 ほら、買ってきた食材、冷蔵庫。 入れないと大変ですし」

「………………………………………………………………」

 

僕の髪の毛のふわっとした先を眺める形で口も目も空いたままで静止することしばし。

 

……緊張感がすごい。

 

なんというか全身に力が入りっぱなしって感じだ。

僕も、目の前でおかしなことになっている奥さんも。

 

と、体の力が抜けたようになったと思ったら急にしゃきっとして、いつのまにか悪くなっていたらしい顔色も一気に明るくなってきて……顔に笑顔が戻ってくる。

 

最後に焦点が僕と、僕の目とぴったりと合ってやっと普段通りになる彼女。

 

そんな彼女のひたいにはびっしょりとした汗。

それを今になって気がついたように拭っている。

 

たぶん目とかにも入っていたはずだし本当に気がついていなかったんだろう。

 

ごしごしと……くしくしって感じの仕草もやっぱりお姉さんってしか見えないな。

経産婦なお姉さん……おっとお隣さんな奥さんが目をこすりつつ苦笑している。

 

「あらいやだ。 響くん、ごめんなさい? こんなに話し込んじゃってたみたいで」

「………………………………いえ、お気になさらず」

 

きょろきょろと門の外のほうを見回す、いつもどおりに戻ったように見えるお隣さん。

 

セミの声が少なくなって夜の、秋の虫の声が混じっていて……夕日が沈んだあとの黄昏になっていて。

もう影法師も薄くなってきているのに僕も気がついた。

 

……そんなに時間、経っていたのか。

 

なのにこの人が……最後のほうはそこそこに大きな声でひたすらに話していて、途中で盛大に苦しい感じのセキとかもしていたっていうのに、通りがかっていたはずの誰ひとり声すらかけてこないなんて。

 

「私ったらおしゃべりに夢中になって気がつかなくって。 響くんは長話嫌いなのに、それにそんなに重そうな荷物ですものね、疲れているのに引き留めちゃってごめんなさい」

「い、いえ」

 

……普通の、慣れているこの人の話し方に戻っている。

 

「でも私、響くんの元気な顔、久しぶりに見ることができてほんとうに安心したわ! 響くんが元気だって、心配されているご近所の方たちとか娘や夫にも伝えておくわね?」

「え、えぇ……ありがとうございます」

 

とっさにあいまいな返事を口にしてから「なに伝えるんだろ」って思った。

 

「そういえばお夕飯とかもらい物の余りとか最近なんだかやけに多かったのって『響くんにお裾分けするの忘れていたから』だったのねぇ……なんでかしら? もう何年もそうしてきたのにね?」

「……いえ僕は、もうそういうのは」

 

「いいのいいの!」

 

いや、僕はおすそ分けに乗じて話し込まれたり家に上がられたりお隣さん家に連行されるのが嫌だからなんだけど。

 

「娘は部活、夫は会社の人との急な夕食とかでせっかく作った食事、よく余るんだから。 最近お野菜あまり食べていないんでしょう? なら栄養も心配よねぇ」

 

「いえ、僕は要らな」

「とにかく『響くんがかわいくなっている』の、ばっちり伝えておくわね? それじゃまたねっ」

「え、あの」

 

普段通りのせわしなさでさっさかと行っちゃった。

 

やっぱり女の人って人の話、聞かないよな。

 

かがりで慣れていた気がしたけど……これがご近所さんとの井戸端会議とかママ友とのランチとかPTAとかで鍛えられた真の姿。

 

ぶるっと身震いしてぐっしょりと汗をかいていたのを思い出した僕。

 

ずっと立っていたのと緊張の走る場面をくぐり抜けたのと今日の疲れのみんなが……どっと押し寄せてくる。

 

「…………………………」

 

いつものように腕を上げてドアノブをひねってやっとのことでドアを開けて、買ってきたものやらリュックやらをずりずりと家の中へ引き込む。

 

もう体力も気力も残っていないからこうするだけで精いっぱいだ。

 

ぱたんと閉めてがちゃりと……念のためにチェーンまでかけて。

 

「…………………………はぁ……」

 

……腕、背伸びしてぎりぎりだな……さすが低身長。

なんて思ってる場合じゃ……ないんだよなぁ……。

 

完全に安全で万全なことを確認してから僕は、ぺたんと崩れ落ちた。

 

「………………………………」

 

脚を見る。

 

がくがく震えている。

よく見れば手の指先までが真っ赤になって震えている。

 

――あれが、怖いっていう感情なんだ。

 

僕、そういうものとは無縁だったからこんなの知らなかった。

知識としては……腰抜かすとか情けないって思ってたけど、いざ僕自身のことになると体には逆らえないって理解する。

 

僕は身の危険って言うのを感じたことがない。

海外にふらっと行ってたときもそうだったんだ。

 

特に目立たない男の身だったってのと単純に運が良かったからなんだろう。

 

……でも今は。

 

ちょっとしてからタイルの冷たさがおまたや内ももに伝わってきて冷たいのを感じて「あぁそういえばもう女の子座りのほうが楽になっているんだな」なんて思ったりもした。

 

「ズボン越しでも石の冷たさってちゃんと伝わるんだなー」「これがスカートだったらくっついただけでひやっとするんだろうなー、だって直接肌にだもんなー」なんてどうでもいいけど男のときじゃ浮かばなかったことばっかりが。

 

「………………………………」

 

このままここでうつ伏せでぺたっと寝たいくらいなんだけど……まちがいなく風邪引くしぜったい後悔する。

 

まずもって冷たいし硬いしほこりっぽいし砂っぽいしな。

 

あとは、たった今まで感じていた恐怖がまだ抜けないのか……わずかな明るさしかない廊下から「何か」が来そう、そんな錯覚が来るくらいにはまだ僕は怖がっているらしい。

 

だから内ももの力で踏ん張ってどうにかぼーっと体を起こしているのを維持する。

 

10分もすればきっと、今のびっくりにもほどがある衝撃も少しは過ぎてくれるだろうって思いつつ。

 

……それにしても。

 

今のもきっと、魔法さん……の仕業なんだろうなぁ。

 

髪の毛だとかハサミだとかそんな僕だけに起きるようなことじゃなくってとうとう……とうとう周りの人へも……僕の思い込みとかそういうのじゃなくって目に見える形で、現実に影響を及ぼすものになっちゃってるんだ。

 

一体いつからなんだろうな。

 

……多分気がつかなかっただけで、たまたま運良くこうならなかっただけで。

きっと、あの朝からずっとなんだろうな。

 

だって見知らぬ女の子になっちゃってるんだもんな。

 

「ぅぁ――……」

 

こういうときくらいは肉体年齢と性別相応の声くらい出しても……良いよね。

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