【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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27話 回想・又は過去・ 3/4

「うーん……」

 

目の前で僕らしき幼女が女の子になって慌てふためいていて、それをすぐ近くで見ている僕自身は突っ立ってるだけ。

 

やっぱこれ……走馬灯じゃ?

 

走馬灯かも。

走馬灯な気がしてきた。

走馬灯じゃないって否定したいんだけどできる要素がひとつもないしな。

 

ていうことは控えめにいってもやばいわけで。

 

なんか死ぬようなことあったのかなぁ……心当たり無いんだけど……?

 

なんだか過去のことばっかり、それも考えないようにしようとしたって次々と浮かんでくるっていうか目の前に見える感じで、強いていうなら僕の隠し撮りをうまーく編集してあるのを無理やりに観させられているような感じで。

 

それもいつもの悪夢とは違ってやけに長めだし、やけにやけに意識もはっきりしている。

 

「うーん?」

 

しかも初めっから終わりまで僕のイメージが今の僕になっているおかげでなんだかところどころおかしなことになっているし。

 

おかげでバイトのときの場面なんて幼女が年上の学生をあやしているっていう実に背徳的ななにかになっているしな。

 

見ているだけで違和感のかたまりでしかない。

 

まぁこれが僕の想像力の限界なんだろうけど……それにしてもなんなんだろこれ。

 

命の危機……お酒の飲み過ぎで?

 

いやいや、いくら飲んだからっていっても無意識でセーブしてたし、急性なんとかになる分量じゃなかったはず。

 

あ、今の僕幼女だった。

 

普段通りに呑めちゃうから気にしてなかったけど、さすがに許容量は少ないはず。

 

「…………………………やばい?」

 

もしかして。

もしかしなくても。

 

そもそも呑んじゃいけないんだもんな、本当は。

でもアルコールに慣れた大人だから止められなかったんだ。

 

今の虚弱な胃腸とおんなじくらいに……いやもうちょっとは頑丈なはずか、そんな肝臓さんが悲鳴上げているのが今だとしたら、どうにかしてすぐに起きてがんばって吐き出してお水をがぶ飲みしなきゃいけないんじゃ……?

 

「ふんっ」

 

お腹に力を入れてみたり息を止めてみようとしたけど目の前で2日目を迎えている新鮮な僕が鏡を見ているだけで何の意味もなかった。

 

駄目だ、起きる気配がない。

 

体の感覚がないんだしな、夢っていう意識しかなくって。

力を入れようにも体がどこにあるのかする分からないのが分かっただけだし。

 

「しょうがないか」

 

僕は諦めが早い。

 

どうせどうしようもないんだし、目の前の記憶でも観ていることにする。

 

することないしな。

どうやったって起きられないんだったらこうやって待つしかない。

 

これも含めての悪夢なのかもだしな。

 

どうしようもないのならただぼーっと流されているほうが楽だ。

ムリに逆らったってあがいたって、どうしようもないんだから。

 

目の前はどんどんと切り替わる。

 

幼女と化して現実逃避しようとして試行錯誤の悪戦苦闘をして……その過程でかがりに目をつけられて、今井さんと萩村さんっていうムチとアメのペアに発見されて、ゆりかからは妙な親近感を持たれて。

 

そうかと思えば一気に時間が飛んで父さんたちのお葬式のときとか、最低限のものを残すっていう遺品整理とかに終われている場面が挟まれたり。

 

死にかけ?

やっぱり僕死ぬの?

 

幼女で?

幼女になって?

 

もしそうだったら、ひょっとしたら夢の終わりって父さんたちとの再会なんだろうか。

 

こんな終わりはイヤだなぁって思うけどこれが定めならしょうがない。

 

今週末にもみんなとの予定、あるんだけどなぁ……。

それにいきなり消えるのはなんだか後味が悪いし。

 

だからどうにかして起きたいとは思うんだけど夢の中でどうやって目を覚ませばいいんだか。

普段夢とか見ないしどうしたらいいのかがぜんぜん分からない。

 

「どうしよう」

 

どうしようもないなぁ。

どうしようもないなら身を任せよう。

 

ただ単に眠りが浅いだけで、金縛りよりもちょっとだけ夢の世界に近いっていう夢の中だけど意識が起きちゃうっていう明晰夢ってやつを見てるだけなのかもしれないし?

 

体に異変があってネットで調べると大抵「あなたはもうすぐ死にます」って記事しか出てこなくって慌てて病院行くけど何ともないって言うあれかもしれないし?

 

そうだ、仮に明晰夢だとしたら……よく夢の中で好き放題、欲望のままにやりたい放題って聞くんだけど本当なんだろうか。

 

「うーん」

 

ただ過去に目にしたことを細切れにしてランダム再生しているみたいな感じだし、相も変わらず体の感覚もないし。

 

なんだか、◆◆◆◆◆◆◆◆◆いやいやなんだこれ?

 

明らかに目の前に◆◆◆……◆◆◆、じゃなくって、ノイズ。

そう、ノイズが走るみたいに、昔観ていた◆◆ ◆    ◆◆ ◆ ◆◆ ◆。

 

つまりはビデオテープみたいに、ざざっとした砂嵐みたいな?

 

そうなんだけど、◆◆ ◆ ◆◆って◆じな、そんな変なやつ。

 

あの山に登ったときからちょくちょくあった気がするやつ。

 

うーん………◆◆◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆ ◆◆  ◆◆◆ ◆             ◆◆◆ 

 

 

 

 

「んぴっ!?」

 

やーっと砂嵐が引いてきてさっきみたいになったと思ったらお隣さんのどアップでどきっとした。

 

心臓に悪いと思ったけどぴくりとも動いていない様子。

 

やはり死か。

……なわけないって思いたいんだけどなぁ。

 

ざざっといやーな音がしたと思ったら今まで無音だったらしい目の前の風景に音が加わって、さらにびっくりさせられて。

 

けどこれだけびっくりしているのにじわっと汗が噴き出す感覚もなくって、やっぱりなんだか薄気味悪い感じ。

 

明晰夢って案外怖いんだなぁ。

 

「◆ ◆      ◆………◆◆◆……◆◆……………あら大変」

「そうなんです」

 

いつもどおりのぽわんとした奥さんの顔を今のように、下からエプロン越しのふたつの球体越しで見ているような視点から見ていて。

 

これじゃまるでこの姿の僕がお隣さんに会っているときみたいじゃないか。

 

「まぁまぁ響くんったら、ずいぶんかわいらしくなっちゃって……。 ………◆◆   ◆……◆◆◆……………? そうなの? それは、えーと。 その、困ったことになったわねぇ……女の子にねぇ……」

「信じてくれるんですか」

 

…………………………ん?

 

家の前での立ち話してたらしい場面から、ときどきお世話になったから知っているお隣さんの家のリビングにお邪魔している場面になっていて。

 

「なるほどー、朝起きたら……目が覚めたら女の子にねぇ。 それも、そーんなにちっちゃくなっちゃったの。 それは驚き……なのよねぇー」

「なんか驚いてないみたいですね」

「これでも驚いているのよ?」

「知ってます」

 

…………………………んん?

 

「……えぇっと、申し訳ないんだけどすごく大事なことだから……ね、響くん? ……きちんとおトイレ、できたかしら?」

「ええ……なんとか?」

 

「……よかった。 そう、なら朝ごはんとかも大丈夫? …………さすがに背丈が届かないのねぇ。 ならうちの子が起きたら一緒に食べましょう? それで、そのあとは病院とお役所とー、あとは◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆」

「いや、今日は疲れたのでまた別のが良いです」

 

自然に会話しているらしいお隣さんと――――僕。

 

まるで――「僕があの朝そのまま家を出てお隣さんに助けを求めたかのような」そんなあり得ないシチュエーションでの捏造された記憶が再生されはじめる。

 

――――――ありえない。

 

そうだ、ありえない。

 

だって僕はあのとき選んだんだ。

誰にも見つからないようにじっとしていようって。

 

「響くんのお父さんにもお母さんにもうちの子が小さいころによくお世話になったし、恩返ししなきゃね! まかせて! その体に慣れるまでは……いえ、響くんさえよければそのあともっ。 ……さんとも相談したし、家で面倒ばっちり見るわよ!!」

「いえ、適度で良いです」

 

かがりのような目線を浴びせてきている飛川さんと引き気味な僕の声。

 

……僕は、こうはしなかったんだ。

見つからないようにって、ただ隠れていたはずなのに。

 

そもそも初日の午後に起きたときは「何だ夢か」って寝て過ごしたはずなのに――――――。

 

「それにうちのさつきも響くんにたくさん遊んでもらってお勉強まで見てもらっていたじゃない? だからそんな迷惑なんかじゃないわっ、困ったときはお互いさま。 まずは今までにお母さんたちからもらった分くらいは響くんに返させて? ……ね?」

「…………………………………………はい」

 

ああ……この人が魔法に掛からない状態で今の僕と会って話を聞いたらこうなるのかも。

その程度には違和感のない光景……だけども。

 

なのにどうしてこんなにも……昔の、本当の記憶なんかよりもずっと……かがりやゆりかと会っていたのと同じくらいにクリアで「まるで初日にお隣さんに助けを求めたのが事実だ」って感じで。

 

「っ……」

 

――――――体の感覚が無いはずなのに頭がくらくらしてくる。

 

これはなんだろう。

 

まるで「矛盾する正反対のものを同時に認識させられているような」――――――。

 

「あ、起きてきたわ! ……さつき、ちょうどよかった! この子はお隣の響くん。 今朝女の子になっちゃっていたんだって」

 

そうして何でもないように言ってのけるお隣さん。

 

「…………お母さん何を変なこと言ってるの。 お客さん? まだ私パジャマだから」

 

「いいからちょっと来てみてって! ほらほら!!」

「ちょっとお母さん、やだ、まだこんな格好で……え?」

 

懐かしい感じのやりとりのあとにミニ飛川さんって感じの女の子が引きずられて来る。

 

飛川さんよりも背はちょっとだけ低くって雰囲気はそのまんまで、でも年相応の精神年齢と顔つきって感じの子。

 

飛川さつきちゃん。

 

いやもう中学生なんだから、さつきさん?

 

お隣だからってこの子がちっちゃいころによく面倒を……母さんが勝手に連れてくるからよく見させられていた女の子は、立派な中学生くらいになっていた。

 

確か最後に近くで会ったときはまだ小学生だったからまだまだちっちゃいって思っていたんだけど、今観ている彼女はすっかりと今の僕を軽々と……いろいろと越えていて。

 

さすがに奥さんみたいにぽややんな感じはそこまでじゃないけど、ときどきそんな気配はしているけど小さい頃からしっかりした子だった。

 

現実でもちゃんと成長していたらこんな感じになっているんだろうか。

ゆりかとかかがりたちと一緒にいてもおかしくはない女子中学生になっていて。

 

「……え、えぇっと……お母さん? この小さな女の子……髪の毛とってもきれい……じゃなくて、この子が響……さんの親戚の子とかってこと?」

 

うん、この子の反応が普通だよね。

 

「違うわよ、この子が響くんなの!」

「…………響さんは、もっと背の高い男の人ですよ?」

 

ばっさりなさつきさん。

 

「お母さん変な冗談は……!!! まさかまた寝ぼけてご近所の子を……!」

「冗談でも寝ぼけてもないからね!? 響くんの前なんだからそういうの今は言わないの!」

 

「また」って……まあ飛川さんだから……かがりに通ずるものがあるこの人だから……。

 

「あの……本当に響さん?」

「一応は。 僕の認識が狂っていなければね」

「あ、響さんですねこの感じ」

「ん? 分かってくれるなら有り難い」

 

なんだかちょっとした会話で僕って分かったらしい。

 

――そこからは早送りみたいにいろんな場面が来ては過ぎていく。

 

どうあがいても逃れられない運命だとでもいうのか、母娘にもみくちゃにされて着替えさせられていて。

 

見覚えのあるさつきさんの服とか……ふたりの言動からすると奥さんの昔の服とか、あるいはデパートへ引っ張られていってムダに高そうな服とか着させられて。

 

これが運命?

 

「あ」

 

初日から……昨日着ていたみたいなワンピース着せられてる。

 

「…………………………」

 

ご愁傷さまだな、「そっちの僕」も。

 

そりゃあもう相当にだるっとした顔をしている。

さいっこうにイヤそうな顔をしていても、やっぱり眠そうってしかわからなくて。

 

サイズ的にもかがりがふたりに分裂してまとめて襲いかかってきたようなものだし、むしろこうして眺めてる僕の方がいろいろとマシだったのかも……いや似たり寄ったりか。

 

だけど――ただ見た感じでは。

 

嘘をつき続けて悩んでいる様子がないのだけはうらやましいな。

最初から何にも隠さないで全部さらけ出してたら眉間に皺寄らないんだ。

 

 

◆◆ ◆

 

 

そうしてお隣さんに家ぐるみでお世話になって。

背が届かないからって居候みたいになって夏を迎えて。

 

……なんらかの理由をつけられてさつきさんの部屋に寝泊まりさせられて。

 

いや、なんでかはよくわからないけど、なんでか。

 

――そうしているうちに何かをきっかけにしてゆりかが、続けてかがりが、りさりんとさよが。

レモンとメロンとりさりんとメガネロングっていうあの4人と知り合ったらしい。

 

あの、夏休み最終日に「もう友だちなんだからみんな呼び捨てにして」って言われて下の名前でひとりひとり呼ばされた……なんでだ……そのみんなが、さつきさんを加えておんなじ場面で会話をしていて。

 

「…………………………」

 

夢って無意識の世界だし、だからつじつまなんて合わなくてもいいわけで。

 

だからこれは――僕の願望。

 

「誰にも嘘をつかないでよかった」っていう未来、いや過去か、それを妄想した夢なのかもしれない。

 

魔法さん関係のストレスでざくざくしていた僕の心を、こうやって都合が良くって見ていて気持ちのいい夢を見て癒やしているうちにたまたま意識が起きちゃったみたいな、そういう感じなのかも。

 

……見ていてうらやましいって思うくらいだな。

無意識にでもこうしてきっと楽だったはずの光景を見てるだけで。

 

嘘を嘘で塗り固めていって誰にも本当のことを、何一つ偽らないで。

過去も年齢も性別も…………僕っていうものを、何一つ偽らないで。

 

偽らないで、最初っからぜーんぶ本当のことしか言わなかったら、こうしてもっとずっと楽に自然体で人に交われるんだったとしたら。

 

「……羨ましい」

 

そんな夢にいつまでも浸っていたいくらいに幸せな光景なんだ。


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