【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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28話 「――――」 1/4

「ちゃんとついて来てね?」

「…………………………………………」

「返事は?」

「はい」

 

夢の中なのに、いつものごとく年下なのに背が高い女の子に年下として手を引かれてうねうねうねうねとした道をずーっと歩き続ける。

 

夢の中なのに。

夢の中くらい好きにしたいんだけど身長差はトラウマになっているらしい。

 

でもお姉さん精神みたいなのを発揮している女の子を振りほどくのは不可能だっていうのも知っているから、ちょっとだけもやっとしながら引っ張られるのに任せて……前の僕ならまだしも今の僕じゃあ現実では絶対にムリな距離を、かなりの速さでさくさくさくさくとひたすらに歩く。

 

この辺の記憶はどこのをくっつけてるんだろうなーとか思いながら歩く歩く。

 

そのうちに握られた手を真横に持っていかれてときどき僕の肩がその子の腕に当たるポジションに。

僕の肩が黒髪の子の二の腕くらいだからやっぱり背丈の差は圧倒的。

 

僕はいつになったら対等な相手と巡り会えるんだろう。

 

「ねえ、聞いてる?」

「うん、聞いている」

「ほんとー?」

「本当だよ」

 

ちょっともの思いに沈もうとすると敏感に察知されるけどいつもの会話術で乗り切る。

だってこの子どうでもいいことしか話してないっぽいし、夢の中の存在だし。

 

でも僕は相当な子供扱いをされている模様。

 

まぁいつもの通りにちっちゃいもんなぁ……少なくともぱっと見で最低でも中学生って見ることができるこの子よりはずっとな。

 

もう慣れたけど。

 

夢の中だし、もう僕のことは肉体年齢相応の小学生でいいや。

夢の中くらいは正直になろうって思うし。

 

僕が自覚して知覚して実感してもいるこの肉体年齢を僕の作り出した夢の中でごまかすことなんて不可能だろうし。

 

……だけどせめて夢の中でくらいは元の体か……せめてこの子くらいに育っている、僕が成長できた姿を自慢したいところだった。

 

夢だったら念じたりしたら変わるかも?

 

「むーん」

「どうしたのよ『響』……くすっ。 そういうとこ、ホント響そっくり」

 

念じたけどムリそうだった。

そもそもイメージ力が不足しているらしい。

 

あとはそうなりたいっていう強い意思も。

今の僕はこういうちっこいものだって思い込んじゃってるからなぁ……。

 

「それでね、あのとんがってるのが島いちばんのお山で、そのふもと……あ、わかる? ふもとって。 そ? そのお山の手前に広がっているのが島で2番目に大きい町で——……ねえ聞いてる?」

「うん」

 

「んでね、資材が追いついてないからこのへんはまだかんたんな木造の家がほとんどでね? ……聞いてて理解できてる? 学校の先生とかの話とかって」

「わかっているよ。 さっきから言っているけど僕は大人で」

 

「ならいいの! 『響』は私よりも年下でしょ? ムリしなくってもいいの」

「……………………………………………………………………………………………………………………」

 

何回言っても僕が年下って決めつけられるらしい。

 

話を聞かないと怒る、聞いても怒る、でも答えが意に介さないともっと怒る。

めんどくさい系のJCさんらしい。

 

女の子って躁鬱激しいよね。

見た目はゆりか以上かがり未満なのに、中身は足して3か4で割ったような年齢くらいなのかもな。

 

まるで今の僕とは正反対だ。

 

またまた怒り出さないようってなるべく顔色をうかがいながら受け答えをしながら、さらにそれから脚が疲れないのをいいことに延々と歩かされ、ガイドされる。

 

人の少ない観光地とかで説明して回ってくれるボランティアの人に絡まれちゃったときとかこういう感じだったなぁ……その記憶を使っているのかな、これ。

 

これだけのペースで歩き続けても息さえ弾んでいないのを見ると、僕と同じようにこの子も疲れないらしい。

 

まぁ夢だしリアリティなんてどうでもいいもんね。

おかげで口も舌もくるくると回っていて止まる気配はない。

 

「ねえ」

「聞いているよ」

「なら良いわっ、それでね……」

 

人工物といえば木と藁で作られたものしかなかった砂浜を過ぎ、軽い丘のあたりからはじめてだんだんと石へ、そしてなめらかな感じの不思議な材質でできた道へと合流し。

 

丘を越え。

山を越え。

 

……山?

 

……山だ。

 

歩いて山越えしちゃったんだ。

 

たいして高くなかったし視界が開けていたから忘れていたけど何にも意識しないで峠を越えていて、もう下りだ。

だからか植生も道の両側にいろんな種類の見たことがない木々と花とかが、等間隔に植えられている人工的なものになっているし。

 

そのまま下るかと思ったらまた登っているうちにごつごつしていた山とかも次第に小さくなって行って視界をさえぎるものがなくなってきた……と思ったら今度はいろんな建物。

 

みんなわりと新しいみたいだけど、でも道とおんなじでやっぱりコンクリートと木とアスファルトと金属を混ぜ合わせたみたいな不思議な感じの材質でできているのを、見たことのない感じの建築様式を興味深く見続けて。

 

でもやっぱり大半の家は色も塗っていないのが多い木造。

ひとことで表してみるとファンタジーっぽいけどリアルっぽい景色?

 

なんだかよくわからない。

けど、こういうの大好き。

 

だからこんな夢見ているんだろうけど。

 

「……着いたわ! ここの中! さぁ入って入って!」

「だから転びそうになるからいきなり」

 

「あ、ちょっとそこに立って? ……クリア。 大丈夫ね、まぁあたりまえよねっ」

「……………………………………………………」

 

…………まぁ女の子っぽくなるほどに人の話聞かないのはもう諦めるしかないというか女性ってそういう生物だってこの半年で諦め尽くしたから……。

 

なんかひときわメタリックで平面だけのばかでかい建物に入ったと思ったら、あちこちの扉のそばで……たぶんこれSF映画の要素も入ってきてるんだろうな、指を適当に動かしたりしているお姉さんっ子を片目に、さっきよりもちょっとだけわくわくしながらぼーっと突っ立つ。

 

さっきよりはずっと楽しい。

 

僕だって景勝地とかをぐるって回る遊歩道も好きだけど、それはそれとしてやっぱり大きな遺跡とかの方がその場に居て楽しいんだ。

 

それにしても随分遠かった気がする。

夢なんだからそう感じているだけで実際にはほとんど時間経っていないんだろうけどな。

 

夢って実はそんなに長く見ていなくってレム睡眠っていう規則的に来る短い時間帯限定で、しかも夢の中の時間は現実とは違って物理に縛られないから相当な早送りで見ているらしいし?

 

だからあっという間に……今までの経験から体感で10キロ以上20キロ未満くらいの、普通に歩いたとしたら休み休みでも何時間かかかるくらいの距離をお日さまがたいして移動しないうちにたどりついているわけだし。

 

いつもだったらこうは行かない。

元の体だったらまだしも……戻んないかなぁ。

 

いや、こんな夢わざわざ見ているんだからひょっとしたらあり得るかも?

 

だとしたらいつもみたいにだぶだぶな元のシャツとぱんつだけっていう寝るときの定番の格好にしておけばよかった。

 

昨日に限ってはいろいろあって白い少女用のワンピだし。

 

………ホワイトロリータを着た成人男性。

それも、特に女装とかしているわけじゃないのが寝ている場面。

 

「うげぇ」

「?」

 

想像しただけで吐き気もするし、なにより目覚めがきっとぱつぱつでびりびりと服をはじけさせながら痛みで迎えることになるっていう想像で激しくげんなりした。

 

もう半年もひげさえ剃っていないし剃れなかったものだから、それはそれはもうひどいことになっていること間違いない。

 

でもやっぱり元の……これまで慣れ親しんできて、子ども扱いも女の子扱いもされない女の子じゃないごく普通の男が嬉しいんだけどな。

 

「…………終わったわ、それじゃ『響』こっちよ」

「はいはい」

 

「ちょっと、『はい』は1回なのよ?」

「はい……」

 

危うく口答えをしようとしてしまった。

ぐっと抑えられた僕はえらい。

 

慣れているともいう。

 

もう少し慣れと自制心が足りなかったらちょっとだけ言い返して、それで怒りだしたこの子をなだめるのにまた何分も費やす必要があっただろう。

 

その心配は今の僕には無い。

 

男は何も言わないでいる自制心。

 

これあるのみだ。

他には何もない。

 

女性相手に男は無力なんだ。

 

そんなことをぼんやりしていると離されて楽になっていたはずの手が握られる。

 

機械的なものを操作しているときだけは置いてきぼりにしてくれて嬉しかったんだけど、それ以外はやっぱり指を組まれて有無を言わさずにどんどんと中の方へと案内されていく。

 

指、絡める必要まではないんじゃない……?

でも女の子だからこういうもんなのかも。

 

進む家に歩く音も金属的なものに変わっていて、映画とかでよく見るような感じになんかこう、なにかしらの基地の中とかでかい船の中とかそんな感じの作りになってきていて退屈しない。

 

けどときどきやたら古い感じの作りとか材質とかあるし、なによりも書かれているプレートとかの字がひとっつも読めない。

 

海外をうろついてたときに見て回った石造りの古い遺跡とかと未来を舞台にした映画の中の世界がほどよくミックスされている様子。

 

楽しいからいいけど。

こういう未知の空間ってロマンがあってわくわくするし。

 

どうせなら初めからこんな感じの夢なら良かったのに。

 

ついでに言えばこういうところをひとりで延々とただ黙って静かに冒険できるんだったらもっともっと良かったのにな。

 

それなら何時間でも潜っていられる気がするし。

ホラー展開にさえならなければ。

 

でも夢だから文句言ってもしょうがない。

しょせんは夢なんだ。

 

狭い通路を進んだと思ったら倉庫的な空間が広がる。

工場みたいな、けど機械はそんなに多くないっていう機能性しか考えられていない空間。

 

もちろん電気は蛍光灯とかじゃなくって壁全体が光っている的な映画とかでよくあるやつ。

 

僕こういうの好き。

 

隅まではっきりと見えてちらほらと機械とか箱とかアームとかがあるけど、別に怖い感じは受けないし。

 

なんとなくだけど映画で闇の取引されてる感じ。

自然物しか無い浜辺から延々と歩いて不思議な町見たと思ったら人工物しか無い工場。

 

一貫性も論理性も脈絡もあったものじゃない。

夢だって分かってないとおかしくなりそう……。

 

扉開けたらお次は海の中とか空とか宇宙とかファンタジックな生きものが出てくるとかそういう唐突さが無いんだったら、まぁそれなりに楽しめるってやつだ。

 

ロジックは大事。

女の子の会話みたいな支離滅裂なのはどうも苦手だ。

 

耐性は着いたって言っていても苦手なものは苦手なんだ。

その辺は女の子たちには分かっていて欲しいところ。

 

「ちょっと待ってて? ごめんね? 何回も」

「いや別に」

「たぶんこのへんに…………………………あ!!!」

 

……イヤな予感がしたと思ったら耳もとででっかい声でキーンとなる。

 

…………この子のモデルは絶対にくるんさんだ。

歩いていて「いいもの」を見つけたときのくるんさんとおんなじだもん。

 

やはりトラウマになっているのか。

 

「お————————————————い!!! こっちよ——————————!!!」

 

子供って声おっきいよね。

人っていつから大声出さなくなるんだろうね。

 

しかし腕が指ごと絡め取られているから耳をふさぐことすらできないっていう……。

 

「ちょっとこっち来てくれる——! たいへん! なの! よ————!!!」

 

頭がぐわんぐわんする。

 

僕は大きな音が嫌いなのに。

でもこの声も脳内で再現されてるものなんだろうなって思って我慢する。

 

全身で声を上げている黒髪の子にゆさゆさ揺られながら僕はなすすべもない。

 

「あり?」

「ほよ?」

 

変な声する先に目を合わせると、倉庫にある程度規則性を持って置かれている物のうちひときわ大きい装置から女の子たちの顔が覗いていた。

 

金色と赤髪の女の子たち。

 

鮮やかすぎる髪色は隣の真っ黒な女の子のそれよりはっきりと夢の住人って分かるもの。

そんなに派手な髪の毛を腰まで伸ばしている子たち。

 

――――また、僕とおんなじような顔をした子たち。

 

今の僕を何歳か成長させた姿って感じの若干慎ましいって感じの体つきをした子たち。

 

黒、金、赤の色違いで中学生から高校生くらいの僕がオリジナルの僕を囲んでいる形になる。

 

……なんか合体とかする?

 

もしかして。

 

ほら、夢の中で秘められた自分と合体って定番だし……って、さすがにゆりかに影響受けすぎだな。


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