【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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4話 敵情視察と偽装工作 2/2

 

すぐに出られる準備をしておいて3階の窓からずっとスキをうかがい続けて10分くらい。

日の光がまぶしいし暑かったけどカーテンのすき間からぐるっと見渡せるのがここしかないから仕方ないんだ。

 

人通りって、途切れて欲しいときには途切れないものらしい。

小さくなった手の甲にヒゲが生えてなくってすべすべのあごを当てて外を見ている僕。

 

朝起きてヒゲを剃らなくて良いのは地味に便利だった。

あんな無駄な毛は早くなくなればいいのに。

 

まだかなまだかなって、明らかに近所の人じゃない人をカウントしなくてもどこかしらからタイミングよく……いや悪くか、次の人が歩いてくるっていうものの繰り返しをじりじりと待っていた。

 

「…………っ!」

 

けど、ようやく。

 

ようやく家の前の通りの左右どちらからも人が近づいてこないタイミングが訪れた。

急いで階段を駆け下り、……ものすごく大股で、さらにはカニのように横を向いて手すりを掴まってのったりとした全身運動をしてサンダルを履いて外に出る。

 

ドアノブの高さとか鍵を回すのとかもいちいち腕を上げなきゃだったけど急いでたから気にならない。

 

……どれだけ急いでも脚の長さに対して階段が高すぎるから元の体基準だと急いでも急いだことにはならないんだけど、今の僕的にはだいぶ急いだ最速で。

 

まちがって踏み外してケガでもしたらそれこそどうしようもないし。

病院に行って虐待とかで通報されなかったとしても実費は痛い。

 

……っていうかどう考えても親がいないと怪しまれるしな、大きなケガはできない。

 

サンダルは当然ながらに大きすぎるけど不良ならファッションって言い張れる気がする。

 

無理かな?

 

ゴミ出し用の安いやつだけど、さすがに昔の靴までは取っておかなかったから仕方がない。

歩けないことはないみたいだし。

 

……かかとを引きずりながらさらに不良っぽい感じになるけど、しょうがない。

 

ちょっとガラの悪い地域に行けばこういう小中学生はよく見かけるんだろうけど、そんなところへいったらこの見た目で絡まれそうだ。

 

なんてことを思いながら僕は道の隅っこを急いだ。

 

階段を今の僕基準で急いで下りただけで息切れしたのには驚いたけどそんなことで止まる訳にもいかなくって、息を押し殺しながら早歩きをすること2、3分。

 

そこで疲れたからだるんってしてとぼとぼ歩いた。

哀愁漂う少年のような姿に見える気がする。

 

ふだん歩き慣れているはずの道が広いし遠い。

いつもなら10分な感じが体感で30分くらい。

 

ご近所さんに見つかったらまずいエリアを過ぎて大通りに出て……駅やビルを往復するスーツ姿の人たちがちらほらと見えるようになってきてからようやく気が休まってきた。

 

ここまで来れば大丈夫だよね。

 

人が多ければ小学生でも目立たないはず。

子供が1人で歩いていても気にされないはず……たぶん。

 

けど……あ――……。

 

無い胸を押さえる。

いや、男のときもおんなじだったけど。

 

どきどきしてる。

 

人目を忍んで駆け抜けるっていうスニーキングって映画とかでちょっと演技が大げさじゃないのかって思ってたけど、実際にしてみるとどきどきが半端じゃない。

 

僕はそんなに強くないんだ。

精神的にも肉体的にも。

 

普段から人目を意識しないで知り合いとすれ違っても気がつかないくらいにはぼーっとして歩いているから余計に堪える気がする。

外出するときは用事と考えごとだけで頭が埋まっちゃうから体がオートで動くんだもん。

 

便利と言えば便利だけどうっかり買い物忘れちゃったりするから考えものだ。

 

けど今はちがう。

 

顔をじっくり見られちゃいけないってのと話しかけられないようにしなきゃいけないって意識しているのに加えて、慣れない体で慣れない服装だから普段以上に疲れる。

 

ものすごくどきどきしてる。

………………………………心臓に悪い。

 

家の前の道から1本抜けて人が増えてくる広めの道、そして駅前の繁華街とビル群に近づくにつれて人はますますと増えてくるわけだけど……それにしても人、多くない?

 

……あ、今日って確か。

………………………………。

 

土曜日?

それとも日曜日?

 

……どっちかだ。

たぶん。

 

まぁ学生はみんな春休みなんだ、その程度は誤差だからいいよね。

だからか学生っぽい子たちの姿も目立つし紛れられてほっとする。

 

ま、僕は彼らよりももっと幼く見えるはずなんだけども。

 

 

 

 

突然だけど不審者っていうのは見れば分かる。

 

なぜなら彼らは視線と首が落ちつかなくって何かに怯えているか何かを意識しすぎているのがひと目でわかるから。

だから僕は、いや、ほとんどの人はそういう不審者を見たら見なかったフリをしてさっさと離れようとするわけだ。

 

……何が言いたいかっていうと。

 

心を落ち着けて堂々と……視線は遠くを見て目的地を見るかスマホの画面と交互にチラチラと見るかしておいて歩く速度はふつうからゆっくりで脱力して、なにより他人からの視線を気にしないように演技するとわりと目立つ格好をしていても注目されない。

 

だてに何年も仕事をしないで昼間から適当なところをうろうろしたりしてはいない。

今ここを歩いているのはあなたたちとおんなじで目的地のある普通の人ですよって顔をするのには慣れているんだ。

 

徘徊というわけではない。

 

「要は自分はここにいるのが当たり前だ、文句ある?」っていうふてぶてしさが大切なんだ。

普通の人ならそれが普通にできるんだけど、1回でも普通から外れると普通を意識しないと普通の人になれないっていうのが難しい。

 

これを知ったのは引きこもったあとのことで、一時期の人間不信っていうか視線恐怖症的なのに見舞われていた時期には相当に不審者に近い感じだったんだろうけど……過去のことは振り返らない。

 

そんな状況じゃないしな。

 

春休みの真っ昼間っていう繁華街、この辺ではあまり見ないような変なファッションをしている僕と目が合う人たちも多少珍しいものを見たという程度みたいだしひと安心。

 

目が合う率と感じる視線の数は元の体のときよりもいくらかは多いんだけど……倍程度で済んでいる印象だし問題ないだろう。

 

僕だってなんとなくで目立つ人を視線に入れながら歩いてるはずだしな。

声をかけられたりしないんだから安心しても良いはず。

 

……ただ、そうなんだけどなんていうか……こう。

 

視点が低いから仕方がないんだけど、こう、かなりというかものすごく見下されている感がすごい。

背が低いってこういうこと?

 

急に身長が伸びる中学の頃まではいつもこんな感じだったんだろうか。

まったく覚えていないけどちょっと不快だ。

 

でも物理的な現象はしょうがないから諦めよう。

気にしても無駄なんだから気にするだけ無駄なんだ。

 

けど、元の……平均とはいっても今よりははるかに大きい体は本当に都合がよかったんだなぁ。

 

何をするにしてもなんにも感じなかった前の体と何をするにしても何もかもを感じるこの体。

世の中は平均を基準に作られているんだから、しょうがない。

 

 

 

 

ビルのガラスとかでも時々確認するけど、やっぱりそれほどの注目はされていないみたい。

 

観察の結果はこうだった。

とりあえずは成功……かな?

 

この、ぱっと見で小学生男子だと思われるだろうと思って用意した服装。

中学生は……まぁムリだよなぁ身長的に。

 

ズボンだし顔も髪も隠れているしダサいと思っていたけど、ぜんぶセットで着てみると案外そういうファッションで自然に見えなくもない……かも?

 

帽子の上から被っているだぶだぶのパーカーとスパッツに膝までの短パンだったもの、それにサンダル。

 

それが今の僕だ。

 

ファッションとは縁がなかったからさっぱりだけど、そう思い込んでおけば気が楽になるからこれが似合ってるって思い込んでおこう。

 

唯一の欠点は足。

歩くたびに擦れるし、つま先はずっと力を入れっぱなしじゃないとすっぽ抜けるし……すっごく疲れる。

 

指先に力を入れなくても別に外れないみたいだけど、ずるずる引きずるのは気持ち悪いから結局結構力を入れるハメになる。

 

僕自身がそういうのダメだからなぁ。

前からルーズな服装でさえなんとなくで嫌だったんだから合わないんだろう。

 

ともかくこの歩き方は神経を使うからとっても疲れる。

 

それにただでさえ小さいのにこのせいで歩幅がずっと短くなるし、1歩1歩がゆっくりになるから演技しなくてもぶらぶらのろのろ歩いているようにしか見えないだろう。

 

しかも背の高い……といっても幼女の身としては中校生くらい子の背丈でもそうなるんだけど……僕よりも頭ひとつふたつ背が高い人の先がまったく見えないせいで視界が極めて悪い。

 

そうしてほとんどの人は僕よりも背が高いことになっている。

こういう視界に慣れていないっていうのもあるんだろうけど、それにしても見えない。

まさしく人垣だ。

 

なんにも見えやしない。

 

男でも女性でもある程度の慎重だと……ちょうど股やおしりのあたりが視界にアップで入ってきてすごく嫌な気持ちとちょっと嬉しい気持ちとが交互に来て、これもまた心臓によくない。

 

意識しなければって思ったけど真ん前に来るんだからどうしようもない。

目の前にぼんぼんって来られたら誰だって意識するもんだ。

 

あと、背の高い人の持つカバンが凶器なのもこうして出歩くまでは気がつかなかった。

 

カバンの下がちょうど僕の顔くらいの高さだからなぁ。

僕の方から気をつけないと痛い目に遭いそう。

 

いろいろと気をつけないとな。

特に今日は初めてなわけだし。

 

………………まーこういうのはこの体で過ごすうちに慣れるんだとは思うけどさ。

慣れないうちに戻りたいけどなった理由が分からないんだからしょうがない。

 

………………………………。

 

それにしても昔……子どものころは、ずいぶん。

 

…………………………上を。

 

見上げていたんだな。

こうして頭を上げて。

 

信号を待つために立ち止まったりするたびに顔を上げて、ビルの上のほうの看板を見たりその先にある春の暖かい空を眺めながら、そう、ぼんやりと考えた。

 

 

◇◇

 

 

「ふぅ」

 

疲れた……。

 

繁華街を歩いているあいだの春の日差しと着ている厚着と、演技はしていてもやっぱり不安で仕方ないのが続いたせいで……駅ビルの軽い冷房がかかっている空間に入ると汗が首筋ににじんでいたのに気がついた。

 

エスカレーター前のスペースに空いているイスを見つけて座ろうとして半ばよじ登るようにしないと座れないのにも気がついて、そこはかとないダメージを受けてしばし。

 

……まさか元の体基準で急いで10分くらいの駅前に来るまでで倍以上の時間がかかって、肉体的にはもちろん精神的にもここまで疲れ切るなんて思ってもみなかった。

 

体感はまちがっていなかったらしい。

 

けどなんかもう足の皮と一緒に緊張と気苦労とで心までがすり減った感じがする。

 

この感じ…………引きこもりから脱出するためにがんばっていたあの頃の感じか?

っていうかよくこんな状態でがんばれたな、数年前の僕。

 

それだけ必死だったんだろう。

 

まぁ、あのときはあのままだとまずいっていう強い危機感があったのもあるし今のは靴が合っていないせいもあるんだけど、この体で初めての外出ではあるんだけど……それにしたって、なぁ……。

 

「はぁ……」

 

ため息が止まらない。

 

乾いてきた汗とともにようやくに整ってきた息を感じながら改めて人の多い光景を観察してみる。

大人と学生と子どもの割合が大体同じという休日特有の家族連れの多い光景。

 

騒がしいことこの上ないしどこかの子どもが泣き始めたら結構響く響く。

あと素の声が大きい人たちの声も。

 

……イヤホン持ってくればよかったな。

 

いつもならこういう人混みや電車に乗るときは必ず持ってくるのに。

機械音とかもそうだけど地味にアナウンスの声とかがキツいからな。

 

それどころじゃなかったからしょうがないんだけど。

 

………………………………あ。

 

そういえば耳の穴のサイズだって相当違うだろうからこのままだと使えないかも。

覚えておかないとな。

 

替えのパーツあったかな。

子供用ってのもあるはず……たぶん。

 

なければ素直に子供用のを買っておこう。

 

いずれにしても人混みはうるさいしぶつかるしぶつかってくるしストレスが溜まるから嫌いだ。

もう少しだけここで休んで体力を回復したら早いところ用事を済ませて、さっさと帰ろう。

 

こういう活気に溢れているっていうか、たくさんの人が思い思いに楽しんでいるような場所っていうのは僕にはもともと合わないんだ。

 

外でこうしてわいわいして楽しめる人たちは僕たち部屋でじっとして静かにしていて楽しめるタイプの人間と……種類っていうか種族が違うんだし。

 

きっと、男と女以上に深い溝があるんだろう。

 

こういうの、もっと早いうちから分かっていれば学生のときみたいにムリして知り合いたちと出かけたりしなかったのにな。

 

おっと、またネガティブが。

いけないいけない。

今は気を抜けないんだ。

 

あと少しだけ休んだら、いつもシーズン毎に来ている服の店の女性服売り場。

 

ものすごく嫌なんだけど確認のためもあるし……なにより早くサイズに合って着られる服を揃えないとだから。


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