【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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28話 「――――」 3/4

 

金髪と赤髪が黒髪に合流してひそひそひそひそひそと話し合っている。

そして夢の中でもひとりぼっちにされる銀髪な僕。

 

……いや、こうやってほどよい距離感が保たれているっていうのが好きなんだからいいんだけど。

むしろ集合時間以外はぼんやりさせておいてほしいんだ。

 

「いえ、でもそれは!」

「でもでもっ、だって現にこうして『こっち』にいるし。 ゆーれーとか思念体とかじゃなかったよ? 触れたしあったかかったし良い匂いだったし」

「ゆ、ゆーれーとか怖いこと言わないでよアメリちゃん…………」

 

女の子の相談してるところって何十回も見てきたけど似てるよなぁ。

 

こうして見てみるとみんなほとんどおんなじような……ちょっと硬めな素材でできたコートみたいな、だけど涼しそうな証拠として生地は薄いらしくって光が少し透けている感じの春コートみたいなものを着ているらしい。

 

これはきっと、かがりに連れ回されているときにマネキンが来ていた服かなんかを僕の無意識がファンタジックな模様とかつけてアレンジしただけなんだろうな。

 

その証拠に3人とも髪の毛の色こそ3色カラフルだし、でも僕と同じような感じにだらんと伸ばしたままで僕と同じようにちょっとだけ短い毛がはねているところがあるっていうのも変わらない。

 

体つきも顔も僕の成長後の理想をほぼ再現した感じだから文字通りの色違いって感じだしなぁ。

 

理想とはいっても今の理想だけど。

さすがに大人になるのならこれじゃまだまだ足りないし。

 

一応はかがりみたいに世話焼き……お姉さんぶりたがる黒と、その黒と仲がよさそうな赤、それと引っ込み思案なのかちょっと腰が引き気味な金、と性格は違うみたいだけど誤差の範囲でしかない。

 

まるでゲームの色違い程度の違いしか無いもんな。

ぱっと見てわかりやすいのはいいんだけど……もうちょっとこう、違いとか作れなかったんだろうか僕の脳みそ。

 

みんなでいつもの僕みたいにぼけーっと立っていたら色以外では見分けつかなさそうだし。

 

これが僕の想像力の限界なんだろう。

 

「それじゃあ、あなたはもしかして……?」

 

話が終わったのか黒よりも動きが大きい赤がにじり寄ってくる。

ちょっとつり目っぽいって思ったけど違って、ただ目がもっときらきらしてる感じってだけか。

 

「え、う…………うそ……じゃないの、ほんとうに…………?」

 

もはやへっぴり腰って感じの金色が赤に隠れて僕を見てくる。

 

僕よりもまぶたが重そうな感じでけど眠そうじゃないのはきっと、ちょっとは成長していてほっぺたがしゅっとしているからそう見えてるだけ。

 

「そうなの!!」

 

「!?」

 

どんっと衝撃を受けてびくってしたら……けっこう離れていたはずのが僕に体当たりをかましていて後ろから抱きつかれていた様子。

 

いつの間にか後ろに回り込まれていたらしい。

 

そしておもむろに僕の肩へ彼女の両手の、僕の背中へ彼女の……お腹から胸の、僕の頭の上には彼女のあごの重量が乗ってくる。

 

ああうん、これはかがりやりさりんの感覚を再現してるだけだな。

女の子って本当にべたべたしたがるよね……男同士じゃありえないくらいに。

 

「重いよ……」

「ふふふんっ! 私たちは『響』よりもずーっとお姉さんだからねっ」

 

重いって言っても怒らない。

 

……この子本当に女の子?

 

あごが頭のてっぺんをぎりぎり痛くない感じに押し込んできて、ちょっとだけある感じの胸がうなじを包んでくる。

 

香ってくるのは今まで……あの4人とお隣さんくらいだけど……今井さんとかもあるか……とにかく僕の限られた経験の中でもまだ嗅いだことのない海の香りって感じの香り。

 

海外の人の香水とか日焼け止めって独特の匂いしてるけどちょうどこんな感じ。

 

僕この匂い好きかも。

 

あとでシャンプーの銘柄をいやいやこれ夢だから僕の妄想だから危ない危ない、ついいつもの思考回路になりそうだった。

 

「そうなのよ! この子がソニア……じゃなくって『響』! おんなじ『響』みたいなのよ!! たぶん」

 

ソニアって誰?

 

うしろからほっぺたをびよんとされているけど僕は大人だし、そもそも夢ってことはこの子たちも僕の一部だし、怒らない怒らない。

 

「なんでか分からないんだけどね、だけど私がさっき通知があったから行ってみたらなんと! このぼーっとしたちっちゃい感じの『響』を北の海辺で見つけたのよ!! すごくない!?」

「え、でも、それって…………」

 

拾得物とか保護した小動物みたいな扱いをされているのはきっと、この子のモデルになったかがりのせい。

 

起きたらもう一緒に服を買いに行ったりはしないって……もちろんムリだってわかっているけど彼女ににそうメッセージを飛ばして憂さ晴らしをしないとな。

 

それくらいはしても良いだろう。

いつも世話を焼いてあげてるんだからさ。

 

それにこういうもやもやって全部1個1個の積み重ねなわけで、つまりはみんなかがりのせいだろうし。

 

とにもかくにもあの中身が詰まっていないメロンが悪い。

脂肪だけは詰まっていて単体でも重いけど。

 

とにかくあの子が悪いったら悪いんだ。

 

僕は悪くない。

 

「でも、やっぱりおかしいよ……いくらなんでもそんなのあるはずが」

「そうよねー、あとこんだけちっちゃくなってるのも変だし。 それじゃあまるで『響』がこっちに来たとき…………あ、ダメだったっけ言っちゃ?」

「止めといたほうが……」

 

主語と目的語を省略する仲の良い女の子たち同士の会話が続いているけどもう慣れてる。

僕は興味ないからどうでもいいけど。

 

話し振りからして僕は犬とか猫扱いらしく、頭上でなにやらを相談しつつ代わる代わる3人におんなじようになで回された。

 

ちなみに体のバリエーションもないらしく、みんなおなじくらいの身長で胸もおなじくらいの大きさだった。

 

抱きつかれ慣れていると背中とかうなじの感覚でだいたいの大きさがわかるしなぁ……悲しいことに抱きつかれる経験だけは豊富だから。

 

……胸はともかく身長、せめてこの子たちくらいあればなぁ……。

僕の頭はどうも中学生にとってちょうど置きやすい位置にあるらしいし。

 

みんなによく手とか置かれるしな。

縮んだりはしないってわかってはいても気になるものは気になる。

 

「『響』を連れてくる途中に考えたんだけど……」

「それしかないかなぁ……?」

「うーん……難しいねぇ……」

 

と思ったらもういっかい順番に後ろから抱きしめられるツアーらしい。

やわらかいし温かいしみんな似た感じの匂いするからいいけど。

 

この子たちが現実にいる年下の女の子たちじゃないって分かってるから罪悪感とか無しにされるがままだ。

 

おんなじように髪の毛の手入れで苦労しているはずの、背が高いぶんだけ髪の毛もさらに長いはずのこの子たちは撫でるときにくしゃくしゃにしてきたりしないのだけが救い。

 

代わりに手で梳かれるから地肌をくすぐられる感じになっているけど。

 

頭のてっぺんの毛って短いのとかあるしくせっ毛たちは跳ねやすいもんだから、いちど梳かしたらなるべく触りたくないし……これ夢だったから関係ないのか。

 

ということはこれもまた僕がふだん抱えているストレスの一端ってことで。

 

……そろそろ言いたいことはちゃんと言おう。

そう決心する。

 

だいたい僕のほうが……少なくとも中身は年上なんだし、触らせてあげているだけだし。

親しき仲になりつつあるとはいえいっつも僕が我慢している関係っていうのは子ども相手とはいえよくないだろう。

 

どうせ口はすぐに動かないからもぞもぞ抜け出たりしないといつまでも……だし。

 

撫でるのが下手だったりそこじゃないところを撫でてくる人の手からさっと身をかわす猫みたいに、スキを見て抜け出ないとならない。

 

「……これは一時的なものだとは思うのよ。 だってここまでっていうのは予想されていなかったし。 けどこれ以上のなにかとかわからないじゃない? だから念のため、ふたりのどっちかでもいいから直接報告して連れてきてくれる? タチアでもノーラでもどっちでもいいから」

 

なにやら黒髪の子のトーンが下がっている。

 

あれ、なにか僕怒られるようなことしでかしたっけ?

 

あぁいや、これは怒っているほうのトーンじゃなくて大切で内緒な話をするときの感じか。

 

「…………………………………………」

「なんか不機嫌そう……?」

「『響』もおんなじなのねぇ」

 

途中から耳を澄ませた感じだと、どういう話の流れだったのかは聞いていなかったからはっきりとわからないけど……どうやら僕の身柄をどうこうするって方向らしい。

 

僕がいつ目を覚ますのかってことかな?

 

早く起こして欲しいっていうのがついに夢の進行に反映し出したか。

いい傾向だ。

 

醒めない夢とか悪夢でしかないもんな。

 

「なんだったらあなたたちに預けて私が行ってきてもいいんだけど……」

「でも私、『響』はアメリ、あなたと一緒だったんだからあなたはそばにいたほうがいいと思うよ?」

「そう……だね、誰かが話しかけていたほうがきっと気が楽だし……私じゃうまくお話しできないからなぁ」

 

でもなんで僕はいつもお世話される側なんだ。

たまにはお世話する側でも良いって思うんだけど?

 

「なら別にタチアでもいいんじゃないの?」

「え、いいの?」

「ダメだよ、タチアちゃんだとぐいぐい行き過ぎちゃうでしょ?」

「あ——……」

 

「やっぱりアメリちゃんがいいよ。 この中でいちばんのお姉さんだし」

「ぐぬぬ……」

 

アメリ、タチア、ノーラ。

 

なんでここへ来て洋風な名前なんだろう。

まったく聞き覚えない感じの響きだから覚えづらいんだけど。

 

とりあえずひとりだけ覚えよう、黒はアメ……黒飴……アメリと。

 

よし。

 

お姉ちゃんぶるのが黒アメさん。

今はそれだけ充分だ。

 

人の顔と名前を覚えるのが苦手な僕は人がたくさんいるときはとりあえずで話しやすそうな誰か1人だけ覚えるようにしてる。

そうするとちょっとだけ気が楽になるし、話しかけなきゃ行けないときにもあわあわしなくなるんだ。

 

「ないとは思うんだけど、もしこのままになっちゃったら……だし」

「そうね、今日はようやくのおやすみなのにまたひとりでどっか行っちゃって。 どうせまた連絡つかないだろうし。 なら私とノーラで手分けして来たほうが早いんじゃないかな?」

「うん…………そうかも。 お話しできるアメリちゃんとタチアちゃん、どっちかはここで一緒にいてあげてほしいし」

 

赤がタチアちゃん……じゃなくってタチアで金色がノーラか。

 

……夢の中なんだからもっと覚えやすい単純な名前にしてほしかったなぁ。

 

僕の無意識が自動生成した名前だからか案外素直に頭に入ってきているしそんなに問題はないんだけど。

 

あー、やったらに長い名前とか似た名前とかじゃなくってよかった。

ほら、文学とかだとやたら長い名前の人って多いし。

 

「あれはもともとが奇跡みたいなことだったし……予測できないこういう事態も充分にありえそうだよね。 できるだけ早く伝えないと、かなぁ」

 

頭の上であごの動きと一緒につぶやくのが聞こえたと思ったらようやく金色の……ノーラって子からのハグから解放された。

 

ようやくできたこのスキに2歩3歩と後ずさって、もとい前にずさっとしてこれ以上猫の扱いを受けないようにと試みる。

 

普段からの学習だ。

 

「そう? ならタチアは……船のほうに。 ノーラは島を回ってくれる?」

「えぇ」

「いいよ」

 

金色がノーラ、赤がタチア。

黒はなんだっけ?

 

「私はこのへんで『響』と待っておくわね。 ……けっこー歩いてきたし、これ以上どっか連れ回しても困っちゃうし? だからといってひとりにするのは私たちも不安だし。 ひととおり見て回ってもいなかったらまたここへ来てちょうだい?」

 

「いや僕は1人の方が」

「了解よっ!」

「はいっ! アメリちゃんも『響』ちゃんのお世話、お願いしますっ」

 

「…………………………」

 

僕とタチアとノーラの声がぴったり重なって誰にも聞かれなかった。

 

夢の中でも僕はこうなのか……まぁ現実の再現だしな。

 

落ち込みそうになったところでしょせんは夢だと立ち直る。

起きて覚えていたら発声練習とかも毎朝しようって思う。

 

せめて「あれ、今なんか言った?」って聞き取ってもらえるくらいには成長したい。

声って普段から使ってないとどんどん小さくなるもんだし。

 

でも夢の中だからしょうがないんだけどな。

 

夢の中くらいは理想の僕で居たいところだけどそれが難しいんだろうなぁ。


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