【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間 作:あずももも
この体になってから食欲はかなり減った。
かなりって言うのはざっくりと半分くらい。
食欲自体は前くらいあるんだけど、いざ口にしてみるとすぐにお腹がいっぱいになっちゃうっていう胃の容量の問題なんだろうね……身長150にも届かないしね……。
だって胃の容積ってその人のこぶし大っていうし。
それならコンビニのおにぎりいっこでもお腹がいっぱいになっちゃうのは当然。
だけどこれには抜け道があって水分だけなら問題ないらしい。
つまりは夕方からはお酒で占められているわけだけど、その前までの時間っていうのはコーヒーとか紅茶とかジュースとかの飲み物でかつての食欲に対する今のか細い食を補うような形で、ヒマさえあれば適当ななにかを喉へ流し込んでいるわけで。
そういう意味では今ここで夢の中でもまたごくごくと冷たいものを喉で味わっているっていうのもまた……僕が現実で満たし切れていない本能を満足できる形で再現しているんだろう。
だって、前の僕と今の僕とで変わった行動はこのくらいだしなぁ。
代償行為っていうやつ。
煙草とかお酒を止めようとすると別の何かでストレス発散したくなるあれだ。
とっても悲しいことだけどこれはそういうものなんだろう。
まぁおいしいんだからどうでもいいか。
今回は夢の中なわけでカロリーも何もかもゼロだしな。
うん、やっぱりお酒呑めて良かった。
この体でのお酒なんて人に見つかるわけに行かないもんね。
「ふぅ…………………………」
息を止めて一気にごくごくと、時間をかけてごくごくと、舌とほっぺたの内側と舌のつけ根と喉で……もちろんこれもまた妄想なんだけど、黒飴さんからもらったジュースを味わっていた僕は満足のため息をひとつ。
中身はミックスジュースっぽいなにかだ。
繊維がつぶつぶしているから外国でよくある目の前で絞ってくれるアレみたいな感じで、これもまたきっと過去の僕のすっかり忘れちゃっていた記憶を使っているんだろう。
触覚までしっかりあるんだから、そりゃあ味覚も僕を満足させるくらいはあるよなぁ。
できればここにもお酒がほしいところだった。
念じれば出て来ないかなぁって今でもこれにアルコール分を込めている。
今のところ、この試みは無力だけども。
「ぷぃぁあ————————……」
僕に合わせて無理やりがんばっていたらしい黒アメさんことアメリさん。
このくらいの年ごろの子って呼び方に困るよなぁ……の口からもまた気の抜けた音が響く。
「たっくさん歩いたもんだからおいしいわよね! これが働いたあとの1杯ってやつよね!」
「うん、多分」
労働の後だったらお酒が欲しかったな、僕は。
「あそこはなーんにもないところだったからどっちにしろムリだったんだけど、でもあそこ……あ、『響』がいた砂浜ね? あそこだったらきっと……じっとしてたら暑くなるけどときどき日陰とかに入ったりして気持ちいーい日差しを浴びて! そんでもって海を見ながらーって感じできっときっともーっとおいしかったかも! こんどやりましょ!! ……あ、でもー、あっちには冷蔵庫とかないし……こうして体をさんざん動かしたあとにぐーっといっぱい飲むのもまたいいものよね『響』?」
「うん、そうだね」
夢の中だったら炭酸のしゅわっと感も味わえないかなぁ。
「やっぱり? そうよね、やっぱりあなたも『響』だものね! そりゃあそういうのもおんなじよね!」
「うん、だろうね」
飲み食いしているときなら女の子っていう生きものと一緒にいてもわりと楽。
だって意識の大半が味覚に行っているもんだから、いつもよりも雑な返事しかしなくたって気がつかれることがないし。
だからいつもかがりにはコンビニとかデパートでちょくちょく見つけては一粒ずつ食べられるようなお菓子を与えているし、りさりんさんもおんなじだし。
ゆりかには効果は薄目だけど、でもお菓子なら一緒に食べておけば若干は静かになる。
……さよは僕とおんなじタイプだからその必要はないし、こういう餌付けもとい貢ぎものをあげたことがないからわからないけど。
ほとんど会話らしい会話しなくってもいいときまであるし、楽なのはいいことだ。
夢の中だし遠慮はいらないしって手渡されたおかわりをごきゅごきゅと一気飲みする。
「……ね、ねぇ『響』?」
「なに?」
「『響』はさ、そのー。 ……最近元気してる?」
「……………………………………………………………………」
ろくにコミュニケーションが取れない父親か君は。
見た目が僕の成長版で色違いだしなんだか…………哀愁を感じてしまう。
ある意味僕自身を正しく正確にちゃあんと反映しているとも言えるけど。
その気持ちはものすごくわかる。
久しぶりに会うと話題見つけづらいよね。
まぁ僕たちは初対面なわけだけど。
「……あ。 ……っていうのもなんか変よねぇ……どう言えばいいのかしら? ねぇ『響』?」
「どうなんだろうね」
なにが変なのかも分からないから適当に返す。
「初めまして? それとも久しぶりなのかなぁ? かといって肝心の『響』にはそのへんのくわしいことあんまり言っちゃいけないだろうし。 うーん、これはどっちになるのかなぁ」
「どうなんだろうね」
よく分からないから首をかしげておく。
「聞いてる? 『響』」
「もちろん」
「あ、よかった。 それでね、えっとその、ね。 ……困ってること、なんかない? 私でも……少しくらいはなにか助けになれるかもしれないし。 何かあるんなら……あるんだと思うんだけど、相談乗るわよ?」
「相談……ね」
「そうっ! なにかある?」
「……………………ん——…………」
なんだか食い気味のアメリさん。
ずっと2人で居たから話すことがなくなってきたのか、あるいは景色っていうちょくちょく変わるものだったから話し下手だけどガイドとかして時間を稼いでいただけなのか、いろいろ飛ばしての話題は僕の悩みらしい。
なんだか自分相手のセルフヒーリングのような気もするんだけど……そもそもそれを僕の意識自身が自覚しちゃっているから意味がないし、なにより話題の変え方が下手で唐突すぎて逆に安心してきた。
でも困ったことねぇ。
「……まぁまずは、とりあえずはだけど」
「なになに!? なんでも聞いて!」
「このよくわからない状況……それにいちばん困っているかな」
「あぅ……それは、えぇっと……」
なんでもとかあんまり言わない方が良いと思うよ?
でも子供って「なんでも」とか「一生に一回の」とか好きだよね。
……さすがに意地悪だったかな、子供に対して。
「まぁ無理ならしょうがないよ。 でもここに連れてこられた理由は知りたいな。 だって僕は別にあのままあのときの砂浜にいてもよかったんだし。 帰る方法う知りたいかな」
僕は知っている。
夢の中で水に関係するのってイコールトイレに行きたいんだって。
物心ついてから粗相をしたことがない身としては今日も安全に過ごしたいんだ。
もし漏らしてたら?
しょげる。
だからこそ早く起きたいんだけど一向に醒める気配のない夢なんだ。
きっと漏らさないって思っておこう。
「え……えーっと……ご、ごめんね……? それはそうなんだろーけど、けどねぇ、私じゃムリなのよ。 もちろん聞いてあげることはできるんだけど解決できるかどうかはちょっと……」
なんかダメらしい。
まだ起きちゃダメってこと?
気まずそうな雰囲気を醸し出しはじめたアメリさん。
といってもどうできるるわけでもなく「でもでも」とか言いながらもじもじしつつ、僕の肩に腕を乗せながらうんうんうなっている。
「解決できるとしたら、えっと……さっきの。 あ、あの子たちは私の妹なんだけどね? あの子たちの名前は覚えてくれた?」
な、名前……そういうのっていきなり言われると覚えていたような気がするのに吹っ飛んじゃって、とっさに出てこなくなるんだ。
「あははっ、その顔! ほんっと、おんなじなんだから! いーい? 元気なのがタチアでおとなしいのがノーラ! あと私はアメリ! ちゃんと覚えてね?」
「あぁ……うん」
僕としては初めて聞いた名前をすぐに覚えるっていうのがムチャぶりなんだと思うんだけど、女の子ってみんなこうだからなぁ……。
いや、女の子って言うより人と仲良くなるのが好きな人かな。
でも、いくらがんばっても覚えられないものは覚えられない。
それに今回の場合はさらに見た目がみんなほとんど同じでまとめて会ったんだし無理でしょ。
「で、なんだっけ?」
「……ここから出るには?」
「あぁそうそう、そうだったわね! 難しいけどとりあえずあの子たちが帰ってきてからで良ーい? で、それ以外に! それ以外で! それ以外でよ?」
つまり僕が聞きたいことは全部NGと。
なんでも聞いてってわりにはとことんダメなんだね。
「それ以外で最近悩んでいることとか困っていることとか無ーい? なんでもいいから言ってみて? たとえばねー、その、えーっと。 『響』の周りで起きていることとかがいいんじゃないかな? お姉ちゃんのおすすめよ、おすすめっ!」
この押しの強さはこの前の山で会った人たちの再現かな?
まったくよくできていること。
これが夢だっていうんだからすごい。
でもまぁ、他に何か……か。
「…………………………」
「わくわく……わくわくっ」
……どうせここはもうじき覚めるはずの夢の中でこの子も実在しないどころか僕の意識の一部なんだし、なんだかどうも僕の無意識はストレスを抱えているらしくってある程度は吐き出さないとこの会話劇場が終わらなさそうなんだ。
ならさっさと話しちゃうか……ただの自己対話みたいなものだけどしないよりマシなんだろうし、きっと僕の脳みそはこのことについて悩んでこんな夢見てるんだろうし。
「なら」
「!! なんでも言ってちょうだいっ!!」
僕の髪の毛を黒くして少しだけ大人びた……他の子もそうだけどお肌は静脈が透けるくらいなのは変わらないみたい……まだまだ子ども、そんな彼女の顔が息がかかりそうなくらいに近くなっていたからちょっとだけ顔をそらしつつ口にする。
別にジュースと海の匂いしかしないから臭いとかじゃなくって、僕はもともと近距離は苦手だから顔を背けるんだ。
あ、隅のほうのクレーンがいくつか一斉に動いてる。
なにをしているんだろう……じゃなくって。
「…………ここのところ、少しだけど」
「うんうんっ!」
「自己嫌悪で参りそうになっていることがあるんだ。 アメリ、よかったらそれについて聞いてもらえないだろうか」
「……じ、じこけんお…………?」
「……………………………………」
「と、とにかく私がなんとかしてあげる! まかせなしゃいっ! ……あっ」
「…………………………」
口を押さえて真っ赤な顔になった黒髪な僕ことアメリさん。
「い、今のは……そのぉ……」
…………クレーンのことを考えるんだクレーンのことを。
いくらなんでもここで笑っちゃうのはかわいそう。
僕だってそれくらいの配慮はできるはず。
この子はこの子なりに真剣に僕の悩みを聞いてくれようとしているんだからがんばって耐えるんだ。
それに噛み噛みなこの子を笑うってことはひいては僕自身を笑うことになるんだ。
こうしてお腹の奥に力をぐっと込めればポーカーフェイスは保てるはず。
あ、でも噛み噛みとかかがりとの初対面を思い出すな……やっぱりこの子の原料はあの子か。