【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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31話 秋は何処に 1/2

「うーん……」

 

立ち尽くしていた僕は静かに再起動した。

 

これ……受け入れるしかないかなぁって。

明日がクリスマスの前の日なイブ、明後日がクリスマスになっちゃってるってこと。

 

今の状況で否定できるものがなにひとつ無い以上には受け入れなきゃならない。

 

……魔法さんが散々いろいろしてきたおかげで結構耐性がついてきた気がする。

 

「テレビがうそっぱちを言っているんじゃないの?」っていう、か細い希望を持ちながら……まだ閉まったままだったカーテンを開けた僕は、テレビの向こうとおんなじ光景を目にすることになった。

 

窓の外は――――――白で包まれた世界だった。

 

まっしろ。

 

光自体は暗めなはずなのにまぶしい白。

1階の窓からだと本気で雪しか見えない様子。

 

やわらかそうな雪がふんわりとこんもりと、狭い庭の地面や塀の上やすっかり枯れている木の枝に積もっている。

 

それも積もりすぎているから2階に上ってみてようやく白以外の色がはっきり見えるっていう具合だ。

 

……見た感じ50センチくらい行っていそう……こんな雪初めて見た。

 

さすがに道は除雪されているらしく歩くこと自体は……あ、うちの前も少しだけやってもらっているのはお隣さんかも。

 

お礼に行かないとなぁ……もう会って話しても平気だし。

 

でもこの体だと雪かきなんてできそうにもないけども。

やり始めたとしたって10分と経たずにへばりそうだし。

 

この姿でへばへばしながら雪かきとかしていたら通りすがりのお年寄りとかおばさんたちに声かけられそうだしなぁ……夜か明け方にやるしかないか。

 

はたしてこの体の筋力でどこまでできるかは疑問だけどやらなきゃならないものはやらなきゃならない。

 

それが町内会の掟。

 

独り身だからこそ愛想だけはちゃんとしなきゃいけないんだ。

目を見て挨拶をきちんとして決まりごとを守っていればなんとかなるんだ。

 

「……しろい」

 

手のあとがついちゃった窓……ちっちゃいもみじがたに曇っていたガラスがくっきりしているし、せっかくあったかくなっていた手のひらがまた冷たくなっている……から離れると、低い空からふわふわと舞い降りる雪が見えてちょっと幻想的。

 

「きれい」

 

真夏に南半球とかに旅行している気分。

だけど今は景色、楽しんでいる余裕なんてないよなぁ……残念だ。

 

普通に秋を過ごして普通に冬になったんだったら楽しめただろうに。

 

充電ケーブルを繋いだばっかりでまだぴくりとも動かないスマホさんは戦力外として、パソコンさんのほうは普通に使えた。

 

かちかちとしばらくネットの記事とかを見ても……やっぱり今日が12月に属しているっていうのは本当のことらしい。

 

だからこれほどまでに体が冷え切っていたわけで、床も空気も冷たいわけだ。

そりゃあ真夏の格好をしたまま一切暖房とかしない家の中で、寝ていれば……ねぇ?

 

さっきエアコンも入れたけどまだまだ寒い。

というかまだ風が温かくなってない。

 

……うん、ヒーターとか出したほうがよさそうだな、すぐには温まらないだろうし。

 

季節としては……雪が積もるほどの真冬。

それも今日まで3ヶ月間一切の空調をしてこなかったことになるわけで。

 

「うぅ……さむい」

 

僕は何着ももこもこと着込んだ上で毛布にくるまっている。

そうして何かがあれば、それを引きずっての大移動だ。

 

だってこうじゃないと寒くてしょうがないもん。

 

……今までよく風邪とか引かなかったなぁ……というかよく死ななかったなぁ。

 

これもまた魔法さんのせいなんだから、そもそも3ヶ月動かずに寝たまんまで生きていたこと自体が魔法ってやつなんだろうけども。

 

 

◇◇

 

 

「あったかくなったのに、またさむい……」

 

せっかく少しして家の中がなんとなく……もこもこと着ぶくれなくても震えないくらいの温かさになってきたというのに、今の僕はもう一度もこもこしている。

 

僕がもこもこしなきゃならなくなった原因。

窓を開けっ放しにして換気をせざるを得なくなった憎ーい原因は……冷蔵庫だ。

 

正確には冷蔵庫の中身……野菜はともかくとして作り置きの料理とか野菜とかのなれの果て。

 

あとはお肉のなれの果て。

 

なれの果てって言うのはとってもマイルドな表現。

 

3ヶ月っていう時間は僕を置き去りにして、しっかりと過ぎていたっていう証拠としてキッチンが……さらには冷蔵庫の中が、それはそれはひどい臭いになっていた。

 

それでも冷蔵庫を開けたばかりのころは「うん?」って違和感がある程度だったんだけど、中身を調べているうちにナニカが溶け出してきたと思ったら「うひぇ」とか「ふぐぅ」って感じの変な声が出るくらいには恐ろしい悪臭が立ちこめたんだ。

 

開けるんじゃなかった。

本気で後悔している。

 

もういやだって思った。

 

だって夏場でも……あ、9月はまだ夏場で10月もそんなに寒くはないのか……野菜を放っておけば緑とか黒っぽい液体になって、お肉は白くなったり黒くなったりして異様な姿へと変貌するし。

 

それを3ヶ月。

 

とんでもないことになっていたんだ。

 

でも全部ビニールとかで区切られてるし何でここまでになっちゃったんだろうって思ったんだけど……よく調べてみたら上に置いておいた作り置きの料理から流れ出したナニカが下へ下へと浸食しながら広がって……さらには乳製品とかまでを直撃した様子。

 

キノコとかコケとかが生えていなかったのが幸いなところだけど見たものと嗅いだものが強烈すぎてしばらく忘れられなさそう。

 

勝手にトラウマを生み出されて非常に迷惑この上ない。

 

とりあえず魔法さんのことは掃除しながら徹底的に罵っておいた。

 

……これ、冷蔵庫の中身……瓶とか以外はみんな新しくしないとだなぁ……臭いが染みついちゃっていてもうどうしようもないだろうし……。

 

内側のプラスチックにまで染みていたらヘタすれば冷蔵庫ごと買い替えってことになりそうだけど、そうならないといいなぁ……冷蔵庫って高いし……。

 

というか冷蔵庫が無事だったとしても、その下はどうにかして動かして掃除しないとならないかも。

 

だってナニカの臭い液体が、扉から床にまでぽたぽたと染み出てきちゃってたから。

 

まさにホラーだ。

 

臭いし汚いし最悪。

 

おかげで日付が飛んだショックももういっかい飛ぶことになったくらいだ。

五感は何にも勝る。

 

「……ふぅ」

 

臭いのを片づけるために使ったぞうきんとか着なくなったけどそのまま取っておいた服とか、臭いナニカを染みこませたものが詰まったビニール袋をぎゅっと二重に閉じる。

 

でもくさい。

 

もういやだ。

 

誰か助けて。

 

でも僕がやんなきゃなんないんだ。

それがひとり暮らしってこと。

 

だからがんばって綺麗にして、さらに念には念を入れてとりあえずで庭先へ避難させてきたらちょっとはマシになった気がする。

 

臭いもだいぶ抜けてきたみたいだし。

 

そろそろ良いかなってところで窓を閉めて、もこもことしながらコーヒーを飲み直すことにした。

 

「………………………………………………」

 

冷蔵庫はまだ良いとして……こんなに外寒いしベランダに置いておけば腐らなさそうだし……こうして着ぶくれなきゃならないほど薄い服しか持っていないのが問題だ。

 

暖かい服が足りないことのほうをなんとかしないとなぁ。

まだ「冬には戻るかも」って思って取っておいた男物だとぶかぶかすぎて間に合わないし、ズボン系は全滅だし。

 

こうして着ぶくれたあとに毛布被っていてもいいんだけど重いし外には出られないしなぁ。

 

……あと、鏡を見るとどこかのお遊戯会にいそうなまん丸になっていたから、さっさとまともな格好になりたいっていうのが本音。

 

……こんなときにまでいちいち男のプライドが顔をもたげてくる辺り、僕って案外図太いのかも。

 

 

 

 

鼻の奥まで染みついた、あの「モノではないナニカ」の臭いがコーヒーのおかげでようやくに消えてくれてなによりで、それだけで機嫌がよくなってくる。

 

単純だけど本能だからしょうがない。

 

これでまともに考えることもできるってわけだ。

臭かったら考えるものもむずかしいもんな。

 

で、体を動かしていたらまとまってきた思考を働かせよう。

 

まずは時間のこと。

 

まさか僕自身が……タイムスリップとかでいいんだろうか……するとは思ってみなかったけど、とりあえずは事実として受け止める。

 

僕視点で一昨日、山からの帰りにテンションが上がったおかげで秋ものを買っておいてまだぎりぎり外に出られる格好が残っているのが幸い。

 

あぁいやそのせいで飛川さんにもバレるハメになったんだし……まぁあの日の前からこの姿を何回も見られてたってわかっているから、いずれあぁなるっていうのは変わらなかったんだろうけど。

 

でもそのおかげでこうして、寒いんだけど着ぶくれて毛布を引きずっていれば温かさと重さを両立させられる格好ができるし……うん、過ぎたことはしょうがない。

 

それにバレたおかげで魔法さんについてよりはっきりとわかることになったから、むしろ早めにバレてよかったんだろう。

 

じゃなきゃ今でもよくわからないまま、なんにもバレていないって思ったままで今までどおりに何も知らないで過ごしていただろうし。

 

それはそれで怖いよね。

知らないって恐い。

 

……なんだかイマイチ魔法さんが僕に求める方向性がはっきりしてこないから、これが呪いなのかSF的な何かなのか、ファンタジックでオーソドックスな魔法ってやつなのか超能力なのか。

 

そのへんはあいも変わらずにわからずじまいだけど、それは生きていくだけなら必要のない情報だし今はまだ保留だ。

 

昨日……これまた僕にとってだけど……実験のおかげで、金も人目もまったく気にしなくていいってことがわかったのも大きい。

 

あんな変な夢見るくらいには飲んだくれるハメになったけどたまにはあぁいうのも……っていやいやこれはアル中の思考じゃないか、やめやめ。

 

「……ゆめ」

 

明晰夢的な――あのなにか。

 

僕の過去を無理やり見せられるっていう毎度おなじみの悪夢に続いての「もし嘘をつかずにお隣さんに即バレしていたら?」っていう妄想とみんなと会っていた記憶がごっちゃになっていた場面。

 

成長したさつきさんっていう……妄想でしかない存在も出てきて。

 

そのへんからだんだんとクリアな視界と音が出てきたと思ったら、今度はまぶしくなってからのもっとリアルな、限りなく現実に近いような展開。

 

そして黒あめさんと赤タチアさんと金ノーラさん。

 

そんな不可思議な夢を見ていたせいで現実感のない目覚めになった。

まぁそんなのは寒さと日付と冷蔵庫のせいでさっき吹っ飛んたけど……。

 

で。

 

3ヶ月。

 

僕は……どうなってたんだろう。

 

普通に寝たまんまだったらこうはならないはずだ。

 

魔法さんが僕の体にも何かをして……タイムスリップとかコールドスリープみたいなものとか冬眠みたいな現象が起きたんだって思っておく。

 

多分あの不思議な明晰夢も魔法さんの仕業。

 

でも……今度は何が原因でこうなったのか、皆目見当がつかない。

 

特別に何をしたわけでもなく、今までのように誰かと接触したり物理的に僕の見た目を変えようとしたわけでもないし……。

 

「うーん」

 

心当たりは思いっ切りある。

 

けど心当たりのある原因がまとめて同時にいくつも起きたもんだから判断に難しいっていう感じなんだ。

 

でも、時間が過ぎたのは確か。

 

だって僕、お風呂ついでに鏡でじっくりと見てきたけど……激やせしてたから。

それはもうぱっと見て「ぴっ」て声が出るくらいにはがりっがりになっていたんだ。

 

顔もこけてるっていうか眉のところのホネまではっきり見えるくらいになっていたし、いつにも増して顔色も悪くって体も全体的にホネホネしていたし。

 

せっかく「ちょーっとはふくよかになれてきたかな?」って思っていたのに、ぜんぶリセットどころかマイナスに食い込んでいるし。

 

おまけに力も入りにくいし体もだるい。

ただ立って歩くだけでずーんと重力を感じる始末だ。

 

なんか全部巻き戻されちゃった感。

 

そう言えば最初にこの体になったときもこんな感覚だったなぁって思い出す。

 

せっかく半年掛けてちょっとは肉付き良くなってきたのになぁ……また食べ直しだ。

 

「おっとと……」

 

ちょっとふらふらするし体力も落ちているんだろう。

 

だって3ヶ月だもんね。

 

何ヶ月も寝たまんまで雪の日に目を覚ますとかものすごくレアな体験してるなって思っておこうっと。


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