【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間 作:あずももも
2日目の朝。
ちっこい女の子になったって確定した以上遠慮がなくなった気がする朝。
僕は何なんとなくですっぱだかになった。
小学生女子のすっぱだか。
なんか言葉だけで逮捕されそうな雰囲気。
だけど今は僕自身がそれなんだから大丈夫。
それでお風呂の鏡の前でいろいろなポーズを取ってみる。
「………………………………」
………………………………………………………………ふむ。
鏡の前にはすっぱだかの幼女っぽい何か。
前の僕がいる状態でこの子がこんな姿をしているのを見られたら1発で社会的制裁だな。
そんなことばかりが頭に浮かぶ。
現代の男って言うのは何かにつけて犯罪者になるんだからしょうがない。
そうは思うけどこの体は僕のになってるし、それを見たからと言って僕が欲情とかするわけないから割と抵抗はない。
たぶん変なテンションになってるんだろうな。
ぼーっとしてる普段の精神状態の下はきっとあたふたしてるんだ。
だけど目の前の女の子は眠そうな目をしながら凹凸のない体を露わにしている。
目の保養にもならないただの子供だ。
シャツでシルエットが隠れていたら分からなかったけど、裸になって髪の毛を適当に除けてそれっぽいポーズを取ってみるとこれだけ幼い見た目でも多少は色気……のようなものが出てくる、気がする。
少なくとも男じゃこうはならない感じの。
……髪の毛が体に適当にかかっているほうがそれっぽく見えるか……?
「………………………………っ」
……髪の毛がくすぐったいな、やっぱり止めよう。
肌にちくちく当たるところがこそばゆすぎて笑っちゃいそうだから止めた。
それにしても色気か。
こんなに幼いのにな。
ないはずなのにそんな感じの何かを感じる。
って言うことはやっぱり発育不良の小学校高学年くらいの肉体年齢なんだろうか。
顔つきも体つきもどう見てもずっと幼いんだけど。
でも小学校低学年くらいで……いや、女の子は成長が早いって言うし、もしかしたらやっぱり体から何かが出てるのかもしれない。
僕はそういうのに興味がなかったからさっぱりだけど。
ともあれ……なるほど。
起伏のほとんどない体だって、ひねりを加えて横から見れば。
見たことのあるそれっぽいポーズでわき腹がつりそうになったりしながらがんばってみる。
なかでも腰のひねり具合がカギみたいだ。
ふむ。
意外となかなかどうして……。
◆◆◆
それから数時間後。
僕は地獄のフタを開けちゃったみたいだって気づいてる。
気がついてから後悔している時間を過ごしてる。
……知っていたじゃないか。
女の人の買い物はやたらといろいろ大変らしいんだって。
だから僕は孤立無援で女性服売り場……と子供服売り場のあいだの試着室。
そこで精いっぱいに戦っているんだ。
「お客さま! こちらの服もとってもお似合いですよっ!」
「よかった、じゃあこれを」
「では次はこちらです! これまでとは違って少し大人っぽい服装もきっとお似合いだと思うんですよ私! さぁ!」
「でも」
「さぁ!」
「いえ」
「!!」
「……わかりました、じゃあ着てみます」
「はーいっ! 今サイズ用意しますねっ」
きんきんとした声が鼓膜を破ろうってしてる。
◇
仕切りを隔てただけのところから声が止まらない。
「お手伝いは本当にいりませんか?」
「いらないです」
「本当に?」
「ほんとうに」
お着替えのたびに何度も聞かれる。
しつこい。
◇
何回か着直したあと。
正直疲れてきたし汗もかいてきたしもうどうだって良くなってきた。
「サイズとか、きちんと測ったほうが」
「合っているので大丈夫です」
「おひとりでも」
「着替えくらいできるので結構です」
「でも」
「結構です」
入って来ようとして手がわきわきしてるのが分かる店員さんからディフェンス中。
◇
「………………………………」
僕はいかにも小学生の女の子が着ていそうな服装を何着も次々と手渡されて「着ろ」と言われたから仕方なく着た。
いや、実際にはもっと優しい感じ……じゃなくてきゃぴきゃぴした女の子らしい言い方で「これもいい」「あれもいい」って言葉で包んだ脅迫だった。
僕は弱いんだ。
ニートは保護されるべきなんだ。
幼女になったニートはさらに大切にされるべきなんだ。
最初に渡されたままに来て見せて「どれでも合ってる」って言われたから、もうめんどくさいし疲れたし、「着ているのでいいや、これにします」「あとめんどくさいので着て帰ります」って言おうとした。
けど当たり前なんだけど僕は話すのが得意じゃない。
ひとりじっと本でも読んで数日経つことも珍しくない存在。
だから「あ」とか「え」とかをやっと言ったところで次の服を持ってこられるのループに陥っている。
ひどいハメ技だ。
けども必死に「結構です」を連発して妨害中。
どさりとカゴが置かれてカーテンの下から滑り込んでくる。
「こちら、置きますねっ」
「…………………………」
こんもりとした服を見るに、なんでも今度はかわいい系からオシャレ系らしい。
女児向けの服ばっかりだったのに文句を言ったからかちゃんと女の人の……レディースが混じってきたのはいいんだけど。
やっぱり服屋は疲れるな。
めんどくさい。
あとうるさい。
いちいち服を脱いで苦労してどうにか着て、見せて……なぜかひとしきりいろんな店員に見られて感想を聞かされてから次を催促される。
どうだっていいのに「どうだっていい」って言う前に「もちろん次のを試すよね?」って女性特有の圧力で押し潰されそうになって言うことを聞くがままだ。
僕は弱い。
幼女だし。
男だったら……この勢いじゃ絶対ムリだな。
僕だから分かるんだ。
とにかくその繰り返し。
時計を見るともう30分は経っている。
なんていうことだ。
お酒を呑むよりも無駄な時間を過ごしている。
こんなことならお酒を呑んでいたかった。
何回大げさに「はぁ――……」ってため息をついて「もううんざりしているアピール」をして、もういいですって分かってもらいたくても一向に気がつく気配のない店員の人にまたどっさりと服を手渡されて……半分諦めながら僕は何回目かに試着室のなるべく奥に引っ込んだ。
僕は5センチでも良いから他人とは距離を取りたいんだ。
うげ、って……鏡の向こうの僕はほんとうに嫌そうな顔をしている。
顔が整ってる幼女がすると、それはそれはすごいことになるんだな。
嫌そうな顔をしてる女の子が好き、っていう性癖の人をちょっと理解できた気がする。
あ、けど僕がするのは勘弁だ。
「お客さまー、さっきのがガーリーでとてもお似合いでしたので……」
止まらない店員さんの声。
カゴのおかわりが来てしまった。
せめて着替えているあいだだけは口を閉じておいてほしい。。
僕は女の子じゃないし、女の子だって寡黙な人はいるだろう。
ああいや、こういうところで働きたい人はきっと話すのが生きがいなんだ。
話していないと死んじゃうんだろうな、この人たち。
しゅるしゅる。
僕はこの煉獄から解放されたい一心で着させられた服を脱いで、畳んである服を開いた。
◇
――――――――――――――――――さて。
時間は遡ること、この地獄から30分くらい前。
駅ビルの1階の広いところで涼んでいた僕。
体力が回復するまですることもないからなんとなく脚をぶらぶらさせている途中で気がついた。
……子供みたいなことしてる。
手持ちぶさたなのを脚でぶらぶらしているだなんて。
確かに肉体は子供になってるけど心は一応は大人の僕は勝手に傷ついて鬱々として……そのうちに元気になると大きすぎるエスカレーターに恐々として乗って、ようやくで何年もお世話になっている服の店に来ていた。
お世話になっているといっても僕が勝手に服を買ってお店にお金が行くだけの関係。
ものすごくドライで割り切った関係だ。
わざわざ雑誌を買ってまで服を考えるのもいちいち調べるのも面倒だから、服が欲しくなったときにそこそこに安くてサイズが合いやすくて何より安い有名チェーン店のこの店に来て、マネキンをコピーしたり店員さんに流行りを聞いて適当にセットで買うだけ。
でも意外とこれだけでそれっぽく見える格好になったからお気に入りだ。
そのときの体に合ってるサイズと流行りの色さえ用意すれば半年くらい戦える。
もう高校生くらいから続けてるし、これまでの人生でそこそこのお金は落としているはずだ。
まあお得意さんなんだけどチェーン店だし思い入れはない。
ほとんど会話もしないしすぐに店員さんも変わるから気が楽っていうのはとっても大きい。
相手もどこにでもいる普通の男なんていちいち覚えたりしないしな。
話しかけられるのは服屋の宿命だから諦めているけど、事務的なそれは助かるんだ。
できたら毎回初対面がベストだ。
世間話も初対面用のセットを使い回せてとっても楽。
もし店員さんが絶対に話しかけてこなくって目も合わせてこない服屋が登場すればすぐに乗り換えるけど……まぁないだろうな。
それじゃ服屋のアイデンティティに関わるだろうし。
それに軽く勧められるのを期待してる節もあったりする。
押し切られるようにして買うことってわりとあるし。
断れないとも言う。
さて、だいたいどの辺を見ればいいのかまで分かっているなじみの服屋だけど今日は違う。
なにしろ男物……メンズだな、そこへ一直線だったのが女物……レディースとかキッズの中間くらいの服しか着られなくなってるから。
よって、まったくこれっぽっちも分からない。
このお店はもう僕の行きつけじゃなくなった顔をしている。
僕はもうダメだ。
そうしょげるくらいに……来る前は適当に合いそうな服をぱぱって選んでぱって帰ろうって思っていたのに、その合いそうな服の見当がまるでつかなくなった。
どうせ子どもの服だからって甘く見ていたのかもしれない。
よく考えたら当たり前だった。
だって売り場の面積どころかフロアの数まで違うんだから、よくよく考えていたら分かったはずなのに。
僕は途方に暮れるって思いを、旅行先のバスで2時間くらいの僻地に行って帰りのバスを乗り過ごしてあと2時間くらいなんにもないところでぼーっとしなきゃならないって気がついたときくらいに絶望した。
今までなら売り場に行けばすぐにマネキンとかで流行りがセットでそろえてあって、その中から適当に好きなのを選んだりあるいは勧められたりしたのを試着したりして「これ買います」で済んでいたのに……マネキンの数自体がそもそも違うし着せてある服の種類も何もかも。
僕の目から見ても何がどう違うのかぜんぜんよくまったくこれっぽっちも分からない。
なんで女の人の服ってこう似てるようでぜんぜん違うんだ。
かといって棚を直接見てみても男の服のに比べて何倍もあるし。
服の呼び方もなんだかよく分からないカタカナ用語で満ちあふれているし。
ここ、僕が知ってる文化圏だよな……?
そう思って見回してみる。
値段とかを見ても安くはあるけど知ってるような単語が書いてあって、でもその見当が皆目つかない。
これはあれだ、単語が分かっても文章になると分からないって言うあの感覚に近いんだ。
ニートの傍ら余りある時間で意味もないのに無駄に時間だけは費やしたから語学力はそこそこあるつもりなんだけど、どう見ても単語は知っているけど意味が類推できないカタカナばっかり。
おかげで手に取って広げてみるまでそれがどういうものなのか分からない。
広げてみてもそれがどんなパーツなのかしか分からない。
…………これとこれは名前も形もちょっとだけしか違わないけど、何がどう違うものなんだ……?
謎だ。
謎しかない。
この世界にこんなエリアが存在したなんて。
僕は女の子になって初めてばっかりだな。
こんなことなら来る前にネットで軽く調べたらよかったのかも。
けど出かける前は外に出るためのこの服を探したりするの精いっぱいで思いつきもしなかったからなぁ。
家を出るための服を探すのを諦めて素直に通販を選んだ方が絶対に楽だったって気がついたけど、来ちゃったからには買わずには帰れまい。
「………………………………」
じとっとした汗がこめかみから垂れる。
女の子でもこういう汗かくんだな。
当たり前か、人間なんだから。
それにしても居心地が悪い。
完全にアウェーだ。
ここは僕のような人間とは真逆の空間なんだ。
服を探してうろうろしているだけで何人もの店員さんたちから見られているのをひしひしと感じる。
ガン見してくる人までいるし。
男のときは眼鏡のフレームで上手に遮れたけど今は裸眼だ。
そんな逃げ場はない。
なんてことだ。
もう帰りたい。
僕の口元はちょっとだけへの字になる。
でもなんでこんなに見られるんだろう。
外じゃそんなんじゃなかったはずなのに。
ダサいからか?
やっぱり服屋で働く人的にはアウトなのか?
オーラ的な何かで分かるんだろうか?
女の人の第六感とかなんとかで。
この格好はNGだったのか。
……まぁよってたかって話しかけてこないだけマシだけど。
出てけとか言われたら3ヶ月くらい引きこもる自信が出てきたぞ。
マイナスな自信が出て来たから気がついたけど……服のお店なんだからあたりまえなんだけどなんだかふだん来るときとは違う雰囲気。
なんだろう、この空気。
話しかけてくるわけでもなく買わせようと迫ってくるわけでもなく、ただ遠巻きに見てくるだけ的な。
「むー?」
そこまで変な格好じゃないはずなんだけどな。
チャラい感じだしダサいけど。
でもぶかぶかだったりぴちぴちすぎる服を着てる人とかに比べたらのはず。
いや、確かにぶかぶかだけどおかしいほどじゃないようにがんばってきたし。
うーん。
分からない。
うっとうしくなってきたからツバを下げた帽子で視線を弾くけど、それにしても不快だ。
僕は人に見られたくないのになぁ。
なんなんだろうかこの状況。
ひそひそと居心地がとても悪い。
ひょっとして買いに来ていると思われていないんだろうか?
あるいは………………………………って。
「あ」
あ――……。
僕は気がついた。
僕が自分でやったことなのにすっかり忘れていた。
やっぱり僕の頭は家の中でもアレなのに外に出たらさらにダメだ。
ご近所対策で変装、男装していたんだから一緒に来ている母親を探しているとかあるいは間違って入ってきてしまった少年とでも思われていたんじゃないだろうか。
なにしろここは女の人と子連れの空間なんだ、そこに男……子供でも、がいたらそりゃあ反応に困る。
迷子と決めつけられなかっただけありがとうってものだ。
男として見られていたのなら、ひとまずこの格好なら家からすぐのところでも通報はされにくいってことで成功。
ひとり暮らしの男の家から少年が出てくるか少女が出てくるかで想像される内容が著しく変わるんだから。
それが人ってものだしな。
フードに帽子を入れたまま外して髪の毛を肩あたりまで出してしゅるしゅるって口元を隠していたストールも解いていく。
フード付きパーカー+帽子+マフラーじゃなくてストールっていう完璧な擬装で来たのをすっかり忘れてたんだ。
どおりで暑かったわけだな。
春になったばっかり特有の1回夏みたいな暑さに感じる時期なんだ、そりゃあ暑いだろう。
「……ふぅっ」
息が涼しい。
うん。
さわやかだし圧迫感がなくなった。
近場にある鏡を見てみれば、さっきまでのチャラい格好をした怪しい少年からどう見ても女の子な印象になった。
手にはストールがこんもりでパーカーとズボンとサンダルは変わらずにぶかぶかだけど。
……髪の毛、肩くらいまでしか出さないと男でも通用するような……?
前よりも眉間から鼻筋がはっきりしているせいだろうか。
うーん?
そんなわけでもないような……。
ちょっとじっくり顔を眺めるけどすぐに飽きた。
まあいいか。
男か女かなんてのはどうでもいい。
この状態なら大丈夫だろうしさっさと適当な人に話しかけて見繕ってもらおう。
◇
「お客さまー?」
……そう思って適当な店員さんに話しかけてしまったのが僕の運の尽き。
僕はもう終わったんだ。
女の子になって2日目にして終わりを迎えている。
こうして、まだ地獄でなかったころを思い出して浸っているくらいしか心の安寧を保てそうにないんだ。
外からはすぐそばで待ち構えている気配が漂ってくるし。
早く着替えて見せろって言うすさまじい重圧が。
……もう、お家に帰りたい。
だれか助けて。
家の中で虫が出たときくらいの絶望感のせいで心なしか、女の子な僕が余計にちっちゃくなって見えた。