【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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32話 クリスマスと騒動と 2/3

びっくりすると「うへっ!?」とか「んに!?」とか変な声出るよね。

 

普段話さないからとっさの声が変なことになるんだ。

男のときは「あっ」とかしか出なかったけど、ちょっとだけ語彙が広がるのは女の子だからかも。

 

その証拠に女の子たちってちゃんと「きゃあ!」って叫ぶもん。

 

「ぴっ!?」

 

……だから僕が出しちゃった変な声はしょうがないんだ。

 

しょうがないんだけど派手な声だから周りの人が振り向いてくる。

視線が集まってくるのを感じる。

 

僕の髪の毛へ、続けて顔へ注がれてくるのが分かる。

 

……さすがに暖房の効いてる喫茶店でもこもこの帽子を被り続けるのは厳しいからって脱いじゃってるから……全力で影を薄くして気づかれないようにしていた僕の見た目に視線が集まる。

 

視線ってただの目の動きなはずなのに第六感か何かで頭皮や顔のお肌にちくちくちくちくと分かっちゃうんだ。

 

「うぅ……」

 

……恥ずかしい。

 

暑いけどもこもこを深く被り直して何も気にしないフリをしながらスマホをしばらくいじっていたら……ようやく視線が逸れてきたのが分かる。

 

だってしょうがないじゃん……未読が500で着信履歴が800とかになっていれば誰だってびっくりもするもん。

 

「もしかしたら100とか行っちゃってるのかな?」って予想は甘すぎたらしい。

 

こんな数字初めて見た……迷惑メールだって年単位で集めないとこうはならないのにね。

 

背筋が凍るとはこのこと。

指先までしっかりと冷たくなったし。

 

せっかくあったまっていた指先までまた冷たくなっちゃったから注ぎ足したハーブティーを飲んで温まることにする。

 

「…………………………」

 

ちらちら周りの人が見てくるけど無視無視。

通報されないんだったら良いんだ。

 

こくこく飲み続けてほーっとしているうちに落ちついてきたから……恐る恐るでざっと斜め読みしてみる。

まとめて見たからびっくりしたものの、ひとつひとつはそうでもないことに気がついてきた。

 

連絡の間隔も連続でってわけでもない。

最初を除けば……僕が眠っちゃって3日くらいは頻繁だけ、どそれ以降はそこまでじゃない。

 

夏休みが終わって次の学期が始まったばっかりだっていうのに、その週末からもうどこかに出かけたりするっていう約束していたし、日程こそ決まっていなかったけどなんとなくで「良いよ」って感じの約束っていっぱいあったしなぁ……断れなかったとも言うけど。

 

だからだからこのときのみんなにとって……その前日まではほとんどいつでも連絡が取れていた僕がいきなり返事を返してこなくなって、どうしても心配になってしてみた電話にも出なくって……ってことになる。

 

しかも都合の悪いことに僕には病弱設定があると来た。

それもこの春までずーっと入院していたっていう重症のが。

 

言わなきゃよかった?

 

いや、言わなかったらもっとたくさん連れ出されていただろうし、だるい日は「今日は病院だから……」ってものすごく便利言い訳もできたからあれでよかったんだろうけど……こんなの誰だって予想できないしなぁ。

 

そんなわけで当然に心配で仕方なかったんだろう。

 

住所とかどうにか教えないで済んでいたんだけど、そのせいでみんなからしてみれば……僕がいきなり消えちゃって連絡が完全に取れなくなったってことになるわけで。

 

逆だったら、こんな僕だって……薄情な僕だって多分気にはなるしなぁ。

 

ちょっと仲のよくなった知人って感じに思ってる僕ならともかく、友だちになるための垣根が低いあの子たちにとっての僕もまた友人で、友人ってことはとっても不安になるだろう。

 

「……どうしよう」

 

謝るハードルがもっともっと高くなっちゃった。

 

 

 

まぁしょうがないことなんだからしょうがないって気持ちを切り替えた僕はお店を出た。

 

歩いて上り下りできる段差じゃなくなったエスカレーターがごとごと言うのに身を任せての移動だ。

 

……よく考えたらあったかい上下と上着……ひざ丈のコートだけど、それから靴まで揃えておいたついでに下着も買っておきたくなったんだ。

 

だって寒いし。

座っているだけでお尻からじんわり寒さが来るんだ。

 

夏は暑かったからシャツとぱんつっていう快適で楽で見て楽しめて居心地のいい格好で過ごすことも多かったけど今は冬、とても今着ているような薄っぺらいものじゃ耐えられないだろう。

 

ちゃんと厚手であったかいものを買っておかないと……だって寒いし。

もともとこの体は体温も低いし冬は苦手なのかもしれないって思う。

 

女性の体は冷えやすいって言うし、この体の体質のせいじゃないかもね。

幼女だって「ついてない」っていうことは女性のひとつだしそういうことなのかも。

 

シャツはともかくぱんつはいつものぱんつ……ブリーフ程度の防御力しかないこれじゃなくってちゃんとおしりから腰まであったかくなるショーツってやつがよかったはず。

 

いや、そもそもぱんつじゃなくて全部ひっくるめてショーツって言うんだっけ……どっちでも良いけど。

 

腰骨からおへその下にかけてと太もものつけ根がはっきり見えてなんとなく嬉しいからっていう理由で、あとは憧れだったっていうしょうもない理由で「いわゆるぱんつ」を楽しんでいたんだけど寒さには勝てない。

 

……さすがに毛糸のとかまではしなくてもいいだろう。

そこまでいくと本気でお子さまみたいだし、ちょっともこもこしすぎてちくちくしそうだし。

 

あとタイツとかもあったほうがあったかいかも。

厚手のものを穿いておけばじんわりあったかくなるかも。

 

そう思うと男の体って基礎体温が高くて良かったんだなって実感する。

 

あぁ、手袋も忘れていたな……やっぱり急いでいると僕はダメだ。

 

「………………………………………………」

 

……みんなにどうやって返事するかはまだ決めていない。

 

だってまだ落ち着かないし、まだ目が覚めたばっかりでなにがなんだかって感じだし。

 

もう少し慣れてから……スーパーへの買い出しとかも大変だろうし掃除とかもちゃんとないとホコリまみれだろうし、ちょっとでもいいから雪かきもしておかないとご近所が大変だから。

 

冷蔵庫も様子見しなきゃいけないし、がさっと無理やり詰め込まれた感じに溜まっていた郵便受けの中身とか不在票とかその他もろもろのお世話もあるんだし。

 

だから何日か忙しくしながら考えて、それから連絡しよう。

 

……がんばって1週間以内には、きっと。

 

そもそも僕自身がまだこの状況を完全には把握できてはいないんだし……またなにか新しい魔法さんの魔法が降りかかるって可能性も無いでもないし?

 

さっきの未読の量を見たらそんな言い訳で延期するほどになった僕。

せっかく夢の中で……つい数時間前までは僕のことちゃんと話そうって決心していたのになぁ。

 

……タイミングが命。

 

黒あめさん……お姉さんとやらの鉄則はもうしばらくおあずけだ。

 

「よっと」

 

エスカレーターのスピードもっと速くなればいいのにって前は思ってたけど、幼女になってみると遅い方が安心できるって知ったそれから下りる僕。

 

ちゃんと足元を見て勢いよく下りないとちょっと危ないから毎回ひやひやする。

 

さてさて、さっき行った店に行くっていうのも気が引けるけどめんどくさいからいっか。

靴下も下着もサイズは分かっているんだからたいして時間はかからないだろうし。

 

「……………………ん」

 

なんか声があちこちに反響している……走ってる音とかも?

なんだろう、学生がはしゃいでるのかな?

 

そう思うけど何人かの大人――男性だな――大声を出しているのがここまで聞こえてきて胸がぎゅってなる。

 

物々しい……というよりは騒々しい感じだけど、なにかあったのかな?

 

こんなところで、クリスマス前の浮かれているこのときに……ってことは色恋沙汰とかな。

……いやいや、かがりの恋愛回路しか備わっていない思考に汚染されすぎている。

 

ゆりかで中和して……あ、だめだ、いっつも微妙に古いセンスで「ここはギャルゲー的には……」って言い出したりするから、ここは常識人なさよとか案外まともなりさりんを思い出して中和中和っと。

 

「――――――――――――――――――――!!」

「――――――――――!?」

 

「――――――――――、――――――――――」

「――――――…………………………!」

 

それぞれの声が男の人のなのか女の人のなのか、どのくらいの歳なのかが分かるくらいにはっきりとしてきた。

 

……エスカレーターで移動してる?

 

そう察した僕は急いで目的のお店に行って隠れるようにワゴンの傍に。

なんとなくで手に取っていた桃色の毛糸ぱんつを手に取りつつ耳を澄ませてみる。

 

毛糸って柔らかいよなぁ。

 

両手でもみもみしながらじっとエスカレーターと階段のある方向を見る。

 

騒動に巻き込まれるのは勘弁だし怖いし……収まるまでここにいればよさそうだ。

僕には野次馬根性とかもないし、それに今どきならSNSで何があったのかなんてすぐに分かるんだし。

 

ヘタに巻き込まれたら……警備員さん相手でもとっても困る幼女って言う身分だから警戒すること少し。

 

エスカレーターをだだだっと駆け上がる音に続いて女の子がふたり飛び出すようにして上がってきたのが見える。

 

エスカレーターの下のほうを見やりつつふたりで何か相談をしているらしい。

 

「………………………………………………」

 

ふたりともその辺にいそうな普通の格好の女の子だ。

こんなに暖房効いたところでコートを着たまま走っていたらしいから暑そう。

 

だけどあの髪の毛と顔、どっかで見た覚えがなくもない感じ。

 

「うーん」

 

毛糸の感触を楽しみながらこっそり眺めていた僕は思い出す。

 

……あ、あのときの子たちだ。

 

えっと、萩村さんに送ってもらったときにいい匂いの香水とかしてた子たち。

直接会ったことはないけど車の中の匂い越しに一方的に知っているんだ。

 

あと、この前テレビとかで少し見た覚えがある気がする。

名前は……いつものように覚えていないけど、たしか萩村さんのところの芸能界の人だよね?

 

アイドルとか言っていた気もするなぁ。

 

そんなふたりはどっちに行こうか言い合って、指さして行きかけて、やっぱって感じでたたらを踏んでいる様子。

 

……焦っているからかもたついていて、見ているだけでだんだんはらはらしてきた。

 

うーん……僕が普通の男だったときなら「どうかしましたか?」って言えるんだけどなぁ。

なんか危なさそうだったらお店の人に言ってあげよう。

 

背の高い方は明るい緑色で小さめのメガネをしていて、りさりん程度のちょうどいい……きっとお手入れとか考えたらちょうどいい長さと量の髪の毛をそのまま下ろしている感じ。

 

あとおしゃれな帽子もかぶっている。

 

それで背の低い子はというとけっこう大変そうな長さの髪の毛……まぁ僕ほどじゃないけど……をよく知らない感じに結っていたりして、後ろはポニーテールっぽい感じで明るい茶色に染めている様子。

 

ちょっと前……女性用、いや、女の子用のファッション雑誌とかを読み始める前は知らなかったんだけど、髪の毛をくくる場所によって細かく呼び方が変わったりするらしいね。

 

まぁここでいちいち調べるのもめんどくさいから分かりやすくポニーテールでいっか。

 

視力が良くなった今の目で観察するに、ふたりとも髪の毛の結い方とか留め方とか服装とかのそこここにおしゃれが光っている。

 

かがりとかゆりかとかが目を輝かせそうな感じ。

いや、多分女の子なら憧れる存在。

 

だってアイドルだもんな。

 

緑メガネさんと茶色ポニーさんは息を整えながらまだわたわたとしている。

 

そうこうしているうちに騒がしい声が少しずつ上がってくるのも聞こえてきて……あ、僕も手汗がじっとりしてきた。

 

こういうのってどきどきするからあんまり好きじゃないんだけど……早く逃げてくれないかなぁ……。

 

……あの子たちは芸能人。

 

って言うことはきっとマスコミとかに追いかけられているんだろうし、大変そうなのは同情するけどそういうお仕事だからしょうがないよね。

 

それにしても芸能人ってあぁやって追いかけられるのが宿命なのか。

本当に断れてよかった。

 

じゃないと今みたいにのんびりぶらぶらすることもできやしないもん。

 

でもあの子たち。

 

僕みたいにさ……人目を気にするんだったらさ、もっと変装とかして。

せめて髪型を変えるとかいつもの僕みたいに帽子とかで隠しちゃうとかは最低限だって思うんだけどなぁ……ほら、1回見たことがあるだけの僕でも「あ、あの子たちだ」って分かるレベルだし。

 

でも誰か大人の人……それこそ萩村さんとかのマネージャーさんとか警備員さんとか誰かが傍にいたりするものだって思っていたけど違うんだろうか。

 

そうしてわたわたしているふたりをしっとりしてきたぱんつをもしゃもしゃしつつ考えていた僕。

 

「…………………………………………!!」

「…………………………………………!?」

 

……緑メガネさんがぴっと立ち止まったかと思ったら、なんだか僕を見ている。

 

視線がぱちっと合った感覚。

 

そうしてじっと見られて縋るような目つきで見られている。

 

……なんで?

 

僕、こんなに離れたところの女性服売り場のワゴンにもたれかかってぱんつもふもふしてるだけなのに?

 

こんな背の低い子供じゃなくて鍛えてそうな男の人探した方が良いって思うよ?

 

ほら、このとおりに毛糸のぱんつをもふもふもこもこするしかできてないし?


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