【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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33話 猫と17歳 2/4

 

「まー実際ほんっとに助けられましたからにゃ、サインとかいうお手軽な手段じゃダメなら」

「こらこら」

「冗談ですにゃ。 そーゆーのが要らないみたいなので後でなにか別の方法を考えてお返ししますにゃ。 事務所の方から」

「そうねぇ……さっきまでかなりピンチだったし。 ……今回は反対派の人たちだったから大変だったのよ。 ああ言う人たちって何言っても反対って決めてるから……あ、ごめんなさい」

 

「いえ別に」

 

あれだけの事が起きてて僕が居なかったら……多分今ごろ質問攻めになって大変だったのは簡単に想像できる。

 

だからこそ意地でもそのおかえしをしたいらしい。

まぁ要らないって言ったから無難にカタログギフトとかなんだろう。

 

でもなぁ。

 

僕がどうでもいいってことでも……あの山でのご夫婦もおんなじようなこと言っていたし、少なくとも感謝っていうのは……あちらが感じているのなら相応のそれは受け取っておいたほうがいいのかもしれない気がしてきた。

 

こういうとき社会にろくに出た経験がないとその加減がわからないのが悩みどころ。

本当ならこういうのは親に聞けば常識ってのが分かるんだけど僕にはそういうのもう居ないし。

 

「まぁ飲みものだけっていうのも寂しいですし私たちもお腹空いてきましたし? だってあんだけ走り回ったですにゃ!! とりあえずご飯食べましょうごはん! もーおいしい匂いが我慢できないんですにゃ! ここのお店はおいしいって知ってるから余計なんですにゃ!!!」

 

さっきからぐうぐうお腹なってるもんね……猫さん。

 

アイドルって体力が資本だからご飯の量も多いんだろう。

ちょうど僕の反対だな。

 

「あ、支払いはもちろん私たちもとい事務所持ちにするので遠慮しないで好きなもの好きなだけ食べてくださいにゃ!」

 

メニューをみて「うげっ」って顔したのを見逃さなかった僕。

そりゃあひと皿2千円とかしたら……ねえ。

 

いや、僕は大人だしこの子たちは芸能人だから払えない金額じゃないはず。

実際観光地とかじゃもっとするのも平気だし。

 

でも、それを家の近くでってなると……なんだか気が引ける根っからの貧乏性。

ひとり暮らしのニートなんだ、そうじゃなければとっくに使い切って就職してる。

 

……いや、世間一般的に見ればそっちの方が良いんだろうけど働きたくないし今はそれどころじゃないし……。

 

「あ――……冷たいお茶もおいしいですねぇー」

「言動がいちいちおばさんくさいですにゃよ?」

「そこ、うるさい」

 

「……ぷは。 あ、この子が言うとおり本当にお金のことは気にしないで好きなもの頼んじゃってね? スマホは持って来れなかったんだけどお財布はありますから。 心配ご無用です!」

「はぁ」

 

さすがにこれだけ話してるとこんなに年下相手なんだ、くだけてきたポニーさん。

いや僕は別に気にはしないけど……やっぱり子供になるとこういうのって多いから。

 

それにしてもお腹が空いた感覚が結構強めなのに新鮮さを感じるけど、よく考えてみたら朝はニュース見ながらごはんを食べていて……今日の日付のことに気がついて動揺しちゃったから食べるの途中で止めちゃって。

 

いろいろと漁っていたら冷蔵庫の悲惨さを目の当たりにして臭いとの格闘で忙しくって、汚れたし寒かったからお風呂に入ってそのまま来たんだった。

 

そりゃあいくら幼女の胃でもお腹は空くよね……お茶だけで「そろそろ帰ります」って言うつもりだったから飲みものだけ頼んでいたけどせっかくだしってことで。

 

どうせ断れないだろうし、断ったとしたってかがりとかみたいに余計なひと皿を頼んで「食べきれないから食べて?」っていう姑息な手を使ってくるんだろうし。

 

女の子……お節介焼きな人はそう言う手を使ってくるんだ。

 

そういうわけで適当なのを選ぶけど、ふと気になる。

 

そういえば食事も3ヶ月ぶりになるなぁって。

主観では連続してるけど客観的には3ヶ月寝たまんまだったわけだし……お腹とかどうなってるんだろ。

 

朝はちょっとだけだったし脂っこさもなにもないものだったから大丈夫だったけど、こうして外で食べるものって味付けも油も多いよなぁ。

 

食べなかった後っておかゆとかから始めるって聞いたけど……大丈夫なんだろうか。

そのへんも魔法さんがなんとかしてくれるんだろうか。

 

こういうときだけは神頼みならぬ魔法頼みもしたくなる。

 

いやだって、食べた直後からトイレに籠もるのは勘弁だし?

 

 

 

 

「そういえば」

「あ、ちょっと待って、飲み込んじゃいますにゃ」

「いいよー」

 

「…………………………んく」

 

あちらはお皿を半分ほど食べてひと息。

こちらはお皿を……4分の1ほど食べて顔を上げる。

 

どう考えても食べきれないけど、いくらなんでも初対面のこの子たちに食べてもらうわけにはいかないよなぁ……かがりやゆりかじゃあるまいし。

 

あれは歳が近いっていう偶然とはらぺこっていう中学生女子の特性とが揃って初めて起きる奇跡だったんだ、きっと。

だって試しにって、りさりんとかさよと一緒のときに「余ったけど食べる?」って聞いてみたら一瞬だけど目が泳いでいたし……まぁそれでも食べられたんだけど。

 

女子中学生の食欲、男子中学生にも負けない。

いや、そのあとに甘ったるいデザートを食すあたりそれ以上かもね。

 

そりゃあ体重とかいっつも気にしているわけだな。

僕とは逆で。

 

「…………………………ん、いいですにゃ」

「そう? ……そういえばなんだけどね? あ、悪い意味じゃないので気を悪くしないでくださいね?」

 

「はぁ」

 

「悪い意味じゃないので」って言うときって大抵悪いことだよね。

 

「初めて見たときには男の子っぽい印象だったんですけど女の子だったんですねって。 勝手にヘンに思い込んでいたので……なんとなく謝らなきゃって思ってですね? あの売り場に立っていたのを見てちょっと『あれ?』って思ったり、試着室に匿ってくれたと思ったら女性ものの服を放りこんできて……それで入ってきてさらに脱ぎ出したときにはびっくりしてたんです。 さっきまでは男の子かもって思っていたので、それで……」

 

うん、僕だって初対面の男でも密室でいきなり脱ぎ始めたらびっくりするって思う。

 

「あぁ、あれにはびっくりしましたにゃ……追われていてのどきどきにさらにましましでしたにゃ。 この相方なんて男の子がズボン脱ぎだしたと思ってからに、ズボン脱いだところをガン見してほんっとショタあいたたたた!!」

 

……うん、年下の異性だって思えばそりゃあね……男とか女とか関係ないよね。

大丈夫、僕はそういうのに理解あるから。

 

「女の子だったんだからいいでしょ! ……あ、すいません……それに背ももっと高いって感じたんですけど気のせいでしたね。 なんかそんな感じがして」

「あー、たしかに近くに来てみるとなんだか幼く…………ごめんなさいですにゃ」

 

「気にしていませんから」

 

小さいのは事実だからね。

 

……ここの席、イスがテーブルに対して低すぎてヒジもつくことができないから。

 

お店の人が気を利かせてくれて持ってきてくれたクッション2枚重ねじゃなかったら、まともに食べられたかどうか。

 

多分お高い、ムダにいいクッションだからバランスを崩すとそのまま落ちちゃいそう。

足でも踏ん張れないんだし気をつけないとな。

 

「ほんっとーにしっかりした子ですにゃ」

 

僕は大人だからいちいちの子供扱いにはなんにも感じない。

 

なんにも感じないんだ。

 

「さっきの話に戻しますけど……そろそろ囲まれそうだってところでとりあえず隠れようって思って、あちこち走り回っていたらあそこでたまたまランジェリーの……あ、下着のことです……売り場が見えて『店員さんに、お店のバックヤードとかに匿ってもらおう』って考えて。 そしたら誰かが助けてくれそうだったから相方に言いながら近づいてみたら男の子が手招きしているように見えたので、びっくりでしたにゃあ。 …………あ、なんども男の子だって言ってごめんなさいですにゃ? ただ女性用の下着のエリアって男性が近寄らないので、その」

 

「よく間違われますから。 もう気にされなくてもいいです」

 

……何回か謝られては「気にしてないよ?」っていう、どっかでやったようなやりとりが始まったもんだから会話から興味が薄れた僕は、気がついたら適当な返事をしながらごはんに集中していた。

 

注文する前は高すぎるって思っていたんだけど、いざ食べてみるとたしかに値段相応なのかもって味に負けたんだ。

 

細やかな味付けで人工調味料の味もしなくって……使っている材料だってみんな良いものみたいなのが分かる。

……こんな料理を頻繁に食べられるならアイドルってやつも……いやいやダメだこれは悪魔の誘いだ今井さんの顔を思い浮かべてなんとかしよう。

 

あれ、でもそう言えば珍しく男か女かって聞かれた気がする。

 

そういうのってみんな聞いてこないもんね……時代的にもセンシティブな感じだし。

少なくとも僕なら「ん?」って思ってもどっちでも良いような受け答えしかしないもんな。

 

普段はともかく今日の僕は……もう女装の必要がなくなっちゃったこともあって、ズボンこそ履いているけどコートの周りには髪の毛を振りまいているし顔も出している。

 

髪の毛ってひと目で見てわかるようなシンボル的なもので、だからこそあれだけ遠くから僕を見たのなら、幼いかどうかはともかく男だとは思わないはずだ。

 

だってこんなに長い髪の毛だもんなぁ……背は低いのに。

 

タクシーに乗って行き先を伝えたあとのちょっとした会話も、そのあとの服を選んだり喫茶店に入ったときも……さらに言えばさっき毛糸ぱんつを買っちゃったときもこのレストランに来たときも、明らかに女の子扱いって言う非常に不本意だけどすっかり慣れきってしまっている対応をされたのに気がつく。

 

……なのにこの子たち、僕を男だって思っていたらしい?

 

なんでだろ……そんなに格好良かったのかな、僕……冗談だけども。

 

でもこんなに髪の毛伸ばしている男なんてそうは……あ、そういえばおじいさんだかおばあさんだかが「最近はぱっと見てわからない子もいる」って言っていたし、ひょっとしたら僕が気がついていないだけで、外にろくに出なかったから知らなかっただけで……世の中では長髪ファッションの小学生男子とかも居ないではないって感じの風潮になりつつあるのかも?

 

うん、僕は周回遅れな人生送ってるわけだし充分にあり得る。

さらにこの子たちは時代の最先端なテレビ業界人なわけだしそういうのの最先端だよね。

 

……男って思われて嬉しかった。

 

うん。

 

僕はまだ大丈夫だ。

今の言葉だけでしょげてた心が元気になってきた。

 

「……しかし、しかしですよ?」

「え?」

 

「その年でその美貌……! 褒める分には良いですよね、あ、これお世辞とかじゃないですからね! 雰囲気も普通じゃない感じで話し方も知的クール系ですし、帽子とか格好次第じゃ子役も、いえ、それ以上行ける!」

 

「ちょ、ひかりさん止めましょうにゃあ」

 

……あれ?

 

この流れ、半年前にも……。

 

「男性はもちろん、きっと女性ファンもたっくさん期待できますよ! 中性的で私だってどきどきしちゃいますもん! 顔も髪の毛もその目も素敵で話し方も格好良くって。 どうですか? 私たちとアイドル、いっしょにやってみません? 私たちなら事務所に話せばどっかにすぐに!!」

 

この体、僕のじゃないから褒められても嬉しくないんだ……あ、でも話し方のところだけは嬉しいかも。

 

「ひかりさぁーん……『あの人』みたいな唐突な勧誘は止めましょうにゃあ……ほら、ナントカ詐欺の勧誘みたいで結構みんな引きますし……『あんな状態』になっちゃったあの人のカンってやつが移っちゃったんですかにゃ……? 引きますにゃ……?」

 

 

まさか?

 

とは思うけど……同じ業界でこんなに近いところなんだって言うか確か事務所この駅だったよね……。

 

……世の中は意外と狭いんだって。

 

「……えっ……ウソ、私今のあんな感じに……?」

「そうですにゃ? あと、助けてもらったばっかりでそんなことすると……さっきのがぜーんぶこのための演技だなんて思われたって仕方ないですにゃよ? ドラマでもよく見る展開ですにゃ?」

 

「……うそ――ぉ……あんな風にはならないって決めてたのにぃ――……」

 

ひどい言われようだけどしょうがない。

 

茶色のポニーテールがしなびてきた。

髪の毛って意外と動く……いや、逆立ったりしなびたりするよなぁ。

 

猫みたいに。

 

いや、こうやって髪の毛がもさもさになったからこそ知ったんだけど、感情が……僕自身は滅多にないけどあの中学生たちとかを見ていると彼女たちの表情とか声とかに合わせて……たぶん毛根がどうにかなるんだろうな、動いて……髪の毛もほんのちょっとだけだけど形が変わることがある。

 

すっごく嬉しいときとすっごく怒ってるときに。

僕も、なんとなくそういう感じすることあるしな……なんていうかちりちりするって感じで。

 

「……むむ……言われてみたらそうでした。 そういう番組とかありますし警戒されても仕方ないですよね……」

「ですにゃ?」

 

「ということでやらせとかじゃないんです……本当なのでどうか」

「分かっていますから気にしないでください。 それに」

 

「あの人」の「あんな風に」って言うので大変に落ち込んでいるらしいポニーさんと心底申し訳なさそうな猫さんに向かって言ってあげる。

 

「もし、仮にです。 あれが全部演技で貴女達が危険な目に遭っていなかったら安心したって思いますから」

 

……大人の、いや、大人に限らず人の本気の大声と走りでずっと追いかけられるとか怖いってものじゃない。

 

それはこの体になってついさっき傍で聞いただけでそう感じたんだ。

だからもし全部が今井さんの仕業だったとしても……とりあえずはほっとするだろう。

 

もちろん断るけども。

 

「………………ほぁ……」

「にゃ……にゃあ……」

 

一瞬の間があって「僕が疑ってませんよ」って言うのに安心したのか顔を赤くして静かになった2人。

 

「?」

 

女の子って……全然話す機会を持ったことがなかったんだけど、やたらと恥ずかしがるよね。

同性なはずの僕に対しても。

 

やっぱり喜怒哀楽が……良い意味でも悪い意味でも激しいんだろうね、女の子って。

 

その傾向がまだ無いから僕自身に安心できるんだ。

だって男に戻ったときに女の子みたいなメンタルになってたら困るし……。


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