【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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33話 猫と17歳 3/4

「………………………………………………」

「………………………………………………」

「………………………………………………」

 

かちゃかちゃとしばらく無言で料理を頬張るっていう嬉しい時間で僕は堪能した。

 

でも嬉しい時間っていうのは儚く過ぎるもの。

 

まぁポニーさんはぜんっぜん食べていなかったし居心地悪かったのかもしれない。

 

そのまま残りの時間を黙っていてくれればいいんだけど、やっぱりそこは女の子なわけでさっきの話を振り直してくるらしい。

 

「……あの」

「はい」

 

「えっとですね、さっきのはえっと……そんなにまだ小さいのにさっきみたいにとっさの機転とか利くし、話し方もこんなに落ちついていて理知的ですし」

 

多分小学校高学年から中学生くらいって小さいって言われたらイラって来るって思うよ?

 

「だって言葉の使い方とか会話の受け答えとかってたまにいる感じの、こっちに来てすぐにごぼう抜きしていっちゃう子とかとそっくりだって思って。 ちょっと指導とか受けただけですぐにいいところまで行けるんじゃないかって思うんですよねぇ……つまりは貴重な即戦力ってわけで。 だから勧誘したくなって、つまりはごめんなさいって言いたくって……」

「そうですか」

 

しどろもどろな感じは本当に困っているらしい。

 

……僕からの黙ってたから無かったことにしてあげるサインを見逃されたらしい。

僕が出す合図ってほとんど見逃されるんだ。

 

「反省しなさいですにゃー? いやほんとじょーだんじゃなく今のうちに。 ああなる前に」

「反省します……あれはイヤだもん」

 

この感じ。

萩村さんとのつながり、芸能界つながり……どう考えても今井さんのことだろうな。

 

なんなら以前どっかのポスターであのビルに生息しているアイドルさんたちがコマーシャルやっているのを見たしな。

 

でもまぁ反省してくれているみたいだし、僕としてはこれでも悪魔さんよりもずっと理性的だし、別に文句はない。

 

でも……そっか、僕はそう見えるのか。

 

今さらながらに僕の住所年齢性別不詳疑惑。

だって実際年齢も性別も何もかも違うんだしな。

 

普段は学生って言う……2年前までは小学生だったあの子たちとしか話さないし、同い年設定で通しているから「ちょっと大人びてるね」とか「いつも静かだよね」くらいにしか言われないけど……さすがに大人相手じゃ「ん?」って思われるよね……。

 

見た目で目立つついでに褒められるのはしょうがないから諦めてる。

 

どこにでもいるおとなしくて影の薄い系の……いわゆる草食系ってやつの中でもさらに影が薄かった前の僕と、黒系統の髪の毛がほとんどのこの国でたったひとり薄い色の髪の毛をばさっとしている僕はまるで違うもんね。

 

僕だってこんな子が歩いてたらなんとなくで見ちゃうくらいだし。

 

分かっているけど改めて目立つって自覚し直した感じ。

 

……普段のフードと帽子作戦はよっぽど効果的だったらしいのも。

最初はいろいろダメダメだったけど僕なりにがんばってたのは完全な無駄じゃないってわかってちょっとほっとする。

 

でもしょせんは借り物の体。

ニセモノでウソつきでかりそめの姿。

 

元が男って事もあってかわいいとかなんとか言われてもなにも感じないのが空しい。

 

「それで、そのー。 えっと、一緒に」

「お誘い自体は嬉しいんですけども」

 

なんか「あの人」に似てるって言われて凹んでるポニーさんがそれでもめげずにぐいぐい来る。

 

「じゃあっ」

「ですけど僕は人に見られるのが好きではないのでお断りします」

 

こういうのはきっぱり言ってあげるのがその人のため。

 

「以前にもそういう話ありましたけど、そのときにも同じようにお断りしたんです」

「そ……そう……………………」

 

ポニーテールがさらにしょぼくれる。

 

「その感じ、もしかしてこういうの多い……ってそりゃそっか、そのお顔と髪の毛だもんね。 ごめんなさい……」

「いえ、気になさらず」

 

でも今ってそんなに人手不足なのかな……そういう業界って行きたい人ばっかりだって思ってたけど違うんだろうか。

 

芸能人って必ずしも見た目だけじゃないんだからそういうやる気のある人たちから選んだ方が良いって思うんだけど違うんだろうか。

 

「にゃっ……にゃっ」

 

ばっさりした僕とばっさりされたポニーさんを交互に見ていた猫さんが気まずい雰囲気ってのに押されてようやくに話題変えてくれるらしい。

 

「ところでっ! ところでなんですけどにゃ? もひとつお願いしたいことがあるの思い出したんですにゃ!」

 

「なんでしょう。 働くの以外なら」

「あ、ホントに違うので安心してくださいにゃ」

 

尻尾をくいくいって動かしながら全力で「違う違う」しているのが気になる。

 

「で、そのですにゃ? お恥ずかしい限りですがにゃー、私たち逃げてくる前はお堅いところでインタビュー受けていたのでスマホ……連絡手段をまるごと預けっぱなしなんですにゃ。 ……だからここまで来たら迷惑ついでに……えっと、そちらのスマホとかちょっと電話かけるくらいでいいので使わせてもらえないかにゃあ、なんて」

 

ん、新しい「にゃ」だ。

 

「あ、もちろん私たちも女の子ですからスマホの中身見られるのが嫌だって分かってるので電話だけですにゃ! もしおイヤだったらどこかで……このお店で貸してもらえるか交渉したり、ダメだったらどこかでパソコンと電話、使えるところ探そうって思っているので!」

 

あー、確かに今ってスマホ無いと何にもできないよね。

 

「せめてネットでうちの事務所を検索してもらって電話番号さえ調べてもらえたらとってもとっても助かるんですにゃ。 よく考えたらマネージャーさんとかのなんて覚えてませんし」

 

「あ、あ――……それもあったわねぇ!」

 

ようやく頭切り替えられたらしく話に乗ってくるポニーさん。

 

「たしかに今のままだと連絡の取りようがないからね―。 電話番号だって昔みたく覚えたりしていないし、そもそも電話だって今はアプリでだし。 前の事務所の受け付けのなら暗記してるんだけど今はもう意味ないし。 公衆電話だって……このへんであるのかなぁ……一応あるはずなんだけどそれすらスマホで探すくらいだし……ちょーっと前までは探さなくてもあっちこちにあったんんだけどな。 今って不便よねぇ」

 

「ちょっと前って……大昔ですにゃ? 公衆電話とか使ったことないですにゃ」

「え、マジ? あ、でも何年か前にそういうニュース見たかも!」

 

うん、僕の世代でもテレカとか知識でしか知らないもんね。

 

でもポニーさん何歳なんだろ……話の内容的に僕より年上っぽいんだけど女の人ってお化粧で全然変わるしなぁ。

 

あ、でもそういや連絡先ってやつ知ってた僕。

 

「あの、おふたりとも」

 

そう言えばなんか話しにくいって思ってたらお互いに名前も言ってなかったんだった……ほら、僕って基本的に一期一会の精神だからって聞くのもめんどくさかったから。

 

「はいですにゃ?」

「使わせてもらえるの?」

 

取り出した僕のスマホを眺めるふたりとも。

 

「……あのケース……何にもない黒……」

「き、機能性重視ってことでいいですにゃっ!」

 

かわいくないって暗に言われて傷ついた。

……僕は別にスマホを着飾らせるのには興味ないし今は忘れよう。

 

かがりが勧めてきたようなピンクピンクラメラメキラキラしたのとか、ゆりかが「余ったから要る?」って聞いてきたアニメキャラのとか僕の趣味じゃないしなぁ。

 

「いえ、そうじゃなく……そうなんですけど。 おふたりとも萩村って言う方と今井って言う方とお知り合いですよね?」

 

今井さんの方はふたりの会話で出てきてたし萩村さんの方はテレビでこの子たちと一緒のところを見てたから僕が知ってる。

 

「えっ?」

「にゃ?」

 

名前を出してすぐに表情が変わったのを見るに予想どおりらしい。

 

「え……、あ、あれ? 私たち萩村さんたちのこと」

「話したかにゃ? あ、今井さんは話したかも?」

 

どっちでもないけどね。

 

「以前の話というのがその方たちからのお誘いだったので。 もちろん興味はないのでさっきと同じようにお断りしましたが連絡先は知っているんです」

 

今井さんがすごい勢いで食いついてきて困っていたところを萩村さんが押さえられない情けなさだったところをゆりかが颯爽と助けてくれたあのときが懐かしいなあって思いつつ、すっすっと操作をして1年に何回しか使わない電話モードにする。

 

今の僕の耳と口の距離的にはちょっと大きすぎるスマホをほっぺたに当てつつ……そういえば今の僕ならいくらこうしても画面が汚れたりしないんだろうな……「ぷるるる」という懐かしい音を聞くこと数回。

 

「はい、萩村です」

 

低めでちょっと頼りなげな声が聞こえてくる。

 

懐かしい。

けど、ちょっと息が切れている感じ?

 

「萩村さん、ご無沙汰しています、響です。 以前お会いした……お誘いをいただいた。 えっと、覚えていらっしゃるかはわかりませんけど背が低くて薄い色の長髪の」

 

もう半年連絡取ってないからな、「誰?」って言われてもしょうがない。

あの人たちって多分手当たり次第にいろんな人に声かけてるんだろうしな。

 

「え……えぇっ、もちろん覚えてっ、いますがっ」

 

声がちょっと聞き取りにくい……何か急いでる感じ。

 

本当に覚えていたのかは分からないけど覚えてることにする。

それが社会人だって聞いたことがある。

 

「何度かご連絡をいただいていたみたいですが、ちょっと事情があってお返しができなくて申し訳ありませんでした」

「い、いえっ……お気になさらずっ、こちらこそ以前は大変っ……」

 

電話してるあいだもずっと走ってる……ってなると、多分この子たち絡みだよなぁ。

 

……もうちょっと早く連絡してあげたら良かったかも。

 

考えてみたら自分のところのアイドルさんたちが男たちに追いかけられてるんだもん、そりゃあ必死だよね……多分警察も動いてるんだろうし。

 

「……すみません、今回はせっかく響さんっ、のほうからご連絡っ、いただいているのですがっ」

 

ときどきすぐそばから誰かの声も聞こえるしクラクションとかも遠くから聞こえる。

 

「たぶんその件なんですけど……ちょっと待ってください。 あの、おふたりのお名前は?」

 

「へ? あ、岩本ひかりです……?」

「島子みさきですにゃ!」

 

「岩本……さんと島子さんと、今一緒にいるところなんです。 おふたりが萩村さんたちに連絡を取りたいって聞いて連絡していて」

 

「……え? …………えっ?」

「目の前に居るんですけど……代わります?」

 

予想外だったのか、僕の耳に萩村さんの……ちょっと笑っちゃいそうな声が聞こえてきた。

 

うん、本当の予想外ってそういう変な反応になっちゃうよね。

僕もいつもびっくりしたとき変な声出るし。


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