ガンダムSEED NEOラウの『兄弟』地球連合の変態仮面ネオ少佐は娘を愛でたい 作:トキノ アユム
原作ラウさんの最終決戦であの人を完全論破出来るぐらいには、ネオさんが鍛える予定です。
え? この作品の変態仮面はどうかって? クアンタムバーストしても対話出来ない変態だから無理じゃないかな(白目)
「この状況で他人の心配ができるってのもすごいよな」
アークエンジェル内に設けられた居住区の一室でネオと行動を共にしていた少年達の一人、カズイ・バスカークは呟いた。
「キラのことか?」
「うん。あんなことがあったのに、少し寝たかと思うとネオさんの所に行くだぜ? 疲れてないのかねキラは」
「そんなことないわよ。キラ、ベッドに横になったら、すぐ寝ちゃったでしょう? 疲れてるけど、それ以上に少佐の事が心配だったのよ……キラ、本当に大変だったんだから」
数時間前の出来事を思い出すよう呟くミリアリアに、カズイは含みのある笑みを浮かべた。
「大変だった……か。キラにはあんなことも大変だったですんじゃうんだもんな」
「何が言いたいわけ?」
サイに問われたカズイは「別に」と返しながらも、すぐに言葉を紡ぐ。
「たださ、キラ、OS書き換えたじゃん。あのモビルスーツ……それって、いつだと思う?」
「……いつって……」
カズイ以外の全員がそこで初めて気付く。
「戦闘中……だよな」
それ以外には考えられない。
戦いの様子はかの場にいる全員が見ている。
モビルスーツに対して素人の自分達から見ても、途中からストライクの動きが見違えるようによくなった瞬間を。
ジンと戦いながら、キラがOSを書き換えたのは間違いないだろう。
勿論、キラがコーディネーターである事は事前に知っていたし。だがナチュラルである自分達では到底できないような事を平然とやってのける程の能力が、彼等にはあるということを、本当の意味で理解はしていなかった。
だからかもしれない。ちょっと頭のいいでも気の抜けた所のあるお人好しというキラに対する印象が根本から崩れていくような錯覚を少年達は感じていた。
「……コーディネーターってのは、そんな事も『大変だった』で出来るんだぜ? ザフトってのはみーんなそんな奴等の集まりなんだ……そんなんと戦って勝てんのかよ地球軍は……」
それは誰かに対しての問いではなかった。口に出したカズイ自身の心にため込んだ想いを吐き出しただけの発言。
「勝つさ」
だからこそその場にいる者達は驚いた。
「それが俺の仕事だ」
部屋の戸口にいつの間にか立っていた男が、力強い返答を返して来たのだから。
「やあ諸君、先程は世話になってすまなかったな」
「ネオ少佐……」
一瞬でカズイの顔が蒼白になる。
「そのお礼を言いに来たんだが……君には説教とまではいかないが少し『お話』が必要かな? カズイ・バスカーク君」
「ひ!」
気の弱いカズイはネオが笑いかけただけで、無意識の内にすくみあがってしまう。
「君の物事を見る目は優秀だが、その見方には少々問題があるようだな……君のさっきの発言はあまり褒められたものではない」
「あの、その、すいません」
「ん? 何がだい?」
首を傾げるネオに震えながら、カズイは必死に言葉を絞り出す。
「地球軍の人達が勝てるのかみたいな言い方をして」
「ああ、それはどうでもいい」
「え?」
てっきりその事に対して怒りを感じていたのだろうと思っていたカズイは困惑する。
「君達から見たら勝ち目のない戦いをしているように見えても仕方ない。実際の所、ザフトは強敵だしな」
「な、なら──」
一体何がまずかったのだろうか?
カズイはますます分からなかった。
ネオは溜息を一つ吐くと、出来の悪い生徒に説明する教師のように、語り出した
「俺が問題だと思うのは、君がザフトのコーディネーター達とキラ君を同一として見て発言をしている事だ。無意識なのが余計にたちが悪い」
「……あ」
指摘を受けてようやくカズイは気が付いた。
ネオの言う通り、先程自分はキラが友人である時
「キラ君が力を尽くしたのは、君達を守る為だ。それを忘れて彼をただのコーディネーターとしか見ないのは、あまりにも酷な話だぞ?」
「……すいませんでした」
「違う。間違っているぞカズイ・バスカーク君」
頭を下げるカズイにネオは首を横に振る。
「君が謝る相手は俺ではない」
「え?」
まさかと思い、カズイが顔を上げると──
「……」
「キラ……」
部屋の入口に辛そうな顔をした友人の姿があった。
「あの、その──」
「……」
視線をせわしなく動かすカズイだったがやがて意を決し、
「俺お前に──!」
「キラ・ヤマト君!」
その瞬間、最悪のタイミングで新たな訪問者が現れる。
部屋の戸口には軍服に袖を通したマリュー・ラミアスが立っていたのだ。
「……最悪だ」
あまりの間の悪さに、ネオが溜息を吐くと、彼の姿に気付いたマリューはぱっと顔を明るくした。
「ロアノーク少佐! 目を覚まされたのですね!」
「……ついさっきな」
余裕がないのか、ネオの態度が普段と違う事に気付かず、マリューは続ける。
「今すぐにブリッジに来てください。相談したい事が──」
「その前に、君がここに来た目的を果たすべきなんじゃないのか?」
マリューの態度からネオは彼女がここに来た目的を、察した。
「今の反応を見る限り、俺に用事がここにあったわけではないのだろう?」
「そ、それは……」
気まずそうにマリューは、ネオから顔を逸らすと、近くにいたキラに目を向けた。
「ごめんなさいキラ君。ちょっといいかしら?」
「……はい」
キラもまた何を言われるのかを察したのか、部屋から出て廊下に行くマリューの後を追いながらも、その顔は険しい。
「……騒がせて悪かったな。それと、先程は助けてくれてありがとう。本当に助かった」
部屋の中にいた少年達にそう告げると、ネオもまたキラの後を追い、廊下に出た。
「キラ君……」
やや迷いを見せながらも、マリューは硬い口調ながらも少年に話を切り出した。
「申し訳ないけど、もう一度ストライクに乗って欲しいの」
「お断りします!!」
その瞬間、キラの怒声が廊下に響き渡った。
(やっぱりそうなるか)
ネオは予想していた通りの展開にため息もでなかった。
「なぜ僕がまたあれに乗らなきゃいけないんですか!? 」
「キラ君……」
「あなたが言ったことは正しいのかもしれない。僕らのまわりで戦争をしていて、それが現実だって。でも僕らは戦争がいやで中立のヘリオポリスを選んだんだ! もう僕らを巻き込まないで下さい!」
「……」
マリューは辛そうな顔で頷いた。
(無理もない)
それを見たネオは双方に同情した。
大人しい少年であるキラが、あそこまで感情を露にするのは仕方がないことだ。
自分にもヘリオポリスを撃った責任があるとキラは言った。
だがだからと言って、戦う覚悟が出来たわけではない。
兵士でも戦士でもない民間人の子供に、大人が殺しあいをしてこいと言ったのだ。武器を一番扱えるからという理由だけで。
キラと歳が近い子を持つ親としてネオはキラに同情する。
だが同時に軍人としてのネオは、マリューに同情していた。
本心であれば温和な性格のマリューが、年端もいかない少年を自分達の都合で戦闘に駆り立たせるような真似はしたくないはずだ。
だが今の彼女はそれが許される立場ではない。
キラから聞いた話によれば、マリューは現在この艦の最高責任者。クルーの安全確保の為に全力を尽くさなければならない立場にある。
倫理や人道を考慮しないのであれば、マリューの選択は決して間違ったものではない。
どちらも正しいのだ。
故に互いに一歩も退くことが出来ずに、視線だけが交錯する。
『ラミアス大尉。ラミアス大尉。至急ブリッジへ!』
廊下の壁に設置されてあるモニターから声が発せられた。
「どうしたの?」
ボタンを押し、音声だけの通信を始める。
『モビルスーツが来るぞ! はやく上がって指揮を取れ! 君が艦長だ!』
「私が!?」
通信相手のムウの思いも寄らぬ指示に、マリューは自分でも気づかない内に驚きの声を上げていた。
『先任大尉は俺だが、この艦の事は分からん』
「しかしそれなら、ロアノーク少佐が……」
ネオを見ながら呟くマリューに、ネオは何も言わずにただ苦笑を返した。
『賭けてもいいぜ。まだ呑気に寝てる少佐殿でも、あんたを艦長に推薦するってな』
「……当たりだよムウ」
『って、その声はネオか!? お前、そこにいるのか!?』
「ああ、さっきまで呑気に寝てた少佐殿はここにいるぞ」
『うわ。しかも全部聞かれてたのかよ。盗み聞きは趣味が悪いぜ』
「抜かせ」
流石に地球軍を代表するエースパイロットの二人。互いが返す言葉には軽口を叩く余裕さえうかがえた。
「艦長はラミアス大尉に任せるが、前線の指揮は俺がとる。ステラはもう先に準備をさせているが──ムウ、お前のメビウスはどうなってる?」
『ガンバレルはまだ使えんが、出撃は出来る』
「分かった。お前は居残ってCICでもやってろ」
『なんでだよ!?』
思いもよらない答えに、抗議の声を上げるムウに「よく考えろ」とネオは駄々をこねる子供を諭すように、言う。
「この次の戦闘では、かなりの高確率でコロニーが破壊する恐れがある。半壊したモビルアーマーなんかでコロニーが崩壊してみろ。一瞬であの世生きだ」
『でもよ!』
「でもじゃない。見誤るなムウ。戦いはこれで終わりなんじゃない。ここから始まるんだ。貴重な戦力であるお前をここで失う訳にはいかない」
『……ストライクはどうなった?』
ネオはそこでキラを一瞥すると、彼を安心させるように微笑んで見せた。
「元より出すつもりはない。今回の戦闘は俺とステラだけで出る」
「!?」
「少佐!?」
驚くキラとマリュー。しかしネオは構わずに続ける。
『ちょっと待て! いくらお前でも死にに行くようなもんだぞ!?』
「通信を終わる」
聞く耳をもたんと言わんばかりに、通信を一方的に終えると、茫然とやり取りを見ていたマリューに顔を向ける。
「というわけですまないが、艦の事は任せるぞラミアス大尉」
「……私で大丈夫でしょうか」
「大丈夫だから頼んでいる」
不安そうな顔のマリューの肩に手を置くと、ネオは彼女に正面から向き直った。
「君なら出来る。俺とステラの帰る場所を頼むぞ……ラミアス艦長」
「……分かりました少佐」
「よし」
まだ完全には納得したわけではないだろうが、頷いて見せたマリューに満足をすると、ネオもまたパイロットとしての自らの役目を果たす為に、踵を返した。
「ネオさん!」
だがそんな彼を引き留める者がいた。
「どうしてですか? どうしてネオさんは僕に戦えって言わないんですか!?」
キラだ。困惑しながらも聞いてくるキラに、ネオは振り返った。
「約束しただろう?」
「え?」
不敵でありながらどこか他者を安心させる笑みを浮かべながら、
「君達の安全を守る為に全力を尽くすと──それには当然君も含まれてる」
英雄と呼ばれる仮面の男はそこに立ち、
「俺はファントムだからな……死んでも守って見せるさ」
それ以上は何も言わず、振り返りもせずに戦いへと赴くのであった。
「……あ」
遠ざかっていくネオにキラは無意識の内に手を伸ばす。
だがその背中は既に遠く、決して止まろうとはしない。
何も掴めなかった手を、握りしめながらキラは瞼を閉じ、歯を食いしばった。
(戦わなくていい)
そう言われた。言ってもらえた。
ならば喜ぶべきなのだ。
戦争なんてしたくないのだから。
だが──
(本当にそれでいいのかな?)
喜ぶ事が出来なかった。それ所か、今ここに立っている事に違和感がぬぐえない。
「アークエンジェル発信準備。総員第一戦闘配備、フラガ大尉には少佐がおっしゃったように、CICをお願いします」
マリューだって慣れないながらも、自らの役目を果たそうとしている。
なら自分は? 自分は一体何をしているのだ?
「……聞いての通りよ」
ブリッジとの通信を終えると、会話を聞いていたキラとその友人達に顔を向けるとマリューは感情を押し殺し、ありのままの事実だけを伝える。
「また戦闘になるわ。シェルターはレベル9で今はあなた達を下ろしてあげることも出来ないの……何とかこの戦闘を乗り切って──」
「やります」
気付けば、そう言っていた。
「キラ君?」
こちらを見て来るマリューの視線から目を逸らしながらも、キラははっきりと言った。
「僕もネオさんと一緒に戦います。モビルスーツに乗って」
声はおろか全身を震わせながら、キラは数ある選択肢の中から最も困難な道を選んだ。
誰かに強制されたわけではなく、自らの意志で。
「キラ君……」
「戦争をしたいわけじゃありません!」
戦いたくなんてない。それは変わらない。
だがそれでも──
「死なせたくないんです友達を──あの人を」
友人達。
そして死んでも守る……そう言ってくれた彼を死なせてはいけない。
それだけは今のキラにとってただ一つの確かな想いであった。