ガンダムSEED NEOラウの『兄弟』地球連合の変態仮面ネオ少佐は娘を愛でたい 作:トキノ アユム
「少佐ぁこっちです!」
ネオがモビルスーツが置かれたデッキに到着すると、すぐに彼を呼ぶ声があった。
「……君は?」
ぼさぼさの頭に無精髭。日焼けした肌の男にネオは覚えがない。
「ああ、これは失礼しました」
手慣れてないというよりは様になっていない敬礼をすると男は名乗る。
「コジロー・マードック軍曹であります。今はここの整備士連中の責任者です」
言われてネオはなるほどと頷いた。言われてみればいかにもと言わんばかりの風貌だ。
「敬礼はいい。君がやりやすいように接してくれ」
「……いいんですか?」
「見れば分かる。苦手だろ? そういうあからさまな上司部下の関係ってやつは。大切な機体を任せる相手だ。君達とは仲良くしたいんだよ」
見るからに職人質な男は、驚いたように何度も瞬きをすると、やがて一本取られたと言わんばかりに、豪快な笑い声をあげた。
「噂は外れでしたな……つけている仮面と同じくらいにロアノーク少佐は変わった性格をしていると聞きましたが、本物はそれ以上に変わっている」
「お互い様だろう? 君もかなり変わり者と見た」
「違いねえ」
にやりと笑みを浮かべるマードックにネオもまた笑うと、改めて目の前のある自らの機体に目を向けた。
「早速で悪いが俺とステラの機体の状況を知りたい。手短に教えてくれ」
「了解です少佐。まず見て分かる通り、ぶっ壊れちまった腕は『デュエルパック』の腕とまるごと取り換えましたんで、もう片方の腕も合わせて全部を同じやつに変更しました」
「ということはスラスターアームか。『デュエルパック』の一番の特徴だな」
近接戦闘をメインとした装備に、ネオは不敵な笑みを浮かべた。
本来の腕との差異はその両肩部分にある。
肩パーツ自体がバックパックと同等のバーニアを持ったそれは、理論上は戦闘中に機体を無理やり動かすことだって可能な優れものであった。
そしてバックパックも通常のジンの者とは違う。
フルバーニアンウイングと名付けられたそれは通常の三倍の数のスラスターが取り付けられ、超高軌道で立体的な戦闘を可能とする。
「メカニックの俺が言うのも何ですがその──」
「この『デュエルパック』は正気を疑うような装備……か?」
「はい」
引きつった顔のマードックにネオは無理もないとネオは苦笑した。
機体を無理やり動かせる高機動機体というのは、それだけを聞けばメリットに聞こえるだろう。だが実際の所スラスターアームもフルバーニアンウイングもデメリットの方が大きかった。
まず第一にパイロットへの負担だ。急加速や急制動などパイロットにかかる負担は尋常ではない。
「設計案を出した時に技術者も言ってたよ、『それだと最大12Gは余裕で超えますよ?』って。胃を痛めたのか、腹を押さえながら」
「え?」
マードックは驚いた顔でネオを見る。
「これを設計したの少佐なんですか?」
「これだけじゃないぞ? このジンデッドライジングの換装武装パック、『デッドデュエル』『デッドバスター』『デッドブリッツ』。Xナンバーに採用されなかった失敗作の制作には、全部一部だが俺が関わっている」
「ま、マジですか?」
「みんな斬新なアイディアって褒められたよ。何故かいつも決まって目を逸らしてたけどな」
「で、でしょうね……」
「ちなみに軍曹はこの装備どう思う? 肩のパーツとか友達の凄腕の傭兵のアイディアを元に作らせたから、自信作なんだよな」
「ざ、斬新なアイディア……ですかね」
マードックもまたネオから目を逸らした。
「ネオ!」
「ん」
聞きなれた声に目を向けると、パイロットスーツに着替えたステラだ。
彼女は一直線にネオの胸に飛び込むと、幸せそうに頬を緩ませる。
「よしよし。可愛い娘もパイロットスーツに着替えた事だし、さっそく出撃する」
「あ、少佐! 一つだけ問題が!」
コクピットに上がろうとしたネオ達をマードックは引き留めた。その顔は険しく、また迷いがあった。
「さっきの戦闘中に少佐の機体が緊急停止したって聞いたんで調べて見たらその──」
言いにくそうに言葉を選んでいるマードックに、大体の事情を察したネオは苦笑した。
「予期せぬトラブルではなく。
「!? なんで分かったんですか?」
「なんでも何も、味方から殺されそうになるなんてよくある事だ」
答えるネオはまるでそれが当然だとばかりに、落ち着いていた。
「地球軍っていうのは怖い所でな。俺を利用できる駒と考えるお偉いさんがいれば、危険人物と思うお偉いさんもいる。そんな人たちからよく命を狙われるんだよ」
「……」
あっけからんと言うネオにマードックは何も言えなくなった。
「英雄の予期せぬ戦死。しかし彼の無念を晴らすように新型のモビルスーツは獅子奮迅の活躍を見せ、ザフトを圧倒する! 地球軍の戦いはこれからだ!! っていうのが、これを仕掛けた望んだ奴のシナリオかな……このことを他に知っているのは?」
「……これを見つけたメカニックと俺だけです」
「なら悪いが他言無用だ。その見つけた子にも口止めをしておいてくれ、この状況で士気を下げるような事実は必要ない」
「……了解です」
「だが逆に安心したよ」
「え?」
沈んだ顔を見せるマードックの肩にネオは手を置く。
「この短時間でその事に気が付いたんだ。それはここのメカニック達が優秀だという事の何よりの証拠だ。これなら安心して機体を任せられる」
「少佐……」
「長い付き合いになる。これからよろしく頼むぞ」
「了解です!」
自然と敬礼をするマードックに、やはり様になっていないなと苦笑すると、ネオはステラと共に今度こそコクピットに上がった。
「ブリッジ。聞こえるか?」
シートに座り、高機動戦闘用の特別仕様のシートベルトをつけながら、ネオは通信をブリッジに繋げた。
『少佐!』
すぐにブリッジにいるマリューが答える。
「これより戦闘を開始する。そちらの準備はいいか?」
『はい。何とか艦を動かせる者をかき集めました』
「よし。現時点での最優先事項はなんだ? 答えてくれラミアス大尉」
『……ヘリオポリスからの脱出──でしょうか』
「正解だ」
勉学を教える教師のように大仰に言うと、ネオは続けた。
「敵はおそらく拠点攻略用の重爆撃装備のジンで来るはずだ。ブリッジ内の者はそれを留意せよ」
『ヘリオポリスの中でそんなものを!?』
マリューを始めとしたブリッジの誰もが驚きを見せる。
だがネオは確信を持っていると言わんばかりに、大きく頷いて見せた。
「ヘリオポリスの中だからこそだよ。こっちが撃てない状況で最も有効かつ効率的な戦術だ……コロニーへの被害を考慮しないという前提だがな」
そして相手はあのラウ・ル・クルーゼなのだ。まともな倫理観など持ち合わせているはずがない。
「念のための確認だが、コロニー内の住民の避難は完了しているのか?」
『はい』
ならばと、ネオは頭の中でこれからの動きを決める。
「迎撃後、アークエンジェルは南側の港から脱出してくれ。迅速に対応出来れば、コロニーへの被害も最小限に済ませられるだろう……各員の奮闘に期待する」
『了解いたしました!』
通信を切ると、ネオは溜め息をついた。
「ネオどうしたの?」
「いや……我ながらよく白々しい事が言える」
何かを守るためには何かを捨てる覚悟がいる。
それはネオ・ロアノークの持論であり、これまで歩んできた人生であった。
だからこそ、この後に起こることを彼は先読みする。
守るために、自分が捨てるものを事前に選ぶのだ。
(仮にこの戦闘を乗りきったとしても、港口から出れば、ザフトの奴等に発見され、袋叩きにされるだろうな)
敵の規模は最低でも戦艦が2隻あるのは間違いない。
対するこちらの戦力は自分達のジンとアークエンジェルのみ。
しかし頼みの新造艦であるアークエンジェルは主だった士官が死亡し、それを動かしているクルーはマリューのように対モビルスーツ戦を経験したことがない者達ばかりであろう。
絶望的と言ってもいい。
(外の敵の戦艦に見つからず、逃げる方法……今求められるのはそれだ)
そんな奇跡のような状況にする方法などない。
普通ならそう思うだろうが、ネオは違った。
1つだけ思いついた。その奇跡を起こす方法を――
「やはり盤上ごとひっくり返すしかない……のか」
ネオが迷いを見せた時であった。
『ネオさん!』
「キラ君?」
突然通信が入ったかと思うと、キラの姿が通信用のモニターに映された。
まさかと思い、サイドモニターを確認すると、ネオ達のジンの隣にいたストライクが機動している。
「ストライクに乗っているのか?」
『はい』
「……それは自分の意思でか?」
『はい』
『戦いなんか嫌ですけど、何もせずにいるのはもっと嫌ですから』
「……そうか」
ネオはやや間を置くと、やがて口を開いた。
「それが君が選んだ事だというのであれば、俺はもう何も言うまい」
だがと力強い笑みを浮かべる。
「不安だろうが、俺の指示通りに動けば君は死なない。いいな?」
「はい!」
ネオはキラに簡単な作戦を伝えながら、決意を固めた。
「ステラやるぞ」
キラとの通信も切り、発進用のカタパルトに機体を乗せるとネオは呟いた。
「何を?」
決まっているとネオは答えた。
「盤上事ひっくり返す」
生き残るために、娘と部下達を守るために──
彼はまた一つの罪を犯し、自らの手を汚す事を覚悟した。
「ネオ・ロアノーク並びにステラ・ロアノーク。ジンデッドデュエル出るぞ!!」
そしてファントムは戦場に飛び立った。
ミゲル君とアスラン超逃げて