ガンダムSEED NEOラウの『兄弟』地球連合の変態仮面ネオ少佐は娘を愛でたい 作:トキノ アユム
頑張れスーパーミゲル君!!
破壊されたコロニーの外壁から侵入したミゲル達は、一直線に敵の新型の戦艦へと向かっていた。
「オロールとマッシュは距離をとりつつ、戦艦を! アスラン! お前は俺と一緒に敵の新型モビルスーツと『ファントム』を叩く! 無理矢理ついてきた根性見せてもらうぞ!」
『ああ』
「?」
どこか心ここにあらずと言ったアスランからの返答に、かすかな違和感を覚えつつも、ミゲルは今回の任務の隊長としての指示を続ける。
「くれぐれも単独行動はするな! そうしないために作戦を変更したのを忘れるな! でないと亡霊に命を持っていかれるぞ!」
別々の位置から侵入する予定であった作戦を一か所からの侵入にミゲルが変更したのは、理由があった。
本来であればまず自分とアスランが先行し、これを迎撃に出るであろう敵の新型のモビルスーツと『ファントム』を相手にしている間に別の場所から侵入したオロールとマッシュのジンが敵の戦艦に攻撃をする……という内容であったが、これには問題がある事にミゲルは直前で気が付いた。
相手に『ファントム』がいる以上、こちらの作戦に気が付く可能性が高く、先行した自分達よりも先に戦艦を攻撃するための重爆撃装備をしたオロール達を撃墜してくる事があり得た。
オロール達は火力が高い装備をしているとはいえ、それは対モビルスーツ用のものではない。
まともにやり合えば、『ファントム』と敵の新型のモビルスーツに墜とされるのは明白であった。
故にミゲルは各個撃破される危険性を少しでも回避する為に、あえて集団で侵入する事にしたのだ。
そしてそれは正解であった。
何故なら敵は侵入してきた自分達をすぐに迎撃しようとせず、戦艦の近くで待機していたのだから。
「! 見つけた!!」
そしてミゲル達はついに視認した。
敵であるモビルスーツの姿を。
1機は新型のストライク。自分が戦闘をした時とも、隊長であるラウが交戦した時とも装備が違う。
巨大な大剣に小型のシールドは近接用の武装。
コロニーへの被害を嫌っての装備なのは明白であった。
そして──
「いたぞ『ファントム』だ!」
漆黒のジン。
『ファントム』の専用機であるそれは新型戦艦の甲板の上に仁王立ちしていた。
「こっちも装備が違う?」
漆黒のジンはラウとの戦闘時の映像とは明らかにその姿を変えていた。
通常のジンよりも大きく特徴的な肩とバックパックが特に目を引く。
「各機警戒しろ! 奴の事だ、すぐにでも仕掛けてく──」
ミゲルがそこまで言った時であった。
目視で確認出来るかぎりは、両手に重剣をそれぞれに握っているのみ。
ストライク同様に、近接攻撃がメインの装備のようだ。
ならばと先手をとる為に、
「!?」
『ファントム』が動いた。
「なに!?」
瞬間、ミゲルは驚愕せざる終えなかった。直進してくるジンの速度が段違いに速かったからだ。
『!?』
その証拠に、漆黒のジンの標的となったオロールは、自らが狙われているというのに、反応が遅れてしまった。
それはコーディネーターの中でも特に優秀な者達が集められたエリート部隊であるクルーゼ隊の者としてはあり得ない事だ。
しかしそれは偶然ではなく、起こるべくして起きたのである。
もし仮に段違いのスピードを見せたのが地球軍の新型機であるストライクであったのであれば、驚きこそすれ反応が鈍くなる程の動揺をオロールはしなかっただろう。
モビルスーツの性能の差に頼ってと、所詮はナチュラルだ! と余裕すら見せたであろう。
だが『ファントム』の乗っているのは、そんな特別な機体などではない。
見た目は何処にでもいるような、ジンなのだ。
無論、バックパックや肩など細部にいたって普通のジンとは違う。だがそれは問題ではないのだ。
慣れ親しみ、その性能を熟知し、自らも今乗る機体と同系統の機体が相手だったからこそ、理解してしまったのだ。
漆黒のジンの異常性に。そしてそれに乗る『ファントム』の殺意に。
「動けオロール!」
だからこそミゲルは誰よりも早く動いた。
この中で唯一『ファントム』の戦い方を熟知しているからこそ、動けた。
(相変わらずだな『ファントム』!!)
『ファントム』がジンに好んで乗るのは酔狂なだけではない。あの漆黒の機体にはこちらの心理的な動揺をかけるという意味もあるのだ。
捕獲され、敵の兵士が乗っているとはいえ、ジンはジンだ。ザフトの戦争を支え、命を預けるモビルスーツ。それに対する思い入れは、ザフトの軍人なら誰もが持っているものだ。
だからこそ奴はそれを利用する。自分達にとって最も心理的な打撃が与えられるのが、ジンであることを知っているから。
(だが俺には通用しない!)
しかし、ミゲルはそれを知っている。かつての敗北から奴の戦闘スタイルを研究しつくした彼に、そのような小細工は通用しない。
その証拠に、ザフトの精鋭中の精鋭にのみ着ることを許された赤い軍服──通称赤服を着るのを認められたアスラン・ザラでさえ反応が遅れた漆黒のジン相手に、臆することなくミゲルは引き金を引けた。
ミゲルのジンが持つライフルから放たれたビームが漆黒のジンの進行先にへと放たれる。
当然の事ではあるが、ビームは撃たれた後にかわすのは物理的に不可能だ。
通常の三倍──いや、それ以上の速度で動く『ファントム』のジンといえど、例外ではない。
その狙いは正確無比。相手が相手だけにこれだけで終わるとは思えないが、これで『ファントム』の動きを止める事は出来──
「なにぃ!?」
だが漆黒のジンは動きを止める所か減速しようとすらしなかった。
ビームが当たる直前に肩パーツが動いたかと思うと、直進する漆黒のジンが横に動いたのだ。
「まさかあの肩、バーニアなのか!?」
ミゲルは瞬時に漆黒のジンの肩パーツの秘密に気が付く。
信じられない事ではあるが、あの肩パーツ自体が通常のジンのバックパックに搭載されているバーニアと同等かそれ以上のバーニアを持ち、それを作動させる事により、『ファントム』は無理やり機体を横に移動させたのだ。
「距離を取れオロール! 奴の機体は──!!」
だがミゲルがそう言った時には、もう手遅れだった。
漆黒のジンは一切の減速をせずに、すれ違い様にオロールのジンの胴体を横に切断して見せた。
『うわぁぁぁぁあああ!!!』
通信か仲間の断末魔の声が聞こえたかと思うと、オロールのジンは爆発した。
『オロール!! くそ! よくもぉ!!』
「よせマッシュ!!」
仲間を殺された事に激昂したマッシュのジンが『ファントム』へと向かって行く。
『堕ちろこの亡霊がぁ!!』
脚部につけられたミサイルポッドから大量のミサイルを放つが、どれも恐ろしい速度で飛翔する漆黒のジンを捉えることは出来ない。
それ所か、明後日の方向に飛んで行ったミサイルの一つはセンターシャフトと地上を繋ぐアキシャルシャフトに命中し、爆発した。
それにより破壊されたシャフトはまるでロープのようにちぎれ、宙をのたうつと地面に落下した。
結果論とはいえ、コロニーの生命線であるシャフトの一つを破壊しながらも、マッシュは止まらなかった。
『くそ! 来るな! 来るなぁ!!』
何故ならたった今、仲間を殺した漆黒の亡霊が今度は自分を狙ってきているのだから。
マッシュの目には迫り来る漆黒のジンが、自分の命を刈り取りにきた死神にしか見えない。
そして恐怖に耐えきれなくなったマッシュは、戦艦を沈める為に持って来たジンの両腕に装備した大型ミサイルの一発をファントムに向かって撃ってしまう。
だが当たらない。
バックパックのみならず、両肩のバーニアをも吹き上がらせた漆黒のジンは不規則かつ無駄のない動きで、ミサイルを躱す。
そして先程のオロールの時のフラッシュバックのように、すれ違い様に今度はマッシュのジンの頭部を切り捨てて行った。
『うわぁぁああああ!!!』
一歩間違えれば死んでいた。オロールのように。
その事実がよりマッシュの恐怖を煽り、彼の正気を失わせていく。
「やめろマッシュ!!」
『くそぉお!! 化け物め! 堕ちろよ! 堕ちてくれよぉ!!』
通信に呼びかけるが、錯乱しているのかまともな返答が帰ってこない。
「ちぃ!」
ミゲルは舌打ちをすると、自らの機体を漆黒のジンに向けた。
「作戦変更だアスラン! 悪いがお前は一人であっちの新型ので相手を頼む!」
『どうする気だミゲル!?』
「……決まってるだろう」
最早この状況ではまともな戦闘は望めない。
仮に錯乱したマッシュが正気を取り戻したとしても、亡霊から狙われる限り彼は何度でも狂気に囚われてしまうだろう。
今は動きを見せないとはいえ、地球軍に残った最後の新型のモビルスーツも放置するには危険すぎる代物だ。
誰かが戦わなくてはならない。
「悪いがお前は一人であっちの新型のモビルスーツの相手を頼む」
それをする適任は、同じ新型のモビルスーツに乗るアスランを置いて他にはいない。
「俺は──」
そして同様に、オロールを瞬殺した化け物を相手にするのは、奴を熟知した者ではなければならない。
故に──
「『ファントム』は俺が一人で倒す」
ミゲルは決意を込めた瞳で、モニターに映る漆黒のジンを睨みつけながら、はっきりとそう言った。
もうこれミゲル君が主役でいいんじゃないかな?