ガンダムSEED NEOラウの『兄弟』地球連合の変態仮面ネオ少佐は娘を愛でたい   作:トキノ アユム

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変態仮面の変態ぶりが発揮される戦闘回です


ラウVSムウ

そしてヘリオポリスの外の宙域での戦闘は鎮静しようとしていた。

「このままではまずいな……」

 メビウスゼロを駆りながら、ムウは仲間が乗っていたメビウスの残骸を一瞥し、苦々しく呟く。

 戦況は絶望的の一言に尽きる。

 彼の乗っていた艦は既にザフトによって撃沈され、共に出撃したメビウスのパイロット達も撃墜されてしまった。

 今、この宙域で生き残っている地球連合軍は自分一人のみ。

(ネオに任されておきながらこの様か!)

 親友に頼まれた物を何一つ守れなかった自分の無力さに、ムウは歯を食いしばる。

 しかし客観的な視点で見るのであれば、ムウはよく戦っていた。

 味方が次々に墜とされていく中で、ジン数機に損傷を与え、内一機は大破させたのだから。

 それは現在の戦場を知るものでは十分に善戦と言える戦果であった。

 そもそも地球連合とザフトの戦力には大きな差がある。

 ザフトの兵は皆、コーディネーターで運動神経、反射神経、判断力、全てにおいてナチュラルを凌駕している。その為、全体のパイロットとしての質ではどうしても連合はザフトには勝てない。

 それだけでも不利な要因なのに、ザフトは連合に対してもう一つ大きなアドバンテージを持っている。

 それがモビルスーツの存在だ。

 機動力、火力共にモビルスーツはモビルアーマーを圧倒する。

 それはこれまでの戦場でも、そしてこの戦場でも証明されてきた。

 戦いは数……という古来からの戦争のルールを塗り替えたのは、コーディネーターとモビルスーツという数ですら覆せない『質』であった。

 だからこそ、地球連合はこの戦局を打開する為に新型のモビルスーツをヘリオポリスで建造していたのだが……

(ネオとステラの奴は無事だろうか?)

 絶望的な戦場で窮地に立たされながら、ムウの脳裏に浮かぶのは親友とその娘の姿だ。

 ここがこのような騒ぎなのに、ヘリオポリスの内部が無事だということはあり得なく、まず間違いなく戦闘が始まっているだろう。 

(……大丈夫だ。あいつらなんだから)

 あの親子の強さは誰よりも自分が良く知っている。だがそれでもやはり心配にはなる。

(ここを片付けて、助けに行ってやりたいんだがな)

 自嘲気味に笑う。

 己の力量をわきまえているムウは、それがどれだけ難しい事なのかを理解している。

 『エンディミオンの鷹』と異名は持っていても、自分に戦局をひっくり返すような力はない。

 そんな事が出来るのは『ファントム』の親友ぐらいのものだ。

 だが――

「せめて、戦艦だけでも落とさせてもらおうか」

 そうすれば、あいつらの負担は少しでも軽くなるだろう。

 それすらも一般的には不可能と言われる事だが、ムウの決意は固かった。

 それぐらいの不可能は可能にして見せると。

 何故なら自分はあの『ファントム』の親友で、

(不可能を可能にする男……だからな)

 覚悟を決め、敵艦への特攻をムウが敢行しようとしたその時であった。

 三つの光が戦場を照らしたのは。

 それは信号弾と呼ばれる物で、撤退を意味するものだ。

「引き上げる?」

 戦局は言うまでもなくザフトの優勢。だというのに、ザフト側が上げた撤退命令に、ムウが訝し気にしていると、

「だがまだ何か……!」

 瞬間、ムウはぞわりと肌を伝うような感覚と共に、頭に軽い電流のようなひらめきに似た感覚を覚えた。

「これは……!」

 馴染みのある感覚に、ムウはメビウスゼロの機体を反転させ、ヘリオポリスへと向かった。

 

 

 

「ほう……」

 そしてその感覚は、彼もまた感じていた。

 ラウ・ル・クルーゼ。

 自らの愛機であるシグーに登場した彼はその機体を操り、ヘリオポリスへと向かっていた。

「私がお前を感じるように、お前もまた私を感じるか……」

 憎悪と奇妙な愉悦をラウは感じていた。

(だが足りん)

 この程度で今の自分は満足できない。

 何故なら自分をこの世で一番悦ばせてくれるのはあの男を置いて他にいないのだから。

 故に、ラウは機体を制止させた。

 物陰に隠れる為ではない。 

 その逆――あえて、敵に己の身を晒す為だ。

『貴様! ラウ・ル・クルーゼか!!』

 通信で馴染みの声と共に、警告音がコクピットに鳴り響く。

 だが――

「遅いな」

 その時既にラウは回避行動を終えていた。

『なに!?』

 背後からの奇襲。それを躱されたムウは驚愕する。

 だがラウから言わせれば、驚く事ではない。

 敵の殺気だけで察知して攻撃を避ける等、自分と『奴』はとっくの昔から出来るようになっていると。

「お前はいつでも邪魔だなムウ・ラ・フラガ」

 極めて冷静に、ラウは言う。

「もっとも、お前も私がご同様かな?」

 そうだと言わんばかりに、ムウのメビウスゼロが機体に取り付けられた四つのガンバレルを展開する。

 四方に展開されたそれは時間差で、ラウに攻撃を開始する。

「つまらんな」

 位置を変えて、次々に襲い来る弾丸をラウは必要最低限の動きでかわすと、その内の一つをシグーの銃突撃機銃で撃ち落とした。

『ぐ、貴様ぁ!』

「以前に会った時から少しは腕を上げたようだが、その程度では私とネオには追い付けんよ」

 メビウスゼロ本体からのレールガンを躱しつつ、ラウは二つ目のガンバレルも早々に墜とす。

「歯ごたえがない」

 三つ目は背後を取ろうとしていた為、振り返り様に墜とす。

 ただの単純で簡単な作業だと言わんばかりに淡々と。

「やはりお前では私を満足させられないな」

 それを再認識すると、ラウは機体を近くにあったヘリオポリスの港口に侵入させる。

『ヘリオポリスの中に!』

 当たり前だと、ラウはコクピットで笑う。

 自分の『本命』はその中にしかいないのだから。

(感じる。感じるぞ!)

 奴の存在を。

(今港口を抜け、センターシャフトだぞネオ!)

 貴様はどこにいる? と、感覚で宿敵の存在を感じようとするラウ。

『行かせるか!』

 だがそんな彼をムウは追跡する。

 最後のガンバレルを展開し、追いかけて来るメビウスゼロ。

 だがその動きは先程と比べて精彩を欠いている。

 おそらく今いる場所の為だろう。

 センターシャフトはコロニーにとって人体で言うなら背骨のように重要な場所だ。

 下手に撃てば、シャフトを傷つけてしまうとでも思っている。

「だからお前は駄目なのだよムウ」

 ラウはそう言うと、トリガーを引いた。 

 

 

『だからお前は駄目なのだよムウ』

「クルーゼ!」

 オープン回線で聞こえてくる声には、はっきりと落胆が感じられた。

 奴には分かっているのだろう。自分がシャフトへ損傷を与えるのを恐れていることを。

(だが!!)

 ここで行かせるわけには行かない。

 あの変態野郎が、目を血走らせて向かう理由なんて一つしか考えられない。

(ネオ!!)

 ファントム……すなわち、ネオ・ロアノークとの戦闘。

 奴はそれに異常なまでに執着している。

 これまで戦場で出会う度にそうだったのだ。今回も間違いなくそうなのだろう。

「行かせ――」

 止める。そう思い、展開したガンバレルで攻撃を与えようとした時――

 

 

 唐突に、ガンバレルの反応が消えた。

 

 

「なに!?」

 そして遅れて、後方で何かが爆発する。

 驚愕しムウが確認すると、ガンバレルの残弾数を示すモニターには全てLostと表示されていた。

「馬鹿な!?」

 3つがLostなのはいい。だが残っていた筈の最後の一つがないのはどういう事だ?

 いく奴の腕前が変態的でも、自分に気付かせずにガンバレルを撃墜するなんて事が出来るはずな――

「まさか!」

 そしてムウは気が付いた。一つだけあると。こちらに気付かせずに、ガンバレルを無力化する方法があると。

 

 

(野郎! まさかメビウスの機体とバレルを繋ぐコードを狙いやがったのか!?)

 

 

 ムウの乗る機体メビウスゼロのガンバレルは本体から切り離し、遠隔操作を行うのが特徴だ。だがその操作を行うのは無線ではなく、有線なのだ。

 だから可能なのだ。

 限りなく不可能に近い芸当ではあるが、機体とガンバレルを繋ぐ有線のコードを狙撃すれば、バレルを爆発させることなく無力化できる。

「クルーゼ!!」

 かつて相対した時も奴の技量は圧倒的だった。

 だが今その技量には更に磨きがかかっており、神業めいてすらいる。

 

 

「この変態野郎が!!」

 

 

 だがそれでもムウはラウのシグーを追いかける。

 以前よりやばい相手になっているのであれば、尚更行かせるわけには行かないのだ。

 たとえ自分では敵わないと分かっていても、親友の為にムウは退く訳には行かなかった。




原作ラウ

ヘリオポリスのシャフト内に侵入することで、ムウさんの動きとガンバレルの動きを鈍らせ、バレルを撃破。


変態仮面ラウ
素の状態でガンバレル三機撃破。最後は動きが鈍っているとはいえ、有線のコードを狙い撃ちし、撃墜。


ムウさんが弱いわけではなく、変態仮面が変態すぎるだけですね♫

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