ガンダムSEED NEOラウの『兄弟』地球連合の変態仮面ネオ少佐は娘を愛でたい 作:トキノ アユム
「う……」
肩の痛みに呻きながら、地球軍の将校であるマリュー・ラミアスは目を覚ました。
「あ、気がつきました? キラ!」
「……」
ベンチに寝かされた自分を見下ろしていた少女の視線の先を見ると、そこには見覚えのある黒髪の少年がいた。
「うぐ!」
利き腕を動かそうとすると、肩に激痛が走る。
「あ、まだ動かない方がいいですよ」
「……」
意識がはっきりしない。自分は一体――
「すみませんでした。なんか僕、無茶苦茶やっちゃって……」
「?」
無茶苦茶? なんのことだ? そもそも自分は何処でこの少年と知り合って――
「お水いります?」
「……ありがとう」
気遣わしげな少年と少女の視線に警戒を解くと、マリューは渡された水を喉に流し込む。
曇っていた意識がはっきりとする。
そうだ確かザフトの襲撃があり、自分はやむ終えず近くにいた少年と地球軍の新型モビルスーツ──ストライクに搭乗した。
その後、途中で操縦を変わった少年がストライクの未完成のOSを書き換え、交戦していたジンを撃破した。
(その後、ジンが自爆して、私は気を失ったのね)
ならばストライクは今どうなって──
「すげえな。ガンダムっての!」
「動く? 動かない?」
「お前ら! あんまり弄るなって!」
「あんまいじんなよな!」
「!?」
少年達の声にはっとし、マリューは顔を向ける。
そこには、地に膝をついたストライクと、そのコクピットに潜り込み、騒いでいる民間人の少年達がいるではないか!
「!」
ほとんど反射的にマリューはホルスターに入れてあった銃を取り出すと、少年達の頭上に向けて発砲した。
「機体から離れなさい!!」
「何をするんです! やめて下さい! 彼等なんですよ!? 気絶してるあなたを下ろしてくれたのは!」
血相を変えて詰め寄ってくるキラに対しても、マリューは油断なく銃を向けた。
「……助けてもらった事は感謝します。でもあれは軍の重要機密よ。民間人が無暗に触れていいものではないわ……皆こっちへ並んで一人づつ名前を!」
抵抗すれば撃つ。マリューの目は言外にそう告げていた。
怯えながらもマリューの指示通りに一列に並び、それぞれ名乗る。
「サイ・アーガイル」
「カズイ・バスカーク」
「トール・ケーニッヒ」
「ミリアリア・ハウ」
「……キラ・ヤマト」
少年達は一様に、不満げな顔つきだ。
(……事の重要さが分かっていない)
それを見てマリューは溜め息をつきたくなった。
意識を失って大切な軍の機密を無防備にしてしまった自分が誰よりも悪いが、それを見てしまった彼等はもう無関係な一般人ではいられなくなった。
(あの子と同じように……)
ちらりと自分とストライクに搭乗した黒髪の少年を一瞥する。コクピットで発揮した彼の能力はおそらく──
「──私はマリュー・ラミアス。地球軍の将校です。申し訳ないけど、あなた達をこのまま解散させるわけにはいきません。事情はどうあれ、軍の最高機密を見てしまったあなたたちは、しかるべき所と連絡がとれ、処置が決定するまで、私と行動を共にしていただきます」
「なんで!」
「冗談じゃねえよ! なんだよそれ!?」
「僕らはヘリオポリスの民間人ですよ? 中立です。軍なんて関係ないです!」
「!」
「関係ない」少年達の一人のその一言がマリューの怒りに火を着けた。
「黙りなさい! 何も知らない子供が!!」
「「「「「!?」」」」」
威嚇のために銃を一発発砲し、一喝をすると、少年達の不満は不安へと変わった。
「中立だ、関係ないと言ってさえいれば今でもまだ無関係でいられる……まさか本当にそう思っているわけじゃないでしょう? 周りを見なさい!!」
少年達は周囲に目をやった。その景色は彼等の知る景色とはまったくかけ離れたものだろう。
人で溢れていた街並みは、一人もいない無人と化し、建物は戦闘の余波を受け傷つき、所々倒壊している。
「──これが今のあなた方の現実です……戦争をしているのよ。あなた方の世界の外はね」
「そう言う君も周りをもう少し見た方がいい」
「!?」
背後から声。咄嗟に振り返ろうとした瞬間、マリューの身体が宙を舞う。
何者かが後ろから足払いをかけたのだと遅れながら気付く。
「あぐ!?」
バランスを崩した所を、後ろから襟首を持った誰かはマリューの身体を後ろに叩き付けた。
受け身も取れずに、仰向けに倒れたマリューは背中と撃たれた傷の痛みに呻く。
「中断されているとはいえ、まだここは戦場だ。油断などすれば背後から襲われるぞ?」
「く! ……え?」
自分を見下ろす相手に銃を向けようとしたマリューは気付く。
手にあったはずの銃がなくなっていることを。
そして自分を見下ろす仮面の男の手に代わりに握られている事を。
「何より理由はどうであれ民間人に銃を向けるのは、軍人としてルール違反だ。マリュー・ラミアス大尉」
「あなた、は!?」
軍服は着ていないが、その特徴的な仮面には見間違えようがようない。
「久しぶりだな。ラミアス大尉……本当はさっき工場で会った時に言いたかったのだが、お互いそれ所ではなかったからな」
「ネオ・ロアノーク少佐!」
以前面識があり、尚且つ地球軍では知らない士官がいないエースパイロットがそこには立っていた。
「いきなり手荒な真似をしてしまって悪く思うが許してくれ。少し冷静さを欠いていた君に頭を冷やしてもらいたくてやった」
倒れたマリューにネオは手を差し伸べる。
「あ、いえ……こちらこそすいません」
混乱しながらも、マリューは差し伸べられた手を受け取った。
「俺は構わんよ。彼等の事は許してやって欲しい。君を助ける為に手を貸して欲しいと頼んだのは、俺だからな」
「そうなのですか?」
「ああ。俺も娘と合流しないといけなかったからな。降ろすのを手伝ってもらった後に、気絶した君の様子を見てもらっていた。彼等に罪はない」
「もっとも」とそこまで言うと困ったようにネオは微笑んだ。
「釘を刺していなかったとはいえ、モビルスーツのコクピットに無断で入ったりするやんちゃ坊主がいるとは思わなかったがな」
それを聞くと、少年達の一人──トール・ケーニッヒはびくりと肩を震わせた。
「銃を撃たれて驚いただろうが、君達も彼女を許してやってくれ。他人に知られたら軍機違反で銃殺ものの機密事項に無断で触られてたんだ。優しいラミアス大尉だから威嚇で済んだが、気性の荒い士官なら頭を撃ち抜かれてるぞ」
「い、いえすいません! こちらこそ勝手に触ってすいませんでした!!」
「いや、こちらにも非がある。お互い次からは気をつけていこう」
(……相変わらですね少佐)
口が上手いの一言では片付けられない程に、人心掌握術に長けている仮面の男は、この切迫した状況下で緊迫した雰囲気の場を纏めて見せた。
(ハルバートン提督が信頼するわけね)
『知将ハルバートンの懐刀』……『ファントム』とは別の彼の異名が伊達ではない事を、マリューは痛感していた。
「さて、さっきは娘の事を優先して名前を名乗れなくてすまない」
ネオは少年達に向き直った。
「改めて自己紹介をさせてもらおうかな。俺はネオ・ロアノーク少佐。ご覧の通り軍人だ」
「「「「「…………」」」」」
どう見ても軍人には見えないと、面識である軍人のマリューでさえ思った。
「ステラ。お前も皆さんに自己紹介しなさい」
「うん」
仮面の男に寄り添うように彼の近くにいた少女が、小さく頷いた。
「ステラ・ロアノーク……少尉」
ペコリと一礼をし、ステラは再びボーッと空を見上げる。
「その子が娘さんですか?」
「ああ、どうしたのかな? 何か問題でも?」
「いえ。もっと小さい子かと思っていました……って、え? 少尉? 俺達より歳下に見えるぜ!?」
トールが驚くが他の少年達も同様の事を思っていたようだ。皆信じられない面持ちでステラを見る。
「? なに?」
当の本人は何故自分が注目されているのか、分からない様子で首を傾げていたが。
「地球軍ってこんな子でも少尉になれるのか?」
「勿論普通は慣れないとも。だがうちのステラはとびきり優秀でね……これでも最年少エースパイロットと言われて──」
「……ネオ少佐」
一分一秒が惜しいと言いながら、話が脱線しそうになったのを察したのか、マリューは咎めるようにネオの名を呼んだ。
「ああ、すまんラミアス大尉。どうやら俺は少し親馬鹿みたいでな。娘の事になるとすぐ熱くなるとハルバートンのおやっさんにもどやされてたな」
「少しではないでしょう。それとおやっさんではなく、提督です」
どこか砕けた口調で話す二人に、学生たちはやや目を食らう。
先程まで緊迫した様子であったマリューが、やや軟化している。
それ程までに仮面の男のネオは、信頼し、頼れる相手なのだろうかと。
「それはそうとだ、大尉はこの子達を監視下に置くと言っていたが、それは今も変わらないのか?」
「はい。理由はどうであれこの子達は軍の重要機密を見てしまいましたから……少佐はどのようにお考えですか?」
「ん? ここで解放だ」
「な!?」
思いも寄らない上官の意向に、マリューは目を見開き、少年達の顔はぱっと輝く。
「……と言ってやりたい所だが、すまないが、それは出来ない」
「やっぱり軍の機密っていうやつの為ですか?」
挑むように、こちらを見てくるのはキラであった。
その視線を飄々と受け流しながら、ネオは肩を竦める。
「それもあるんだがね……」
「なんなんですか? 一体?」
「なんなんですかもなにも──」
業を煮やしたのか、不服そうなのが見てとれる態度をとりながら尋ねてくる、色つきの眼鏡をかけた少年サイ・アーガイルに、ネオは微笑んだ。
「君達全員、ここでザフトに殺されたいのかな?」
「「「「「!?」」」」」
学生達の顔が一同に驚愕した。
「驚くことではないだろう? ここは既に戦場だ。今は小休止中だが、後数十分後には再び戦闘は再開されるだろう」
「そんなこと!」
「僕達には関係ないことです……じゃないぞキラ・ヤマト君」
「!?」
言おうとした言葉を一言一句違えずに先読みされて言われたキラは、たじろぐ。
それを見たネオは畳み掛けるように続けた。
「君も見たはずだ。ジンのパイロットが脱出したのを。奴は母艦に帰投すると、ここの事を上官に報告するだろう。そうすれば間違いなくここに再び攻めてくる」
「な、ならその前にシェルターに避難して!」
「間に合うと思っているのかなカズイ君?」
「!」
つい先程、モビルスーツの激しい戦闘を目の当たりにしたからであろう。言い出したカズイを含め、少年達は皆顔を伏せた。
「さっきの戦闘があったんだ。近場のシェルターは殆どがすでになくなっていたり、満員だと見た方がいいぞ」
「遠くのシェルターに行けばいいんじゃないのかよ?」
「相当な運が必要だなそれは。到着する前も到着した後も」
「な、なんで後も?」
「おかしな事ではないだろうトール・ケーニッヒ君。遠くのシェルターが満員ではないという保証がどこにあるのかな?」
「!」
ネオの言わんとしていることを理解したのだろう。トールは俯いた。
「最悪なのは中途半端に満員だった時だ。想像してみろ。再び戦闘が始まって、何とかたどり着いたシェルターで全員は無理だから一人二人だけにしてくれと言われたらどうする? 友人同士で生存をかけた椅子取りゲームでもするのかな?」
もう学生達は全員が顔を上げていなかった。
「……少佐。なにもそこまで言わなくても」
「事実だよ。ラミアス大尉」
非情な現実達を容赦なく突き付けるネオに、思わず口を挟むマリューを一言で一蹴すると、仮面の男は改めて少年達を見た。
「君達がそこまで考えて、それでも俺達と別行動を取ろうというのなら止めはしない。好きにしろ。だが現実問題、君達が今一番生き残る可能性が高いのは俺達と行動を共にすることだ」
「……ついていけば」
「ん?」
ポツリと漏らしたのは、サイであった。
「あなたについていけば、俺達は助かるんですか?」
「確約は出来ない。だが市民の安全を守るのは軍人の義務だ。君達の安全を守るのに全力を尽くすことは約束するよ」
「……分かりました。お願いします」
頭を下げたサイに倣い、他の少年達も頭を下げる。
「ありがとう。では早速働くとしようか……ラミアス大尉!」
「は!」
改めて名を呼ばれ、ラミアスは無事な腕で敬礼をした。
「ストライクの情報は事前に見させてもらったが、さっきの戦闘で内蔵バッテリーが切れたようだが、他のパワーパックを装備すれば、あいつは再び動き出す……という認識でいいかな?」
「はい。その通りです」
「他のパワーパックは何処にある?」
「モルゲンレーテの中に……運び出す寸前でしたので、おそらくトレーラーの中かと」
「少年達を守る壁にするにも、フェイズシフト装甲がなければただのカカシだ。何とかして取りに行けなければならないが……今の君には厳しそうだな」
「……申し訳ありません」
「いや、謝らなくてもいい。しかし困ったな。俺とステラは俺達の機体を動かす為にここに留まる必要がある現状、取りに行く手段がない」
手当をしたとはいえあくまで応急手当だ。
肩を負傷しているマリューでは、トレーラーを見つけたとしても運転することが出来ない。
「あ、あの!」
「ん?」
トールが意を決して前に出る。
「その、運転なら俺出来るんで、手伝わせてもらえませんか!」
「……いいのか? 確かに助かるが、君に手伝う義務はないぞ?」
「勝手にコクピットに入った罪滅ぼしって言うのもありますけど、それ以上に何か手伝いたいんです」
「……危険が絶対にない保証はないぞ?」
「分かってますけど、誰かがやらないといけないんでしょう?」
「……分かった。ありがとうトール君」
「──それなら、俺も手伝いますよ」
「じゃ、じゃあ俺も……」
「君達までいいのか?」
「人手は多い方がいいんでしょう?」
「すまない。本当に助かるよ」
トールが向かおうとすると、サイとカズイもそれに続いた。
「……トール」
「大丈夫よ」
「え?」
その様子を心配そうに眺めるミリアリアの肩に、手を置くとマリューはネオに向き直った。
「少佐。私も彼等の護衛に行ってもよろしいでしょうか?」
「肩の傷はいいのか? ここに残ってもいいんだぞ?」
「少佐がいるのであれば、私がここで出来ることはありません。それに、子供である彼等だけを危険にさらすわけにはいきません」
「そうか……ならば、これは返そう」
マリューから奪っていた銃をネオはマリューに手渡した。
「今の君なら撃つ相手は間違わないだろうからな」
「……ありがとうござます少佐」
銃を受け取り敬礼すると、マリューはトール達の後に続いた。
それを見送ると、その様子を見ていた
「……いい男だな。君のボーイフレンドは」
「え……」
どうして知っているのかと顔を赤くしたミリアリアにネオは苦笑した。
「あてずっぽうだったんだが、図星か。羨ましいな、くそ。俺もそういう甘酸っぱい青春を味わいたかったな」
「……ネオ、青春出来なかったの?」
「そんな時間なかったからな。いや、ただの負け犬の言い訳なんだけどなぁ」
「……じゃあ」
こくりと頷くと、
「ネオ。ステラと青春する?」
「なん──だと?」
恐ろしい速度でネオがステラに顔を向けた。
「ステラもやってみたい。ネオと青春」
「いや、それは……いや、確かにそういうのもありだが、しかし! 親子としてそういう事をするわけには──!! っていうか、ステラ絶対青春の事なんて分かってな──!!」
「あ、あの!」
ネオが地面に膝をつき、拳を叩き付けた所でそこまで黙っていたキラがネオに声をかけた。
「ん? どうしたんだキラ君。悪いが今、子供との禁断の関係についての脳内会議が──!!」
「僕も何か手伝えませんか?」
暴走していたネオがそこでぴたりと止まる。
「いいのか? 民間人の君に手伝う義務はないんだぞ?」
「分かってます。でも、トール達だって頑張ってるのに、僕だけ何もしないわけにはいきませんよ」
「……分かった」
頷くと、ネオは立ち上がり指を指した。
「ではあれに乗ってくれ」
そこには地球軍の新型モビルスーツであるストライクがあった。
ステラちゃん
「ネオ。ステラと青春する?」
その頃のザフトの変態仮面さん
(今港口を抜け、センターシャフトだぞネオ!!)
……どっちがいい?(究極の選択)