時を止める能力こそ最強‐だと思ったら実は最弱だった!?‐   作:アザロフ

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第一章二幕 初めての時止め

 翌日、まずは今自分がどういう状況なのかを確認するべく、ダイニングキッチンとなった場所へ皆を集めた。

 

 朝食後でもよかったのだが、食後はゆっくりしたいかとも思い見送り、程よく時間が過ぎたのを見計らって声をかけたのだが、

 

「あんた何様のつもり。神である私を呼ぶなんて」

 

「ま、まぁまぁイヴ様。十樹さんの話を聞いてからでも遅くないと思いますよ」

 

 開口一番がイヴの愚痴から始まっており、前途多難な気配を盛大に醸し出しながらも始まった。

 

「で、何が聞きたいの」

 

「色々だよ。お前なんも教えてくれてないだろ」

 

「それくらい察しなさいよ」

 

「どうやってだよ!」

 

「まぁまぁ十樹さんも落ち着いて。よろしければ私がわかる範囲でお教えいたしますが」

 

「その必要はないわ」

 

 一人面倒くさそうに頬杖をついていたイヴは空いた手で指パッチンをすると、途端に脳内へ情報が重りのように追加された。

 

 頭を押さえはするもテーブルに寄りかからないといけないほど情報の重さを感じ取り、無駄と思いながらもイヴを睨みつけたが涼しい顔で流された。

 

「大丈夫ですか十樹さん」

 

 シモーヌは慌ててそばに寄ってきて支えてくれ、心配そうに顔を覗き込んでくる辺り、どっちが女神なのかわからないほど優しかった。

 

「急に情報が増えたことで脳が混乱してるだけだから安心しなさい。もっとも、辛いのはわざとだけど」

 

 ニヤニヤと笑っていらたり、本当にこいつはサディストだとつくづく思う。

 

「では体に心配は?」

 

「ないわ。そもそも転生者。能闘士(マギア)は一度不慮の事故で死んだものを指すのだけど、これらは当初予定していた運命とは違うポイントで死んだ時に与えられる権限なのよ。だから二度目くらいは死ににくいように創られてるの。昨日あなたを助けるためにこいつを上空から落っことしたのに平気なのはそのせい」

 

「まぁ多少は女神の加護があるからだけど」などと言っているが、どこまで真実かなどわかりはしない。

 

 ただ言われて脳内に同じ情報がある以上嘘ではないのだろう。

 

 落下に対して言いたいことがないわけではないがシモーヌを助けるためだったということで、初耳ではあっても彼女をためならばと水に流すことにしつつ、他にも何がとあるのかと考えようとしてみる。が、あまり増えているようには感じられず、わかったことは精々昨日聞いた金貨一枚辺りが、日本円の一万円札と同じ金額であることだった。それ以外は銅貨は一円。銀貨が百円単位という程度のもの。必要ではあるが慌てて覚えなくてはならないかと言われるとそうでもなかった。

 

「おいイヴ」

 

「あっ?」

 

 聞きたいことがあって尋ねたのに何故こいつは喧嘩腰なのだろうか。確かに自分の聞き方も悪いとは思うが、女神らしさが力以外ないのはどういうことだ。

 

「これだから童貞は。あんたのそれは女神じゃなくてただの奴隷。自分の都合を相手に押し付けるなっての」

 

「ま、まぁまぁ」

 

「ちっ、で何」

 

 本当にシモーヌがいてくれてよかったとつくづく思う。

 

「情報くれたのは確かに助かるけど、この世界のこと殆どわからないんだが」

 

「……はぁ、仕方ないでしょ。神が決めたことなんだから」

 

「どういうことだ?」

 

 それはシモーヌも知らなかったのか、席に戻りながらも気にしているようだった。

 

「早い話、ここを作ったのは私以外の別の神。それもとびっきりのね」

 

「神にもランクとかあるのか?」

 

「そりゃあるわ。でなきゃ人間の個体ごとに差が出るわけないでしょ」

 

 ふぅんとは思いはするがピンとはこない。どうやらその辺りの情報は貰っていないようだ。

 

「神関連は不要ってことで力でやれないようにできてるのよ」

 

「へぇ。で、お前はどれくらいのランクなんだ?」

 

 興味本位半分、これで低かったら馬鹿にしてやろう半分で聞いていた。

 

 しかしイヴは面倒くさそうに話していた表情から一変、口角を釣り上げ、策にまんまをハマってしまった者を見るように視線を向けてくる。

 

「お生憎様。悪いけど私の神格は上から数えたほうが圧倒的なまでに早いのよ。どっかの誰かさんとは違ってね」

 

 見事なまでの憎たらしい笑みで見下してきていた。

 

 自信たっぷりだが虚言ではと疑いたいものの、そもそも神の力の優劣など説明されてもわからない。その上実際に色々体験してきただけに説得力も十分と言えた。

 

「へぇ、イヴ様はおすごいんですね」

 

「ええそうよ。シモーヌは素直でいい子ね」

 

 頭をなでている二人だけは和やかだが、十樹は一人負けた気分でいた。通っていた学校では上位ではあったが所詮一つの学校内の成績。全国模試では良いときで中堅だった。

 

 どう見返してやろうかと模索はするも容易に思いつくはずもなく、「そんなことより」とイヴに切り出された。

 

「あんたにはもう情報を与えたからこれで該当するものを見聞きすれば大体は直ぐに把握できるようになってる。後はギルドに行くことね」

 

「ギルドって組合のことか?」

 

 口にすると自然と脳内で関連ワードが引っ張ってこられた。

 

 各職業別にギルドへ登録し、関連職へつくならば何かあった時に便利だと。ただし入会するにはそれ相応の金額が必要とある。

 

「ちょっと待て、今の俺にそんな金ないぞ」

 

「私もちょっとありませんね。参加するには今ですと金貨五十枚も入りますし」

 

「金貨五十!?」

 

 とてもではないが出せる気がしなかった。

 

 そもそもシモーヌの給料である三十枚ですらどうしたらいいのかと頭を抱えたいくらいのに、それ以上の金額など払えるはずもなかった。

 

「シモーヌ、あなた忘れているようね。能闘士の権利を」

 

「能闘士の権利? ……あ、そうでした!」

 

 何か思い当たる節があるのか、脳内検索するよりも先に答えてくれた。

 

「能闘士ですと国からの補助が約束されていて、ギルドへの参加は無料となっていましたね」

 

「そういうこと。だから好きなだけ転職もできるし個人窓口にしてもいい。あなた不安だったでしょうけど、能闘士は結構便利なの。金貨三十枚も夢じゃないとは思わない?」

 

「はい、はい!」

 

 シモーヌの頭を再びなでており、その優しさを爪の先だけでも自分に別けてもらえないだろうかと十樹は思った。

 

「で、じゃあそのギルドとやらに行けば良いのか?」

 

 なんでもないように取り繕ってはいるが、異世界、ギルドとくれば次はモンスター退治に決まっている。となれば遂に時を止める能力を使う機会がやって来るではないのだろうか。

 

 生憎知識にとしては入っていなかったのか、ワード検索にも引っかからなかったが、全部を網羅していないとイヴが言っていたのだからそういうこともあるだろうと、逸る気持ちを押さえてシモーヌの顔を見る。

 

「ですね。能闘士は神様とセットでいますので、お二人がギルドへ向かえばそれだけで審査は通るはずです。確か生活に必要な準備金なども支給対象に入っていましたね」

 

「へぇ、結構いたれりつくせりなんだな……ちょっと待て。わざわざ金なんてもらわなくてもイヴが準備したら良いんじゃないのか?」

 

 仮にも女神なのだ。その程度のことなんて朝飯前のはずだ。

 

 これは名案だと自信を持って言ったことなのだが、目の前で鼻で笑われてしまった。

 

「神にはできることとできないことがあるって説明、聞いてなかったの、このクズ」

 

「あーはいはい。その言い方で察したよ。違法だって言いたいんだろ」

 

「当たり前でしょ。そんな事やってたらこの世界が滅ぶわ。一応やってやれないことはないけど私が殺されるしメリットが全く無い」

 

「殺される? 誰にだ?」

 

「はぁ、最高神。因みに似たようなことを私もあんたにできるけど体験したい?」

 

 重い溜息の後に脅してきている辺り、聞く暇があればさっさと動けと言いたいのだろう。

 

 仕方ないと立ち上がり出かけようとして、シモーヌに呼び止められた。

 

「あの、よかったら服を着替えてみませんか?」

 

「どっかおかしいか」

 

 確かに昨日この世界に来てからずっとブレザーの制服を着ている。着替えたいのは十樹も同じではあるも、衣服を買うような資金など持ち合わせてはいない。それはシモーヌも同じはずである。

 

「いえ素敵な衣装だとは思いますが、少々目立ちますので」

 

「そうね、おまけに臭う。あんたの見た目とそっくりでね」

 

「お前ほんっとに一言多いよな」

 

 辟易していると、シモーヌは「ちょっと待っていてください」と言い残して自室へと戻っていった。

 

 疑問に思いつつも見送っていると、イヴは「待ってな」というだけで理解しているようだが説明する気はないようだ。

 

「こちらなんですけど」

 

 戻ってきたかと思うと、手には何か布のようなものを持っていた。

 

 なんだろうかと思っていると体へあてがわれて気付く、衣服であることに。

 

「え、これ俺のために?」

 

 生まれてこの方女性からのプレゼントなんて母親や親戚筋くらいなもので、他人から貰ったことなんてこれまで一つもなかった。

 

「はい。差し出がましいとは思いますが、練習で作ったものを軽く仕立て直したものですが、ご迷惑じゃありませんでしたか?」

 

「全然全然。すっげぇ嬉しいよ!」

 

「あぁ、良かった」

 

 満面の笑みを向かられてしまい、思わず赤面し惚れそうになる。

 

 いや出会って昨日の今日だ。これで勘違いして告ってでもしたら振られるのが落ち。期待しすぎないよう心がけ、着替えるため二階の部屋へと向かった。

 

 上は白い長袖のシャツと群青色の丈が短いガウン。下は黒いパンツだった。

 

 気温の把握できていないが昨日からそこまで寒くなく、これから動き回る可能性もあり、ガウンの方だけ袖をまくることにした。長袖のシャツは多少ごわついているが不快というほどでもないため、これがシモーヌの香りなのか薄っすらいい匂いもするため、かなり満足していた。

 

 姿見があったので上から下を確認すると、割と悪くないと一人頷く。

 

「馬子にも衣装ね」

 

 ご満悦でこれから下へ降りようかと思ったがイヴがまたしても瞬間移動をしたようで、姿見越しにいることを確認できた。壁に背中を預け腕を組んでいる辺り傲岸不遜甚だしい。

 

「もうちょっとこうプライバシーとかないもんか?」

 

「言っちゃ何だけど私は私の管轄内の人間なら全て把握してる。あんたの食事の回数もトイレの回数も、一人でいそいそエロ動画観ながらやってたことも」

 

「だーもーデリカシーがなさすぎるだろ!」

 

 せっかくの余韻が台無しである。

 

 なんだって人に自家発電の回数まで把握されなくちゃならないんだ。

 

「そんなことより重要だからこれだけは言っておくけど、基本能闘士とこの世界は相性が良いようにできてる。それは原住民にとっても。シモーヌがなんであそこまで色々やってくれるかもその辺が影響してのことよ。あんたみたいな転生者に惚れやすくもなってる」

 

「へ、へぇ。えらいご都合的なんだな」

 

 十樹としては願ったり叶ったり。イヴとしても都合よく動く可能性もあるしいい事ずくめなのではと思ったが、珍しく真面目な顔でいた。

 

「ハーレムだとか考えたらあんた死ぬよ。昔いたけど女が惚れやすいのを良いことに発情した馬鹿が」

 

「どうなったんだ、その男は……」

 

 もうわかっていた。話の流れからそれ以外考えられなかったが、聞かずにはおれなかった。

 

「やりすぎたことで別の男たちから報復を受けて殺された。しかも言った通りあんたたち転生者は死ににくいようにできているからじわじわとなぶり殺しにね」

 

「マジ、で?」

 

「冗談なら警告なんて面倒なことするわけないでしょマヌケ。恋愛は自由だけど何事も限度がある。ま、真実かどうか確かめたければ自分で試すことね」

 

 言うだけ言ってイヴは一人先に降りていく。

 

 喜べば良いのか警戒心バリバリで動けば良いのかわからない。ただ嫌われにくいというのは精神的に楽になるため、意識してポジティブに捉えることとした。

 

 おかしなところがないかシモーヌが最終確認して、オーケーがもらえたことでギルドへ出発することに。

 

 ギルドまでは距離があり、着くまでには憂に三十分はかかるのだとか。それまでシモーヌ、イヴ、自分と三人横一列になって向かった。

 

 その間に少しでも知識を得ようと周囲を見回し、耳を立てていると、日常会話が飛んでくる。

 

 その中でも一番重要だったのは水。治水技術の優れた町ならばもっと気楽だそうだが、この町エルシドではある一定間隔で井戸があるのでそこで汲まなければならないようだ。

 

 調理も薪を使って火をおこしてやるし、風呂なんて滅多に入らず拭くだけで終わることもザラ。トイレなんか決められた場所があり、そこでするのだとか。

 

 大も小も共同で使うのが基本だと知識が流れてき、つくづくイヴがいてくれて助かった。イヴが作り変えた家の中には水道があって蛇口をひねれば水が出る。コンロを使えば火がでてシャワーに風呂も完備。水洗トイレまでついていた。

 

 シモーヌは見たこともない技術に目を輝かせていたが、十樹はそれが当たり前の世界がどれだけ恵まれているかを少しだけ実感する。

 

「その辺揃えたのは、ないとキレるやつがいるからよ。なまじ記憶があるぶんそこを起因にホームシックになるやつが結構いんの」

 

「まぁ、気持ちはわかるかな」

 

 十樹とて元の世界を忘れたわけではない。戻れるならば戻りたい気持ちはあるが、こちらの世界を体験してからでも遅くないというのもまた本音である。

 

「へぇ、以外にキモ座ってるわ。一応はホームシックだとかにならないように私たち神がついているけど、あんたの場合は必要なさそうでラッキーね」

 

「だったらもうちょっと愛想よくだな」

 

「あんたがイケメンになったら考えてやるわ」

 

 そこを突っ込まれると痛い。

 

 彼女いない歴が年齢である以上、自分に自信が持てているはずなどないのだ。

 

「私は十樹さんのこと格好いいと思いますよ」

 

「シモーヌありがとう。俺の味方はシモーヌだけだ」

 

 あまりの優しさにどっぷりと浸かり甘えてしまいそうになる。蜂蜜のように絡みつく甘さに溺れそうだ。

 

「け・い・こ・く」

 

 しかし隣にいるイヴに水をさされ、はっとし気持ちを切り替えた。

 

 程なくしてシモーヌが足を止めた先には大きな建物が存在していた。パッと見ただけでも拡張されたシモーヌの家のざっと六倍から七倍はありそうなそれは見事な建物。

 

 入り口の上には看板がかかっており、ギルドと書かれていた。ただし英語を崩したかのような文字のため何故読めたのかは不思議だ。

 

「あんたの頭、マジで脳みそ入ってなさそうね」

 

「だからなんでそう喧嘩売るようなことを言うんだ」

 

 もうなじられ方からして知識の中に入れておいたと言うことなのだろうが、もうちょっと伝え方というものがある。女神なのだからそれくらいはできそうなものなのに。

 

 でもとふと気づく。わざわざ考えていることに反応していることを。なんだかんだで気にかけてくれているんだなと。

 

「ちょ、ちょっとそれセクハラよ!」

 

 図星だったのかこれまで見たこともない赤面顔を晒しており、愉快さよりも戸惑いのほうが強かった。そして不覚にも可愛いとさえ思ってしまったのだ。

 

「だからそういうのを考えるな! 暫くあんたの心なんて見ないわっ」

 

 ふんっとそっぽを向いてしまうが、読心をやれだなんてこちらは一言も言っていないのだから自爆もいいところなのだが、今はそっとしておくことに。

 

「あの~、どうかされました?」

 

「あぁ気にしないでくれ。こいつが遊んでるだけだから」

 

「誰が遊んでるってこのトンチキ!」

 

「ご覧の通り。さ、それよりも中に入ろうぜ。周りにも変な目で見られ始めたし」

 

 周囲を見回せば奇異の目で見るものばかりだった。あれだけ大きな声で叫んでいればそれもそうかと納得するしかないため、そそくさと中へ入ることに。

 

 こちらの世界に来た時もそうだが、情緒のへったくれもないものだと内心ため息をつく。

 

 しかし中に入ればその考えも一発で吹き飛んだ。

 

 広いロビー。何平米あるのか思わず聞きたくなるほどの面積の中で人がせわしなく動き回っていた。話し声から怒鳴り声、靴が地面に擦れる音からどっかで演奏でもしているのか楽器の音までも聞こえてきていた。

 

 これほど生気溢れる場所に、自然と血が滾っていくのがわかる。

 

 自分はここから再スタートするのだと体が、心臓が反応していた。

 

「受付はこっちですね」

 

 先行くシモーヌに案内された先は何人も並ぶカウンターの中の一つ。ギルド総合受付窓口と書かれた場所だった。

 

「あらシモーヌじゃない、おはよう。遂にギルド入会の資金貯まったの?」

 

「おはようございますジェイミーさん。今日は別件でやってきました」

 

 シモーヌが横へどくことでジェイミーと呼ばれた女性の顔が見えた。

 

 赤毛のショートヘアーに整った顔立ち。胸は小さいのか膨らみはないようだ。濃紺色の衣服は制服なのだろう、隣の受付の人も同じ格好をしていた。

 

「こちら受付のジェイミーさんです」

 

「ジェイミー・ポーターよ、よろしくね」

 

「俺は志島十樹。こっちは」

 

「女神イヴよ」

 

「女神……じゃあ志島さんは能闘士」

 

「らしい。昨日来たばっかりなんでよくわかってはないけど」

 

 ジェイミーは十樹とイヴを交互に見てから手元にあったベル振って鳴らし始めた。

 

 何事かと訝んでいると、別の誰かがすっ飛んでくる。

 

「ジャイミーさんどうかされました?」

 

「能闘士の方がお越しになったわ。長への連絡をお願い」

 

「能闘士が……」

 

 やってきた男はこちらを一瞥してから「わかりました」と元気よく答えて階段のある方へ走っていった。

 

「直ぐに戻ってくると思うからちょっと待っててね」

 

「何かテストでもやるのか?」

 

 定番と言えば定番だ。この手の時は入会するのにテストをし、合格すれば入れてもらえるというのは転生物に限らず創作物では見かけてきたから。

 

「えぇ、それもあるわ。でもどちらかと言うと顔見せがメインね。っとその前にこれに名前と所属したいギルドを書いてもらえる」

 

「あ、そういや決めてなかった」

 

 言われるまで忘れていた。ギルドは職種の数だけあることを。

 

 モンスター退治とかその手のものがあれば良いのだがと悩んでいると、イヴが横から紙を上に指をトンっとやると文字が滲み出るように浮かび上がる。

 

「私たちはフリーで行くわ」

 

「自由枠ですね、畏まりました」

 

 何勝手に決めているんだと言いたかったが、先に知識が脳内にあふれてくる。自由枠とは個人事業主のようなもので、持ちかけられた仕事をこなすのだとか。仕事の選択は勿論できるが名が売れてなければただの便利屋でしかなく、何ができるかもわからないため、原住民はすることがなく専ら転生者。この世界で言う能闘士でないと登録しないのだそうだ。

 

「こんなので金稼げるのか?」

 

「あんた次第よ。私は誰かの下になんてつきたくないの」

 

「は、はぁ~? そんな理由で勝手に選んだのか?」

 

 案があっての行動なのかと思っていたが、どうやらただの我儘のようで頭が痛くなってくる。かといってギルドの検索ワードの中にピンとくるものは直ぐには思い浮かばず、それよりも前に先程走っていった男が戻ってきた。

 

「おまたせしました。皆さんどうぞこちらへお越しください」

 

 男はハキハキと喋り先導してくれる。

 

 それじゃあとジェイミーに別れの挨拶をし男について行くが、あまりの陽気ぶりに陰気よりな十樹としては相容れなさそうな雰囲気を全身から醸し出していた。

 

 直視できずに目をそらしながら後をついていくと、四階の奥の部屋まで案内されることに。

 

「こちらの奥で長がお待ちです」

 

 案内はここで終了のようで、男が去っていくのを待ってから観音開きの戸を両方纏めて開いた。勿論理由は一度そうやって開けてみたかったからだ。

 

 中へ入ると二十畳はあろうかというほどの広い部屋があり、奥で一人の男性が腰をかけていた。

 

「よくきた能闘士よ。私はギルドを総括する長。一部からはギルドマスターなんて呼ばれているものだ」

 

 白髪交じりの老人らしき男はデスク越しに、にこやかに笑みを浮かべていた。

 

 ここにきて急に緊張が走る。バイトの面接の時など比較にならないほどの重圧が、ギルドマスターからは感じられた。

 

「そういう茶番はいいからさっさと始めなさい」

 

 そんなもの意に介さずイヴは堂々とした出で立ちで言い放つ。

 

「これはもしかしてかなり力のある神、のようだね」

 

「あんたの神よりもね」

 

「これは手厳しい。今ローラは出かけているから残念だけど顔合わせはまた今度」

 

 あぁそういうことかと把握した。

 

「あんたも俺と同じ転生者なのか」

 

「君も理解力があるようだね、それはいいことだ。この世界では頼れる者が少ないからとても重要な力だよ」

 

 そう言いながらも立ち上がり近寄ってくる。ただそれだけなのにわかってしまった。この人が何度も戦いの中をくぐり抜けてきたことが。

 

 年を感じさせないしっかりとした歩み。歩幅も歩調も一定で一切ブレを感じさせない。逃げても直ぐに捕まりそうな威圧感。

 

 殴り合いなんて昔にやったっきりで経験なんて殆どない自分でもわかるほどに、気配が重厚だった。

 

「ではテストを始めようか」

 

「……何をすれば良いんだ」

 

「神と対である時点で確定ではあるんだけどね。確認と、後は事件とかあった時に誰がやったかすぐわかるよう能力の把握だな」

 

 確かにこの世界に来てから全然時を止める能力なんて使っていなかった。使う機会がまったくなかったわけではないが、どうせならここぞという時に使って驚かせたいという子供じみた考えがあってのことだった。だが、ここで使えというのならばお望み通りやってやろうと意を決する。先輩能闘士を驚かせてやりたいというこれまた幼い発想だが、十樹にとっては重要なためやらない理由がない。

 

 イヴもその気なのか、見れば頬を震わせながらもやってみろと顎をしゃくってくる。

 

 ならばと右腕を前に出し、自分の中に増えた物を意識する。不思議と使い方なんて習ってもいないのに把握でき、その通りに動かす。

 

 内側にある力の塊のようなものを取り出すようにしてから、僅かな躊躇いを胸にいざ使ってみた。最強である時を止める能力を。

 

「って、あ、れ?」

 

 使ったはずだ。時を止めたはずだ。だというのに膝は崩れ落ち、止まっているはずのシモーヌは慌てて支えてくれた。

 

「十樹さん、どうされたんですか十樹さん!」

 

 心配そうに抱きかかえてくれるシモーヌには悪いが胸の感触が心地よいと感じるとともに、体に力は入らず起き上がれそうもなかった。

 

 視界にイヴとギルドマスターが映るが、方や驚いており、方やこれまで見たことない。いや、一度だけ見た顔で笑っていた。そう、あの顔は能力を宣言した時に見た顔。

 

 その意味を悟るよりも先に十樹の意識は暗い中へと落ちるのだった。

 

 

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