時を止める能力こそ最強‐だと思ったら実は最弱だった!?‐   作:アザロフ

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第二章二幕 能闘士の集い(サバト)

「おいおいおいおいおい。これはどういうことだよイヴ」

 

 周囲を見回すと何処かの町の通りなのか、建物と人によって囲まれていた。

 

 もう日が落ちてやや時間が経過しており、電灯の概念がないこの世界では松明や蝋燭で明かりを確保するしかない。だというのに集まった人々は明かりも持たずに歓声を上げているだけだった。

 

「これが能闘士の戦いのステージよ。あんたには夜らしく暗い状態で見えるけど、観客側はこの中でもハッキリ視認できるようにできてるから存分にやればいい」

 

「いやそうじゃなくて。あーいやそうだけどそもそもなんで戦いの知識をくれてないんだよ」

 

「勿論わざとに決まっているじゃない」

 

「こんっのくそ女神っ」

 

 能力を一つ追加してくれたことで十樹としてもイヴとは友好的に過ごしたいと考えていたのだが、どうやらそれはこちらだけだったようだ。

 

「因みにだけど家の中から見ている組は一番高い金を払った組よ。用意された家の中から観戦できるビップ席。あそこの人間に気に入られるとこの先生きるのに困らないくらいには頼られるようになるわ。次は路上の先頭。あそこもボチボチだから良いところ見せると後で見返りがあるかも。その後ろは何とか見ていけている層だからあんまり気にしなくていいわ」

 

 おまけに見当違いなことを説明してくれ、大変ありがたくなかった。

 

 長期的に見たら重要な情報かもしれないが、今必要なのはそんなことではないのだ。

 

 そんなことお構いなしにトントン拍子に話が進んでいく。十樹にとって都合が悪い方へ。

 

「ヒャッハー! お前が今回の対戦相手か? 俺の名前はフレイムタン! 名前の通り炎使いだ! 燃えているかいベイビー」

 

「で、あれが今回の対戦相手(バカ)ね」

 

「こっちは今胃もたれしそうなのにこってりしたもん持ってくるなよ……」

 

 イヴが指差した先にはパーカーにヘッドホンをつけた男が、ダンスを踊りながら立っていた。ただどうも動きがぎこちなく素人感が拭えない。もっと言えば無理にやっている気さえした。

 

「あんたの日頃の行いね」

 

「あぁそうかい。なら俺はそんな運命を強いる神様を恨むね」

 

 半眼でイブを睨みつけるも、涼しい顔で流される。

 

「あら、それはなんて美しい女神なのでしょうね」

 

 嘯いている辺り本当に肝っ玉が座っていると言わざるを得ない。神だからかも知れないが。

 

「お前の名前はなんて言うんだいメーン?」

 

「俺か? 俺は志島十樹だ。こっちは女神イヴ」

 

「ふん、実にナンセンスな名前だ。せっかく生まれ変わったんだからもっと熱い名前に変えようぜ」

 

「あんた自分の名前変えたのか?」

 

 というか変えられるなんて知らなかった。特別自分の名前が嫌いだとか思ったこともないため、変える理由など十樹にはこれっぽっちもないのだが、フレイムタンとやらはあったようで、ちょっぴり気になった。

 

「ああそうだぜ。でももう過去の名前は前の世界に置いてきた。だから俺の名前はフレイムタン。もしくはフレイムと呼んでくれ」

 

「あいつの本名は鈴木晶(すずきあきら)。元いた世界ではハブられていたようね。それが転生する折に弾けた感じ」

 

「本名は結構普通なんだな」

 

 フレイムタンとやらのインパクトに気圧されたせいか、名前がその辺にいそうな名前だけについ口が滑った。

 

「普通っていうな!」

 

「うぉびっくりした」

 

 唐突に叫んできた鈴木に思わず驚いてしまった。

 

「まぁまぁフレイム落ち着きなよ」

 

 遅れて表れたのは鈴木の神だろうか。

 

──性別が違うだけでイヴと同じ神、でいいんだよ、な? 

 

 正直自信がまるでなかった。

 

 髪は金色なのだが、暗い中でも分かる程度には根本が黒い辺り地毛は黒髪なのだろう。上着はレザージャケットを羽織、下は同じくレザーのパンツというパンクな感じに決めていた。

 

「なぁイヴ」

 

「その先言ったら殺すわよ」

 

 ドスの利いた声だけに、一緒の扱いをするなと言うことだろう。

 

 同じ神なのにここまで差があるものなのかと素直に感心した。

 

「へいへいお前ら調子に乗ってんじゃねーぜ」

 

「俺とサイスにかかれば全勝、必勝。これから先も常勝」

 

 これはヒップホップというやつなのだろうか? 知識がないため上手い下手の判別もできず、どう反応するのが正解なのだろうか真剣に悩む。

 

 イヴに視線を向けても辟易したような表情をしており、お膳立てはしたものの本当に相手のことはわからなかったようだ。一緒に飛ばされていたシモーヌも困惑しているのかずっと無言で見ている。

 

 十樹としてはできれば関わりたくないタイプの人間だが、ここは口を開かなければ先に進まないのだろうと、重い溜息を吐き出してから話しかけた。

 

「これからお前と舌戦するつもりはないし、さっさと勝負とやらを初めないか」

 

「お前と舌戦、お前は善戦。俺とお前は対戦」

 

「いやお前のつまんない話はいいから」

 

「つまらないとか言うな!」

 

「おぉ、またかよ」

 

 どうやら新しくつけた名前通り沸点が低いのか、一瞬で怒り出していた。

 

──そういやこの場合どう言うんだろうな? 改名ならぬ戒名なのか? 

 

 鈴木に毒されたのか、しょうもないことを考えてしまう。

 

 このままでは自分も痛い奴の仲間入りをしそうな気がし、首を振って切り替えた。

 

「鈴木、こっちはさっさとた」

 

「────だから俺の名前はフレイムタンだ!」

 

「フレイム、これがあいつらの策略なのさ。あそこにいる神はこの手のことを好んでするようなやつだしね」

 

「そ、そうか。なら気を取り直して」

 

 そう言ってまた始まるのかとうんざりしかけたところでイヴが割り込んできた。

 

「あんたサイスって言ったわね。どうやら私のことを知ってるようだけど、ひょっとしてストーカー?」

 

「馬鹿言うな。お前の悪名を聞いたことがあるだけだ」

 

「へぇ、どんな」

 

 イヴは愉快そうに笑みを浮かべて問う。

 

 この女神の性格を多少知ったことで、この先に何が起こるのか想像がつくだけに、相手の神であるサイスには思わず両手で拝みたくなった。

 

「自堕落女神。簒奪女神。紐女神。詐欺師女神。後はサディスト女がむぃっ」

 

「丁寧な説明をありがとう」

 

 先を続けようとしていたサイスだが、途端に口を縦にしたまま宙へ浮いていた。まるで誰かに頬を捕まれ持ち上げられているように。

 

「ほらもっと鳴いてもいいのよ? 私はそれでも楽しめるから」

 

「サイス! おいあんた。うちのサイスに何やってくれてんだ。そもそも神は戦いへの参入は禁止されているだろ!」

 

「黙れ囀ることしかできない雑草風情が。これは神同士のいざこざでお前には関係ない」

 

 冷たい目線で睨みつけられたからか、一瞬怯んだ鈴木だが、歯を食いしばって前に足を踏み出した。

 

「こいつは俺の魂の兄弟だ! 誰であっても傷つけるやつは許さねぇ」

 

 懸命に守ろうとする姿は、認めたくないが十樹もぐっと来るものがあった。

 

 イヴはイヴで興が削がれたのか一度目が閉じられると、次に開いた時には拘束を解除したのかサイスは石畳の上に落下していた。

 

「これでわかった十樹。私の力が」

 

「そういうことかよ。あぁそうだな少しは見直したよ」

 

 わざわざ煽ってまで言わせていた理由を理解した。

 

 要するに神としての差を見せつけたかっただけのようだ。現にサイスはイヴの拘束に抗うことはできておらず、その実力は歴然と言う他ない。

 

 ただその反動が全部自分に来ることは考えてもらいたいものだが。

 

「よくもやってくれたな。サイスを傷つけた借りは返させてもらうぞ」

 

 ホレ見たことかと言わんばかりに鈴木は怒っていた。妙な喋り方を忘れるくらいには。

 

 被っていたフードを外し下から金髪を顕にするが、これまた染めているだけなのか根本が神と一緒で黒いままだった。

 

「イヴお前後で覚えてろよ」

 

「じゃあ今忘れるわ」

 

 つくづくいい性格をしていると厭味ったらしく言いたかったが、その暇ももうないようだ。

 

「戦いの合図は神同士が認めた瞬間から起きるから準備なさい。もう始めるわよ」

 

 相手もイヴもやる気なようで、一人置いてけぼりをくらっている十樹は流されるままに合図を待つ。

 

「ほら雑草の神。あんたも準備しな」

 

「準備ならもう大丈夫だ地球の神」

 

 両神は互いににらみ合いをし、十樹も鈴木と目がかち合う。やっこさんはやる気全開のようだが、こちらはまだやる気にはなっておらず、バランスが悪いこと甚だない。

 

 それでも時は進み続け、呼応するように観客は盛り上がり続けていた。

 

 イヴとエイスは指をピストルのように構え、指先が発光したかと思えば何かを打ち出した。

 

 緩やかに進む発光体は丁度互いの中央付近で接触し、軽快な音と共に花火のように散る。

 

 これが戦いのゴングなのだと知るよりも先に鈴木が動き出した。

 

 

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