時を止める能力こそ最強‐だと思ったら実は最弱だった!?‐   作:アザロフ

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第三章一幕 特訓

 鈴木との一戦から五日が経過した。

 

 まだ次の戦いの報せはないようだ。

 

 なんでも前日には必ず知らせが来るようにできているそうだが、二回戦の始まりを知らせるゴングは響く気配がない。イヴによると今十樹が参加しているブロックは全部で四名。つまり後二回戦えば終わるのだそうだ。

 

 逸る気持ちはあるものの、ないものはないのだから仕方ないと、十樹は地下一階で準備運動をしていた。

 

 そう地下一階である。

 

 シモーヌの家はイヴが内側だけ拡張したことで二階の建物へ作り変えられたかと思っていたが、実は地下一階も作っていたのだ。

 

 ここは能闘士《マギア》の、能力の練習場として作っていたらしく、空間は無駄に広い。正方形の形をしているようだが、一辺が四十メートル近くはあり、天井までの距離は五メートルはくだらなかった。

 

 それでも向上した身体能力を前に考えると、これでも狭いと言えてしまうのだから恐ろしいものである。

 

 これまでインドアな生活ばかり行ってきた十樹だが、先日の戦いを経て少しは運動をするべきだと思い初めたことなのだが、想像していたよりも気持ちよく体が動かせることから半ばハマり始めていた。

 

 イヴによると身体能力の向上は肺活量や体力そのものにも影響があるそうだ。

 

 おかげで一〇〇メートル走ったくらいで息切れをしていたものが、今では数キロを容易に走れており、今もアップで一キロを走ったところ。息切れどころか体がやっと動き出したかなと思えている辺り実に愉快である。

 

「お疲れさまです。タオルは使われますか?」

 

「汗かくほどじゃなかったし大丈夫」

 

 シモーヌが差し出したタオルを断った。

 

 脇には水筒がぶら下がっており、実に優秀なサポート役として彼女はやってくれている。

 

 元々運動を始めたきっかけも彼女ではあるが、このことは本人には秘密だ。

 

 一回目の戦いで無様なところを見せてしまったため、運動を決意したのは間違いではないが、もう一つ理由があり、シモーヌに格好いいところを見せたいという願望である。彼女の前で自分の想像通りに格好がつく感じにやるため、決意したのが始まりだ。

 

「よ、ほ」

 

 何度かジャンプをすることで自分の状態を測る。

 

 着地する反動を利用して高さを上げていき、最後には全力で跳び上がった。

 

 目指すは五メートル先の天井。しかしやはりというべきか思いっきり跳んではみたも、四メートル辺りが限界なようでカスリもしなかった。

 

「惜しいな」

 

「何処がよ。全然届いてないじゃない」

 

 イヴがいつものように悪態をついて表れた。

 

「人が頑張っているのにそれか」

 

「頑張って跳ねてるってことはあんたはバッタか」

 

「だーもー何しに来たんだよ」

 

 あんまりな言われ方に反射で返してしまい、しまったと焦る。

 

「へぇ、人に頼み事をしておいてそんな態度取るわけか」

 

 女神の言う通り、昨夜実践的な稽古をしたいとお願いしたのは自分だ。なのに何をしになどと言っていいはずもないのだが、つい口が滑ってしまった。

 

 ご立腹のご様子であるイヴは、無造作にぱちんと指を鳴らすと、弾かれるように宙に浮いたかと思うと、四方八方へ衝撃を伴いながらも吹き飛ばされた。彼女なりの優しさなのか、衝撃はあるのに痛みはなく、けれども体がシェイクされていることは変わらず気分が徐々に悪くなっていく。

 

「ぃ、イヴぅ、わわ、悪かったから、とめ、め」

 

「イヴ様」

 

「……わかったわよ」

 

 流石はシモーヌ。彼女の鶴の一声は神をも動かす奇跡の言葉だ。

 

 ぐったりした状態で地面に降ろされた十樹は、天井を眺めながらもゴロンと寝転がる。床は幸い芝生が敷かれているため、痛くなければ冷たくもなかった。

 

 だらしのない声を出していると、シモーヌが駆け寄ってきてくれ、遅れてイヴもやってきたかと思うと、腹部を踏んづけてきた。

 

「最近あんた調子に乗ってきているようだから言っておくけど、私は女神よ。あんまり上から物を言わないことね」

 

「はいはい今回は俺が本当に悪かったよ」

 

「ち、意外にこいつ慣れてきてやがる」

 

 口調が女神らしなからぬ物言いで呆れそうになるが、踏んづけてきた足は痛いと感じないギリギリな塩梅なため、軽く払いのけるだけでどいてくれた。おまけに、

 

「お加減はどうですか」

 

「今イヴが治してくれたよ」

 

 気分の悪さもなくしてくれたあたり、なんだかんだで優しいのだ。サイスへの仕打ちを見る限り、人間へは過度な危害を加えようとしていないのだろう。逆を言えば神相手では遠慮がないとも言えるが。

 

「ほらささっと立つ」

 

「それはいいけど結局何をやるんだ?」

 

 実戦形式でやると言ったのは確かに自分だが、その時イヴに「やり方は私が決めるわ」と言われ、結局詳細を聞かされることなく日を跨いでしまったわけだ。

 

「早い話、あんたは雑魚よ。鵝毛《がもう》をそうね、戦車で例えるならあんたはクソ雑魚ナメクジね」

 

「ナメクジはともなくクソ雑魚の部分はいらんだろ……」

 

「それほど差があんのよ。あんたとあの爺さんとでは」

 

 聞く気はないのか、サラリと流されてしまった。

 

「先に言っておくけどあいつはこの能闘士の集い(サバト)には参加しないわ。あまりに強すぎて対戦相手が全員逃げ出すから。ま、知らずに戦ったのもいるけど瞬殺ね」

 

「そんなに差が出るほどなのか? 同じ能闘士《マギア》だろ。能力だって多少差異はあるだろうけどやりようじゃないのか?」

 

 少なくとも能力の違い以外では、実際に戦った鈴木と自分との差なんてわからなかった。あの時はがむしゃらにやってなんとか勝てただけで、また勝てるという自信は正直ない。

 

「馬鹿ね。なんで私が、あんたが体を鍛えていることに口出ししてないかわからないの」

 

「なんでって見ていて面白いからとかじゃないのか?」

 

 イヴならばやりかねないと思って言ったのだが、不服だったのか半眼で睨んでくる。

 

「あんた人を馬鹿だと思ってる? 言っちゃ何だけど私の力は全知全能に等しいわよ。今あんたと話している私でさえ所詮分霊でしかない。その上この世界じゃ力に制限までかせられてるのよ。そこまでしないと力がありすぎるから」

 

「ぶんれい……あぁ、分け御霊って奴か。え、じゃあお前の本体は」

 

「私の本体は地球そのものと言っても過言じゃない。だから今も地球にいるわ。因みにサイスは雑草の神、正確には白詰草《シロツメクサ》の神ね。あんたでもわかるように言えばクローバーよ」

 

「へぇ、八百万の神の国(やおよろずのかみのくに)って言われてるけど、本当は地球そのものがそうなんだな」

 

 スケールがデカすぎていまいちピンとは来ないものの、それでもイヴの出鱈目っぷりの一端が知れたよう気はした。

 

「じゃあイヴ、今のお前の歳って地球とおな」

 

「────死にたい?」

 

 地球と同じなのかと言いかけたが、顔は笑みを浮かべているのに目だけは笑っておらず、今までで一番怖い表情をしていた。

 

 その反応自体が答えているようなものだが、身の安全のために口を閉じることに。

 

 いかに神といえど、年齢の話は禁句なようだ。

 

「あのー、神様ってそんな沢山いらっしゃるんですか?」

 

 一人置いていかれていたのか、シモーヌが恐る恐る手を上げながら問うてきた。十樹は話題がずらせると、内心ガッツポーズを取る。

 

「えぇそうよ。この世にある全てのモノには神が宿るの。例えば今シモーヌの着ている服とかもそうね」

 

「服の、神様ですか?」

 

「まぁわからないのも無理はないわ。この世界だと成立しない理《ことわり》だもの」

 

「ちょっと待て。じゃあこの世界って唯一神なのか?」

 

 思わず口出しをしてしまったが、イヴは機嫌を損なうことなく答えてくれる。

 

「まぁ当たらずとも遠からずね。ここを創った神は正確にはシステムだけ作り上げて放置しているのよ。だからいないけどいるのと同じことができる」

 

「二つの意味で次元が違うってわけか」

 

 元いた世界ともそうだが、イヴよりも優れた神がいると言っているのだろう。でなければイヴが大人しくこの世界にあるシステムに従順なはずないからだ。

 

──まだ他の星に来たような気分でいたけど、本当に次元が違うんだな。

 

 今更といえば今更だが、実感と知識が合わさることで否定する要素が失われた。神など元いた世界でも見えも触れもできなかったが、なんだかんだでいると潜在的に思っていたのだろう。

 

 そう思うと色々スッキリし、納得もいった。

 

「全然わかりません……」

 

 シモーヌは一人申し訳無さそうに俯き、しょぼくれていた。

 

「安心なさいシモーヌ。こいつがわかったのだって偏って覚えただけで、他なら理解する知恵もないただの馬鹿だから気にしなくていいわ」

 

 またしても人を貶すようなことを言っているが、今回はシモーヌを元気づけるためということで、大人しく引き下がることに。

 

「要は色んなものに神は宿る。神がいないものはないって覚えればいい」

 

「そういうことよ。まぁこいつのサポートなんてやっていたらそのうち嫌でもわかってくると思うから今は気にしないことね」

 

 諭されたことで納得しきれてはいないが、取り敢えずは了承してくれたようで、頷いて見せていた。

 

「それじゃ疑問も解消されたことで十樹、始めるわよ」

 

 お預けを食らっていた訓練開始の合図に胸が高まる。胸の前で左手の平へ右拳をぶつけて気合を示す。

 

「どんとこい」

 

「それじゃあ私に攻撃してきなさい。時は止めてもしょうがないから動かすだけに留めておくように。こっちをある程度操れるようになれば多少はマシになるはずよ。言い忘れていたけど、鵝毛はあんたがやった天井までの跳躍だけど、簡単に届くわよ」

 

「あれ以上にできるようになるのか」

 

「あんたが成長すれば同じことができるようになるわ。わかったら全力で来なさい。どうせ一発も当てられないから」

 

「言ったな」

 

 性格に難はあれど見た目は可愛い女の子。多少引け目を感じていたが、仮にも相手は神であり、本人が言うのだからいいのだろうと一旦後ろを見ながらバックステップを踏んで距離を取った。

 

 腰を落としいつでも走れるようにしてから、一気に飛び出す。

 

「死ねぇ!」

 

 加減するほど器用でもない。身体能力をフル活用し、全力で真正面から突っ込み、思いっきり右の拳で顔面を殴りに行った。

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