幻想郷でパン屋、始めました。   作:命麗 命

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赤い屋敷の主

「暑いな…」

 

「……暑いですね」

 

灼熱のような暑さが体を焦がし尽くすような真夏日昼下がり。

レヴァとステラはとある人物の家の前にボーッと立ち尽くしていた。

レヴァは何時ものコック服を着ているが、流石にこの暑さは厳しく、体に堪えるらしく、袖を捲って、胸元のボタンを一、二個外して風が通るようにしている。

ステラも、服装こそ変わらないが、かなり大きめの麦わら帽子を被っている。

 

「赤いな…」

 

「……赤いですね」

 

レヴァ達の目の前には、『紅』一色の巨大な館が異様な威圧感を放ちながら建っている。

この館の名は『紅魔館』

レヴァの親友とも呼べる二人『レミリア・スカーレット』と『パチュリー・ノーレッジ』を主とする住民達が仲良く暮らしている場所だ。

前には、今では有名となった『霧雨魔理沙』が初めて名をあげた大異変があったりしたのだが、今はどうでもいいだろう。

 

それよりもレヴァが気になるのは、このトチ狂ったかのような真っ赤な配色の方だ。

 

数百年も前の事なのだが、レヴァは長期間の間ここに滞在した事がある。

その時はこのような、いかにも目に悪そうな色はしておらず、その時代としてはマトモで何処にでもあったような屋敷だった筈だ。

 

それなのに、何が起きたらこうなるのかと疑問に思う位の赤一色。

これを異変の拠点になったのだから、首謀者のSAN値は大丈夫なのだろうか?

いや、あの時の異変は紅い霧が発生したから、実は保護色になっていたのか?

 

「レミィは赤色好きだったからなぁ…」

 

「……あの、ごしゅじんさま」

 

不意に、ステラが話しかける。

 

「ん、どうした」

 

「……アソコの、門の前で寝てる人」

 

気だるそうにステラが指を指す。

その方向には門があり、何者をも寄せ付けないような勢いでグースカグースカ寝ている赤い長髪の女性がいた。ご丁寧に枕まで用意されている。

 

彼女の名は『紅美鈴』

ホン・メイリンと読む。

彼女はこの紅魔館唯一の門番を任されている。

任されているのだが……見ての通り、爆睡している。

別に今日に限った事ではない、春夏秋冬朝昼番ずっとあの状態だ。

現在紅魔館の住人で最も歳上だったりする。

 

「あぁ……まあ、紅なら大丈夫だ、起きろ、紅。『ネフィライアント』が帰って来たぞ」

 

『旦那様がッ!!?』

 

レヴァがある人物名を発すると、先程の呑気で安心しきっている顔から一変、すぐさま飛び起き、レヴァの顔にグワッと近づいてきた。その顔は真剣そのもので、ある種の圧迫感を感じる程だ。

その反応を見ると、レヴァはクスクスと笑いながら、美鈴の頭をポンポン、と言った感じで撫で始めた。

 

「済まないな、冗談だ。そもそも、彼は既に亡くなっているだろう?」

 

「あ……そ、そうでしたね……ってイント様!?ど、どうして此処へ?」

 

「別に、用が無くとも来ていいだろう?」

 

「ええ、勿論ですよ……どうぞ、お入り下さ……」

 

『中国!!』

 

レヴァと美鈴が門の前で話していると、鋭い、ナイフのようなピンとした声がレヴァ達の耳に入ってきた。

全員、特に美鈴はその声の主をよく知っているせいか、美鈴以外はあまり驚かなかった。

しかし、美鈴はと言うと……

 

「ひぇぇ!!?す、すみません!!もう昼寝はしないのでお昼ご飯抜きは勘弁してください!!」

 

このように、怯えきっている。

しかも土下座をしている。どこまで昼飯が食べたいのだろうか。

そして、恐らくここで許しても三日坊主で終わると簡単に予測ができる。

 

「何言ってるのよ……」

 

いつの間にか姿を表していた声の主は、頭に手を当て、いかにも「馬鹿じゃないの?」と言いたげな表情をしている。

 

彼女は『十六夜咲夜』

御存知の通り、紅魔館唯一の人間にして、メイド長である。

ステラのメイド服を調達してくれたり、いつもパンを買ってくれたりと、色々と店に貢献してくれている子だ。

 

「自分からバラしてどうする」

 

「……あっ」

 

紅は何かを察したらしく、既に青くなっていた顔がどんどん青くなっている。

かき氷のブルーハワイシロップも裸足で逃げ出す位に。

 

「まあ、その話は後で良いわ……イント様、御挨拶が遅れ、申し訳ありません」

 

「いや、良いさ。レミィとパチェは居るかい?」

 

「ええ、いらっしゃいますよ。丁度、テラスの方で御茶会をしていらっしゃいます」

 

咲夜が中庭の方をチラリと見る。

その先にはテーブルに椅子といった簡易的なテラスがあった。

勿論、レミィは吸血鬼なので、パラレルを差して日除けをしている。

 

「案内致しましょうか」

 

「いや、いい。ステラ」

 

私がステラの方を見ると、ステラは青くなりすぎて気絶した紅をつついて遊んでいた。

 

「…ん、何ですか」

 

「いや、実は……」

 

この時、私は相当悪どい顔をしていただろうな。

 

※ちょっとドヤ顔の可愛いレヴァさんが出来ただけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇパチェ」

 

「……何」

 

中庭が一望できるテラスに、レミリアとパチュリーはいた。

先程、咲夜が用意した紅茶とバタークッキーをテラス内の机に置き、ゆっくりと寛いでいる。

 

パチュリーは少し前屈みで本を読んでいる。

そのカバーには『ネクロノミコン』と書かれていて、内容は基本的に触れない方が読者の為になるような事が書かれている。

レミリアは、本を真剣そうに読んでいるパチュリーを横目に、中庭をただ眠そうに見ている。

 

中庭には、つい最近知り合った花の妖怪に貰った向日葵の花が庭を埋め尽くさんばかりに大量に咲いている、さながらバケモノのようで、足の踏み場も無さそうだ。

こんな事になった原因は、八割方パチュリーのせい。

数日程前、すくすくと立派に育っていたこの花達だったが、その近くで、最近思い付いた新しい魔法の試し打ちをしているパチュリーがどうやら魔法に失敗したらしく、絶賛成長中の向日葵達の遺伝子配列を滅茶苦茶にしてしまった。

そのままほったらかしにしていたら、この結果だ。

まあ、パチュリーが言うにはあと3日程すれば種を残して枯れていくらしいから、放っておいてもどうにかなるだろう。

向日葵の種は炒れば美味しいらしいし。

 

「暇だわ」

 

「……」

 

じーっ。

 

そんな効果音が聴こえてきそうな位、パチェは私を見ていた。

その目は、いつも通りの何も考えていなさそうな無気力に包まれている。

あの瞳の中で、一体何を考えているのか、長年友人をやっているが、今でもそれは分からず仕舞いだ。

 

すっ。と、パチェが読んでいた本が私の前に差し出された。

 

「読む?」

 

「いや、いいわ。気分が悪くなりそう」

 

「そう」

 

と、素っ気ない態度で返事を返し、パチェは直ぐに本のページを捲る作業に戻る。

本当に、あんな本をよく読めるものだとつくづく思う。

一度だけ、たった一度だけ読んだ試しがあるが、とても「正気の沙汰ではない」ような内容だった。

 

ガチャリ。

 

テラスに設置されているドアが開く。

そこから出てきたのは、私のメイド、咲夜だった。

手にはトレイがあり、その上にはプリンのような物が二個、置かれている。

プリンのようにゼリー状だが、何故か白い。

中心には赤い実のような物が二、三粒ほど付いている、飾り付けだろうか?

 

「御嬢様方、デザートで御座います」

 

「何かしら、それは」

 

「『杏仁豆腐』という物で御座います。東洋のプリンのような物だと中国が述べておりました」

 

「あら、そう」

 

意外だった。

いつもならば、無縁塚という場所で拾ってくる外界の料理本に記載されている謎の物体(作り手がアレだからそうなる)を持ってくるのだが、今回はあの美鈴から教わったものだそうだ。

 

美鈴といえば脳筋で、デザートどころか女子力までゼロ、否寧ろマイナスまで低下していそうなイメージだが、意外とそうでもないらしい。

よくよく思い出して見れば、まだレヴァと一緒に住んでいた頃に一度だけ、美鈴の故郷の料理を作って貰った記憶がある。

非常に香辛料が効いていて、火を吹くような辛さだったが、とても美味しかったような気がする。

確か『麻婆豆腐』だったか、今度作って貰おう。

因みに、辛い物が苦手なレヴァは涙目で悶えていたな。

私得すぎてヘヴンだったね、あれは。

 

咲夜は、トレイに置いてあった杏仁豆腐の器を、静かに、そして美しくテーブルの上へ置いた。

当然といえば当然だが、流石私の従者。

 

「ありがとう、下がって良いわよ」

 

「では失礼致します」

 

咲夜は静かに一礼をして、テラスのドアノブに手を当て、テラスを後にした。

 

咲夜は何故時を止めなかったのだろうか。

いつもはドアを開ける動作など見せずに、時間を停止している間に出ていくというのに。

 

まあ、恐らく疲れていたのだろう。

中庭もあの状況だし、処理に体力を持っていかれたと予測できる。

 

「……レミィ」

 

「どうしたの、パチェ、そんな険しい顔をして」

 

今まで殆ど自ら喋らず、読書に没頭していたパチェが、比較的警戒した声で私に話しかけてきた。

 

「何か感じない?」

 

「……いえ、別に何も?」

 

何か感じるといえば、最近パチェの図書館で嫌な雰囲気がしている。

何か神秘的な、しかし生命としての恐怖を駆らせるような、まるで蛇に睨まれた蛙のような感覚が……おおよそ検討は付くが。

読者の諸君にヒント、『今読んでいる

本』

 

「……レミィ!避けて!」

 

「え?」

 

瞬間、世界が暗くなった。

いや、正確には世界が暗くなった訳では無く、私の視界が何かに遮られているのか。

何かに抱きつかれているような感覚。

人肌のような温かさ。

私と同じ血の匂い。

そして……

 

ふにふに。

ぽいーん。

 

「んっ……」

 

今、私の頭の上に乗っている、大きくて柔らかい『胸』。

そして今の声。

 

「……………………レヴァ?」

 

「あったりー!」

 

…………

 

「……ごしゅじん、ビッ【やらせはせんよ】」

 

「クスクス……」

 

………な、

 

 

 

 

 

 

 

「何でここに居るのぉぉ!!!?」

 

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