幻想郷でパン屋、始めました。   作:命麗 命

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今回、機種の性能のせいで二話に分かれています。

ネタ回のつもりが何故かシリアスになってしまった。

......いや、書きやすいんですよね、シリアス。


紅い館にて。

 

 

 

 

 

「……で、どうやってここに入ったのよ?」

 

先程の出来事から数分程経過し、レミィは落ち着きを取り戻し、レヴァに聞いた。

一方レヴァは、レミィに抱きついているのではなく、ちゃんと椅子に座って紅茶の匂いを楽しんでいる。

丁度レヴァの影に隠れるようにしているステラは、咲夜が作ったお菓子をはぐはぐと可愛らしく食べている。

何か罪袋達が来そうな気がするのは気のせい……だと信じたい。

 

パチェは居ない。

はっきり言って、この戦いにはついていけない………と言うのは冗談で、本を読み終わったので新しい本を取りに図書館に戻って行っただけだ。

ちなみに、パチェの杏仁豆腐はレヴァが美味しく頂きました。

 

「ん……ああ、それはな?レミィ、私の能力は知っているな?」

 

「えぇ、『菌を操る程度の能力』でしょう?大方ソレでどうにかしたんでしょ。それくらいわかるわ」

 

「ご名答。この能力で体を菌に分裂させたんだ。だから、咲夜がドアを開けた時に、気付かれずに入ってこれた訳さ。まあ最も、パチェには気付かれたようだけどね」

 

基本、『吸血鬼』という妖怪には『分裂』という能力が備わっている。

 

例えばレミィの分裂体である『蝙蝠』。

コレは上位吸血鬼のスタンダードな分裂体で、平均的なスペックを持ちながら、魔力や妖力の力の消費を抑える効果がある。

 

次に『鼠』と『狼』

鼠は比較的下位の吸血鬼が使う分裂体で、上位種でこの分裂体を使う者はそういない。

俊敏さに特化していて、他のステータスは圧倒的に低く、扱いづらい。

しかし、扱いが上手ければ、ほぼ確実に生き残れる分裂体なので、本当の緊急時にはこれを使う者が多い。

狼は、吸血鬼であれば誰でも使える、攻撃種。

分裂できる数は少ないが、かなりの攻撃性能を持ち、レヴァ程の実力であれば上位種の吸血鬼と渡り合える程。

俊敏性も高く、移動の際にはコレを使う者が多いという。

 

最後に、レヴァ等が持つ『亜種』。

亜種は、上記とは全く異なる分裂体の事であり、多種多用な物がある。

例を挙げるとするならば、レヴァの『菌』や、『スライム』『蚯蚓』『蛇』など、本当に多くの種類がある。

特に『菌』などの視覚情報に入らないような分裂体は稀であり、ステータスも非常に高い。

菌だと、まず目に見えず、物理攻撃を受け付けなくなり、分裂体も他の物と比べれば有り得ないほど多い。

 

このような種類が、主な物となる。

非常に稀だが、『変異種』という物もあるが、今は解説しなくていいだろう。

 

しかし、レミィが質問したのは、その事ではなかったようだ。

 

「違うわ、私が聞きたいのはレヴァじゃない……貴女の側にいる、その子よ」

 

そういって、レミィは私の隣に指を指す。

そこにいるのは、今の今までずっと黙っていたステラがいた。

 

「……?」

 

何故自分が、それもこのような大妖怪に名指しで呼ばれるのかが分からず、ステラは首をかしげる。

 

自身も認めている事だが、ステラは非常に弱い。

大袈裟に言えば里のガキに腕相撲で負ける程に。

何せ、まだステラは二十を過ぎた頃。

人間にして換算すれば、まだ7才程なのだ。

弱いのも当然。

 

「ステラ……だったかしら?貴女、確か霧裂狼(きりさきおおかみ)だったわね?」

 

と、ここで何かを疑問に思ったのか、レヴァが少し口を挟む。

 

「待て、ステラの種族名は霧裂狼(むれつろう)ではないのか?」

 

その問いに、いつの間にか戻っていたパチェが答える。

いや、本当にいつ帰ってきたのだろうか。

 

「それは旧名ね。そうね、よくよく考えてみれば、レヴァ程永く生きていればその呼び名を知っていてもおかしくは無いわ。その呼び名は八万年程前の呼び方で、ここ最近、といっても千年程前かしら、呼び方が変わったのよ。理由は知らないわ」

 

パチェの適切な返答にレヴァは納得し、そうか、と言ってまた紅茶の香りを楽しみ始めた。

といっても、表面上そうしているだけど、内にはステラにどういった反応をされるのかビクビクしている。

 

「それで、その霧裂狼は、成人すれば、霧となり、その鋭く凍えるような爪と牙で肉を断つ……と、『伝えられている』わ」

 

「……伝えられている?」

 

「そう……レヴァ、貴女、霧裂狼の個体数が少ないのは知っている?」

 

「ああ、確か、成人していない霧裂狼は貧弱で、霧になる事も出来ず、逃げる術が無いから、捕食され、個体数が激減していると……」

 

「では何故、ステラは霧になってここに入ってこれたの?」

 

「!」

 

考えてみればそうだ。

霧裂狼の成人は50才。

総じて、ステラはまだ成人していなく、霧にはなれない筈だ。

 

「……ステラ?」

 

「……私は」

 

ステラは、少し顔に影をつくり、こう答えた。

 

「……私は、私のお母さん、『エスカリア・サテラ』の、霧裂狼の主の、一人娘です」

 

 

 

驚愕だった。

いや、だがしかし、これも考えて見ればわかる事なのだ。

霧裂狼は群れをつくり行動する。

その為、別に拐って奴隷にするならば他にも居た筈だ。

なのに、何故ステラだけが?

答えは、『主を脅し、屈伏させるため』だ。

個体数は少なくとも、個体値は高い。

これが主ともなれば、倒すのには一苦労、どころではないだろう。

軍を100用意すれば勝てるかどうか。

そんな相手に、真っ向から勝負に出る者はまずいない。

それよりも手っ取り早い方法があるのだ。

 

……娘を人質にする

 

これさえ出来れば、幾ら主と言えど降参せざる終えない。

 

「……私は、そのせいで、苛めを受けました」

 

「……『主の娘だからって調子に乗るな』『無口で気持ち悪い』『親の七光り』……他にも、殴られたり、集団で取り囲まれたり、色々な事をされました」

 

「……けど、お母さん達は、味方でした」

 

「……お母さんは、私を庇ってくれて、お父さんは、私を慰めてくれて、お姉ちゃんは、私を喜ばせてくれた」

 

「……だから、そんなお母さん達を殺そうとする、アイツ等が許せなかったッ……」

 

珍しく、ステラの顔に表情が浮かびあがる。

それは営業時の仮の笑いではなく、正真正銘、本物の『憤怒』の表情だった。

しかし、それもすぐに収まり、少しだけ表情が緩む。

 

「……でも、こんな私でも、お母さん達を守る事ができた」

 

「……『アイツ等の襲撃を止める代償として、娘を寄越せ』……私は、直ぐにかってでた」

 

「……お母さん達に会えなくなるのは寂しくなるけど、守る為なら、それでも良かった」

 

ステラは、気づけば涙を流していた。

その瞳は、何を見て、何を感じ、何を思っていたのだろうか。

少なくとも、今は『悲しみ』ではなく『喜び』の瞳を浮かべている。

 

「ッ……ごめんなさい、それで、私が主の娘だから、母の力を受け継いで、比較的早く能力が使えるんです。ただそれだけ……」

 

不意に、ステラの体が前に寄せられた。

それをしたのはレヴァではない。レミィだ。

 

「辛かったわね」

 

「……」

 

「私には、一人の妹がいるわ」

 

『レミリア・スカーレット』には、一人だけの血の繋がった妹がいる。

『フランドール・スカーレット』

彼女が持つ危険な能力のせいで、495年間、地下牢に閉じ込められていた。

 

しかも、実の姉の手によって。

 

「フランって言うんだけどね、私のせいで、495年、ずっと地下牢にいたの」

 

「……!!」

 

「……辛かった」

 

「あの子が一番辛かったでしょうね。でも、私も辛かったのよ」

 

「……レミリアさん」

 

「自分のせいで、可愛い、可愛い妹が、暗い闇の中で独りぼっち……それだけで、自分は生きていて良いのか、死にたいなんて思ってたりしていたわ」

 

「時は違えど、境遇は同じ……貴女にも姉がいたのでしょう、その人の気持ちもわかる……」

 

暫くの間、沈黙が訪れた。

ステラは、目に涙を浮かべており、レミィも涙が溢れている。

そしてレミィが口をあけた

 

「ごめんなさい」

 

「!!」

 

「貴女の姉も、こう思っている筈だわ」

 

「……」

 

「本当に、ごめんなさい……!!」

 

そしてまた、沈黙が訪れた。

辺りには、蝉の喧しい音色と、レミィの泣いている音しかしない。

 

ガタリと、レヴァが席をたった。

そしてそのまま、テラスを後にした。

彼女は何を思ったのだろうか。

レミィ達に同情したのか。

ステラ達を襲った集団に憤怒しているのだろうか。

 

それとも、『過去の自分』を思い出したのだろうか。

 

今は、その事はわからない。

 

 

 

ステラが口を開く。

 

「……何で」

 

「……?」

 

ステラは、続けて口を動かす。

 

「何で、みんな、こんなに、優しいの……!?」

 

その口から出た言葉は、困惑の意を孕んでいた。

 

「こんな、こんなダメなわたしの為に、どうして……どうしてぇ……」

 

遂に、ステラは泣き出してしまった。

 

そしてそこには、酷く小さく、怯えた二人の少女がいた。

 

 

パチェは、その光景を、ただ黙って、静かに傍観していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程の出来事から、数刻程の時が過ぎた。

二人はもう泣き止み、少し暗めの雰囲気ではあるが、パチェも加わって三人で話をしている。

 

「……落ち着いたか?」

 

ガチャリと、テラスの戸が開いた。

その先には、今まで場を留守にしていたレヴァがいた。

 

「……ごしゅじんさま」

 

「御免なさいね、レヴァ。貴女に迷惑をかけてしまって」

 

「いや、良いさ……それより、ほら」

 

そういって、レヴァは両手に持っていた物をテラスのテーブルに置く。

 

「……これは」

 

「アップルパイさ。甘い物は気が落ち着くだろう?」

 

テーブルには、一回り小さめのアップルパイが1ホール置いてあった。

中々に小洒落たお皿に、1ホール乗せてあり、飾りつけにラズベリー、ブルーベリーが飾られてある。

 

ステラは楽しそうにソレを見ているが、他三人の様子は少し違うような感じがする。

 

懐かしむような、哀しげで、憂いを帯びた表情だ。

 

レミィが「レヴァ、これって……」と、言おうとすると、レヴァは自身の口元の前に人指し指を持ってくる。

要するに、「しーっ」の合図だ。

 

「待っていろ、直ぐに分けるからな」

 

そうレヴァは言い、パイの隣にあったパイ用の包丁でパイを切り分けていく。

今この場にいるのは4人。

流石に4等分は見た目が悪いので、1つが少し小さくなるが、8等分に切り分けていく。

 

「……いいにおい」

 

パイを切り分けた拍子に、辺りに甘い香りが充満する。

林檎の香りとは思えない程、甘い匂いだ。

 

「比較的酸味のあるリンゴを使っているからな」

 

「え?どういう事なの?なんで酸っぱいリンゴを使ってこんなにも甘い香りが?」

 

そういうと、レヴァが説明し始める。

 

「まず、パイは型に入れて焼く、それは知っているな?そのパイ生地と中の具を入れる過程で、本来は生地が下、その上にフルーツ等の具を入れていくのだが、それを逆にして作る物があるんだ」

 

「つまり、具を先に入れて、生地を上から被せるって事?」

 

「そう。そうする事で、具、この場合はフルーツだな。フルーツの果糖がキャラメリゼとなって、おいしく出来上がるんだ」

 

キャラメリゼを知らない方は、「キャラメルが少し香ばしくなった物」と捉えてくれれば結構です。

 

ステラ、レミィはその説明で納得し、切り分けたパイを自分の皿に取り分けている。

しかし、パチェは一つ疑問に思った事があり、それをレヴァに問う事にした。

 

「だったら、果糖が多い、つまり甘い物の方がいいんじゃないの、そのキャラメリゼとやらも一杯出来そうだし」

 

「……んー」

 

少し、レヴァは考える。

一応答えは出ているが、比較的個人差の出やすい答えなので、説明するかどうか迷っているのだ。

この幻想郷内では、曲がりながりにもパイオニアなのだ、下手に答えると色々反感を受ける場合が……

いや、親友同士だから良いのか?

 

「……これには結構個人差が出るのだが、パチェは甘い物は好きだったか?」

 

「えぇ、でも、甘過ぎるのもちょっとね。程々が一番よ」

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