幻想郷でパン屋、始めました。   作:命麗 命

14 / 16
紅い館にて。【後編】

「そう、甘過ぎるのも駄目なんだ。甘いリンゴを使うとどうしても甘過ぎてしまう。だからこうして酸味のあるリンゴを使うんだ」

 

ちなみに、ジャム等も同じふうに説明ができる。

あれらは保存の為に砂糖を大量に使う。用語では糖蔵という。

そのせいで、非常に甘味の強い物となる場合が多い。ジャムの元となるフルーツが甘ければ尚の事。

それで、酸味のある物を使う。

 

「あら、私は甘い方が好きよ?」

 

「……わたしも」

 

「まあ、そういう人……まあ、今回は妖怪だが、別に極端に甘い物が好きならばそうするといい。そんな事より、さあ、食べようか」

 

そういうと、皆が椅子に座る。

そして、声を揃え、ある言葉を言った……訳ではない。

 

これは文化的な問題なのだが、日本のような、食べる前に『いただきます』のような掛け声を言う国はあまりないらしいのだ。

よくテレビで出てくる外国の家族が『いただきます』のような掛け声をしている様子はあまり思い浮かばないだろう?

つまり、そういうことだ。

 

「……おいしそう」

 

「ステラ、今日は君の為に作ったんだ、遠慮せず食べるといい」

 

言われずとも、と言った感じで、ステラはアップルパイにフォークを差す。

パリパリと、外側の皮が崩れる音が心地良い。

そして、中からは金の様に光るリンゴが見える。

トロリと液が垂れ、皮に染みてゆく。

先程とは少し変わった匂いが漂ってきた。

恐らくシナモンの香りだろう、食欲をそそる。

 

「あら、シナモンの香りね、前までは嫌っていたのに」

 

「慣れさ」

 

レミィの言動からするに、レヴァはシナモンは得意では無かったようだ。

 

「……んむ」

 

ステラはアップルパイを口に運ぶ。

熱くて食べれない程の熱さではなく、ほかほかの丁度良い温度だった。

レヴァが気を掛けてくれたのだろうか。

 

程よい甘味が口を包み込む。

外側のサクサクとした皮と、中のトロトロとした林檎のソースが混じり合い、心地良い感覚に浸る。

林檎はまだ形を保っている物もあり、噛むと、ジュワリと果汁が溢れ出てくる。

これぞまさに、至高。

 

しかし、何か腑に落ちない。

確かにこれはとてつもなく美味しい。

けれど、何故か楽しい気分にはなれないような感覚だ。

何故だろうか。

 

「どうだ?上手く焼けたとは思うが……」

 

「……はい、とても美味しいです」

 

「えぇ、また腕を上げたわね」

 

「……」

 

パチェが何故か喋らない。

 

「どうした?パチェ」

 

「……喋ったら、余韻が抜けるじゃない」

 

どうやら、黙る程の美味しさという事らしい。

レヴァは嬉しそうな顔で、「ありがとう」と答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は普通に、他愛もない話に花を咲かせ、下らない事に笑みを見せ、しょうもない出来事を語り合って一日を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、ステラは疑問だった。

何故、あの時、楽しい気分になれなかったのか。

なぜ、あの時、三人は哀しそうな眼をしたのか。

なぜ、レミィはあそこまで過敏に反応したのか。

 

疑問はまだまだあるが、今回は忘れよう。

何せ、彼女には仲間が増えた。

十数年間、ずっと孤独だった彼女には、こんなにも友達ができた。

慕える者もできた。

 

 

 

今回は、それで終わらせようではないか。

 

 

 

 

 

悲しい話など、果たして伝える意味はあるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

そう、私の、『イント・レヴァイナット』の過去など………




次回から数話の間、レヴァさんの過去編が続きます。

さて、レヴァさんの変わり様を見た時の皆様の反応が楽しみだ......

p.s.ちょっと過去編が面倒になったので止めます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。