冬。
雲一つなく透き通った、金属のような冷たさを感じる早朝の空の上でのことだ。目のいい人ならば、この瞬間に上空を見上げればもしかすると、一筋の小さな飛行機雲を目視することができたかもしれない。
「だだだだ大丈夫なのかしらこれ! いろんな人から見られてたりしない!?」
「隠蔽術式は貼ってあるから大丈夫なはずさね! そうでなくともおれたちゃ富士より遥かに高い空の上さ! こんな平野からいくら見上げたってそれだけじゃ誰も気付きゃしないんじゃないかね!」
魔術によって空気に溶け込み、その姿を目で確認することは出来ない。しかし、箒にまたがり音速一歩手前の速度で飛行する二つの影が、確かにそこにはあった。
片方は、鮮やかな和装で身を包み、艶やかな黒髪を複数の花の髪飾りで纏めた日本人女性だ。大人の女性らしい、落ち着きつつも華やかな衣装に似合う整った顔立ちをしているが、大きなつり目は、何処か少年らしさを見た人に思わせる。
片方は、黒髪の和服美人とは打って変わって、金髪碧眼の西洋風少女だった。リボンをふんだんにあしらった黒のプリーツスカートが子供っぽい印象を際立たせるが、よく見るとその風貌は12歳という年齢の割には大人びている。
そんな異色の二人が、何故か関東地方の地上10000メートル上空を、まるで何かから逃げるかのように大慌てで飛行していた。
「こ……こんな状態で撃墜術式なんて浴びたら、私達どうなってしまうのかしら……」
「そりゃおまえ、仲良く地面に落っこちてからUターンしてそのまま天に召されちまうだろうさ」
「………………きゅう」
「おおおい!!? こんなところで気を失ったら危ねえよ! しっかりしろぃ!」
近代西洋魔術において飛行術式はとても脆い。術式は確立されているが、撃墜術式も確立され過ぎていて高高度の飛行が自殺行為になってしまうためだ。現代で飛行魔術を行使するには、それなりの対策と度胸を必要とすることになる。
「逆に言えば、「そんな馬鹿なことをまさかするはず無いだろう」って敵さんに思ってもらえれば御の字ってわけだ。
「ああああ、あと、3マイルとちょっとくらいだわ!」
「ならもう着いたも同然! 着陸準備に入らぁ!」
『
日本人女性が箒の柄を下に向けようとしたその瞬間、二人が最も聞きたくなかった声が、二人の脳内に直接響いた。
「しま…………っ!」
「そんな……!」
二人が何かを言う前に、空飛ぶ箒は突如として制御を失い、重力加速度と慣性に任せて墜落し始める。
「きゃああああああああ! し……死んじゃう! 私の人生は今日ここまでなのね!? ああ……。今まで有り難うお栄さん……。こんな私に付き合ってくれて……。できることなら天国でまた会いましょう」
「滅多なこと言うもんじゃねえ
「墜落しながら!? 着地はどうするの!?」
「そんなもん、墜落しながら考えてるんでぇ! 行くぞあびぃ!」
「ひえええええええ! イグナ! イグナ トゥフルトゥ クンガ!」
「そんな物騒な
日本人女性は、大きな筆の形をした魔術霊装を取り出すと、空中に筆を走らせる。走らせた筆はみるみるうちに絵画として宙に描き出され、巨大な鳳凰の形で実体化した。
「わあ! 鮮やかな鳥さん! これで飛んでいくのね!」
「期待させて悪いけど撃墜術式食らっちまった以上飛行はもう無理だ。これは墜落を滑空に変えただけ。制御は最低限しかできないのさ。だからあびぃ、着陸までの道は何とかしてくれ」
「わかったわ! まかせて!
「いや、だからそんな物騒な……。まァ、いいか! そのまま行っちまえあびぃ! 今はもう邪神でも何でも頼める神サマには何でも頼んじまえ!」
騒がしい二人の問答を直接目で捉えられる者はいない。日本人女性があらかじめ貼っていた隠蔽術式は人や機械の認識を狂わせまともに視認出来ないようにするものだ。魔術の素養のない一般人にはどんなに目を凝らしても二人の姿も声も認識できない。
そのまま、二人は誰にも認識されないまま空を滑空し、人知れず地上へと不時着する。
不時着先は、────―学園都市。
科学と機械の街に、今日も異物が紛れ込む。
それも、とびきり異質で、とびきり悪質な異物が。
それは偶然か、はたまた必然か。
何れにせよ、混沌と狂気が、激動する学園都市を飲み込もうとしていた。
現状報告
???? :学園都市に潜入。
?????:学園都市に潜入。
???:学園都市に潜入。
あとがき
とあるシリーズにクトゥルー系魔術結社が既に存在するどころかルルイエが一度浮上してるってマ?