新約 とある魔術の禁書目録 12.5   作:N-SUGAR

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ややこしくなってきた。


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 12月に入って二日目。大分日の出も遅くなってきたが流石に八時を回れば太陽もそこそこの高さまで昇ってくる。学園都市の大半の学生が通学路を歩くこの時間、その大半の学生と同じく高校に通うべき身分であるはずの土御門元春は、しかし自分の通学学区から大きく外れた場所で携帯の時計を確認していた。

 

「……そろそろ来てもいいはずなんだがな」

 

 科学サイドと魔術サイド、二つの世界を双方に相手取る多重スパイである土御門は、しばしば統括理事会からの命令で動かなければならないことがある。学園都市の暗部が解体されようと、彼のやることは変わらない。この日、統括理事会のエージェントとしての仕事で彼はそこにいた。それも、命令を下したのは統括理事長アレイスター=クロウリー本人である。

 

「魔術結社『カルデアスの灯』……か」

 

『カルデアスの灯』。それが、土御門がこの場で落ち合う予定の魔術結社だった。

 

 魔術結社『カルデアスの灯』は、本拠地不明、構成人数不明という秘密主義の側面を持ちながら、それなりに大きな知名度と勢力を保有している組織である。

 

 この魔術結社には特定の宗派による偏りがない。目的も独自路線を走っていて、他のどの魔術結社とも対立しない。唯一対立する要素があるとすれば、特定の宗派が無い故に、どの宗派の魔術師でも頓着なく引き入れているということくらいか。ただ性質上、基本的に、この魔術結社が通常他の組織に積極的に介入してくることはない。

 

 その『カルデアスの灯』が、今回わざわざイギリス清教を通じて学園都市にコンタクトを取ってきた。理由は、「学園都市内部に発生した聖杯級の魔力反応の調査・回収をするため」。

 

 魔術結社『カルデアスの灯』の主な活動は『聖杯探索』だ。さらに言えば、「聖杯」と呼ばれる魔術霊装を用いて、100年先の人類の未来、彼らの言うところの「人理」を保障することが、『カルデアスの灯』の目的であるとされている。

 

 人類の平和を守る、という話ではない。『カルデアスの灯』は戦争に介入しない。彼らはもっと大きな規模で、『人類史の存続』にのみ注力している。だから、どこで誰が何をしようと、それが人類の営みである限りはこの魔術結社はそれに介入しない。

 

 彼らは自身の目的達成の手段として「聖杯」を製造、使用する。そして、『カルデアスの灯』が勢力として有名かつ巨大たらしめたのも、この「聖杯」であった。

 

 十字教における聖杯は主に聖体拝領の儀式に使用する霊装であり、レプリカを使うとは言え使用される機会の多い魔術霊装だ。魔術用に限らず広く一般レベルで知れ渡っているため、聖杯の形をとった霊装は全世界に無数に存在する。

 

 しかし、『カルデアスの灯』が探索する「聖杯」とは十字教における聖杯ではなく、「聖杯伝説」に基づく聖杯だ。こちらの聖杯は十字教上の聖杯として登場するものの、十字教の聖杯とは明確に区別される。少なくとも十字教宗派の大半には同一のものとは認められていない。

 

『カルデアスの灯』の魔術師達はそこを逆手に取った。

 

 聖杯伝説の伝承に基づいた聖遺物としての聖杯を、彼らは「十字教と関係の無い独自の聖遺物である」という解釈に当て嵌め直すことで、ある意味、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼らは伝説上の聖杯と比類するレベルの魔力リソースを持った、オリジナルに近しいレプリカを各地から取り寄せ、彼ら独自の「聖杯製造法」を確立した。

 

『カルデアスの灯』が所持・製造している「聖杯」は、要するに魔力リソースの塊である。その役割は簡潔に言ってしまえば「魔力タンク」という一点でしかない。そして、単純な魔力タンクとして定義されている以上、この聖杯は新しい定義付けをしない限りどこの位相にも関係を持たない状態にある。

 

 この聖杯の特異性は、本来大規模の儀式場と人数を用意しなければ得られない魔力リソースを位相に左右されていない状態の純粋なエネルギーとして溜め込めるという点にある。魔術とは、基本的には特定の位相からこの世ならざる概念を取り込み発動するものであり、そのための魔力の性質は個々の位相、つまり宗派によって異なる。本来魔術を発動するためには、個人の生命力(マナ)からその魔術のためだけの魔力を精製し、使用しなければならない。そこをこの聖杯は、数が少ない上に使い捨てではあるものの、新しい定義付けをすることで宗派、位相、霊脈に関係なく、あらゆる魔術の発動リソースとして使用できるのだ。その効果はつまり「儀式の極小化」であり、『カルデアスの灯』の聖杯はその一点において、魔術師ならば誰もが無視できない万能の杯と成り得ていた。

 

 十字教からすれば「聖杯」とは主がその血肉の容れ物とした聖遺物ただ1つであり、それ以外の紛い物を聖杯とは認めていない。仮に『カルデアスの灯』が本物の聖杯を収集などしようものならば、十字教圏との全面戦争は不可避であろう。そこら辺を、『カルデアスの灯』は、「十字教の聖杯ではない」という事実そのものをブランドとし、その上で入手した魔力リソースとしてのレプリカの一部を、パイプを作った各十字教系勢力に分配することで賄賂とする等、政治的にも上手い立ち回りを見せている。

 

 故に、例えイギリス清教と言えども『カルデアスの灯』からの要請を完全に無視することはできなかったのだ。無視するには、聖杯という餌はあまりにも大きすぎる。『カルデアスの灯』は、その製造法の独占だけで魔術サイドの不干渉地帯を作り上げた近代西洋魔術界屈指の霊装製造結社なのだ。

 

 だからこそ、土御門にまで仕事が回って来る羽目になった。

 

 イギリス清教と学園都市のパイプ役として、『カルデアスの灯』から派遣されてくる魔術師を案内、監視するのが、今回の土御門の仕事内容だ。

 

『カルデアスの灯』が動いたという公式の記録は驚くほど少ない。それこそ、『聖杯探索』と称した魔力リソース集めが何件か確認されたくらいで、彼らが至上目的とする「人理の保障」のための活動が成されたという記録がどこにも存在しないのだ。

 

 そのため、「特に何をしでかすわけでもないから何をする組織なのかがいまいちわからない」というのが外から見た『カルデアスの灯』の印象であり、それ故今回のような特定の領分に踏み込んで来るような案件の場合、念のため監視が不可欠になるわけだ。

 

 イギリス清教側の思惑としては、世にも珍しい『カルデアスの灯』の活動内容を観察し、あわよくば聖杯製造の手掛かりを掴みたいという下心もあるだろう。

 

 面倒だが楽な仕事だ。と、思う。

 

 相手は今まで一度も自発的な荒事を起こしたことの無い魔術結社である。平穏無事であることに対する信頼度は高い。

 

 少なくとも、上手く運べば殺し合いには発展しない。

 

 土御門は、送られてきた魔術師のデータを改めて確認する。

 

 

 葛飾応為(かつしか おうい)

 

 

 アビゲイル=ウィリアムズ

 

 

 以上二名。

 

 

 前者は見たことも聞いたこともない魔術師だった。つまり、単純に無名なのか、それとも隠れた実力者なのか。いずれかを見極めるのは土御門の役割ということだ。要観察対象である。

 

 後者は『必要悪の教会(ネセサリウス)』の所蔵資料から身元を確認することができた。彼女は、いまから約三ヶ月ほど前に『必要悪の教会(ネセサリウス)』が壊滅させた魔術結社『目覚め待つ宵闇』の構成員だったのだ。正確には、『目覚め待つ宵闇』が壊滅する少し前に結社から逃亡し、以来行方不明になっていた構成員である。

 

 だから、今回の『カルデアスの灯』からの資料提供で始めて彼女の行方が掴めた形になる。

 

 資料では特に注目もされておらず、早々に調査が打ち切られていた人物だが、しかし彼女はどうもきな臭かった。

 

 そもそもとして、彼女の周囲の状況が怪しい。

 

 両親は3年前に死亡。叔父であり、元『目覚め待つ宵闇』の構成員であるランドルフ=カーターは一年前から行方不明。以降アビゲイルの身元引受人だったラウム=アーカムハウスも結社壊滅時に行方不明。結社内で唯一彼女と同年代だったラヴィニア=ウェイトリーもラウム=アーカムハウスと共に行方が分からなくなっている。結社の残党自体は他にも存在するが、完全に行方が分からなくなっているのは先程挙げた人間を除くと一人二人しかいない。残りの人間については全員死亡確認が取れていた。

 

 その上で、現在は全く別の魔術結社に所属している? 

 

 どういう経緯で? 

 

 何か思惑が絡んでいるのか? 

 

 わからない。

 

『目覚め待つ宵闇』がイギリスで起こした『分類不能(ブランクペーパー)』という霊装をめぐる事件は軽く世界規模の危険度を秘めていた。しかし、世界規模の危険度を誇る魔術事件なんてものは魔術世界では日常茶飯事だ。その事件そのものに関係なさそうな不審点にまで一々メスを突っ込んでいく人手は『必要悪の教会(ネセサリウス)』にはない。『目覚め待つ宵闇』は既にボスも主力部隊も全滅し完全崩壊しているため、調査が打ち切られるのも仕方がないとは言える。

 

 疑問に対する答えは、実際に見て判断するしかないか。土御門はそう結論付けて、ひとまず資料を閉じた。

 

 少なくとも初めから敵対するわけでもない。穏便に、平和裏に進めればいい。殺しの命令が入ってるわけでもないし、相手の目的もはっきりしている。その目的の正体も……こちらで完全に掌握している。自分の任務はこの魔術師達をアレイスターと繋げるまでだ。それ以降には関わりがない。だから最悪、疑問を解消する必要もない。

 

 どうなろうとも、知ったことではない。

 

 自分の周囲に、関わらなければ。

 

「しかし……遅いな。何かあったのか?」

 

 土御門が携帯の時計に目を戻すと、既に指定の時刻から30分近く経っている。いい加減姿を現してくれても良さそうなものだ。

 

 こんな仕事はさっさと終わらせたいというのに……。

 

 トラブルか、事故か不幸か。

 

 不幸……。

 

「いや、まさかな……」

 

 不幸という言葉に反応してつい思い浮かべてしまったが、あり得ない、とは言い切れないのが、彼の級友の悲しい性だった。何かしらのトラブルが有ったとき、まるで吸い寄せられるかのようにそこに居てしまうのが、土御門のクラスメイトにして親友の、ツンツン頭の高校生なのである。

 

「上やんはこの時間ならもう登校してる筈だし、いくらなんでもそんな突拍子もないことは……」

 

 ぶつぶつ呟いていると、ポケットに入れていた私用の携帯が震えた。

 

 嫌な予感と共に着信元を見ると、案の定な名前が表示されている。

 

 ごくり。と、唾をのみこんだ土御門が恐る恐る通話ボタンを押して耳に当てると、何やら騒がしい破砕音をBGMに聞きなれたクラスメイトの声が飛び込んでくる。

 

『助けて土御門! お前に用があるっていう魔術師がうちの窓を割っておじやにタコが────!』

 

 ブツッ……、と、音が切れる。プロを標榜する多重スパイが衝動で通話終了ボタンを押してしまった。

 

 なんでこうなる。

 

 上条当麻が関わる事件は円満に終わることが多いが、その代わり楽に終わった試しは一度もない。

 

 ただの案内と監視の筈だったのに……。普段通りなら比較的楽な仕事の筈だったのに……。

 

「不幸だぜい……」

 

 親友の口癖が、ついこぼれ出た。




現状報告

葛飾応為:学園都市潜入。

アビゲイル=ウィリアムズ:学園都市潜入。

???:学園都市潜入。

上条当麻:不幸。

オティヌス:???

土御門元春:不幸。



あとがき

つっちーこの時期何してるのかよくわかんないんだよね。次の日防犯オリエンテーションに参加してるのは分かるんだけど、裏ではもう『書庫(バンク)』とか探してるのかな?
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