新約 とある魔術の禁書目録 12.5   作:N-SUGAR

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とあるの魔術は本格的すぎてちょっとしたものでも一から作るのが大変で大変で…。参考資料が欲しい…。


3

 

 時間を少し戻そう。

 

 土御門にヘルプを掛けるまでの間に、ツンツン頭の高校生は一体何をしでかしてやがったのか。

 

 時は一時間ほど遡る。

 

 早朝に二度寝を決め込み、スッキリと目を覚ました上条がそのスッキリとした気分を持続させることができたのは起床五分後までだった。顔を水ですすいで歯を磨き、冷蔵庫を開けて漬け物だの梅干しだのしか入っていないことに気付き、仕方無いから朝は米をかっ込むスタイルで行くかと炊飯器を開けたら米が一人分も残ってなかった時点で、目覚めの爽快さは消え失せた。

 

「くっ……! 昨日外食するつもりで家を出たのに結局外食できなかったという悲劇がこんなところに響くとは……!!」

 

 己の計算違いを嘆くが、食材が無いという事実とインデックスの機嫌が直結しても上条の嘆きが考慮されることはない。

 

「んー……。おはようなんだよー。とうまー」

 

 そうこうしているうちに寝ぼけまなこの暴食シスターが目元を擦りながら起きてきた! 上条当麻に悩んでいる暇などない! 

 

「よし。めんつゆが余ってる。おじやにしよう」

 

「えー。またなのとうまー? 最近水っぽいごはんばっかで飽きてきたんだよ」

 

「贅沢言わないでインデックスさん! 大体のものは水分でふやかせば取り敢えず量が増えるんですよ!」

 

 鍋にめんつゆと水をぶちこんで火にかけながら、上条が言う。

 

「たまには味も楽しみたいかも!」

 

「味も!? 今、もしかしてインデックスさんたら量を妥協せずに味を上乗せで求めようとしていらっしゃいます!?」

 

「量を妥協したら意味がないんだよ?」

 

 日々食料事情に困窮する貧乏学生からしたらどうにもならないことを平然と口走るインデックスに、上条は肩を落とす。

 

 ただそうは言っても、まともな飯を食べたいのは上条とて同じだ。

 

 考えてみれば、1つだけ方法はあった。

 

「まあ、そうだな。オティヌスのドールハウスを買うはずだったお金が余ったから、夕飯はちょっと豪勢にしてみるか……」

 

「ほんと? やったー!」

 

「待て待て待て! 私はまだそいつを諦めてる訳じゃないぞ!?」

 

 会話がいきなり自分にとって良からぬ方向に転び始めているオティヌスが、上条の肩の上から待ったをかける。

 

「そんなこと言ったって、あのドールハウスはもう手に入らないんだよ? お金は使うためにあるんだから、別の使い道を探さないと」

 

「いいや! まだ買える筈だ! あちらも商売なのだから商品を売らない筈がない! 直売店が使えなくとも何かしらの……そうだ! ネットだ! ネット注文がある筈だ!」

 

「あー。なるほどネット注文か。普段使わないからそれは忘れてたな」

 

 天啓を得たオティヌスの発言に納得し始めた上条を見て、インデックスは慌てる。

 

「ねっと!? ねっとってなに!? そんな網で引いて引っ張りあげるみたいなので手に入れるつもりなの!?」

 

「ふはははははは! 勝ったな恒常空腹シスター! 文明音痴の情報弱者め! 今時10万3000冊なんて完全記憶能力無しでも幾らでも保存できるわ! 一ヶ所からしか出力できない情報端末など全人類共有情報化社会の波に溺れているがいい! そのお金は私の城に使わせてもらう!」

 

「あ、なんかもう売り切れてるっぽい」

 

 騒ぐ二人を尻目に携帯をポチポチしていた上条の呟きで、勝ち誇って胸を仰け反らせていたオティヌスは上条の肩から転げ落ちた。

 

「む! 何かわからないけど、勝った!」

 

「ぐああああ! これだからオーダーメイドを売りにした期間限定商品はああああ!」

 

 よく理解しないまま拳を挙げるシスターと、仰向けのままじたばた暴れる露出度の高い小人。そして沸騰した鍋に少ない米を放り込む高校生。

 

 それが、上条家における本日の夕飯が少し豪華になった瞬間の光景だった。

 

 とは言え、そんなこんなで出来上がった朝飯が貧相であることに変わりはない。薄めためんつゆでふやかして、梅干しと漬け物を添えただけのおじやともお粥とも似つかない、薄味なのに塩分だけは高そうな朝食は概ね不評なようだった。

 

「お米がふやけすぎてスッカスカなんだよ」

 

「猫の餌の方がまだ栄養価高いんじゃないか?」

 

「夕飯はちょっと豪勢にオードブル的なの買ってくるから今は勘弁してくださいお願いします!」

 

 二人からの辛辣かつ真っ当な評価を背負いながら、上条はほとんど汁しか入っていないおじやを啜る。

 

 その時だった。

 

「「うわああああああああああああああああ!!!」」

 

 バギャアアアアン!!! という、ガラスが割れる音とともに、目の前の食卓が吹き飛んだ。

 

 どんがらがっしゃ──ーん!!! と轟音をたてて部屋が一瞬にして滅茶苦茶になる。

 

 その瞬間に起こった全てが災厄でしかなかったが、それでもあえて幸いなことを見つけるなら、上条とインデックスはその時茶碗を持ち上げていたために、ただでさえ少ない朝飯を吹き飛ばされることがなかったことだろうか。

 

 不幸だったのはオティヌスだ。テーブルの上に乗って食べていたせいでそのテーブルと一緒に自分ごと全てが吹っ飛んだ。結果的に死ななかった事くらいしか幸運がないというのは実に哀れである。

 

 上条とインデックスの二人はあまりの事態に座って茶碗と箸を持った状態のまま硬直。オティヌスは瓦礫の山で完全に伸びてしまっていた。

 

「いててて……。くっそう! 後もうちょっとで着陸って所で攻撃してきやがって! 危うく死にかけるところだったじゃねえか畜生め! あびぃ! 生きてるか!?」

 

「ああ……お星さまが見える……。そう……そうなのね。宇宙とは……アルトリウムとは……」

 

「おおおおい! なんか変な悟り開きかけちゃってねえか!? それは良いことなのか悪いことなのか!?」

 

 呆然とする家主を他所に、ベランダから部屋に墜落してきた張本人達は動き出す。

 

 それだけではない。

 

「袋小路だな。そろそろ諦めてはどうかね。ミス・カツシカ」

 

 木っ端微塵に吹き飛ばされた窓の外、ベランダの柵の上に、今度は正体不明の三人目が降り立った。

 

「くっ……! そう簡単にはいそうですかって諦められるかってんだ! おいあびぃ早く目を覚ませ! こうなりゃ徹底抗戦だ!」

 

「ううん……。いあ、いあ、よぐそとーす……」

 

 着物姿の日本人女性葛飾応為が、西洋風少女アビゲイル=ウィリアムズの頬を叩くが、アビゲイルは呻き声をあげるばかりで目を覚ます様子はない。

 

 アビゲイルを起こすことを諦めた葛飾は、ベランダの男に向き直り自身の身長ほどもある大きな筆を構える。

 

 まずい。と、葛飾は自分の現状を確認して呟いた。狭い室内に誘導されたこともそうだが、よりによって関係の無い一般人を巻き込んでしまった。葛飾の使用する術式は広い範囲に効果を及ぼすものばかりだ。このまま戦闘を始めてしまえば確実に一般市民を傷つけてしまう。

 

 それは、『カルデアスの灯』の信条に反することだ。

 

「そこの兄ちゃん達! 頼むから逃げてくれ! ここは危ない!」

 

 だから葛飾はそう言って、上条達を逃がそうとする。それが、致命的な隙になると分かっていても。

 

 男が動く。

 

「鉄のカラスよ。守護惑星たる火星の導きに従い、都市に破壊を齎せ」

 

 男がカラスの姿を模した柄の、鉄製の杖を葛飾に向けると、その瞬間赤い閃光が放たれる。

 

「────―っ!!!」

 

 葛飾は咄嗟に筆を盾にするが、そんなもので防げる魔術でないことは明らかだった。

 

 葛飾は己の死を覚悟し、咄嗟に目を瞑ってしまう。

 

 一秒、二秒、三秒……。

 

「…………あり?」

 

 しかし、何時まで経っても閃光が葛飾を襲うことはなかった。

 

 恐る恐る薄目を開けると、自分の目の前に誰かの右手が、遮るように差し出されていた。

 

 先程避難を促した、ツンツン頭の一般人少年の右手だ。

 

「貴様……何者だ……」

 

 男が少年の方に向き直る。葛飾も、目の前の少年の起こした行動に呆気に取られる。

 

「何者だはこっちの台詞だよ。あんたらこそなんなんだ? 人の一家団欒をぶち壊しやがって」

 

 ツンツン頭の少年──―上条当麻は、そう言いながら右手に握り拳を作る。

 

 ただそれだけの行為の筈なのに、まるでナイフを首筋に突き付けられたかのような悪寒を葛飾は覚えた。

 

「貴様……舐めているのか。私の術式に何をしたのか知らんが、偶然で調子に乗るなよ。我が目標はそこのウルム・アト=タウィルのみだ。邪魔する者は皆死ね! 鉄のカラスよ! 敵対者の宝を簒奪せよ!」

 

 鉄カラスの杖の男は再び杖を振りかぶり、赤い閃光を放つ。しかし、その閃光は上条が前に突き出した右手によって打ち消された。

 

「何故だ!? その右手は一体何だというのだ!!」

 

 男が一歩後ずさる。その躊躇は、上条の前では致命的だ。上条はその隙を逃さず大きく踏み込み、一瞬にして男の懐へと飛び込む。

 

「とうま! 杖のカラスを狙って!」

 

「わかってる!」

 

 横合いから飛ぶ少女の言葉に応えると、上条はそのまま拳を振り抜き、鉄カラスの杖ごと男の顔面を右手で殴り付けた。

 

 バギコバメリベシャッ!! と、嫌な音をたてながら、杖はバラバラに砕け散り、男はベランダから投げ出される。

 

「ぐっ…………! ぬうううううう!!! 照応する鉄よ! 守護惑星たる火星の導きと土の属性を持って、我が身に簒奪の為の黒翼を!」

 

 自由落下する男がローブから鉄片と土を撒き散らすと、鉄片が宙を舞い、そこに土がより集まって一つ一つが鴉の羽へと変化する。そして、漆黒の羽は男の背に集まって翼を形作った。

 

 男はそのまま漆黒の翼を広げ、宙を滑空しながらビルの狭間へと消えていく。

 

「逃げた……のか?」

 

「そうみたい。今のままじゃとうまに勝てないと思ったのかも」

 

 少年と少女がベランダで会話する後ろ姿を見ながら、葛飾はあまりの驚愕に茫然自失していた。

 

「『幻想殺し(イマジンブレイカー)』……。あらゆる魔術を打ち消す異能が学園都市にあるって話は……本当のことだったのかい……」

 

 腰が抜けてへたりこんだ葛飾に、少年と少女が歩み寄る。

 

「で? あんたらは一体何なんだ?」

 

 上条当麻は、茫然自失の葛飾応為に右手を差し伸べた。

 

 何時ものように。




現状報告

葛飾応為:『幻想殺し(イマジンブレイカー)』と接触。

アビゲイル=ウィリアムズ:気絶。

???:一時撤退。

上条当麻:敵性魔術師を撃退。『カルデアスの灯』の魔術師と接触。

オティヌス:気絶。

インデックス:上条当麻と協力し、敵性魔術師を撃退。『カルデアスの灯』の魔術師と接触。

土御門元春:待機。



あとがき

上条当麻が今さら何の対策もしてこないそこら辺の魔術師に苦戦するはずがないんだよなあ。
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