ロリコン探偵少女? 六伏コラン   作:小名掘 天牙

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美術室のレオナルド 上

 此処、第一旧東京は、既に都市としての寿命を終えた、少しずつ斜陽に向かう、そんな旧都市だ。二十年くらい前には横浜と呼ばれ、其れなりに観光客で賑わっていたはずのこの都市も、人口の急激な減少と共に、今では見る影もなく、半分人が居ない巨大ビル群が立ち並んでいる。そんな寂れたビル群の一角、ワンフロアの端にある、この幽霊マンション唯一の人が居る一室が僕の今の職場だった。

 

「……」

 

チーンと鳴ったエレベーターのチャイムに、ぎぎっと開く立て付けの悪い自動ドア。暗い廊下には何時も通り、積もった埃と少しカビの臭いが漂っている。

 

「……」

 

そんな廊下を渡りきり、エレベーターから一番遠い、西向きの部屋に辿り着く。表札には無駄にピンクの丸文字で、「六伏(りくふし)コラン探偵事務所♥」と書かれている。何時見ても痛々しいそれも、流石に一年以上目にしていると、見飽きはしないが慣れはする訳で。特にそれに感想を抱くこともなく、僕はその上のチャイムを押した。

 カシャッと軋んだ音を立てるスイッチに、しかし、部屋の扉はしーんとしていて、一向に誰かが出てくる気配はなかった。まあ、それも何時ものことなので、僕は躊躇無くな部屋に上がることにした。

 

「……」

 

錆の浮いた既製品らしいドアを開くと、早朝にも関わらず真っ暗な廊下が口を開く。勿論、幾ら西向きの部屋とはいえ、窓の付いた室内がこうまで暗い訳もない。じゃあ、何が光を遮ってるのかといえば、

 

「所長、また増やしたのか……」

 

廊下の約半分を占拠した、大量のエロ同人誌に他ならなかった。しかも、一つ残らず幼女系。端的に言ってド変態のそれである。本人がロリコンを公言しているのもあって、ある意味キャラには忠実なのかもしれないが……。

 休日前より明らかに増えた同人誌の山に四苦八苦しながら、体を横にして廊下を進むと、

 

―ん……んぅ♥―

 

奥からくぐもった、声とどすどすと何かを叩き付けるような音がうっすらと聞こえてきた。

 

「……」

 

一瞬、心が折れそうになるが、何とか自分を奮い立たせて先に進む。次第に大きくなる喘ぎ声と、明らかに速くなるドスドスのテンポ。やがて、エロマンガに溢れ返った廊下の突き当たりの一室の前に立つ頃には喘ぎ声は絶叫となって、ドスンドスンはドドドドドくらいになっていた。

 

「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

部屋の扉には「ラブリーエンジェル・コランちゃん♥」と書かれた♥型の表札。此処が僕の雇い主の部屋なのだと思うと……まあ、うん。

 とはいえ、何時までも立ち尽くしてはいられないわけで。僕は―何で、職場に着く度にこんな決心をしなければいけないのかという根本的な疑問から目を背けて―気合いを入れて、喘ぎ声の五月蝿い部屋の扉を開けることにした。

 

「みおたん♥みおたん♥みおたん♥とってもラブリーだよ僕のみおたん♥桃色のふかふかほっぺも、一寸背伸びしたさくらんぼの唇も、ぺったんこで手のひらサイズおっぱいも可愛いね! ぷっくりしちゃった乳首も、とろっとろになっちゃったてるつるのあそこも、意外とむっちりした太腿も、もう立派に大人の女の子だね! 最高だ!! 触りたい! しゃぶりたい! 舐め回したい! 植え付けたい!!! ていうか、植え付けるね! もう、大人の女の子なんだから良いよね! 背伸びして大人ぶっちゃって後悔してるのかな!? でも、植え付けるね!!♥ みおたん♥みおたん♥みおたん♥僕のみおたん♥産んで! 僕の! 赤ちゃんを! 産めええええええええ!!!♥♥♥」

 

「う わ あ」

 

地獄の釜を開いた瞬間、僕は後悔した。

 

左右の壁に聳え立つロリ系のエロ同人誌とディスクの数々

 

エロゲの抜きシーンをぼんやりと映し出す液晶画面

 

パソコンから延びたイヤホンコードを耳に、組み敷いたダ○チワイフの上で一心不乱に腰を打ち付ける半裸の……少女(・・)

 

電気一つ点いていない薄暗い部屋の中で繰り広げられた地獄絵図に、僕は思わず天を仰いだ。しかし、この薄暗い廊下の天井は、悲しいかな僕の職場、六伏探偵事務所のものに他ならないのだった。

 

「んほおおおおおおおおおお!!!!!!!!♥♥♥♥」

 

「……」

 

やがて、ぐりっとダッ○ワイフに腰を捩じ込み、絶叫を上げた銀髪の少女は、ビクビクッと痙攣した末に、べしゃりとそれの上にへばり付いた。そのふるふると震える白い小さな尻をひっぱたいて出社を告げると、「ひゃんっ!?♥」という、無駄にピンクの艶っぽい悲鳴が帰ってきたのだった。

 

「いたたたた。至くんかい?」

 

「ええ。おはようございます、所長」

 

「ああ、おはよう。時に至くん」

 

「何ですか?」

 

「僕のちっちゃなおしりはタイムカードのボタンじゃないんだぜ?」

 

「じゃあ、チャイムの時点で僕の存在に気付いて、オナニーを止めてください」

 

初めて見たとき、どれだけ仰天したことか……。

 

「僕に死ねっていうのかい! 至くんは!?」

 

「オナニーしないと死ぬのか、あんたは」

 

「ひどいー。所長ぎゃくたいだー」と万年床を転げ回る所長に思わず突っ込む。どういう生態してるんだ。いや、普通に考えれば、そんな生態は有り得ないのだが、この所長の場合そんな、トンデモ生態が有り得なくもないのが始末に悪い。

 

「ロリコンは美少女をおかずに一日三回、ちゃんとオナニーしないと体に変調をきたすんだ。百年以上ロリコンをしている僕が言うんだ、間違いない」

 

「左様で」

 

今回はどうやら唯の妄言の方だったらしい。というか、こんな耳が腐る類いの犯罪者の主張が、その情欲を向けられるはずの、腐っても美少女の口から出てくるのはどういうことなのか……。いや、まあ、僕自身はこの見た目だけは美少女の正体を知っている訳なんだけどさ。

 

「頭が痛くなってきた」

 

「おや? 大丈夫かい、至くん?」

 

「十中八九、所長のせいなので、治ることはないと思います」

 

「僕の大きなおっぱいで、パフパフしてあげようか? 本当なら美少女専用なんだけど、信頼すべき僕の片腕たる至くんのため、此れも我が六伏探偵事務所の福利厚生の一貫だ。遠慮なく患部を見せたまえ!」

 

そう言って、体格にそぐわないおっぱいをぶるんっ♥と張って、小さな両手を一杯に伸ばす所長。なんて言うか、うん。本当に、

 

(正体があれ(・・)じゃなけりゃね……)

 

思わず、また天を仰ぎながら、僕はそんな埒もないことを考えていた。

 

「まあ、取り敢えず、朝御飯にしましょう。まだ、食べてないんですよね?」

 

「ああ。一晩中、みおたんとエッチしていたからね」

 

「……」

 

聞いてねえ……。

 

「オナニー分だけじゃ栄養も片寄るし、ちゃんと経口摂取もしないとね♥」

 

「……」

 

オナニーは栄養ではないとは言うまい。言っても無駄そうだし。眉間を押さえる僕の前で、大きなおっぱいに引っ掛かったYESロリータ!NOタッチ!と書かれたTシャツを引き下ろし、うっすらと肋の浮いた華奢な身体と、不自然に大きなおっぱいを隠した所長を背に、僕は探偵事務所とは名ばかりのロリコンハウスのキッチンに足を向ける。と、

 

「それに」

 

不意に所長が呟いた。

 

「?」

 

思わず振り返った僕に、所長は悪戯っぽい空気を満面に乗せた笑みを浮かべてきた。

 

「何か適当に摘まんでも良いんだけど、どうせなら美味しいものを食べたい……そう思うのは普通だろう?」

 

「……」

 

「……」

 

「……さよで」

 

「ああ」

 

何故か自信満々に頷く所長。

 

「至くんの用意してくれるご飯を僕は心待にしているからね」

 

「……」

 

本当に、大したものじゃない……とは思うものの、そこまで期待されるのは悪い気分ではない。

 

「……」

 

幾分軽くなった足で、僕は今度こそキッチンに向かった。

 

「因みに至くん」

 

「? 何ですか?」

 

「今日の献立は何だい?」

 

「肉野菜炒め以上の何を期待してるんですか」

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「ん〜♥♥♥」

 

 先の魔の部屋からうって変わ……ってないね、うん。

 さっきの部屋と同じく、ロリコン御用達のエロ漫画犇めくキッチンの、同じくロリキャラの描かれたテーブルの前で、所長が満面の笑みを浮かべていた。

 

「いやあ、美味しい。やっぱり、至くんの作ってくれるごはんは最高だね♪」

 

「いや、どう考えても、そんな高尚な物じゃないでしょ」

 

それこそ、The男の雑料理だ。一応、本人曰く相当な資産家の所長に美味いと思われる代物ではないと思う。

 

「ちっちっち、そうじゃないんだなあ」

 

「?」

 

なんか、思わせぶりに人差し指を立てて、そんな事を言ってきた。

 

「確かに、外食なら御金に糸目をつけずに美味しいものを食べられるけどさ、逆にこういう家庭料理を外で食べる事は不可能だからねえ」

 

まあ、家庭料理は家庭でしか出てこないからね。お金取れる代物ではないとも言う。箸を弄びながらそんな事を口にする所長が「それに」と続けた。

 

「至くんは僕の正体(・・)を知っているだろう?」

 

「あー、まあ」

 

流れるような腰までの、ほつれ一つないストレートな銀髪

 

少女にしてはやや鋭い、じとっとした目

 

ニイィッと持ち上げられた桜色の唇

 

華奢な体躯を含め、端的に言って美少女と言って良い所長は、実の所、その中身は見た目とは裏腹に全くの別の姿をしている。

 

「味覚の好みの方は、今の身体になってからも当然変わらなくてね。僕も御多分に漏れず、こういうThe男料理な味付けに目が無いのさ」

 

そう言って、にこっと、それこそ正体とは正反対のそんな笑みを浮かべてきた。

 

「……」

 

うん、正体を知っているとはいえ、こういう事があると時々そっちの方を疑ってしまう事がある。

 

「だから、至くんの料理が最高というのは、この僕、六伏コランの偽らざる本音という訳さ♪」

 

「……さよで」

 

少し面映ゆい気分になりながら、椅子に掛けておいたエプロン―例によって少女が描かれている―を着直した。

 

「そういう訳で……ごちそうさまでした♪」

 

「ん。お粗末様でした」

 

まあ、喜んでくれるなら良いかな。

 

「……」

 

「? どうかしましたか?」

 

「いやね」

 

ふと、両手を合わせた所長が、何か真剣な顔になって形の良い顎に手を当てた。

 

「今の僕、控えめに言って、超美少女じゃなかったかい?」

 

「……」

 

うん、まあ、こういう人だから、一々真に受けても仕方ないか。僕は虚脱感と共に空になった所長の食器をシンクへと運ぶのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 所長への餌やりを終えて食器を洗っていると、後ろで魔法少女りりかるサクラを見ていた所長が、不意に「おや?」と首を傾げた。

 

「どうかしましたか?」

 

「ん。どうやら、依頼が来たらしいね」

 

「え、本当ですか?」

 

「ああ」

 

実に四か月ぶり、僕がこの探偵事務所に就職してから通算で僅か5度目のフレーズに、僕は思わず大皿を持った手を止めた。

 

「場所は……第一旧東京の自然公園だね」

 

所長がパチンと指を鳴らすと、中空にぼんやりと水盆の様な物が浮かび上がり、その中には安っぽいカラーベンチに座り一人の女の子の姿があった。赤いランドセルを背負った、可愛らしくも一見何処にでもいる女の子だが、その表情は何処か不安げで、それ以上に不審げに見えた。

 

「彼女ですか?」

 

「ああ、そうみたいだ」

 

頷いた所長が、テレビの方を一時停止する。

 

「今時珍しい、黒のストレートロングに赤いランドセルが実にストロングスタイルで印象的な娘だねえ。それに髪型の割に意外と勝気な性格と見た。将来はア○ルの弱い美女に育つかもしれないね。素晴らしい。ミニスカートから覗くおみ足がすばら……あ、もうちょっと! もうちょっとだけ両足を開いて!!」

 

「うん、この野郎」

 

身を乗り出した所長は、今日も安定の馬鹿だった。

 暫くふんすふんすと鼻息荒くベンチの女の子を見ていた所長だったが、やがて彼女が水盆の中から立ち去ると、漸く「さて」と立ち上がってほっそりとした指の手をパンと鳴らした。

 

「それじゃあ、四か月ぶりのお仕事といこうか? 助手の至くん」

 

「はいはい」

 

「はいは一回だよ、ワトソン君?」

 

「ワトソンじゃねーよ」

 

そして、ロリコンのホームズが居て堪るか。

 

「じゃあ、コラアアアアアン、ディスガアアアアアアアイズ!!」

 

「……」

 

所長がYESロリータ!NOタッチ!のTシャツを脱ぎ捨てて、真っ裸になる。そして、あからさまに古臭い上に、明らかに少女の求めるフレーズとはかけ離れた変身のキーワードと共に緑色の光に包まれた。というか、眩しい。僕は投げ捨てられたTシャツを回収し、奥の部屋の洗濯機に放り込んだ。

 

「よし、出発だ!」

 

振り返ると、緑色中心のフリル満載のドレスに身を包んだ所長が、右手の人差し指で大判のポスターの貼られた天井を指さしていた。

 

「美少女の悩みを解決するために!」

 

「……はぁ」

 

うん、もう、諦めた。

 萎える僕の気持ちを綺麗に置き去りにして、

 

「コランワープ!」

 

僕は所長に手を引かれるまま、緑色の光のゲートに包まれたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 家路をとぼとぼと歩きながら、雪村要は溜息を吐いた。

 

(無駄な事をしちゃったな……)

 

登校の途中、態々寄り道をして要が試したのは、今学校で一寸だけ流行っている、ある一つの噂だった。

 

 

―町に落ちているりりかるサクラの付箋に名前と『たすけて』の四文字を書き込んで、流したばかりの涙を落とすと、名探偵が現れて、その女の子のどんな悩みでも解決してくれる―

 

 

怪しさ以前に、信憑性が疑わしい。下手をすれば怪しい男の人が出てくるのかもしれない。小学生の要ですらそう思ってしまう噂に、しかし、要は思わず縋ってしまう程に追い詰められていた。それこそ、解決してくれるなら怪しい噂話でも構わない。そう思って試してしまった結果は……付箋を探すための時間が無駄になっただけだった。

 

「……」

 

自分の馬鹿さ加減に、少女らしからぬ自嘲を浮かべながら要が歩いていると、不意に目の前に人の気配を感じた。

 

「あ……」

 

ぶつかる。そう思った瞬間、要に訪れたのは顔を覆うぱふっとした柔らかい感触と甘い匂い。そして、

 

「溜息ばかりだと幸せが逃げちゃうぜ? セニョリータ」

 

悪戯っぽい、自分と同じくらいの年齢の、だけど、不思議と落ち着きのある、そんな声だった。顔を上げた先に居たのは、心の底から楽しそうに、そして嬉しそうに笑う、今まで見たことのないくらい奇麗な女の子と、

 

「……」

 

ぼんやりと何処か遠くを眺めている冴えない顔の男の人だった。

 

「待たせてごめんね? 僕の名前はコラン。六伏(りくふし)コラン! 彼は僕の助手で相棒の鈴笛至くんだ。僕達、六伏探偵事務所が来たからにはもう大丈夫。君の心を助けて差し上げよう♪」

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 何時までも抱き寄せた小学生を離さない所長を引き摺り、一先ず近くの喫茶店に腰を落ち着ける事にした。

 

「……」

 

僕達が入店した瞬間、不意にしんとなる喫茶店も何時もの事(・・・・・)。取り合えず、コーヒーを三つ頼むと、後は所長に任せることにする。と、言ってもその所長の方は四か月ぶりの美少女との会話が嬉しかったのか、彼女を抱きしめたまま立て板に水とばかりに話し通しになっている。っていうか、思いっきりドン引きされているように見えるんだけど……。

 

「あ、あの!!」

 

あ、キレられた。

 止め処なく纏わり付く所長を押し退け、目の前の女の子が声を荒げた。まあ、当然だね。

 

「貴方が、女の子を悩みを何でも解決してくれるっていう探偵さんですか!?」

 

「ん?」

 

バンッとテーブルに手を突いた彼女の視線は何故か……でもなく当然の様に、隣の所長ではなく僕の方へと向けられていた。まあ、此れも、何時ものパターンか。

 その視線に浮かんでいるのは不審半分、疑心半分、そしてほんの少しの希望といった様子で、目の前の女の子が雰囲気以上に余裕がない状態なのが見て取れた。女の子の依頼だけを受けるなんて、字面を見たら、変質者か何かの誘拐のための文句にしか見えないだろうしね。まあ、いいや、この質問に対する僕の

答えは何時も一つしかない。

 

「いえ、違います」

 

「え?」

 

「先程もうちの所長が申しました通り、僕はただの助手です。主幹はそっちの」

 

「オッス、オラコラン!」

 

「所長のコランになります」

 

「……」

 

僕の言葉に、目を丸くしたままの彼女がギギギと油の切れたブリキ人形の様に所長を振り返り、そしてもう一度僕とを見比べた。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「え、これが?」

 

長い沈黙の末に彼女が搾り出したのは、此れまで毎回耳にしてきた疑問符だった。『この子』ではなく『これ』というのが彼女の所長に対する認識を如実に表している。

 

「ええ」

 

とはいえ、僕としてはそう答えるしかないわけで。

 

「んむ?」

 

気付かれないように少女の体臭を嗅ぎ続けていたバカ(所長)が顔を上げると、目の前の女の子は何か信じられないものを見る目で、そのバカの頬をムニムニと引っ張った。まあ、そういう反応になるよね。

 

「信じられません」

 

頬を引っ張られる度に「あ♥ やんっ♥」と嬉しそうにアレな声を上げていた所長を一頻り弄った後、手を離した少女は真顔でそう言い切った。さもありなん。揶揄われたと思ったのか、小さな体に少なからず怒気を浮かべる姿に、僕としては同意を返すしかない。

 

「まあ、でしょうね」

 

多分、僕でも信じないし。

 

「ですが、僕としては、自分が考える限り真実を口にするしかありません」

 

「……」

 

「僕はあくまで助手です。そして、その隣に居る六伏コラン、当事務所の所長は本心から貴女の依頼を叶えたいと考えております」

 

「……」

 

「信じるかどうかはお任せ致します」と何時も通りの言葉を続けると、挑みかかる様にこっちを睨みつけてくる少女から目を逸らすことにした。

 

「安心したまえ、雪村要くん(・・・・・)

 

ここから先は所長の仕事だ。

 

「!」

 

唐突に名前を呼ばれて驚いたのだろう。仕方ないと言えば仕方ない。

 

「君の親友、石水無月ありさちゃんの事は、この僕六伏コランに任せてくれたまえ。必ず、失踪した彼女の事を探し出して見せよう」

 

「え、な、何で????」

 

自分の名前を呼ばれた事か、それとも親友の事か、はたまたその両方か。

 

「そうだね、種明かしも兼ねて、改めて名乗らせてもらおうか」

 

芝居掛った仕草で所長がお得意のチェシャ猫の様な笑みを浮かべた。

 

「六伏探偵事務所の所長を務めている、六伏コランという。世界の美少女を護るために戦う……探偵兼大魔法使いだ!」

 

普通に生きていれば噴飯物の、しかし、僕と彼からすれば動かしようのない、単なる真実。

 

「……」

 

それを目の当たりにした少女は、聊かの思考停止の中でこくりと小さく頷いたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 一度冷めてしまったコーヒーを下げてもらい、温かいものを頼み直すと、未だ半信半疑ながら、話をする体勢にはなった雪村ちゃんの訝しげな表情を伺う。

 

「……」

 

さっきの、挑みかかるような僕への意識は綺麗に無くなり、代わりに所長への強い迷いが浮かんでいる。

 

「さて、それじゃあ、話を聞かせてもらおうかな? 何、慌てることはない。多少つっかえても僕なら君の言葉は余さず拾えるとも。この僕、六伏コランが君みたいな美少女の言葉を聞き溢し、思いを汲み取り間違えるなど決して有り得ないからね! そもそも、僕は他人の心を読めるしね。何故? 勿論、魔法使いだからさ! え? じゃあなんで、わざわざ言葉を喋らせるのかだって? そんなもの決まっているじゃないか。君みたいな美少女の声こそが、僕の生きる力になるからさ!」

 

「……」

 

どう見ても逆効果だけど、まあ、僕には関係ないか。雪村ちゃんの方から、何となく助けを求める視線を感じたけど、こうなった所長を止める方法を残念ながら僕は持っていない。可哀想(等とは心にも思ってないの)だが、諦めて所長の心の栄養分になってもらおう。

 やがて、のべつまくなしに捲し立てる所長に諦めが付いたのか、小学生らしからぬ、疲れきった溜め息と共に雪村ちゃんはぽつりぽつりと話始めたのだった。

 

「助けて欲しいのは、その、私の友達のありさちゃんの事です」

 

「うん。そうだろうそうだろう♪」

 

「……はぁ」

 

「溜め息を吐くと、幸せが逃げるらしいぜ?」

 

「吐きたくて吐いてるんじゃありませんし、吐かせているのは貴女です」

 

「そうとも言う♥」

 

「……」

 

何でこの人、ロリコン自称してるくせに、女の子に嫌われそうなことを嬉々としてやるかな。ほら、雪村ちゃん、本気で嫌そうな顔してるじゃないですか。

 

「むふふ♥」

 

だめだこりゃ……。

 

「すみません、やっぱり僕が代理で話を伺います」

 

「宜しくお願い致します」

 

流石に話が進まないし、僕が代理を申し出ると、大分疲れた顔の雪村ちゃんが即座に頷いてきた。何かもう、最初の挑戦的な視線は何処か遠くへ吹っ飛んでしまったみたいだった。気持ちは分かるけど……まあ、仕切り直しで。

 

「分かりました」

 

「おいおい、至くん。僕を除け者にするなんて酷いじゃないか。ウサギは寂しいと死んじゃうんだぜ? 実際は、単に性欲を発散できないストレスで死ぬってだけらしいけど」

 

五月蝿いです、所長(バカ)

 

「何か、酷いルビを振られた気がするのだが?」

 

「じゃあ、続きをお願い致します」

 

「……」

 

こくりと頷いた雪村ちゃんが、またぽつりぽつりと話始めた。

 

「私のお願いは、行方不明のありさちゃんを探してほしいということなんです」

 

「行方不明?」

 

「……」

 

僕の確認に、雪村ちゃんは首肯した。うーん、話はシンプルだけど……。

 

「申し訳ないけど、心当たりはあるのかな? 確かに探偵はお金を貰えば失せ物探しでも浮気調査でもするけど、あくまで民間の立場だ。人命に関わる話なら、基本的には警察の方が早いし確実だ。態々探偵に声を掛けるなら、逸れこそ警察が調べないアングラな心当たりが無いと余り効果的とは言えないんだけど」

 

「分かってます。心当たりが……あるんです」

 

「?」

 

頷いた雪村ちゃんだけど、その言葉を口にした瞬間、表情が明らかに曇った。はて?

 

「何か「ああ、安心したまえ。例え、どんなに突拍子もないことであっても、僕達は疑ったりはしない。きちんと君の言葉を受け止めると約束しよう。それこそ、幽霊や妖怪の類(・・・・・・・)でもね」

 

「!!」

 

いきなり割って入ってきた所長の言葉に、雪村ちゃんがまた目を丸くした。

 

「ん? 僕が幽霊や妖怪に言及したのが驚きかい? 言っただろう。僕は大魔法使いだってね♪」

 

うざいけど、まあ、そこが図星だったか。

 

「……」

 

僕が振り替えると、雪村ちゃんは少し気まずげに視線を伏せた。

 

「……怒ってますか?」

 

「いや、別に」

 

むしろ、あの程度で全てを吐き出されたら、そっちの方が心配だし。

 

「名前とかは、調べることが出来るので……」

 

幾ら小学生でも、全面的には信じられないだろうな。

 

「でも、少しは信じる気になってたんだ?」

 

僕としてはそっちの方が驚きといえば驚きなんだけど。

 

「……ありさちゃんを」

 

「?」

 

「ありさちゃんを連れていったおばけの事を知っていたので……」

 

そう言って、今度こそ雪村ちゃんは堰を切ったように、話始めたのだった。

 

「二ヶ月前、私とありさちゃんは美術の時間に、学校の裏にある旧校舎で写生をしていました。その日は丁度絵の仕上げの日で、絵が得意だったありさちゃんと私は授業が始まって直ぐに絵を描き終わってました」

 

何の事もない、ありふれた授業風景。だけど、その話を続ける雪村ちゃんの表情が次第に曇っていく。

 

「先生に提出しちゃうと、新しい課題を出されるし、このまま遊びに行こうと言ったありさちゃんと一緒に、私は旧校舎の探検をしてみることにしました」

 

「……」

 

「入り口から暫くは、日の当たる廊下ばっかりだったこともあって、本当に大したことはなかったんです。私もありさちゃんも全然怖くなくて、直ぐに校舎のはじっこに着いちゃいました」

 

旧校舎。そんな名称から想像するのは、古いコンクリートの四階建ての建造物。昨今の少子化の煽りを受けて、七八年前からコンパクトで耐震性の高い建物がトレンドになった今の時代、人の営みの途絶えた巨大な廃墟は、確かに彼女くらいの年齢の子供には好奇心がそそられる代物だっただろう。

 

「そのはじっこの廊下の奥に、"あれ"が居たんです……」

 

そして、その好奇心に突き動かされた代償が、これな訳か。

 

「あれ?」

 

「……」

 

僕が聞き返すと、雪村ちゃんはこっくりと頷いた。

 

「ベレー帽を被った、白衣の骸骨……」

 

「……」

 

何て言うか、そんなのかーって感じだ。今時、小学生でも、怖がらないだろう。

 

「最初は、私もありさちゃんも思わず笑っちゃったんです。誰がこんなの置いたんだろうって。イタズラにしたって、骸骨出して服着せただけなんて、手抜きも良いところだし」

 

うん、子供らしい辛辣さだね……。

 

「だから、ありさちゃんは手を伸ばしちゃったんです」

 

「その、骸骨に?」

 

「はい……」

 

「……」

 

「動いたんだね?」

 

「……」

 

僕が確かめると、また雪村ちゃんは頷いた。

 

「動いた瞬間も、ありさちゃんは笑っていました。中に入ってるのは誰って。私も一寸驚いたけど、同じ思いでした。誰か、先に探検してたんだって……」

 

その後のことは、予想はつく。

 

「そしたら、骸骨の手がありさちゃんの手首を掴んで……」

 

「……」

 

「その時、やっと私達は骸骨が変だって思ったんです。中に人が入っていて、白衣のおくから腕を動かすのは分かるけど、何で手を握れるんだって……」

 

「……」

 

「ありさちゃんの顔もひきつっていて、それで気味が悪くなって」

 

「逃げ出そうとした?」

 

「!」

 

そう、聞いてみると、ピクッと雪村ちゃんの小さな肩が震えた。

 

「……んです」

 

「ん?」

 

「……うと……たんです」

 

「……」

 

「一緒に逃げ出そうとしたんです!!」

 

「……」

 

雪村ちゃんの声が、小さな珈琲店に響いた。

 けど、その勢いは続かなかった。荒く息を吐きながら、次第にへなへなと座り込んだ雪村ちゃんは、もう一度消え入りそうな声で「一緒に逃げ出そうとしたんです……」と囁いた。

 

「でも、隣を見ても、ありさちゃんが……居なくて。それで、後ろを見たら……泣きそうな顔で笑っていて……」

 

「……そのまま連れ去られた」

 

「……!!」

 

とうとう、堪りかねたのか、ぎゅっと瞑った雪村ちゃんの目からポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。

 

「おっと」

 

隣で待機していた所長が、モゾモゾとテーブルの下へと潜り込んで、雪村ちゃんの華奢な肩を隣からそっと抱き締めた。

 

「わ、私、こ、怖くて、でも、ありさちゃん助けなきゃって……」

 

しゃくりあげる彼女を「よしよし」と宥めながら、所長は少し考え込んだ。

 

「て、手を伸ばしたんです。追っかけて! けど、何でか誰も居なくて、気が付いたら、夕方になっていて……」

 

「戻ることにした?」

 

僕が確かめると、今度は雪村ちゃんは首をブンブンと横に振った。ふむ?

 

「先生が、先生が来てくれたんです。担任の、田中先生。それで、凄い怒られて。けど、此れで一緒にありさちゃんを探してもらえるって!! なのに、なのに……」

 

「……」

 

「先生は……『ありさちゃんって誰?』って……」

 

(初めて聞いたケースだな)

 

 この事務所に就職してから、数える程度しかなかった依頼だけど、少し被害者の毛色が違うように思った。言葉のままとるなら、それはまるで……

 

「彼女の、そのありさちゃんの記憶が消えていたんだね?」

 

「所長……」

 

フルフルと震える雪村ちゃんの背中をさすりながら、所長が少し目を細めて確かめた。

 

「……」

 

テーブルを挟んで、雪村ちゃんがすすり泣く声だけがやけに響いた。

 やがて、彼女のしゃくり上げる声が少しずつ治まり始めた頃、再び雪村ちゃんはぽつぽつと事情を話し始めた。

 

「……学校に行っても、ありさちゃんの荷物も何もなくて」

 

「うん」

 

「ありさちゃんの家のおばさんも、ありさちゃんなんて知らないって……」

 

「うん」

 

「私、もうどうしたら良いか分からなくて……」

 

そう言って、また泣き始めた彼女を前に、さてと僕は首を傾げる。

 取り合えず、事のあらましは理解できた。依頼内容は『骸骨に連れ去られ、何故か皆の記憶から消えた親友を助け出す事』。いたってシンプルだけど、それ以上にオカルト染みていて、とてもじゃないけど警察には頼れない。

 

「うん、お誂え向きだね」

 

この依頼は正しくうちの事務所向け(・・・・・・・・)だろう。まあ、それを判断するのは僕じゃなく、所長の方な訳だけど……。

 

「安心してくれたまえ、要ちゃん」

 

「あっ……」

 

きざったらしいセリフと共に、すらりと形の良い人差し指で、そっと零れた涙を所長が掬った。

 

「君の依頼、この六伏コランが確かに受け止めた。親友のありさちゃんも必ず僕と至くんが見つけ出そう」

 

「僕もですか」

 

「ああ、勿論だとも。今回は君が必要になるだろうからね」

 

「……」

 

曇り一つない満面の笑みを浮かべる所長の視線が、一瞬、鋭く煌めいて見えた。

 やがて、泣き止んだ雪村ちゃんに出てきた温かいコーヒーを飲ませて、一先ずこの場は解散することにした。喫茶店のカウベルを鳴らしながら振り返った雪村ちゃんは、見送る僕と所長に一礼を向けながら、「宜しくお願いします。……私には、もう頼れる人が居ないんです」と囁いて学校へと向かっていったのだった。

 

「やれやれ。小学生といえど、女の子は女の子か」

 

最後の最後に確りと釘を刺していった彼女に対する印象は、僕も所長の意見に同感だった。

 

「で、何か懸念があったんですか?」

 

「うん?」

 

もう一度椅子に座りなおして、そっちの方を確認してみる。何かしら意図がなきゃ、ロリコンの所長が態々雪村ちゃんとの会話を僕の方に預ける訳がない。

 

「まあ、そうだね」

 

そして、予想通り、出てきたブラックコーヒーを啜りながらこくりと頷いた。

 

「ああいう風に固く心を閉ざされていると、きちんと集中しないと思念が読み取れないんだ」

 

「"読む"のに専念するために、僕に渡したと……」

 

それはつまり、彼女が心を閉ざそうとしていたということなわけで。

 

「じゃあ、雪村ちゃんが口にしたことは嘘だったんですか?」

 

「いや」

 

僕の疑問は、どうやら外れていたらしい。

 

「むしろその逆で、真実だからこそ読み辛かったパターンだね」

 

「と、言うと?」

 

「他人の記憶からすっきりさっぱり消えてしまった少女。そして、その存在が本当にあったものだとしたら、何故要ちゃんの記憶からは消えていないのか……それはつまり」

 

「心を閉ざして記憶を守ったと」

 

「そう考えるべきだろうね」

 

そう言って、所長は少し考え込む素振りを見せてくる。

 

「まず、彼女の言葉の真贋だけど、これは間違いなく全て真実だった。少なくとも彼女の記憶だけでなく彼女の身体が、彼女の言葉の通りの経験をしていた」

 

「残留思念ですか」

 

時折所長が口にする、物に染みついた記憶。

 

「この僕が残留思念を読み取るのにも、結構手間取った。つまり、石水無月ありさちゃんに関する忘却の力は相当に強力だという事に他ならない」

 

「そんな忘却を掛けた張本人が」

 

「ああ」

 

「「旧校舎の骸骨」」

 

「ですか」

 

「まあ、それ以外に容疑者も居ないしね」

 

そう言って、立ち上がった所長が軽く伸びをした。親父臭いですよ。

 

「問題ない、問題ない。見た目は美少女だから何をやっても大抵は許されるからね♪」

 

「うーん、この」

 

こうやって社会は腐っていくんだろうなあ……。まあ、いいや、それはそれとして、

 

「さっきの繰り返しになるんですけど、所長」

 

「うん?」

 

「今回は、僕も必要になるんですか?」

 

「恐らくね」

 

首肯した所長がパチンと指を鳴らすと、今まで靄が掛かっていた外の音が不意に鮮明になった。

 

「彼女の言葉がほぼほぼ真実である以上、石水無月ありさちゃんの生きた記録は非常に広範囲にわたっていたはずだ。その記録を全て消し去る力となると、僕でも受けたら危ないのは間違いないからね」

 

「……」

 

「だから、君が必要さ。僕の盾くん♥」

 

「きもっ」

 

「辛辣だなあwww」

 

百超えた男のウィンクとか誰が得するんだろうね。

 

「これでも、昔はちゃんとイケメンだったんだぜ?」

 

「イケメンであることと、同性がそれを見て気分が良いかは全くの別物じゃないですか?」

 

「まあ、確かにその通り」

 

くすくすと笑いながら会計を済ませた所長と連れ立って、店を出るとそろそろ太陽が真上に昇りかけていた。こりゃ、雪村ちゃんは完全に遅刻かな。

 

「しかし、前から思っていたんですけど」

 

「うん?」

 

「所長、毎回、きっちり依頼主の子達の頭ハックしますよね」

 

ふと思いついた疑問をぶつけてみた。ロリコンを自称するなら、その辺は無条件に受け入れるかと思っていたんだけど。

 

「美少女であることと、言葉が信用に足るかは全くの別物だからねえ」

 

「人間である以上、老若男女問わず嘘は吐くからねw」と所長はへらりと笑った。うん、知ってたけど再確認した。

 

「至くん?」

 

「前々から知ってましたけど、所長って」

 

「うん?」

 

「結構普通にクソ野郎ですよね」

 

「ああ、そうだとも♥」

 

無駄に高らかと肯定しながら所長は胸を張った。

 

「僕はロリコンであって、美少女ではない。故に中身は完全にこんな奴だ」

 

「凌辱ものとか割と好きですもんね」

 

「まあね。ちなみに、普通に僕よりゲロ汚い精神の美少女なんてこの世には掃いて捨てる程居るんだし、美少女に幻想なんて持たない方が身のためだぜ? 所長としての忠告だ」

 

「その価値観で何で、ロリコンやってるんですか?」

 

「見た目!」

 

「うーん、身も蓋もない」

 

というか、普通に最低だ。この人。美少女が美しいだけの物なんて幻想だぞ? やかましいわ。

 

「但し、本当にその美少女が心の底から助けを願っていて、僕以外に助けられないならば、僕が、この六伏コランが助けよう。無償で」

 

「無償ですか」

 

「破格だろう?」

 

「いや、むしろ怪しいです」

 

怪しくないところがないです。

 

「でも、大抵は僕に縋るしかないだろう?」

 

「うわ、凄い嬉しそう」

 

なんか、チェシャ猫とロリコンの気持ち悪いところを混ぜて良いところだけ切除したような笑い方してる。

 

「ま、おしゃべりはこの辺で置いておいて、早速調査といこうじゃないか至くん」

 

「雪村ちゃんが言っていた旧校舎ですか?」

 

「ああ」

 

頷いて、歩き出した所長を追いかけながら、僕はふと疑問に思ったことを口にした。

 

「そういえば」

 

「うん?」

 

「彼女を攫ったのって、結局どんなお化けなんですかね?」

 

「さて……」

 

少し首を傾げた所長は「皆目見当もつかないな」と笑った。

 

「だが、一つだけはっきりしている事はある」

 

「何です?」

 

「そいつは絶対にロリコンだ」

 

「……」

 

「美少女を攫ってしまいたいって感情は、同じロリコンにしか理解できないからね」

 

「さいですか……」

 

普通に、誰かに聞かれたらその時点でアウトな会話をしながら、僕と所長は雪村ちゃんの言っていた学校へと向かうのだった。

 

 

 

 

 




鈴笛至
語り部。六伏探偵事務所の助手。小学生からは冴えない顔とか言われてしまう。
色々あって、今の職に就いたが、金銭的に余裕があるため、下手に離れられなくなっている。
目下の目標は貯金1000万。

六伏コラン
自称探偵兼大魔法使い。
見た目は純度100%の美少女だが、本人曰くどうも見た目と中身は全くの別物らしい。
少女の味方のふりをしているが、結構普通にクソみたいな性格をしている。
どう見ても儲かっていない探偵事務所を営んでいるが、メインの収入源は別にあるとかなんとか。

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