ロリコン探偵少女? 六伏コラン   作:デポジットカンチョーワールドカップ

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切るところを逃しました。アドバイス頂いたのに。ごめんなさーいorz


美術室のレオナルド 中

 雪村ちゃんを見送った僕と所長は「さて、そろそろお昼も近いし、コンビニでおにぎりでも買っていこうか」という所長の言葉で、近くの○ミマに入り、二三個のおにぎりを片手に雪村ちゃんの通う小学校、第一旧東京都立、第十五小学校跡地へとやって来ていた。丁度、小学校もお昼休みに入ったのか、現在の校舎だけでなく雪村ちゃんの言っていた旧校舎のグラウンドにも少なくない子供の姿があった。

 

「ふぅ……」

 

そんなグラウンドの端っこで、思い思いに体を動かす子供達を背景に昼食を終えた所長が満足そうに溜め息を吐いた。

 

「さて、あの子達をおかずに食後のオナニーにしようか」

 

「何デザート頼む気軽さでとんでもないこと口にしてるんですか」

 

幾ら見た目が少女でも、社会的に死ぬことになるぞ。

 

「いやいや、そこは安心してくれたまえ。此れでも大魔法使い。オナニーのためなら、認識阻害の魔法の一つや二つ、軽いものさ」

 

「その能力を、せめてもう少し生産性のあることに使えよ」

 

「オナニーは生産的じゃないというのかい!?」

 

心底ショックを受けた。そんな顔で呆然とされてもな。

 

「いや、子供生まれないんだから、オナニーはどう考えても非生産的な行為でしょ」

 

「む、それは確かに……」

 

少し考え込んだ所長。これで、やっと静かに……「はっ!? オナニーが非生産的な行為で、生産的な行為をしろということはつまり!?」

 

「だ、ダメだよ至くん!? 確かにこの身体はぼくがかんがえたりそうのびしょーじょだけど、中身は正真正銘のアレなんだぜ!?」

 

「一瞬でも期待した僕がバカでした」

 

両手で華奢な体を抱き締めて、ずざざっと後退るベタな反応をされてもね。

 

「取り敢えず、僕は旧校舎の様子を見てくるんで」

 

「うん。じゃあ、僕もその間にオナニーを済ませておくよ」

 

「あ、うん、もうそれで良いです」

 

もう、本当に好きにしていてくれ。

 

「ああ。じゃあ、早速、あそこで水を飲んでいる女の子を……」

 

緑のスカートの下から、男物の青と白のベタな縦縞トランクスを投げ捨てながら、所長は服従のポーズでオナニーに耽り始める。何て言うか、もうね。うん。色々と言いたい言葉を飲み込んで、僕は一先ず校舎の確認に向かったのだった。

 

 

 

 

 ざっと旧校舎の外を回り、下見を終えて所長の所に戻ると、丁度一服を終えて、いそいそとトランクスを履き直しているところだった。認識阻害の魔法を掛けていたのは分かるけど、本当に最後までやったのか、この所長は……。

 

「む? ああ、至くん。お帰り」

 

「どうも」

 

「校舎の様子は?」

 

「悪いものは相当に溜まってます。間違いなく」

 

「ふむ」

 

「ただ、其がどの程度かというと、細かいのが多いみたいで、僕には分かりませんでした」

 

「ふむ……」

 

僕の報告に、所長は二度三度と頷くと、そのまま芝生の上にころんと横になった。

 

「となると、とにもかくにも入ってみるしかないね。至くん」

 

「はい」

 

「一先ず、黄昏時を待つことにしよう。四時になったら起こしてくれ」

 

そう言って、直ぐにスースーと寝息を立て始めた所長。それこそ、一見雪村ちゃんの言ったお化けに拐われても可笑しくない綺麗な容姿だが、校庭にいる多くの子供に存在を認識されないように、寝入りながらも魔法を使うあたり、本当に優秀なんだろう。

 

(能力と人格は必ずしも一致しないとは言うけれど)

 

これは中々に酷いよなあと思いながら、僕も所長につられて大きくあくびをしてしまう。そろそろ、昼休みが終わり、子供達が午後の授業に向かう頃だった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 黄昏時。それは、最も人の世が人ならざるものの世に近付く時。これは、六伏探偵事務所に入った僕が最初に所長から教わった事だった。

 

「所長。そろそろですよ」

 

秋になり、大分早くなった夕暮れに、斜めから射す橙色の光に目を細目ながら、僕は隣ですやすやと眠る見た目だけは美少女の所長を揺り起こした。

 

「んむ……」

 

「黄昏時です。仕事ですよ」

 

そう告げると、脳味噌がじんわりと動き出したのか、もぞもぞと身動ぎした所長が目を擦りながら起き上がった。

 

「おそよう。至くん」

 

「ええ、おそようございます」

 

下らない挨拶を返しながら立ち上がると、所長も立ち上がりはポケットに入れていたしましまトランクスをいそいそと履き直した。ノーパンで今まで寝てたのか、この人。

 

「僕はノーパンじゃないと寝られない質でね。だから、普段も寝るときはTシャツ一枚だろう?」

 

「聞いてません」

 

中身考えたら、気にもしないんだろうけど、流石にどうなんだそれは。と、その時、

 

「ん?」

 

思わず頭を抱えた僕と、なぜかにやにやと実に楽しそうな所長との間にキーコーンカーンコーンと、何ともベタなチャイムの音が響き渡った。そして、殆ど間を置かずにどっと玄関から出てくる子供達。自分が経験したのが十年以上前のことかと思うと、正直なところ懐古の念以上に違和感の方が先立ってくる。と、

 

「あ、雪村ちゃんですね」

 

「の、ようだね」

 

校門をくぐっていた一団の端っこで、一人重い足取りで歩いていた雪村ちゃんと目が合った。

 

「認識阻害解いたんですか?」

 

「彼女だけね」

 

所長の言葉で、他の子供達が此方に気付いた様子がないことに納得する。まあ、僕みたいなのがじっと校門見てたら通報されかねないし、それ以上に所長は目立つしね。

 

「要ちゃーん♥」

 

無駄に品をつくってブンブンと所長が手を振ると、はっと辺りを見回した雪村ちゃんは慌てた様子で此方の方に駆けてきた。ありさちゃんのこととかを考えると、他人には説明しづらいし、仕方ないよね。

 

「やあ、お昼前ぶりだね、要ちゃん♥」

 

「……………………………六伏さん」

 

一瞬、物凄く何か言いたげな顔になった雪村ちゃんは、結局何かを諦めた顔になって、深々と溜め息を吐いた。うん、その気持ちは良く分かる。小学生でそんな気持ち知りたくはなかっただろうけどね。

 

「おや、どうしたんだい? そんなに疲れた顔をして。溜め息ばかりじゃ幸せが逃げちゃうぜ? 良い年した若い女の子に疲れ顔は似合わない! さあ、笑って♪ ほら! こう!」

 

「この人、何時もこんななんですか?」

 

「残念ながら」

 

若いどころか、幼いはずの女の子よりも、遥かに幼い所長を僕はどうやって立てたら良いんだろうね? いや、そもそも、小学生に対して、面子を態々立たせなきゃいけない二百才児って……。

 

「残念。美少女である僕に年齢や性別は関係ないのさ!」

 

「なら、僕は所長を美少女として扱うべきなんですかね?」

 

「おいおい、そんな詰まらないことを言うなよ。至くんに才色兼備な美少女扱いされてしまったら、一体誰が僕と一緒にコミケの三日目を回ってくれるんだい?」

 

「然り気無く、才色兼備とか付ける辺り、本当に図々しいですね」

 

というか、

 

「コミケ行きたいなら、その女装……女装? むしろ、それより随分突っ込んだ何かを止めれば良いじゃないですか」

 

「二百年も美少女をやっている男の誇りにかけて、それは出来ない!!」

 

「いや、男の誇りにかけて女装を止められないって、何か決定的に可笑しくないですか? それとも、僕が可笑しいんですか?」

 

「いや、僕がおかしい♪」

 

「自信もって言うなら、改めてくださいよ。何が悲しくて、頭おかしい少女詐欺連れてエロ本購入行脚しなきゃいけないんですか」

 

「その分、ボーナスは出してるだろう? あれが手当てだとおもえb「全く文句ありません」うん、僕もそういう聞き分けの良いところ、嫌いじゃないぜ?」

 

にやっと笑った所長と視線が重なると、とうとう堪えきれず、僕と所長はどちらともなしに吹き出していた。

 

「っと、所長、さっきから雪村ちゃんが物凄く冷たい目でこっちを見てますけど?」

 

或いは、その視線で凍死しろと言わんばかりの視線で。

 

「なんと!? それはまずい。僕は美少女の笑顔を守る正義の味方だからね。直ぐに理由を聞かなければ。お嬢さん、一体どうしてそんな冷たい目をしているのですがっ!?」

 

「あ、ナイスレバーブロー」

 

細い体の何処にそんなパワーが秘められていたのか。やたらと体重の乗った雪村ちゃんのレバーブローがずしんと重い音を立てて所長のおなかに突き刺さった。

 

「至さん?」

 

「はい?」

 

どさりと崩れ落ちた所長をごみを見る目で見下ろした雪村ちゃんの矛先が、今度はこっちに向いてきた。うん、マンダム。

 

「脱線させないでくださいね?」

 

「別に脱線させる意図はないよ?」

 

勝手に所長が脱線しているだけです。僕と所長の日常会話は大体こんなものだしね。つまり、脱線している所長が悪い。

 

「……」

 

ぎりぃと人を殺せる顔になった雪村ちゃんが所長の後頭部をぐりぐりと踏み躙った。小学生なのに業が深い性格しているなあ。

 

「私にそうさせた責任の半分は間違いなく鈴笛さんにあります」

 

「じゃあ、所長に転送しておきますね」

 

僕、別に主幹じゃないし。ケセラセラ。のんびりと伸びをすると、足元の所長が「理不尽だ~♥」とやけに嬉しそうに悲鳴を上げた。うん、どうせドMなんだから、これくらいご褒美でしょうに。むしろ、所長におかずを提供する出来た助手ですよ僕は。

 

「僕はMもこなせるってだけで、本質的にはSなんだぜ?」

 

「でも事務所に置いてある作品の構成比、六対四くらいでMじゃないですか」

 

変にそっち系多いより、却ってリアルな数字。

 

「そうかな?」

 

「そうだと思いますよ?」

 

小首をかしげた所長に、肩を竦め返すと、僕と所長はどちらともなしにまた吹き出した。

 

「ああ、もう!!」

 

「?」

 

が、何が気に入らなかったのか、間にいた雪村ちゃんが堪りかねたようにバンバンと地面を蹴った。どうしたんだろう、一体?

 

「イチャイチャしてないでくださいよ、二人とも!! 私まで変な目で見られちゃうじゃないですか!!」

 

「いや、所長が認識阻害してるから見られることは絶対にないんだけど……」

 

ていうか、この子、今なんて言った?

 

イチャイチャ?

 

誰が?

 

誰と?

 

僕が?

 

所長と?

 

……………

 

「「おえええええええええええええええ」」

 

僕と所長は二人揃ってゲロを吐いた。

 

「酷い、酷すぎるぜ、要ちゃん!?」

 

「最近の小学生は血も涙もないのか……」

 

こんな、精神攻撃を仕掛けて来るなんて、化け物なんかよりもよっぽど質が悪い。

 

「何でそうなるんですか!?」

 

何か、わたわた言っているけど、一先ず僕と所長はコンビニで買ったスポーツドリンクで口を濯いだ。

 

「汚い!?」

 

ひーん!? と泣き叫ぶ雪村ちゃんだけど、僕と所長にこうさせたのは、他でもない君自身だよ?

 

「さてと……」

 

やがて、三度四度と口を濯ぎ終えた所長が軽く深呼吸をした。

 

「改めて、話を進めようか、要ちゃん♥」

 

「停滞の原因はお二人だと思うんですけど……」

 

ぴっと人差し指を立てた所長に、雪村ちゃんがじとっとした視線を返してきた。うん、実に正論だね。まあ、うちの所長も大概鋼メンタルだからさして気にしないだろうけどね。

 

「君の親友の石水無月ありさちゃん……見つかったぜ?」

 

「……え?」

 

「……」

 

所長の言葉に、雪村ちゃんは一瞬理解が追い付かなかったみたいだ。まあ、当然か。さっきの今だしね。

 

「少なくとも、君が言った通り、あの旧校舎にいるのは間違いない」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「おっと♥ 勿論、真実だとも。僕の美少女(ロリ)(コン)にかけて保証しよう」

 

小さいくせに大きなおっぱいを張って、自信満々に答える所長に、雪村ちゃんが思わず掴み掛かっていた。その華奢な体を、明らかに趣味で付けた巨乳で抱き止めて、ポロポロと涙を溢す雪村ちゃんに向けて所長は「だから、安心してくれたまえ」と片目を瞑った。って、右手右手。何お尻もんでんのさ。鼻の下?延びてますよ? 少女が浮かべてはいけない(と、いうか、普通は絶対に浮かべない)顔をして、あからさまなセクハラを敢行する所長……あ、ビンタ。

 

「いひゃい……」

 

「残念でもなく、当然です。所長」

 

真っ赤な紅葉が咲いた白い頬を抑えてるけど、あんだけ揉みしだいたら、そりゃそうなりますよ。ほら、雪村ちゃんも顔真っ赤にして、警戒心剥き出しだし。

 

「まあいいや」

 

「私は良くないんですけど!?」

 

「さっさと旧校舎に行きます?」

 

「この空気で!?」

 

「急がば回れって言いますし」

 

「それ、ゆっくりするときの言い回しですよね!? 思いっきり唐突に切り出してますよね!?」

 

「あ、ツナマヨおにぎり食べます?」

 

「何でそうなるんですか!? ていうか、どうしてそんなもの渡そうと思ったんですか!?」

 

「お昼ご飯です。僕、これ嫌いなんですよ」

 

「じゃあ何で買った!? 嫌いなのに何で買った!?」

 

「所長も嫌いだって言うから……」

 

「思っていた以上に最低だな!? 助手じゃなかったのか!?」

 

「そのおっさんは、ただの金づるです」

 

「そんな!? 僕のことを財布としてしか見てなかったなんて!?」

 

「もしもし、オレオレ。明日までに二億振り込め」

 

「オレオレ詐欺!? しかも命令形!?」

 

「男の口座に振り込むほど、僕も落ちぶれてはいないぞ? 至くん!!」

 

「雪村ちゃんの口座に」

 

「よっし、おじさん十億円振り込んじゃうぞー」

 

「やめてください!? 家庭が破壊されます!?」

 

「よし、やれ」

 

「やらいでかー」

 

「やるな!!」

 

「じゃ、そろそろ校舎に入ろうか」

 

「聞けよおい!!」

 

ぜーぜーと肩で息をする雪村ちゃんの口がどんどん悪くなるのを尻目に、僕達は事の発端、彼女の通う学校の旧校舎に足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 足を踏み入れた旧校舎は、あからさまに薄暗く、いかにも出そうな(・・・・)雰囲気だった。

 

「まあ、実際出るわけだしね」

 

この、雑に何かいると言わんばかりの光景は、けらけらと笑う所長の言うとおり、雪村ちゃんの友達を呑み込んだ、正真正銘の心霊スポットな訳だ。ちらりと見ると、このシチュエーションに慣れきった所長の隣で、雪村ちゃんが固い表情でこくりと唾を飲み込んでいた。

 

「セ○ムが幽霊も払ってくれれば、僕も楽なんだけどねー」

 

「それされたら、仕事なくなっちゃうんじゃないですか?」

 

「大丈夫。その時は大魔法使い事務所開くから」

 

「それ、明らかに詐欺と思われますよ」

 

「その世界は、セ○ムが幽霊取り締まる想定だから、魔法も信じてくれると思うんだよねー」

 

「あー、まあ、言われてみれば」

 

「だろ?」

 

ふざけあっていた僕達だったが、玄関からの廊下を突き当たった所でどちらともなしに足を止めた。

 

「あの、ここは……」

 

思わず呟いた雪村ちゃんを背中に、所長が「居るね……」と漏らした。

 

「居る……」

 

「……」

 

鸚鵡返しに口ずさんだ雪村ちゃん以外の空気が、急速に張り詰めていくのを感じた。

 

「来るよ……」

 

「……」

 

普段の軽薄な笑みが消えて、代わりに鋭く切り裂くような、何処か残忍でシニカルな微笑が所長の口許に浮かぶ。依頼の時にしか見せない、所長の本性。

 

「ほぅら来たぞ……"黄昏時"だ」

 

「……」

 

「!?」

 

だんだんと細くなった所長の声が、囁くほどにしか聞こえなくなったのとほぼ同時に、ごうっ!! という暴風にも似た音が迫ってくる。くらい廊下を丸呑みにして疾った轟音が通り過ぎると、

 

「え?……え?」

 

「「……」」

 

後には血色に満たされた無音の空間に取り残された、僕達三人だけが居た。

 

「な、何なんですか、ここ」

 

「……」

 

 

 

 

そんな感想が真っ先に想起されるこの空間は、自分の気を持っていないと、それだけで身体も意識もどろりと溶かされ、消えてしまいそうな、そんな不安がある。まあ、慣れないと辛いだろうね。

 

「言っただろう。ここが、こここそが"黄昏時"。言葉だけじゃない、本物のこの世とあの世の境目さ」

 

「……」

 

漠然とした、しかし、本能的な不安にひしと身を抱いてかたかたと震える雪村ちゃんに、所長は何処か芝居がかった動作で両腕を広げて囀った。いや、まあ、良いんだけどさ。

 

「とっとと行かないと、どんどん"寄って"きますよ?」

 

「おっと♥」

 

何一寸嬉しそうなんですか。

 

「ま、それじゃあ、行こうか。急がないと、要ちゃんが"飲まれちゃう"からね」

 

「……」

 

スキップで先行する所長その背中を、初めて不気味なものをを見る目で見詰める雪村ちゃん。まあ、その反応は正しい。少なくとも、あの所長は僕個人としては変な所長だけど、本質的には相当にえぐいし相当にげすい性格をしている。

 

「おいおい、それは君もだろう?」

 

「否定も肯定もしませんよ。僕の性格をどう取るかは他人が決める事なので」

 

「そうかい?」

 

「ええ」

 

「ちなみに、僕は至くんの性格、嫌いじゃないぜ♥」

 

「……」

 

「あ、その豚を見る目♥」

 

何で、男に睨まれてそんなに嬉しそうにするかなあ。けらけらという聞き慣れた所長の笑い声が、しかし、無音の紅い旧校舎の渡り廊下でやけに大きく反響した。

 

「……あの」

 

「ん?」

 

と、不意に隣を歩いていた雪村ちゃんが珍しく僕の方に声を掛けてきた。

 

「何か?」

 

「"黄昏時"……って何なんですか? 私の知っている、"黄昏時"と何が違うんですか?」

 

「ああ」

 

その混乱は納得。というか、所長の個人的なネーミングだからね。分かる訳もない。一先ず、

 

「所長の言っている"黄昏時"は、まあこの異空間の便宜上の名称って考えていればいいよ。正確には何か色々あるらしいけど、それで大体説明がつくから」

 

「異空間……ですか?」

 

「らしい」

 

あくまで所長の受け売りだからね。

 

「本来、"この世"と"あの世"は一寸距離が離れていて、交わる事は無い」

 

簡単な例として僕は右手と左手の人差し指を立てて見せる。

 

「けど、この二つの世界は丁度潮の満ち引きみたいに、周期的に近付いたり離れたりを繰り返していて、時々くっついちゃうんだ」

 

人差し指の先をくっつける。少しだけ肉が潰れ重なったしこりが出来る。

 

「これが、所長の言う"黄昏時"。要はこの世とあの世がほんの少しだけ重なった空間だ」

 

「あれ、でも」

 

「君達が肝試しをしたのは、今よりもずっと前って言いたいんでしょ?」

 

「はい……」

 

僕の確認に、雪村ちゃんはこっくりと頷く。

 

「実はこの"黄昏時"っていうのはこの世と違って、あの世側からだと多少融通が利くらしい」

 

「融通……」

 

「所長曰く、「この世はカチカチなんだけど、あの世はぷにぷにしている」……らしいよ?」

 

顔を上げると、両手を腰に当てた所長がこっちを振り返って、ニヤッと笑っていた。

 

「カチカチとぷにぷに……」

 

その所長の言葉に、雪村ちゃんがなんとも微妙な表情になった。まあ、僕もその表現はどうかと思う。

 

「仕方ないだろ? そうとしか表現のしようがないんだから」

 

そう言って、所長が横から出してきた口を尖らせた。

 

「ま、概要は至くんが説明してくれた通りさ。大前提は幾つかあるけどね」

 

「大前提ですか?」

 

「うん♪」

 

こてんと首をかしげた雪村ちゃんに、所長がにっこりと首肯した。

 

「まず、幾ら融通が利くとはいえ、世界を動かすのは相当に労力が要るからね。ある程度、やり易い環境が必要だ」

 

「やり易い環境……」

 

「具体的には、ある程度は夕方の"黄昏時"が現れやすい時間に近いことだね。具体的には、秋から冬にかけてなら二時~三時以降。日の長い夏はもっと遅くなるね」

 

「四季で変わるんですね……」

 

ぽつりと呟いて頷いた雪村ちゃんに、所長は「まあね♪」と笑った。

 

「よく、昼間に外で遊んでいた子供がいつの間にか消えていたなんて話があるだろ? あれは誘拐の場合もあるけど、一部はあの世の住人に連れ去られたのさ♪」

 

「……」

 

前例が身近にあるだけに、僅かに顔を青ざめさせる雪村ちゃん。流石に不謹慎……まあ、存在そのものが不謹慎だから、今更か。

 

「それは一寸言い過ぎじゃないかい?」

 

所長が、またけらけらと笑った。

 

「後の二つは単純。法則は分からないけど、どうもあの世でも"黄昏時"を作りやすい場所と作りにくい場所があるみたいでね。この世の心霊スポットの多くは、その"黄昏時を作りやすい場所"なんだ」

 

「一部は明らかに人為的なものだったり、原因不明のものもあるみたいだけどね」

 

「うん。昔"目"を手に入れる前は本当に原因が分からないものがあってね。今見たらまた違うのかもしれないけど、少なくともあれは完全にお蔵入りさ」

 

「それ、何年前です?」

 

「八十年くらいかな」

 

「僕としては、所長の正体の方がオカルトじみてると思うんですが」

 

「ま、大魔法使いだからね♪」

 

そう言って、所長はパチンとウィンクした。本当に、この人元男なのかな?

 

「勿論。此れでも評判のイケメンだったんだぜ?」

 

ロリコンが高じて体を美少女にしたゃった変態だけど、ですか。

 

「っと、脱線してしまったね」

 

「所長の存在が人類から脱線してますからね」

 

「それは一寸言い過ぎじゃないかい!?」

 

所長なら残当です。

 

「まあ、いいや」

 

良いんだ。

 

「最後の条件は、"黄昏時"を作るあの世の住人が、其れなりにあっちの世界で力を持っていること。さっきも言ったけど、幾ら"あの世"が柔らかいとはいえ、世界の一部を自分の都合の良いように弄くるんだ。当然、弄くる側もそれ相応の力を持っていないと話にならない」

 

「で、裏を返せば、自発的に"黄昏時"を起こした奴は相応に力があるってことでね」

 

「……」

 

やっぱり、雪村ちゃんは聡明な子なのだろう。僕と所長の説明を理解して、苦し気に押し黙った。

 

「自然発生した"黄昏時"に便乗した奴が常にヤバくない訳じゃないが、時間外れに"黄昏時"を引き起こした奴は例外なくヤバい。そして、今回、石水無月ありさちゃんを拐った骸骨は僕が経験した中でも相当にヤバい。何せ、百年以上生きてきた僕だけど、周りの記憶ごと存在を拐った奴なんてのは、聞いたことがないからね」

 

「……」

 

「その辺含めると本当にヤバいよ」と"ヤバい"を重ねた所長の言葉に、雪村ちゃんの表情がさーっと青ざめた。話し半分に聞こうにも、今朝所長が記憶を読み取ったことや、目の前の光景に、感情的に嘘だと否定することも出来ないでいるんだろう。ただ、そうなると、個人的に一つ引っ掛かることがあるんだけど……。

 

「御名答だよ、至くん♪」

 

どうやら、僕の引っ掛かりは当たりらしく、所長は両手の親指を立て……て、そのまま、人差し指と中指の間に突っ込んだ。いや、あんた何やってんだ。

 

「御名答ですか?」

 

と、女握りの両拳でファイティングポーズを取る所長と、取り敢えずその頭の上に拳骨を落とそうと身構えた僕の間で、雪村ちゃんが首をかしげた。……ああ。

 

「そういえば、言ってなかったね」

 

所長もそれに気付いたのか、ぽんと(女握りしたままの)右手を左掌に打った。

 

「言ってなかった、ですか?」

 

「ああ」

 

頷く所長。確かに、雪村ちゃんからはその疑問は出てくるだろう。なにせ、僕と所長の会話は(・・・・・・・・)ちょいちょい言葉を(・・・・・・・・・)交わさずに進んでいる(・・・・・・・・・・)からだ。

 

「丁度良いし、言っておこうか」

 

「そうだね。要ちゃん」

 

「はい?」

 

「僕と至くんはね」

 

「ええ」

 

「正に一心同体! 粘膜と粘膜なんて目じゃないくらい深く繋がった、言葉なんて要らないどころか言葉にしたらR-18な関kごふっ!?」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

ぐーで行った。腹に。躊躇なく。

 

「次、その冗談言ったら……」

 

腹を抑えてのた打ち回る所長(バカ)を、僕は明日出荷される豚を見る目で見下ろす。

 

「もぎますよ?」

 

「どこを!?」

 

当然の様に復活した所長は、当然の如く股間を抑えた。いや、あんた百年以上前に自分で捨てたんじゃなかったんですか? 今は付いてないでしょ。

 

「だ、大丈夫なんですか!?」

 

自分と同じくらいの体格の女の子(に見えるだけの詐欺)が腹パン貰って崩れ落ちたのに驚いたのか、雪村ちゃんが慌てて所長に駆け寄った……けど、まあ、うん。

 

「僕を心配してくれるのかい、要ちゃん!? コラン感激という奴だ!! 勿論、すごく痛い。もう凄くすごく痛い! この痛みを癒すには美少女である要ちゃんの愛撫とぺろぺろがあればすぐにでも回復して元気百倍さ!!」

 

「いやあああああああああああああ!?!?!?」

 

まるで、僕の一撃で大ダメージを受けたと言わんばかりの言葉に騙された雪村ちゃんのお尻を胸元を、待ってましたとばかりに、まさぐり倒す所長。その、外見とは正反対の、スケベおやじそのものの手付きに、雪村ちゃんが堪らず悲鳴を上げた。あんた、YESロリータNOタッチの精神は何処行ったよ。思いっきりタッチしてんじゃん。Tシャツの自己暗示、全く効果発揮してないだろ。

 

「あ、た、助け」

 

「取り合えず、話進まないんで解放してあげてください」

 

「うーん、残念だなあ。最近冷たい至くんの代わりに、この子に癒してもらおうと思っていたのだけど」

 

「僕に、ていうか野郎に癒される趣味があったんですか?」

 

「無いな!!!」

 

「はっはっはっはっは☆」と笑った所長が、抱きしめていた雪村ちゃんの首筋をぴちゃりと舐めて、その身柄を解放した。「ひゃんっ!?」という悲鳴を上げた雪村ちゃんは、所長の手を離れると、ダダダっと走って、僕の背後へと逃げ出した。

 

「警戒しないでくれ、要ちゃん。僕は美少女の味方だぜ?」

 

「いや、今の行動はどう考えてもアウトでしょうが」

 

今以前も大体アウト。むしろ、美少女の敵を大体顕現させたら外見以外は所長になるレベル。

 

「まあ、種明かしをしちゃうと、所長のさっきの言葉は一分真実なんだよ」

 

「へ? え?」

 

「つまりだね」

 

「ひっ!?」

 

「僕と至くんはニ心別体の運命共同体。例えて言うなら、IB砲の様な関係なのさ!」

 

完全に雪村ちゃんに怯えられているのも気にせず、高らかに宣言する所長。宣言するのは良いんだけどさ……

 

「IB……砲?」

 

何それ? と言わんばかりの雪村ちゃんの表情に「あれ? アントニオ猪木とジャイアント馬場、知らないのかい? プロレスラーの」と所長は慌てだした。いや、うん、

 

「前にも言ったけど、僕も所長に説明されるまで知りませんでしたよ? そんなの、この年の女の子が知っている訳ないじゃないですか」

 

「いや! そんな事は無い! 絶対に知っていると僕は信じている!!」

 

何でこの人は、そこまでプロレスラーこだわるかな。

 

「だって、プロレスの派生って色々僕好みの(・・・・・・)レギュレーションが多いからね」

 

「……例えば?」

 

あんまり聞きたくないけど。

 

「ローションレスリングとか、バトルファックとか!」

 

「どう聞いても真面じゃないじゃないですか」

 

依頼者の耳が腐るわ。

 所長の聞き苦しいどころか聞くに堪えない戯言を打ち切って、軽く事情を説明してしまう事にする。まあ、何て言うかね、

 

「僕は、所長の"使い魔"なんだ」

 

「使い……魔……?」

 

再び首を傾げる雪村ちゃんだったが、今度はさっきの何を言っているか分からないという表情ではなく、言葉の意味は分かったが理解が及んでいないといった顔だ。

 

「え、じゃあ、鈴笛さんは人間じゃないんですか?」

 

「いや、至くんは人間さ」

 

やがて、理解が及んで、目を丸くした雪村ちゃんに、こっちも一通りセクハラして満足したらしい所長がやんわりと首を横に振った。

 

「"使い魔"というと、魔法使いが悪魔を召喚してというのがベタに思いつくし、実際その通りなんだけど、至くんは一寸特別で、どちらかというと既存の生物を呪文で縛るという方法で使い魔になってもらったんだ。だから、どっちかって言うと魔法使いの使い魔より、陰陽師の式神の方がイメージ的には近いね」

 

「はあ……」

 

「西洋だと……アラジンと魔法のランプは知っているかい?」

 

「あ、それは」

 

「アレが比較的近い存在だ」

 

先のセクハラの嵐を引っ込めて丁寧に説明する所長の淀みのない言葉に、雪村ちゃんは「は~……」と、感心とも感嘆ともつかない声を上げた。

 

「僕の様な魔法使いにとって、"使い魔"というのは本当に特別な存在さ。何せ、単純な身の回りの世話から、得意とする儀式の触媒、はたまた戦闘での相棒にもなると、本当に頼りになる存在でね」

 

「何か、色々と凄い存在なんですね」

 

「ま、心も体も別物だが、命を共有している存在だからね」

 

「い、命を?」

 

流石に聞き逃せない言葉だったらしく、しきりに感心した様子で僕と所長を見比べていた雪村ちゃんが思わずといった様子でどもりながら聞き返してきた。

 

「ま、色々あってね。何が琴線に触れたのか分からないけど、僕は所長の目に適ったらしくて、そんな職業をやってます」

 

「いやいや、あの時は本当に助かったんだぜ? 少なくとも、至くんを使い魔にすることに、僕は何の不安も躊躇も抱かなかったね♪」

 

機嫌よさげに、けらけらと笑う所長の隣で、僕は何も言わずに肩を竦めたのだった。

 

「話は戻るけど、僕と至くんは今そういう(命を共有している)関係なのもあって、互いが互いを傷つけることは不可能なんだ」

 

「お陰で、突っ込み一つろくに機能しないですけどね」

 

「その分、至くんの僕への突っ込みは精神攻撃が増える傾向にある。だから、直接暴力に訴えていないうちは、まだ、そこまで怒っていない証拠だったりするのさ。何で分かるかって? 実は使い魔契約しちゃうと、互いに思考を隠すことが出来なくなっちゃうんだよね~」

 

「ぶっちゃけ、突っ込みがままならないよりも、そっちの方が僕としてはきついです」

 

会話が楽だし、電話も不要なのは良い事なんだけどさ……。

 

「僕がオナってると、おかずがもろバレだったり、どっちかが夢で変な悪夢を見ていると、二人そろって一晩中スリラーパークにご招待なんてこともあるからねえ」

 

「強度が高いのも考え物だ♪」と欠片も悩んだ様子なく、所長はあっけらかんと言ったのだった。

 

「それは、何て言うか……」

 

「大変ですね」だろうか? 雪村ちゃんが、何とも言いづらそうな顔になる。

 

「まあ、でも、悪いことばかりじゃないんだぜ? 何せ、そのレベルになると、使い魔としての契約から引き出せる力、つまり馬力だね。そっちの方も相当な威力になるからね。魂の繋がりの強度は、そのままでも一つの大きな力になる♪」

 

「はあ……」

 

「だから、僕にとって、僕と至くんの繋がりこそが切り札なのさ♥ 冗談でもなんでもなくね」

 

「はあ……」

 

今一想像がつかない。そんなところだろうか? やや、曖昧な表情で頷く雪村ちゃんに、所長は「そして!」と人差し指を立てた。

 

「それは君と石水無月ありさちゃんとも同じことさ♪」

 

「え……?」

 

「……」

 

意表を突かれて、目を丸くした雪村ちゃんの表情に、所長はしてやったりと言わんばかりのチシャ猫の笑みを浮かべた。

 

「"黄昏時"の性質を考えれば、君達二人が見たベレー帽の骸骨は相当に力の強い化け物だ。それこそ、石水無月ありさちゃんの存在を丸ごと拐って自分のものに出来てしまうほどに。けど、君は、君だけはありさちゃんを覚えていた。それはつまり、君と石水無月ありさちゃんの間の繋がりが、それだけ強かったということに、他ならない訳だ」

 

「……」

 

所長の説明に、些か戸惑った様子の雪村ちゃんが、少し困った様子で頷いた。

 

「そして、それ(・・)が今、石水無月ありさちゃんの存在をこの世に繋ぎ止めている、最後の命綱になっている」

 

「!?」

 

雪村ちゃんは、今度こそ絶句していた。

 

「それは……」

 

どういう意味? だろうか。後の言葉を上手く紡げない様子の雪村ちゃんに、所長はにっと口の端じを持ち上げた。

 

「話を聞く限り、君達の見た骸骨は、間違いなく能力的にも性癖的にも人を連れ去ること、或いは誰かを閉じ込め、自分の所有物とすることに特化した存在だ」

 

性癖言うな。

 

「石水無月ありさちゃんを連れ去ったことが、なにより雄弁にその事実を物語っている」

 

「……」

 

「けど、それはまだ、完成していない。それはなぜか!?」

 

「!」

 

「それはね、君、雪村要という存在が、本来この世との繋がりを全て遮断されたはずの石水無月ありさちゃんを"覚えている"ということで、辛うじて繋ぎ止めているからに他ならない。恐らく、あの骸骨は君がこの世に居る限り、決して石水無月ありさちゃんを完全な自分の所有物にするのは出来ないはずだ」

 

「……」

 

所長の言葉に、雪村ちゃんは呆然と自分の小さな両手を見詰めた。自分という存在が、本当に親友を繋ぎ止められているのか? そんな、思いだろうか。

 

「自信を持って良いとも。君は、石水無月ありさちゃんを護るための最後の砦でもある。それこそ……」

 

顔を上げた所長が、不意にぐりんと振り返り、背後に無限の赤を広げている"黄昏時"に愉快げな嘲笑を向けた。……何か、居る?

 

「君の親友を拐った骸骨が、直接君という存在を、あの世に取り込もうとするほどにね」

 

所長がそう言って、白い歯を剥いたのとほぼ同時に、不気味でしかなかった廊下の中に、生臭くじっとりと生ぬるい、不快な空気が立ち込めた。

 

「そうだろう? ベレー帽の骸骨(・・・・・・・)!」

 

「……」

 

そしてそいつ(・・・)は、所長が口ずさんだ瞬間、まるで溶解の逆再生のように、とろりと赤い廊下に姿を表した。

 

 

真っ赤な血色のベレー帽

 

くすんだ、使い古しの白衣

 

カタカタと鳴る骨の体

 

そして、一切の思考の読めない、黒い眼孔

 

 

「ひっ!?」

 

その姿を認めた瞬間、雪村ちゃんが小さく悲鳴を上げた。確定か。こいつが……。

 

「あのときの、骸骨!!」

 

「……」

 

怯える雪村ちゃんを守るように、所長がこつりとブーツを鳴らして一歩前に進み出た。

 

「やあ、遅かったじゃないか?」

 

「……」

 

芝居がかった仕草で赤く染まった銀髪を掻き上げて、所長が問いかけると、其れまで黙っていた骸骨の下顎がかぱりと音を立てて下に落ちた。眼孔と同じく開いた、黒い口腔。無機質なのに、やけに生々しいそこから、

 

「A……」

 

「「……」」

 

 

 

「AHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAH!!!!!!!!」

 

 

 

何処か神経質で、そして狂気じみた、若い男の絶叫とも哄笑ともつかない悲鳴が赤色の"黄昏時"一杯に放たれたのだった。

 

「……」

 

本能的な恐怖に駆られたのだろう。所長に護られていた雪村ちゃんが両耳を抑えて「ひっ!?」としゃがみこんだ。まあ、怖いだろうしね。個人的には慣れもあって、怖さ以上にウザさが先立つけど。と言うか、本当に鬱陶しいなあ……。

 

「流石私だ! 運命に愛されている!!」

 

僕と、そして僕と同意見らしく、にやにやとした笑みに無機質な眼光を湛えた所長の前で、その骸骨は実に芝居がかった仕種と共に宝かに歌い上げた。美形の俳優とかなら様になってるんだろうけど、今それをやってるのは学校の理科室とかでよく見る、無機質な骸骨だ。はっきり言って、お前がやっても笑いを誘うだけって奴だ。

 しかしまあ、こういう空気の読めない手合いは、周囲からの冷たい視線にはやたらと耐性があるというか、無頓着なのが世の常で。

 

「この私、"第十五小のレオナルド"、佐藤牛太郎の最新作、"赤いドレスの石水無月ありさ"の完成を、運命や神すらも心待にしている証左だな、これは。まあ、それも仕方なかろう。何せ、この私の作品だ。神も運命も、期待をせずにはいられないのだろう。未完の大作もその悲劇性を含めれば話題性もあるとはいえ、それでも多大な損失には変わりないからな!」

 

うーん、自己完結。ぺらの五月蝿さは所長と良い勝負だな。

 

「いやいや、僕は此れでも至くんのことは気にかけてるんだぜ? 自己で完結するほど超人はしてないさ。大魔法使いだけどね。その証拠にオナニーしてても、直接"待った"をかけられたら、ちゃんと一度止めてるだろ?」

 

「いや、尻叩かないと止めないで「それが至くんの"待った"だろ?」さよで」

 

「まあ、一度止まりきれなくて、思いっきり、至くんに潮吹き顔射しちゃった訳なんだけどね♪」

 

「♪じゃねーよ、思い出させるなよ、せめて少しぐらい悪びれろよ!?」

 

このバカ(所長)、あの日は何を思ったのか、普段使っている愛用のダッチワイフ(名称、ぺおるちゃん)を使わずに、何故か仰向けでオナっていた。

 

そして、僕がドアを開けた瞬間にイきやがった

 

「あひいいいいいいいいいいいいい♥♥♥」

 

という絶叫と共に、顔面に掛けられた液体

 

生暖かいそれを拭うと、矢鱈とやりきった感を出している、全裸のアホ(所長)

 

全てを理解した僕は、その場でこのバカに尻叩き百回の刑を執行していた。

 

「ほんと、いきなり雇い主に、スパンキングをするなんて、至くんは本当に酷い所員だなあ。モンスター所員だ!」

 

「いきなり、その所員に体液掛ける上司に言われる筋合いはありませんけどね」

 

「いやあ、それほどでも///」

 

「何で一寸嬉しそうにするんだよ」

 

本当に、誰かこの所長をどうにかしてくれないかなあ。

 

「一応、言っておくけど、僕だって、至くんのお尻ぺんぺんは結構辛かったんだぜ? お陰で僕の小さな白いお尻は、何時も至くんの掌型に紅葉が咲いているし。……確かめてみるかい?」

 

「いや、確かめないから。見たくないから。そもそも、僕からの危害でダメージ受けないんだから、その痕も自分で作っただけでしょ? ちょ、何で嬉しそうに「至くんに嫌がらせが出来るから♥」だろうな畜生! って、ちょトランクス脱ごうとするな!?」

 

言っている間に脱ぎやがった……。そして、何故か脱いでからすぐにピタリと固まった。

 

「所長?」

 

まさか、あの骸骨からの干渉か?

 突如フルフルと、小さな肩を震わせる所長に、僕は思わず駆け寄り、

 

「至くん……」

 

「所長? 大丈夫ですか?」

 

「美少女に見られながら生ストリップするの……すっごく気持ちいい」

 

「……」

 

少しでも心配したことを後悔した。その震えは、興奮の震えかよ!?

 

「いやー、これまででも一二を争う快感だ。ジャンル的には初めてと言っても過言じゃないね♪」

 

やばい、変態が露出の快感まで手に入れやがった……。

 

「何時もは認識阻害掛けてたから気が付かなかったけど、直接美少女に裸を見られるのって、凄く興奮するね♥」

 

「良い笑顔で何言ってんだ、このド変態」

 

「そうだ、至くんも美少女に転生しないかい? そしたら、毎日二人で露出プレイを楽しめるんだけど」

 

「所長のオナニーに僕を巻き込もうとしないで「貴様ら!私の話を聞いているのか!?」一寸黙っててください。僕の労働環境と尊厳の危機なんです」

 

「因みに、我が事務所は今から美少女手当てを導入しました」

 

「何でもう過去形なんですか」

 

「既に導入済みだからね♪」

 

「今から導入って、自己申告してたじゃないですか」

 

「"今"とかそんな昔のこと言われても困るね。僕は未来に生きる男なんだから☆」

 

「あんたもう、正体隠す気更々ないですよね」

 

「き、貴様らあああああああああああ!!」

 

「ほら、所長のせいで、変態骸骨も切れちゃったじゃないですか」

 

「ちっ、此れだから、カルシウム足りてない奴は。センスも忍耐力も今一だね。至くんもそう思うだろう?」

 

「"第十五小のレオナルド"だからなあ……」

 

「本人のセンスが致命的にダサいんだろうね」

 

そう言って、所長はけらけらと嗤った。何て言うか、色々格好付けたいけど、一生懸命考えたことはばれたくないから、然り気無いニックネームに見せようとして、その然り気無さを出そうとしたるところまでばれちゃった感じの名前だなあ。

 

「まあ、本名が牛太郎な時点で仕方ないよネ!」

 

「本名は本人の責任じゃないんですけどね」

 

牛太郎。江戸時代の女衒の別名。それってどうなのさ。

 

「美少女を狙う"黄昏時"の住人には相応しい名前かもしれないけどね。全く、ロリコンの面汚しめ!!」

 

「相応しいのか面汚しなのか、はっきりしてください」

 

「ミックスして面汚しに相応しい名前としておこう」

 

「普通に悪化しましたね」

 

僕と所長は思わず吹き出していた。って、ん?

 

「……」

 

「何か、この骸骨、カタカタ震えてません?」

 

具体的には、ツービートで。

 

「放置プレーの快感で、興奮してるんじゃないかな?」

 

「この体でですか?」

 

「男なら、心のちんちんさえあれば勃起は出来るからね♥」

 

聞いてない。と、

 

「!」

 

不意にがばりと顔を上げたレオナルド(笑)が、またも芝居がかった仕草で自分の頭蓋骨を押さえた。

 

「おお、なんと嘆かわしい! まともな最低限の芸術にすら触れることもなく育った人間というのは、こうまで美的センスが壊滅擦るものなのか!!」

 

「お、見てくれ至くん。どうやら、自分のダサさを棚に上げて、世界の方が間違ってると勘違いし始めたようだよ。この骨は」

 

「自意識過剰型の骨に有りがちですね。言うほど大したことないくせに、プライドだけは人一倍。そもそも、自己顕示欲が満たされるほどの実力があったら、こんなところで人拐いなんてしなくても、お金や名声で女の子引っ掛けられる筈なんですけどね」

 

「おいおい、真実は時として人を傷つけるんだぜ? もっとオブラートに包んであげないと」

 

「貴方、才能ないですよ?」

 

「いや、単純に実力不足だね♥」

 

何となく面白くなって、所長と交互にからかっていると、いつの間にか骨の律動はピタリと止んでいた。そして、僕と所長、あと、恐怖が通り過ぎたのか、耳から両手を離した雪村ちゃんが見詰めるなか、じっと佇んだまま、何かぶつぶつと呟いていた。んん?

 

「拡声してみようか」

 

そう言って、所長が形の良い指をパチンと鳴らすと、くぐもっていた骸骨の声が不意にクリアになって、廊下に響き渡った。

 

「やっと、やっと完成する。被写体を取り逃して、もう完成させられないかと思っていた私の作品。間に合う、此で次のコンクールに間に合うとも。そうだ、この私が、天才であるこの私が、プロフェッショナルとして、メインの被写体を厳選した結果、賞を取り逃すなんてこと、あって良い訳がないんだ。此れまでも、私の才能を妬む馬鹿どもの妨害やイカサマで賞を逃してきたが、今度こそ、私が最優秀賞を取るのだ。そこの少女もメインの被写体には劣るが、主役を際立たせるための助演としてなら悪くない。ああ、目に浮かぶようだ。そうと決まれば、早速二人一緒に、同じ絵に書き込んであげよう。何、怖がることはない。私の、この"第十五小のレオナルド"に素材として選ばれるなど、こんなに光栄なことは他にないのだからぁ!!!」

 

「ひぃっ!?」

 

うわ、情緒不安定だなあ。

 

「それ以前に、幽霊の正体見たり枯れ尾花。何の事はない、"第十五小のレオナルド"なんて嘯いては居るが、単に才能がなくて、世を恨んで死んだロリコンだったみたいだね」

 

「まあ、可愛い女の子狙いみたいですしね……」

 

美少女を襲って、その絵を描こうとするロリコン幽霊か。一応身の危険がない所長の方がまだマシなレベルだな。

 

「おいおい、僕は此れでも紳士を自認しているんだぜ?」

 

「自認してても、他から認められてないでしょ」

 

「そんな事はない。至くんは僕を変態だと認めるだろ?」

 

「まあ、そうですね」

 

「変態とは、紳士の別名なのだから、当然変態である僕も紳士の仲間さ♪」

 

「いや、その理屈はおかしいですから」

 

世界の紳士に謝ってください。ほら、あのロリコン、今にも此方に飛びかかってきそうですよ。どうするんですか。

 

「んー……」

 

「何か?」

 

僕がロリコン骸骨を丸投げしようとすると、少し考え込んだ所長が、「一寸、試したいことがあるんだ」と笑って、怯える雪村ちゃんの前で、彼女を覆い隠すようにパッと両腕を広げた。

 

「大丈夫だよ、要ちゃん。この僕、六伏コランの名に誓って、このロリコンの骨一本君には触れさせない」

 

「ロリコンに、そんな決め台詞言われても困りますよ?」

 

「安心して僕の背中、もとい、お尻の後ろに居てくれたまえ」

 

「何で言い直したんですか」

 

「ちなみに穴の開くほど眺めてくれると、個人的には嬉しい。お尻には元々穴が開いてるけどね♪」

 

やかましいわ。

 

「「ん?」」

 

と、不意にかさりという小さな音が、やけにはっきりと廊下に響いた。顔を上げた僕と所長が目にしたのは、一目で分かる怒気を湛えたレオナルド()の黒い眼孔と、いつの間にかその両手に現れた、小さな筆とスケッチブックだった。

 

「所長?」

 

あからさまに何かしようとしているし、流石に僕も前に出るべきか……。

 

(いや、不要だ。恐らく、僕の勘は当たっているはずさ♪)

 

もし外れてたらどうするんですか。

 

(その時はその時。一緒にあの世へランデブーといこうじゃないか♥)

 

嫌ですけど?

 

(おや、つれないねえ?)

 

絶対に嫌ですけど?

 

「ちょ、繰り返すほどかい? どうせ、魔法使いと使い魔なんだから、足掻くだけ無駄だろう?」

 

そーゆー、デリカシーの無いこと言ってると、モテないらしいですよ?

 

「それは嫌だな。安心してくれ僕だけであの世に行くから!」

 

「お前も」

 

「お、始まったね♪」

 

「お前も私の芸術となれええええええええええええ!!!!!!!!!!!」

 

骸骨の絶叫が響き、その右手が目に見えないほどの高速で疾る。時間にして、ほんの一二秒。その骸骨の右手が止まり、スケッチブックが引っくり返されると。

 

「早……」

 

その中には、銀色の不適な表情の絶世の美少女。

 

「所長か」

 

おおよそ、この世のものとは思えない美貌は、紛うことなき所長の姿だった。ただ、まあ、

 

「二点! この顔は僕が造り上げた最高傑作だぜ? そんな、のっぺりとした野暮ったい顔な訳がないだろう? 本当に芸術家志望だったのかい? まともな観察力すら持っていないじゃないか。大体、少女だから体を小さくすればオッケーとか、そんな感性で、ダ・ヴィンチに肖っていたのかい? 噴飯ものだね! 僕は顔だけじゃなく顔までパーフェクト美少女な男だぜ? 体のバランスだって、単に小さいだけじゃなくて、程よく撫で肩にしながら、うっすらと肋を浮き立たせて、だけど腰骨は少し張らせて、おっぱいは夢一杯詰まってるボディなんだ。そんな貧相で取って付けたようなおっぱい乗せた、魔改造ボディごときが僕とか、失礼を通り越して神への冒涜に他ならないね! もうあれだ、夢諦めるとか筆を折るとかじゃなくて、幼女のかぼちゃパンツ様に土下座してそのまま、土の中に還りたまえよ! 輪廻転生すれば、ワンチャンましな芸術力手に入るかもしれないしね!!!」

 

けたけたと、実に楽しげに嗤う所長の言葉通り、その絵は一目で所長だと分かるレベルではあるものの、それは銀髪や笑い方などの、誰にでも分かる特徴的な部分を抑えた不可抗力にすぎず、実際のところ造形だけは無駄に優れた所長の美貌は欠片も表現できていなかった。芸術に全く触れたことのない僕ですらそう思うんだから、実際にあの顔を作った所長からすれば、そんな男が芸術家を名乗るなど、本当に噴飯ものなんだろう。ただ、

 

「だまれええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」

 

「まあ、当然そうなるよね」

 

 所長の言葉が幾ら真実とはいえ、それを飲み込めるかはまた別問題だ。相手は、過剰な自意識と自己顕示欲だけで亡者になりおおせた、生粋の意固地ロリコンだ。所長の言葉で自分を曲げるほど、潔い性根はしていない。

 

「!!」

 

 亡者の絶叫と共にスケッチブックの中から真っ黒な汚濁の奔流が吹き出す。一目で分かるその穢れの強さに、僕は咄嗟に雪村ちゃんの目を防いだ。それとほぼ同時に、所長の小さな身体が、その濁流に呑み込まれた。

 

「ふ、ふは、ふはは……」

 

「……」

 

「ふははははははははははははは!!!」

 

所長の姿が闇に消え、勝利を確信したのだろう。骸骨男の哄笑が、何処までも何処までも"黄昏時"の校舎を満たした。

 

「こ、此れがお前達、真の芸術を理解できないぼんくらに相応しい終末だ!! 惨めで! 無意味で! 何の劇的な要素も持ち合わせない、実に無味乾燥極まる、私だったらとても堪えきれないな!!!」

 

「……」

 

はははははと、又哄笑する骸骨。ていうか、凄い勢いで、所長を見下し始めたけどさ、その絵、芸術なんじゃなかったの? 遠回しに自分の実力を申告しちゃってるんだけど……。まあ、いっか。どうせ、

 

「甘い。甘いねえ♪」

 

「こうなる事、確定してるしね」

 

けらけらけらけらと先の骸骨の哄笑よりも遥かに軽薄に響いた少女の笑い声。その中心から現れたのは、

 

「美少女だと思った?」

 

「ざ~んねん!!」

 

「美少女を愛し、美少女に愛され、美少女に至った男」

 

 

 

「それこそがこの僕、六伏コラン!!!!!!!!!!!」

 

 

 

緑のドレスを脱ぎ捨て、いつの間にか着替えたYESロリータ!GOタッチ!のTシャツ。普通に考えて頭が沸いているとしか思えない格好だよな、あれ。

 

「さあ、美的センスゼロのクソダサペンネーム骸骨! 六伏コランバトルモードが出たからには、君のちんちんが美少女のCQに届くことは未来永劫あり得ないと心得るがいい!!!!」

 

何故か室内でそよいだ一陣の風と共に、所長が羽織ったぶかぶかのTシャツがふわりと舞う。一糸纏わない(見た目だけは)美少女の無毛の股座が、キュピーン!! と青い閃光を宿した。

 

「いや、絵面酷すぎるでしょ……」

 

 

 

 

 




鈴笛至
使い魔
コランとは二心別体の運命共同体
ぶっちゃけ、プライバシーなんてあった物じゃないので、最近は夢の中でコランがアヘってるのと
コランに突っ込みを入れようにも、自力では絶対に突っ込めないのが最大の悩み
所長の造形は確かに美少女だけど、最近グーパン入れるのに良心の呵責がなくなった


六伏コラン
美少女の形をした汚物
ロリコン、オナニストに続いて、露出狂の扉も開きかけている
普段着はYESロリータ!NOタッチ!
戦闘服はYESロリータ!GOタッチ!
ロリコンが行き過ぎた結果、自分の身体を「ぼくがかんがえたさいこうのびしょーじょ」に変えてしまった人
百年ロリコンしているだけあって、見た目だけはパーフェクト。本当に見た目だけは
滲み出る中身の汚さで相殺されて、まあまあ普通の美少女に見えてしまう
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